<前編>「子どもが育つ親子の関係」
~育成に欠かせない親と指導者の在り方~

PROFILE

石川慎之助(NPO 法人つくばフットボールクラブ理事長)
1979年、東京都生まれ。 筑波大学第三学群工学システム学類在学中、 蹴球部に入部し、地域の小学生にサッカーを 指導。つくばFCの活動を引き継ぎ、2003年 NPO法人つくばフットボールクラブを設立、 2005年株式会社つくばFCを設立し代表取締 役に就任。NPO法人日本サッカー指導者協会 事務局長、一般財団法人日本クラブユースサッカー連盟 事業委員長なども務める。
池上正(大阪体育大学客員教授)
1956年、大阪府生まれ。Jリーグ ジェフユナイテッド市原(当時)コーチとして、2003年から7年間で約40万人の小学生、先生、保護者を指導。 2012年2月より京都サンガF.C.コーチ契約、「サンガつながり隊」発足京都府下の小学校を巡回指導開始し、5年間で約5万人を指導。 2017年4月より関西大学非常勤講師(フットサル授業)、大阪体育大学客員教授を務める。
久保田淳(FC東京 地域コミュニティ本部長)
1969年、東京都生まれ。筑波大学体育専門学群を卒業後、都市銀行に8年間勤務。その後、再度大学院にて学びなおし、2001年よりFC東京に加入。ホームタウン活動の推進、街づくり、地域活性化を担い、さらにはサッカースクールの運営をはじめとした普及活動にも従事。2017年からの3年間は東京経済大学にて非常勤講師もあわせて担当。 現在、JFAスポーツマネジャーズカレッジ・サテライト講座のインストラクターも担当。社会貢献教育やSDGsカードゲームのファシリテーターとしても活動中。

つくばFC理事長である石川慎之助さんがホストを務める育成パネルディスカッション第2回。ジェフユナイテッド市原・千葉の育成普及部コーチや京都サンガF.C.育成普及部部長を歴任し、これまで延べ50万人の子どもたちにサッカーを教えてきた池上正さん、FC東京にてホームタウン活動の推進、街づくり、地域活性化を担い、さらにサッカースクールの運営をはじめとした普及活動に長く携わってきた久保田淳さんの2名をゲストにお迎えし、「子どもが育つ親子の関係」をテーマに語ります。

 

子どもの考える力は「ベース」がないと育たない

ーー今のスポーツの現場では「子ども達に考えさせる」ということがよく求められますが、本質的な部分に関してどうお考えですか?

池上 子ども達に考えてもらうことは、育成していくうえでは重要だと思います。30年ほど前に先輩の祖母井秀隆さんから聞いた話ですが、考えるためのベースがない子に考えなさいと言っても、何を考えたらいいか分からないんですよね。それ以来、最初にベース作りをしてから、徐々に子どもから自発的に考えを引き出せるようにしています。具体的には「他に考えられることはない?」みたいに聞きますね。ベースがあるからこそそうやって聞けるわけなので、ベース作りは大事です。今の指導現場では、「ちゃんと考えてるのか?」って大声で怒鳴っている指導者の方もいます。でも、「どうしてそう考えたの?」とか「本当はどう考えていたの?」とか、そういう聞き方をした方がいいと思います。

 

ーー子ども達に対してアドバイスは必要だと思いますが、大会では「指導者は何も言わないでください」といわれることもあるようですね。久保田さん、ベース作りの必要性についてはどうお考えですか?

久保田 ベース作りは池上さんもおっしゃる通り、必要ですね。あとは、「考えること」が目的になってしまうのも良くないと思います。考えるとは判断するということです。サッカーは判断力が求められる場面が沢山ありますが、そこが楽しさでもあります。その楽しさをしっかりと認識することも大事だと思いますね。

石川 そうですね。私もつくばFCでは考えるということを念頭に置いてやっています。

 

親にとって身近な存在だからこそ、子どもが見えなくなることも

石川 うちの子どもがスクールに来ているんです。プレーを遠くから見ていたら、後で「どうだった?」って聞いてきたんですよ。その時は結構いいポジションに立って考えていたので、中々いいプレーでした。でも、コーチじゃなく親の立場になる瞬間なので、どう言ってあげたらいいか悩みましたね。指導者だと褒めてあげやすいんですが、親子の立場だとサッカーならともかく、ピアノみたいに自分の専門分野でない場合は難しいですね。親と指導者、それぞれの立場で考える必要があります。

 

ーー指導者と親の立場は違いますよね。昨日ちょうど名波さんと連載のイベントをやっていて、その中でも親についての話がありました。「親だから、指導者も気づけない子どもの変化に気づくはずだ」という意見ですが、池上さんはこの意見についてどう思われますか?

