INTERVIEW

【独占インタビュー / 吉田麻也】
東京五輪の激闘を終えて~
サッカー日本代表キャプテンが
伝えたかったこと。

自国開催の重圧の中、キャプテン・吉田麻也が率いた東京五輪サッカーU-24日本代表はベスト4進出を果たした。見る者ですら息のつまるような緊張感の中、最後までチームを鼓舞し、けん引し続けた主将の想いとは? 五輪での最終試合となった三位決定戦から2日後、吉田麻也がSPODUCATIONの独占インタビューに答えてくれた。日本代表キャプテンが本当に伝えたかったこととは──。

インタビュー・文 / SPODUCATION編集部

game photo:Getty Images

 

22人の状況を把握し、どう接すればいいか意識していた

──東京五輪での激闘を振り返り、今回のチームはキャプテンとして吉田麻也選手がイメージした雰囲気はできていましたか?

「チーム自体は非常にいい雰囲気で、緩すぎず、過度の緊張もなく、良い自信と緊張感の間でやれていたと思います」

 

──こういう短期決戦で、かつ自国開催の代表チームという重圧の中、カラダも精神も相当追い詰められていたと思うのですが、吉田選手が心がけたことは?

「良い準備とリカバリーですね。短期決戦で6試合も戦えたのはそこが大きかった。僕らはまだまだブラジル、スペインと対等に渡り合えるチカラがないので、やっぱり十分な準備を事前にできたことが良かったと思います。スペインが大会の1週間前に来日して僕らと親善試合をしましたが、僕らは1カ月前ぐらいから準備を国内で進められていたわけです。しっかりと準備期間をもって臨めたことがグループリーグでの良いスタートにつながったのだと思います」

 

──キャプテンとして代表チームをけん引されましたが、リーダーとしてどういうことを意識されましたか?

「とにかく周りをよく見ることですね。短期間でのコンペティションでは22人いろんなメンタルコンディションの選手がいます。試合に出場して疲弊する選手、自分のパフォーマンスがうまくいかなくて落ち込んでいる選手、試合に出られなくて気持ちが落ちている選手、怪我をして出られない選手――、それらを把握して、今どういうことを言ったらいいか、どういう声をかけるべきか、どういうふうに接すればいいのかを意識していました」

 

――チームメートの全選手に対して、目配り気配りをされていると。

「まあ、そうしようと思っているんですけどね。それが全部できたかと言われたら、ちょっと自信はないです(笑)」

DF陣、そしてチーム全体を統率した吉田麻也。圧倒的な存在感でチームのピンチを幾度も救った。 photo:Getty Images

photo: Getty Images

 

海外に行ったことでチャレンジする勇気を培った

──技術、身体はもちろんですが、世界と戦うためには心の部分も必要になるかと思います。これまでいろんな経験をされてきたからこそ揉まれた部分もあると思いますが、2010年に初めて海外のオランダに渡る前と今でのメンタルの違いを振り返るといかがですか?

「もう10年以上も前のことですからね。当たり前ですけど圧倒的に知見は広がったと思います。チャレンジすることを恐れなくなりました。そんなにチャレンジ精神が旺盛な子どもではなかったんですけど、好奇心は人一倍ありましたね。ただチャレンジする勇気が強い子ではなかったんです。そんな僕でも海外に行ったことで、チャレンジしようっていうメンタリティを身につけることができました。海外の食文化にしても、拒絶するのではなく、とりあえず1回トライしてみようと」

 

──先入観で決めつけず実際に口にしてから判断してみると。

「そういう姿勢は向こうにも受け入れてもらえるし。日本に来た外国人でもそうじゃないですか。ヨーロッパとか南米の選手が納豆を食べようとしていたら僕らも嬉しくなるし、食べて美味しいって言ったら『ナイス!』ってなりますよね。箸を使えなくてもトライする選手の方が好感を持てる。名古屋グランパスでプレーしていた時から、どんな外国人選手が成功するのか、どういう選手がパフォーマンスを発揮できるのかをずっと見ていたんですよね。だから僕自身、観察力が高かったのは本当に良かったと思っています」

 

──そこは吉田選手元来の性格なのでしょうか?

