INTERVIEW

<前編>【スペシャル鼎談】
成長を加速・減速させる「大人・親・指導者」とは?
野澤武史×中竹竜二×益子直美

PROFILE

野澤武史(元ラグビー日本代表)
1979年生まれ、東京都出身。慶応義塾幼稚舎5年生からラグビーを始め、慶應義塾高校では主将としてチームを花園に導き、全国高等学校ラグビー大会ベスト8進出に貢献。慶應義塾大学ラグビー部では2年次に大学日本一に輝く。神戸製鋼コベルコスティーラーズにて現役引退後、母校の慶應義塾高校や慶應義塾大学でコーチを務め、U17日本代表ヘッドコーチに。日本ラグビー協会リソースコーチとして人材の発掘・育成にも勤しむ。現役時代のポジションはフランカー。グロービス経営大学院卒(MBA取得)。 山川出版社代表取締役社長、一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事。
中竹竜二(株式会社チームボックス代表取締役)
1973年生まれ、福岡県出身。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年監督退任後、日本ラグビーフットボール協会においてコーチングディレクターに就任。2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを兼務。2019年理事に就任。またラグビー界の枠を超え、2014年には、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックスを設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、一般社団法人スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。
益子直美(元バレーボール日本代表)
1966年生まれ、東京都出身。中学校でバレーボールを始める。共栄学園高等学校に進学し、1984年の第15回春高バレーでは、準優勝に輝く。同年、高校3年生で全日本代表メンバー入り。大林素子らと共に1980年代後半から1990年代前半の女子バレーボール界を席巻した。1985年、イトーヨーカドー女子バレーボール部に入団。1990年、第23回日本リーグで念願の初優勝に貢献。その後も全日本代表メンバーとして活躍し、1992年、現役引退。
引退後はイトーヨーカドーアシスタントコーチを務めた後、タレントに転身。

元ラグビー日本代表の野澤武史さんをホストにスペシャルゲストを迎えるこのコーナー。第3回となる今回は、スポーツ指導の場で活躍する2人の元アスリートをゲストにお迎えしました。自律支援型の指導法でラグビーの大学選手権2連覇など多くの実績を残した中竹竜二さん。そして、小さいうちから自分で考えて行動できるスポーツ環境作りの大切さを、指導の現場に向けて積極的に発信している益子直美さんです。

スポーツする子どもにとって、大人のサポートは必要不可欠。しかし、そのサポート方法を間違えてしまうと、子どもの成長にブレーキをかけてしまうかもしれません。ユースアスリートの成長を加速させるために、周りの大人はどのように振る舞えば良いのでしょうか。

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怒らない指導方法を模索することも大切

野澤 本日の2大ゲストに登場していただきましょう。日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターでもあり、企業のリーダー育成を行う「株式会社TEAMBOX」代表取締役でもある中竹竜二さん。そして、1980年代後半から1990年代前半の女子バレーボール界を席巻し、引退後はタレントとして活躍されている益子直美さんのお2人です!

益子 よろしくお願いします。

中竹 よろしくお願いします。

野澤 益子さんは、「絶対に怒ってはいけないバレーボール大会」を主催されていますよね。大会の意図について、お聞かせください。

益子 福岡県と神奈川県で開催している「益子カップ」については、最近テレビでも取材していただきました。先月は残念ながら中止になりましたが、今年で7年目です。特別ルールが1つ、「監督が怒ってはいけない」というもの。趣旨は、子ども達が楽しいと思える大会を作りたい、ということですね。最近は小学生でも勝利至上主義の子が多くて、技術はすごく上手くなっていると思います。でも全然楽しそうじゃなくて、途中でドロップアウトしてしまう子もいました。小学生のうちは「楽しい、また明日もバレーボールがやりたい」と思って欲しくて、このようなルールを付けたのです。そして監督さんにとっても、「怒らなかったらどんな指導方法があるのか」を半ば強制的に体験できるというメリットがあります。

野澤 反響はありますか?