池上 私の娘もサッカーをやっていて、そのチームを3年くらい教えていました。私が行くと、周りの女の子たちは「まりちゃんのお父さん来た」って皆言うんですよ。コーチではなくて「まりちゃんのお父さん」として指導していました。だからといって娘と他の子が違うってことはありませんけどね。親と指導者で比べたら、親の方が細かいことに気づかないと思います。親は毎日一緒にいて見慣れてしまうから。それに、相当先のイメージを持ってしまうから「どうしてそんなことが出来ないの?」と、マイナス目線にばかり目が行ってしまう。それで、いつまでも出来ない子どもを見るのが嫌で、見にいくのをやめたっていう親も多いですね。でも指導者は見るのが週1、2回しかない分どうしたら変わるかな、どんな風にしてあげたら良くなるかな、と考えています。だから、「今日はなんかちょっと違うぞ」とか「これが出来るようになってきたな」みたいに、間違いなく日々の変化を見つけられるんです。そこの違いは多分にありますね。

久保田 私も娘がいてサッカーをやっていたんですけど、結論から言うと私ダメでしたね(笑)。サッカーしていた時、池上さんがおっしゃっていた様にマイナス目線で見てしまって。もっとこうしなよ、ああしなよ、と言ってしまいました。あと、娘が「将来なでしこの代表になりたい!」って言ったら「もっと頑張らないと。今のままじゃ全然ダメだよ」みたいに厳しく言ってしまったこともあります。身近な分マイナスに見てしまったり、見えなくなってしまったのかなと、実体験として思いますね。体を動かすのが好きな子でダンスもやっていたので、最終的にはそちらの道に進みました。サッカースクールのコートで1週間会うなかで、コーチ達の会話も聞こえてきます。挨拶の時に元気がない子どももいて学校で何かあったのかな、と気にかけているコーチも多いようです。親御さん以上にコーチ達のほうが気づきやすいのかなと思います。

 

親の感情移入し過ぎは、子どものストレスに

ーー親はどんなサポートや関係性が適正なんでしょうか?

池上 ジェフやサンガでスクールをやっているんですが、その時に「親御さんは子どもを送ったらすぐに帰っていただくスクールにしたいんですけど、どうですか?」ってお母さんたちに聞くんですよ。そうすると半分以上の親が「どうしてそんな冷たいことを言うんですか?」と言うので「見ない方が幸せですよ」って話をします(笑)。子ども達は自分なりに楽しんでいますが、それを見ていると親は「どうしてあそこで追いかけないの?」とか「あんなボールも取れないの?」とか、マイナス面ばかりを見てしまう。だから、帰りの車の中も暗い時間を過ごすことになります。でも見なかったとしたら、「今日は2点も入れて楽しかったよ」みたいに嘘をつくこともできるわけですよね。子どもの楽しむ時間を大切にしてあげるなら見ない方がいいんですよ。

 

ーー親が感情移入し過ぎる、気持ちが入り過ぎるということですよね。

久保田 FC東京のアカデミーダイレクターの奥原崇君と話しているときに、同じ話になりました。お父さんの方からアドバイスを求められたときに「お父さん、1か月お休みしましょうか」と話したそうです。もちろん関わるのがすべてダメというわけではありませんが、見ないのがプラスになることもあるんですよね。お休みした後にまた見て、それから考えればよいと思います。

 

ーー池上さんが前におっしゃっていた「家に帰ってきて親とやるのは遊びでなければいけない」というのが印象に残っています。この言葉の意味について、改めてお聞かせください。

