INTERVIEW

<前編>【ラグビー名将鼎談】
「高校/大学=学生スポーツから見る“成功する選手”に必要なチカラとは!?」
野澤武史×田中澄憲×藤田雄一郎

PROFILE

野澤武史(元ラグビー日本代表)
1979年生まれ、東京都出身。慶応義塾幼稚舎5年生からラグビーを始め、慶應義塾高校では主将としてチームを花園に導き、全国高等学校ラグビー大会ベスト8進出に貢献。慶應義塾大学ラグビー部では2年次に大学日本一に輝く。神戸製鋼コベルコスティーラーズにて現役引退後、母校の慶應義塾高校や慶應義塾大学でコーチを務め、U17日本代表ヘッドコーチに。日本ラグビー協会リソースコーチとして人材の発掘・育成にも勤しむ。現役時代のポジションはフランカー。グロービス経営大学院卒(MBA取得)。 山川出版社代表取締役社長、一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事。
田中澄憲(明治大学ラグビー部監督)
1975年生れ、兵庫県出身。スクラムハーフとして明治大学ラグビー部で3年時に大学選手権で優勝、主将を務めた1997年度は大学選手権で準優勝。卒業後はサントリーサンゴリアスでプレーする。7人制日本代表でのワールドカップ2回、15人制日本代表キャップ3の経験を持つ。2011年に現役を引退し、サントリーのチームディレクターを経て、2017年にラグビー部のヘッドコーチ、2018年より監督に就任。就任1年めの2018年度、明治大学ラグビー部を22年ぶりの大学日本一へと導いた。
藤田雄一郎(東福岡高校ラグビー部監督)
1972年生まれ、福岡県出身。中学生までは野球をしていたが、母親の影響でラグビーに興味を持つようになり、東福岡高校へ進学。チームの中心選手として花園出場を果たす。高校卒業後は、福岡大学、JR九州でラグビーを続け、JR九州時代にはニュージーランドへの留学を経験。1998年から教員として東福岡高等学校に就任し、恩師でもある谷崎重幸前監督の下でコーチを務め、2012年春から監督に就任。2014年、2016年には史上初の高校三冠を達成した。第100回全国高校ラグビー大会に21大会連続31度目の出場を決めている。

元ラグビー日本代表の野澤武史さんをホストにペシャルゲストを迎えるこのコーナー。第2回となる今回は、ラグビー界から2人の名将をお迎えし、「学生スポーツから見る“成功する選手”に必要なチカラ」について語り尽くします。明治大学ラグビー部を22年ぶりの大学選手権優勝に導いた名将・田中澄憲監督と、東福岡高校ラグビー部を全国屈指の強豪校に押し上げた藤田雄一郎監督。長年にわたり、多くの名選手を輩出していきた2人が考える“成功する選手”が持っているチカラとは?

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成功する選手の共通点は?
ハングリー精神と受け入れるチカラ

野澤 今回は、現役の指導者の方にさまざまなことを聞いていきたいと思います。本日のゲストにご登場いただきましょう。2018年度、明治大学ラグビー部22年ぶりの大学日本一へと導いた田中澄憲監督。そして、東福岡高校を全国屈指の強豪校に押し上げた、藤田雄一郎監督です。御二方、どうぞよろしくお願いします!

田中藤田 よろしくお願いします。

野澤 今回は、学生アスリートを見極めて育てることを専門にされてきたお二方に、お話を伺えればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。まず、田中監督に質問です。長年サントリーさんのチームディレクターをされておりましたが、採用という立場から見て、高校生や大学生が成功する選手になるために、どんな要件が必要だとお考えですか。

田中 自分がこれまで指導者として、採用する側の立場として、いい選手になるだろうな、と感じたのは、自分が成長していくことに対して貪欲な選手ですね。これが一番重要かなと思います。その上で、その成長に対して自分で考えて努力ができる、ということ。そのためにはコーチやスタッフの話を聞き入れて取捨選択を自分でしていく……こういう選手が、総じて伸びていくのかなというふうに感じています。

野澤 それは学年や年代でも、共通しているところなのでしょうか?