益子 参加した子ども達から、お手紙をもらうこともあります。小学生の子でも「監督が怒らないからといって甘えずに、自分達で考えて声出ししました」とか、「監督が怒らないから、今日は絶対無理だと思うボールにチャレンジできました」とか。あとは指導者の方からも、「今まで怒っていたことに気づけた」などの声をいただきます。大会で怒った監督には、バッテンマークの付いたマスクを付けてもらっています。ちょっと落ち着きましょうと(笑)。親御さんからも好評ですし、何より楽しみにしてくれる子ども達が本当に多くて。監督さんたちは嫌なのかなと最初は思っていましたが、リピーターのチームがほとんどです。

野澤 なるほど。中竹さん、今のお話を聞いていかがですか?

中竹 益子カップは僕もテレビでたまたま見て、「これ面白いな」と思いました。試合が終わった後の子ども達が、達成感を感じているのが分かりました。バレーボールに限らず、すべての競技でやった方がいいのにと思いましたね。ただ、益子さんに言われたら、そりゃ怒るの止めますよね(笑)。他の方だったら、逆上する人もいるのかなと。

益子 でも最初の頃は、私が注意しに行くと逆ギレする監督さんも中にはいましたよ。「俺、怒ってないよ」とか(笑)。

中竹 その大会に出場を決めるきっかけは? 監督さん自ら、手を挙げるのでしょうか? 開催の仕方、チームの集め方は気になるところです。

益子 参加チームが55組くらい集まったのですが、特別ルールについて伝えていなかったのです。悪だくみじゃないのですが、当日の開会式にルールを発表しました。皆さん「えー?」となったと思いますし、あまり良くないことですけどね。2回目はどこのチームも来てくれないんじゃないかと思ったら、「また出る」と言ってくださる方が多くて。

野澤 中々したたかですね(笑)。リピーターが多いということは、その大会での効果を感じたということですよね。

益子 そうですね。大会後に懇親会するのですが、最初の頃は昔の武勇伝や指導方法の話をベテランの監督さんがする感じでした。でも3年目くらいからは、「これはセーフなのか」とか、監督さん同士の議論がすごく交わされるようになりましたね。私はアンガーマネジメント(怒りのコントロール)やペップトーク(選手を励ますメッセージ)のセミナー講師もしているので、ちょっとしたコツを伝えることもあります。

中竹 いいコミュニティができているのですね。

益子 すごくリピーターのチームが多いので、ありがたいですね。ただ、もっと広まってほしいので、新しいチームも入ってもらえるようにというのが課題です。大会のキャパシティも広げたいのですが、まだその術がなくて。

中竹 選手にとっても、すごくいい大会だなと思いますね。僕が監督やっていた時は「あの監督ダメだな」とか、選手が僕に怒るんですよ。選手がコーチを馬鹿にすると試合に出られないとか、そんな大会を作りたいですね(笑)。

益子 面と向かってですか(笑)? そこからどうやって変わっていったのですか?

中竹 僕のキャラがこんな感じなので、ずっと誹謗中傷されていましたね。いまだに馬鹿にされることもありますよ(笑)。

野澤 いやされてないですよ(笑)。

中竹 まあ、「ダメなやつでも悪口言っちゃいかんな」みたいな感じに、だんだんなってきてはいますね。意外に、良くも悪くも選手の方が主導権を握っているケースは少なくないと思います。何人かコーチがいる中で、あるコーチだけを馬鹿にしたり、マウントを取ったりする選手も。それで悩んで、辞めたいと思う指導者も少なからずいるのではないでしょうか。それでも、僕の経験に比べたら大したことないと感じるでしょうね。ネットの掲示板に書かれたり、直接言われたりすることもありました。僕の話を聞けば「まだいけるじゃん」となると思うので、上手く行かなくて悩んでいるコーチ達の場も作ってあげたいなと考えています。

 

親の言うことはやらない。しかし親のやっていることはやる

野澤 中竹さんは、日本ラグビー協会で「ユース・リソース研修会」というコーチの研修会を始められましたよね。学校のコーチや、僕らみたいな社会人出身のコーチを集めて、2泊3日で合宿やるんですよ。コーチングを皆で実践するのですが、失敗させられまくって恥をかく。痛みをともないながらも、学んでいく。全然納得してくれないところを、地道にやっていく。そこが面白いと感じました。「コーチのコーチ」についてのお話をお聞かせいただけますか?