「育った環境かもしれません。僕は三兄弟の一番下だったので、兄について行ったり大人と接する時間が多かったので、そういう環境から観察力が自然と身に付いていったんだと思います。上の世代の人の振る舞いを見て参考にしたりするのが好きでした。今こうしてキャプテンになり、周りの状況を把握する能力はチームマネジメントにも役立っていると思います」

精神的支柱としてピッチ内外でチームを鼓舞し続けた。メキシコとの3位決定戦に敗れ号泣する久保建英を労う姿が印象的だった。  photo: Getty Images

世界では情報や知見が日々アップデートされていく

──あとは吉田選手の集中力。延長になり疲労から周囲の選手たちの集中力が切れかかっていても、吉田選手は最後まで集中力を絶やさなかった印象があります。ここまで集中力を高められた秘訣みたいなものはありますか?

「これまでの経験によるミスや失敗から学んできたことはあると思います。僕も昔は集中力の欠如がすごく顕著な選手でした。しかし今はキャプテンとして周りに声を出すことによって、自分自身の集中力も高まります。みんなに集中しろよと言っている自分が、相手にやられるわけにいかないじゃないですか。言うからには責任も伴うし、そういう立場になったからこその責任感もあると思います」

 

──五輪の試合をテレビでしか見れていないので、ちょっと表面的な部分になってしまうかもしれないですが、吉田選手はどんな選手に対しても競り勝っていたし、適格なポジショニングが際立っていたと思います。

「そのためのオーバーエイジですし、踏んできた場数もあるでしょう。ただ、あとはやっぱり厳しい環境に身を置いていたからこそだと思いますね。僕は2012年にイングランドのサウサンプトンに移籍してから意識を大きく変えました。日本、そして平均身長の高いオランダでも競り負ける経験がほとんどなかったのですが、イギリスでは競り負けることが多くなってきたんですね。あまりにも力負けするんで、このままではまずいと思いました。サウサンプトンではスポーツ栄養士さんとかリハビリ担当の人もいれば、ジムセッション担当の人もいれば、分析の方とか、スタッフがものすごく細かくわかれているんです。専門的なノウハウを持っている方がたくさんいたので、その方たちをうまく使いながら、知識を広げていきました。大きく、そしてスピードも落とさないためのカラダをつくり上げるのに4カ月、5カ月はかかりました。もともとの筋量がヨーロッパの選手と比べて多くないので、やらなければ萎んでしまう。カラダを大きくして、それをキープしてさらにその筋肉量で出力する必要があります。サプリメントなどスポーツ栄養学やトレーニングはどんどんアップデートされていくので、それに自分もついていかなきゃいけない。そこは大変ですね」

 

──日本は選手の能力が上がったとしてもチームの体制・意識として、海外と比べるといかがですか?

「最近ようやく改善されてきてけど、やっぱりまだプレイヤーズファーストが染み付いていないと思います。A代表とかは差がなくなってきましたが、育成年代ではやっぱりそういうところがちょっとまだ感じられます。選手が実力を出すために、何をしなきゃいけないか、何を優先しなきゃいけないか。それを主軸として考えて、動かなきゃいけないなっていうのはありますね。代表でもやっぱりそういう環境を自分たちで作り上げていかなきゃいけないし、選手たちも自分が海外に移籍してそういうところに身を置くって大事だし、小さいことの積み重ねじゃないかと思いますね」

 

 

五輪を戦った仲間は、友達とかチームメートを超越した関係になっていく

──今大会ではキャプテンとして選手間だけでのミーティングも多くされたのですか?

「いや、大会前と3位決定戦の前の二回だけです。ただ、やればいいってものではないですし、難しいですよね。1回目のときはミーティングをやらなくてもいいぐらい良い状況にあったのですが、オーバーエイジ組(酒井宏樹、遠藤航)の3人で話をして決めました。2回目は僕が判断してやりました」

 

──3位決定戦は我々が想像する以上に精神もカラダも厳しい状況だったと思いますが、どういったことをリーダーとして伝えられたのですか?

「このメンバーで戦うのはこれが最後になるので後悔がないように、という想いで開催しました。特に同じ世代の選手たちだから、仲が良いグループって絶対あると思うんです。そういう仲間って、これからプロでずっとやっていく上ですごく大事なんですよ。僕にとっての内田(篤人)とか、岡崎(慎司)もそうですけれど、その世代の選手は北京オリンピック当時から今日までずっと同じ仲間として戦っています。それはもう友達とか、他のチームメートを超越した関係になっていくと思うんですよね。だからこれからも関係性を大事にしてほしいし、そういう選手と最後に笑って終われるために頑張ろうという話をしました」

 

──次なる目標目的はどのように考えていますか?