田中 (大学に)入ってきた時からそういう選手もいます。逆に、最初は自分で能力を信じていない子もいます。試合に出てからその能力に気付き始めたり、成長したいという欲が出たりすることもありますね。そういう意味では、人それぞれなんじゃないかなと思います。

野澤 田中監督はサントリーでも長らく組織運営に携わっていましたが、それは、(ジャパンラグビー)トップリーグでもそうなんでしょうか。トップ選手は最初から他の選手よりも勝っているものを持っていなきゃいけないと思うんですが。それでも何か差を生んでいくということが大事なのでしょうか。

田中 トップリーグで勝ち残っていくとなれば、相当ハングリーでないと難しいんじゃないですかね。才能だけでは決して、成功するということはないと思います。

野澤 なるほど。では藤田さんに質問ですが、成功した選手に共通点はありますか? 逆にうーん……というパターンもあれば教えてください。

藤田 田中さんと共通するところはあるのですが、人の話をよく聞く子というか、指導されていることに対して受け入れるチカラがある子は成長すると思います。そこで自分自身で噛み砕いて取捨選択できることは大切ですね。

 

突出した選手は評価される自分の長所を認識している

野澤 高校の時ものすごくて、そのままトップリーグまで突っ走ってしまったという選手はいますか。

藤田 藤田慶和(パナソニック ワイルドナイツ)とか、布巻峻介(パナソニック ワイルドナイツ)、あとはサントリーの垣永真之介(サントリーサンゴリアス)とかトップリーグで活躍している選手というのは、中学校から……いや、小学校から注目されていますからね。自分はこうやったら評価されるんだ、という長所を知っていますよね。短所を補えるくらいの抜群の長所を持っているのかなと思いますね。

野澤 面白いですね。田中さん、今の話を聞いていかがですか。

田中 大切なのは「認識している」ということですよね。自分がゲームに出るためにはどのようにすればいいのか、その近道を自分で考えられるかということだと思います。メタ認知というか、しっかりと自分を俯瞰して見れている選手というのは、いい選手になる一つのポイントかなと思います。

野澤 なるほど。

藤田 やっぱり自分をコントロールできる選手ですよね。何をすれば人から評価されるのか。自分のできることをコントロールする選手こそがトップ選手になれるんだと思います。できないことはやらない。少しできることに取り組むことによって小さな成功を生んでいくというか。

野澤 「捨てる勇気」みたいなものですね。

藤田 そうですね。

野澤 面白いですね。田中監督、トップリーグから大学の現場に行って、子ども以上大人未満の選手を見て、びっくりしたこともあると思うんですが、そのあたりはどうですか。

田中 大学の場合は、トップの選手とそこに達していない選手がいる組織なので。チームとしての基準というのはあるんですが、そこに向かって一人ひとりがどうアプローチしていくのかということは難しいですね。

野澤 何か、うまくいった例というのはありますか。

田中 それは「トップの選手になる」ということがうまくいったということなのか。それとも、試合には出られなくても役割を果たして卒業した選手がいいのか、ということは少し違うんですが。いい選手というのは、トップリーグで試合ができるので、印象にはあんまり残らないんですよね。逆に、なかなか試合に出られないけれどもチームにコミットして努力して卒業していく選手の方が、印象に残っていますね。

野澤 なるほど。今回は「成功」というテーマですが、それが何かということを定義するところが一つのポイントになるんですかね。いかがですか、藤田さん?

藤田 高校ラグビーの成功する過程というのは、スキルをどれくらい持っているかということによるんだと最近は思います。ボールを取る、投げる、というのは小学校や幼稚園時代に習得しておかないと、高校や大学に行ってもきついんじゃないかと思います。フィジカルは社会人になってもいつでも鍛えられますが、ベーシックの部分は子どもの時から鍛えたほうが、伸びていくんじゃないかなと思うんですよね。

 

高校、大学、トップリーグ
それぞれのステップでやるべきこと

野澤 なるほど。実は僕、今回は成功する選手というお題をもらった時に、これは高校と大学とトップリーグで、必要な努力というのは違うのかな、というふうに感じたんです。高校の時はまずトライをとることでリーダーシップを発揮したりということがあると思います。大学になると自己管理を徹底することが一つの差になるのかなと思いますね。逆にトップリーグになると差をつけるのが難しくなって、どこで差を生むのか自体を考える能力が必要になるのかな、と。そのため、各世代で適したことをしていけばいいのかなというふうに思っています。