中竹 僕自身が現場の監督をやらせてもらったのですが、ラグビー協会の中で1番の仕事は「コーチをどうやって育てるか」ということ。ラグビー協会で指導者を指導するときは、上から落とすというよりも、「僕も学ぶから一緒に学びませんか」というスタンスです。指導者は、「教えるプロ」という自信がすごくあります。でも、本当に学び方を知っている「学びのプロ」は少ないですね。指導者がどれだけ学ぶかが、子どもの学びにもつながります。子どもの親やチームに関わる保護者も同じように、学ぶことが大事です。その共通項をとらえていければ、多くの問題は解決すると思います。コーチの研修会で先輩方から色々と文句は言われましたが、「まあまあ、学びましょうよ。僕も痛みをともなうので」と答えました。共に学ぶということを常に大事にしていったら、時間とともに浸透していきましたね。

野澤 僕が研修会に入った時は、すでに浸透した状態でした。初期の面白い話を聞いたことがありますが、それはまた別の機会で(笑)。昔中竹さんから聞いた言葉で、「子どもは親の言う事を聞かない。真似をするだけだ」というものがありましたね。

中竹 親の言うことはやらないけれど、親のやっていることはやる(真似る)。1番基礎になる教育の仕組みですね。「もっとチャレンジしろ」なんて言っても、子どもはやりません。でも親がチャレンジしていたら子どももチャレンジするし、親が礼儀正しかったら子どもも礼儀正しくなる。子どもは見て学んでいるということです。だから、子どもたちにチャレンジして意欲を持たせたかったら、親や指導者がまずチャレンジして成長する必要があります。

野澤 益子さん、今のお話を聞いていかがですか?

益子 私が学生時代のバレーボールはトップダウンの世界で、監督に怒られ、言う通りにやってきました。引退して分かったことは、それまでは答えをもらっていただけで、自分で考える能力が全然ついていなかったことです。怒られる指導は、自主性を奪われる。そういう環境だったなと、社会人になって思いました。どうしたら良いか分からず、「答え欲しがり屋さん」という感じでした。自分から進んで目標を作ってコツコツやれなくて、社会人1年目の頃は結構さぼっちゃいましたね。あと、当時は自己肯定感もすごく低くて。50歳を過ぎてから益子カップをきっかけに色々学び始めて、やっと自己肯定感が上がってきましたね。自分で決めたことを毎日続けていけるようになったら、自信が付きました。すごく遅いデビューですよ。

中竹 それを今言えることが素晴らしいですね。

益子 54歳になりましたが、セーフだったなと思います。益子カップを通して知り合った指導者の方もたくさんいますが、「今さら学ぶの?」という方も多いのです。成功体験のある方が多くて、プライドが邪魔して新たに学び直せない。「怒る指導」をしていた方から聞いた話ですが、怒っていた時は自分の地位を上げて有名になりたい、そういう気持ちがあったそうです。子ども達のため、という気持ちが少なかった。私自身も50歳を過ぎて今更勉強なんて恥ずかしいと思っていましたが、「そんなことを言っている場合じゃないな」と気づいて、焦って勉強しています。

中竹 素晴らしいですね。学びの障害は「恥の意識」と「勘違い」の2つだけです。この2つを皆無にはできないので、恥の意識をちゃんと見つめて、少しずつ自分をさらけ出せるか。そもそも学ぶことは、自分に足りないことを認めること。だから、「分からない」と言えることが大事です。コーチのコーチを研究していますが、世界的なシリアルウィニングコーチ(大会で勝ち続けるコーチ)にはある共通点があります。それは、「分かりません」「できません」と口癖のように言えること。その方が結局、次の学びにつながることを体得しているのです。もう1つ、恥の意識はなくても「俺すごい」みたいに勘違いしているケース。残念ながら見ている世界が狭いと、悪気がなくても自分よりすごい人が周りにいないと勘違いしてしまう。でも、こういった学びの障害を大人になってから乗り越えたのはすごいと思います。

益子 ありがとうございます!