「……(しばし熟考)。そうですね……シンプルにサッカーが上手くなりたいですね。僕のエージェントはイギリス人なんですけど、二、三週間前に話をしていて、僕が32歳になってオーバーエイジで五輪出場を選択したのは『まだ上手くなりたいと思っているからだ』って言われました。たしかに、僕はまだまだそういうもの(サッカーが上手くなりたい気持ち)を持っていると思います」

 

──自分に足りないものが何なのかを常に探究している?

「そうですね。カッコいい言い方だと(笑)。向上するにはこうした方がいいんじゃないかっていうものを常に探しています。身を置く環境も大事だし、何かを取り入れるものも大事だし、時間の使い方も大事ですからね」

 

──そしてチャレンジすることも大事だと。

「AとBの選択肢があって、Aが知っている方でBは知らない方なら、僕は迷うことなくBに行きます。どっちでもいいやって思うときは、せっかくなら知らない方に行きますね」

上手くいかないことがほとんど。サッカーは人生の縮図

──では最後に、スポーツ・サッカーを通して自分を成長してくれたもの、大人になるためにスポーツで培われたチカラは何だと思いますか?

「サッカーって人生とすごく似ていると思います。本当にうまくいかないことの方が圧倒的に多い。日本代表になって、テレビとかに出ているときは周囲から煌びやかに見えるかもしれないけど、日常は地味な方が圧倒的に多いんです。みんなが夜に遊んでいるとき、基本的に僕はストレッチをして寝ています(笑)。みんながお酒やジュースを飲んで楽しんでいるときに、僕が飲んでいるのは水なんです。何かを得るためには何かを犠牲にする。サッカーはその縮図のようなものだと思っています。僕は社会人として社会に出たことはないんですけど、それは一般の人生論にも通じるところがあるんじゃないかと思います。(スポーツから)学べたことは山ほどありますね」

 

──学力重視の今の日本社会では、スポーツをどこかで諦めないといけない、という風潮もありますね。

「その考え方は間違っていると思うんですよ。社会では『これだけをやっておけばいい』ってものはないじゃないですか。仕事は一つじゃないし、この仕事をしながらあの仕事もこなさなきゃいけない。その他にも奥さんとコミュニケーションを取らなきゃいけないし、奥さんのお父さんお母さんとコミュニケーションとらなきゃいけないし、ご近所さんともうまくやらなきゃいけない。社会人にはいろんなタスクがあるわけです。だから、勉強をさせるためにサッカーをやめさせるっていうのは違うと思います。一番好きなサッカーを取り上げられて、勉強だけをこなせるのか、僕は疑問に思います。かつて僕の知り合いで、勉強に集中すると言ってサッカーをやめた選手がいたんですよ。でも、やめた途端にどんどん成績が落ちていきました。今までサッカーに使っていた体力が有り余って、その力を勉強じゃなくて違うものに使っちゃったんですね。今まで良いバランスで勉強ができていたのに、変にバランスが崩れちゃって成績が落ちてしまった。もちろん、人それぞれだとは思いますが、やっぱり自分が好きなこと頑張らないと駄目なんだと思います」

 

──吉田選手も中学時代にプロになる覚悟を決めたと言っていましたね。

「そこです。大事なのは好きなことでも何でも、自分がこうって決めたことを貫けるかどうかだと思います」

 

──本日はどうもありがとうございました。

 

PROFILE

吉田麻也 │ UCサンプドリア所属
1988年8月24日生まれ、長崎県出身。187cm/87kg、DF。07年に名古屋グランパスでプロデビューし、09年よりオランダのVVVフェンロでプレー。12年イングランドのサウサンプトンFCに移籍、20年1月にイタリアのUCサンプドリアに加入。日本代表としては、ブラジル大会、ロシア大会と2度のW杯を戦った。2021年、東京オリンピックではオーバーエイジ枠で選出され、キャプテンとしてチームをけん引しベスト4進出に貢献した。
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