池上 やらなければならない、となるとそれはストレスになりますよね。今の子ども達の特徴は、正解を知らないと不安、正解を見つけたい、聞きたいと思う気持ちが強くて、不安だらけなことです。でも「遊び」なら失敗しても笑えるし、友達から何か言われても大丈夫。そういう環境が家ではあってほしいなと思います。実は私の娘もピアノをやっていて、すごくいい先生に出会ったんですよ。ピアノを一切練習せずに行っても「じゃあここで練習しよう」と、その先生は受け入れてくれました。「ここでピアノが楽しめればいいよね」と言ってくれるので、娘はその先生のところでピアノを弾くのが楽しかったでしょうね。だから、そういう遊びの部分は大切です。夢中になって遊んでいるときは指導者の声も聞こえなくなるから言っても終わらないし、いつまでもやっている。そんな時間を送ってほしいなと思います。「家でサッカーの練習しないんですよ」と親御さんからよく相談されますが、「家でやらなくてもいいんですよ」と話します。楽しく遊んでいて、やりたいと思ってくれた時にやればいいんです。でも親はもっと上手くなってほしい、もっと真剣にしてほしいと思ってしまう。

 

ーー池上さんのその話は何年生くらいの話ですか?

池上 小学生の間は楽しんでいたらいいと思います。中学校に入ると、やりたいことを決めるうえで自分の責任が付いてきます。今の中学生は、自分が選んだものをやるということにもっと真剣になるべきだと思います。ドイツだと、10歳になると自分の進路を決めないといけません。就職を優先するか、学業を優先するか。選択肢によっては高校に通う年数が変わることもあります。親と話し合って、自分で先生に伝えないといけないんです。日本だと中学校に入っても進路の意識を持っていない子も多いですよね。あと、中学になると今度は指導者側が勝ちにこだわり始めて、どんどん言ってしまいます。それでさらに自分で考えることが削られて、チームの形にはめられてしまうことも多いんです。

 

育成年代の成長には「親」も「指導者」も欠かせない

ーー小学校から中学校というのはサッカーの育成年代では一番変化が大きいですよね。チーム、学校、プレー人数、ボールサイズなど色々なものが変わりますから、ここが日本の中では特徴的ですね。

池上 Jリーグで育成部長をしていた時代は、中1と高1の担当コーチ選びは特に慎重でした。中1では小学生から大人のサッカーに変えるコーチが、高1ではプロへの意識を高めていけるコーチが必要だと考えています。

 

ーー指導者との出会いも大事ですよね?

池上 そうですね。いい指導者に出会えるかどうかは子ども達にとって大きなことだと思います。何をもっていい指導者と呼ぶかは難しいですが、子どもの自立を促す力が大事ですね。ジェフで育成部長をしていた時代に入ってきた中1は、決して期待度の高い子達ではなかったんです。でもアルゼンチンに長くいたコーチに教わったらすごく伸びて、中3で全国大会に行きましたからね。そういうコーチに出会えることは大きいと思います。それと同時に、どんな親かということも成長していく上で重要ですね。

久保田 同感ですね。指導者との出会い、それ以上にどんな親かが大事。指導者が自立できる形に見守りながら育てていけるかが大きいですね。担当したコーチはもちろん全力で向き合いますが、そのコーチだけじゃなく指導に関わるすべてのスタッフとのつながりも必要不可欠です。そのためには、ミーティングや指導実践のような交流できる時間を作るべきだと思います。組織として動いていくうえで、意識しています。

 

ーー池上さん、ヨーロッパの指導者から聞いた話ですが、スカウトの条件に「親」が入っているそうですね。

池上 親が過干渉、過保護にならないかのチェックだと思います。Jリーグに入ってドイツに海外研修に行くことがあって、プロチームの下部組織の練習を見ました。この時親はゼロで、誰も見に来ていなかったんです。でも5年前くらいに行った時は5、6人の親が見ていました。日本みたいにビデオまで撮る親はいませんが(笑)、10年くらい前からブンデスの各チームは、年1回くらい集まって親向けにクラブの方針を話しているんです。外から何か言うと辞めてもらうクラブも増えています。親の問題はヨーロッパでも同じですね。

 

――後編に続く――

0

記事に対するコメント

関連記事