 

ずっと自分を隠して生きていると、恥の意識が拡大していく

野澤 自らが学ぶ環境に身を置けるかが大事なのですね。あとは、新しい人に出会うスキルも大事なのかなと思います。最近「Clubhouse(クラブハウス)」というアプリが大流行していますが、益子さんの登壇数は国内ベスト10に入っているのでは?僕の感覚では、そういった新しいものに敏感な方は、指導者として上にいく方が多いですね。新しいことをやってみる、新しい人と会ってみるというのは、結構面倒な部分もありますから。だんだん年齢が上がってくると、ご飯も気が合う人とだけでいいや、となってしまう。それを変えられるのはスキルなのかもしれませんね。

益子 いえいえ(笑)。この間、野澤さんに会社のビジョンについてうかがいました。私は会社を持っていませんが、「壁を作らない」ことをモットーにしています。とにかく飛び込んで、色んな方と話して、つながって学び合いたいというのが今のビジョンです。Clubhouseは、色んな方の部屋に入って話を聞かせていただけるので、ありがたいですね。

中竹 僕も今日この後Clubhouseやりますので、ぜひ来てください(笑)。でも、そのフットワークの軽さはいいですね。昔からですか?

益子 いえ、学び始めてからですね。元々は自分に自信がなくて。たとえば芸能事務所に所属していますが、ワイドショーやコメンテーターの仕事はNGなんです。「自分の意見を言って、もし間違ったらどうしよう」という不安が大きいのが嫌で。あとは、クイズ番組も絶対でません。社長に「なんで私が馬鹿なことをさらけ出さなくちゃいけないんですか」みたいなわがままを言ったり。自分をさらけ出すのがすごく嫌で、自信がなくて。人と話すことも自分に知識がないのがばれてしまうので、やらなかったですね。

野澤 自分をさらけ出せる、失敗を人に見せられるのが、新しいリーダーの形。中竹さんが「insight(インサイト)」という著書の中で、そうおっしゃっていましたよね?

中竹 今まで弱さをさらけ出すことは弱さの象徴だと言われていましたが、むしろ逆なんですよね。いいリーダーは自分のことをちゃんと認識する。そのためには自分をさらけ出さないと、周りも自分も分からない。ずっと自分を隠して生きていると、恥の意識が拡大していくのです。恥の研究は世界的に進んでいて、恥の意識があると成長できないしコミュニケーションも悪くなります。簡単な解決策は人に言うこと、これだけです。益子さんはそれを体現されていますね。今日お会いして、僕がテレビで見たイメージとは違って、オープンマインドな所に感心しました。でも最近のことなんですね。

益子 ここ2年くらいですね!

中竹 こんなに実績を上げた方が「自己肯定感がなかった」と言ってくれるのは、多くの方に勇気を与えると思います。ぜひ、そのお話を皆さんに伝えてほしいですね。逆に、野澤さんは生まれつき自己肯定感しかなかったですよね(笑)。

野澤 僕は本当に、自己肯定感しかないんですよ(笑)。唯一あったのは、22歳でキャプテンの時に優勝できなかった大学選手権。それで僕も、ネットの掲示板で叩かれて。その時に初めて「俺を嫌いな人が世の中にいるんだ」と思いました。あとは、僕の場合はこじ開けて突破していくタイプなので、皆さんの質問に答えるのにふさわしくない人物ですね(笑)。

 

==後編に続く==

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