田中藤田 そうですね。

野澤 (若い選手を鍛えるという部分では)いかがですか、田中さん。

田中 藤田監督がおっしゃる通り、基本的なパスなどのスキルというのは、高校までにある程度レベルを上げておいてもらえると、こっちとしては助かりますね(笑)。大学に来て基本的な2対1などの練習もやりますが、そこから始めるよりは、ある程度その部分のスキルはしっかりとあって、そこに判断などをプラスできるトレーニングができた方が、こちらとしては助かるんですよね。でも多分、感覚的なものというのは大事だと思っています。「こうしろああしろ」というのではなくて、抜き方や間合いの取り方というのは、遊びの延長線上で身につくものだと思っているんです。感覚的なものだと思うんです。なので、ある程度自由に楽しんでできるようなものも大事だと思っています。

藤田 テクニックとスキルの練習は、僕は違うと思います。スキルの練習はアタックやディフェンスをクローズアップしていく。テクニックというのはただパスを練習するということですね。なので、テクニックとスキルを区別して練習することが大事だと思いますね。

野澤 なるほど。そのあたり、藤田さんは将来的に彼らがプレーヤーとして大学やトップリーグに行った時のことを睨んでいる、ということもあるのでしょうか。

藤田 そうですね。プレーを限定させないことが大事だと思っているので、「ラグビープレーヤー」を育てたいと思っています。僕たち指導者がプレーを限定させないことだと思いますね。

野澤 難しいところですね。時間との戦いになった時に端折ってしまいますし……。田中さんは、こういうことを高校時代にやっておいてくれるといいな、ということはありますか。

田中 理想ではありますが、先ほど藤田さんが言ったようなことが高校の時点で備わっているといいと思いますね。大学になるとよりフィジカルになったり、スクラムも高校生と全然違うので、専門的に特化していく部分が増えていきますよね。そこに時間を費やしていかなければならないですし、チームとしてというよりは、個人の裁量というものになるんですよ。ただ、チームカラーもあるので一概には言えないんですが、藤田さんが言ったように「ラグビープレーヤー」を育てる、ということは、大学の指導者としてはありがたいなあと思います。

野澤 僕もユースで東福岡の子とプレーしたことがあるのですが、すごく楽しそうにプレーをしますよね。

藤田 うちのチームカルチャーとしては、3年生がいろんな仕事をするんです。部室の掃除とかトイレ掃除とか。なので、1年生も早くグラウンドに出て自分の練習ができるんです。そのあたりが、ラグビーの取り組みという点では、1年生は余裕がありますね。

 

手を挙げる勇気を持つということ

野澤 なるほど。そこからトップリーグに向けて、というところが変わってくるとは思うんですが。トップリーグ目線でいうと、というところで感じるところはありますか、田中さん?

田中 トップリーグ目線ですか……。もうトップリーグにはいないから……どうですかね(笑)。ただ、周りを見ていたり、気配りができるかどうかという点は、トップリーグでも大学でも共通する大事なことだと思いますね。周りを見て、自分に何が必要か判断して行動しているということだと思うので。なので、トップリーグだろうが大学だろうが一緒だと思いますが。

野澤 実は、ちょっと面白かったことがあって。元パナソニックの田邊(淳)さんと話す機会があったんです。そこで手を挙げる勇気というのが大事だという話をされていたんです。彼は日本代表に選ばれなかった時に、エディ・ジョーンズ(イングランドヘッドコーチ・元日本代表ヘッドコーチ)のところに「なんで俺を選ばれなかったんだ」と連絡したそうなんです。その翌日にエディに呼ばれて、「今から来い。見定めてやる」と言われたそうです。トップリーグに入ると、4年とか3年という区切りがなくなって、慣性の法則が強くなっていくというか。同じチームに5年も6年もいるとだんだん自分の居場所というのが見えてきますよね。そこに流されないチカラ……逆に自分はここにいなきゃいけないところに自分を置きに行けるというのは、強みだと思いますね。それは怖さもありますし、手を挙げる恥ずかしさというのもありますし……大人になればなるほど、チャレンジがしにくくなると思うんですが。

田中 まあでも、それくらい競争は厳しいですからね、トップリーグは。自分が生き残っていく上で何が必要なのか、どういうポジションでいなきゃいけないのか、とか。そういう意味では考えて行動するということではないですかね。

 

==後編に続く==

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