INTERVIEW

世界で活躍できる選手育成
~ コーチング・攻防の要点 ~
野澤 武史 × 田邉 淳
-後編-

2022年1月には、「JAPAN RUGBY LEAGUE ONE」(ジャパンラグビーリーグワン)が開幕する。新たに導入された世界的なルール改正もあり、これからのラグビー指導者は、世界の趨勢を踏まえた攻防の要点を理解することが求められる。元ラグビー日本代表で「スポーツを止めるな」代表理事を務める野澤武史さんをホストに、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ アシスタントコーチを務める田邉淳さんをゲストに招き、世界で活躍できる選手を育成するコーチングの在り方について語り合った。

 

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ディフェンスはアタックの一部。攻撃への移行も含めた練習を

野澤 スラッシーさんは、ディフェンスについても良く考えていますよね。現代ラグビーのディフェンスでは、どんなことが求められるのでしょうか?

田邉 ラグビーのディフェンスは、チームによっておおよそ二つのパターンに絞られます。すごく上がるのか、上がってから流していくのか。そこで急に違うことをやる選手が出てくると、チグハグになってしまう。ディフェンスは、アタックの一部です。守り切って良しではなく、そこからどうやって攻撃に移していくか。そこまでの過程がディフェンスです。これからの選手は、攻守の切り替えという所をどんどん得意にすべきだと思いますね。

野澤 日本人は、切り替えが苦手でしょうか?

田邉 いえ、どちらかと言えば強みだと思います。でもインターナショナルレベルを目指すなら、現状に満足せずどんどん向上していくべきです。すごく大きな外国選手と戦う時に、スクラムやラインアウトになると苦しくなります。それを避けるには、スピーディーな攻守の切り替えが必要です。だから、攻撃に転じるところまでを含めたディフェンスの練習が重要になります。そこの柱ができれば、相手のアタックに対してプレッシャーをかけやすくなるでしょう。

野澤 ディフェンスのパターンは、二つくらいしかないというお話がありました。では、なぜチームによってディフェンスで差がつくのでしょうか?

田邉 ラグビーのルールは、攻撃側に有利となるように変更されていきます。その方が、トライが増えて盛り上がり、エンターテイメント性が上がるからでしょう。ひと昔前は攻撃しないチームが多くて、ほとんどがペナルティゴールばかりで、見ていて面白くないラグビーを変える必要がありました。裏を返せば、ディフェンスは常に不利になっていくのです。ディフェンスで重要となるのは、心・技・体。マインドセット(心の持ち方)は確立しているか。チーム内のシステムは問題ないか。積極的にディフェンスできるだけのフィジカルがあるか。失敗するとしたら、この3つが揃っていないのだと思います。

野澤 スラッシーさんからコーチングを教わった時に、「マインドセットが大事」と言われた記憶があります。ディフェンスのコーチングでも、まずはマインドセットを教えていく。古いようで斬新だなと思いました。

田邉 心の持ちようは大事です。「俺たちはこういう形でやっているんだ」と、皆で共有できるものを作ること。それが常に柱としてあれば、面白いチームになるでしょう。ディフェンスだったら「大会で最少失点を目指そう」とか。それを目標にすれば、「もっと練習しなくちゃ」という気持ちが個々の選手に出てきます。システムについて話し合う機会も増えるでしょう。ラストワンプレーで守らなければいけない時に守れるかどうかは、そういう所で変わってくると思います。

 

ゴールは同じでも、選択肢は多い。選ぶなら、楽しい道を

田邉 フォルクスワーゲンの興味深い映像があります。階段の方が健康には良いと分かっていても、普通ならエスカレーターを使ってしまいますよね。でも、階段をピアノの鍵盤みたいなデザインにしたら、通常よりも66%も多くの人々が階段を選択するんです。「ファン・セオリー」と呼ばれるもので、「楽しさ」が人の振る舞いをいい方向に変えるのです。

野澤 その手があったか、という感じですね。

田邉 要は、到達する場所が一緒だとしても、到達するまでの楽しさが重要となるのです。今の選手には、日本代表とかリーグワンの選手とか、色んな目標があるでしょう。そこに到達するまでに、楽しくやっていける選択肢を選んでほしいですね。今期は特に、他チームへ移籍する日本人が非常に多くいました。今では留学経験のある日本人も結構いますよね。つまり、それだけ選択肢が増えているということ。世界と戦うなら、言葉も食文化も違う環境で成長していくのも一つの選択肢です。実際、松島幸太朗選手(ASMクレルモン・オーヴェルニュ)のようにヨーロッパのクラブチームで一人でやっている選手もいます。そういう考えを持った中高生がこれから沢山出てくれば、ラグビーの未来は明るくなるんじゃないかな。

野澤 今では中学校から、そのままニュージーランドの高校に留学する選手が増えていますね。たとえば今年の帝京大学一年生で、リザーブで試合にも出ている小村真也選手。大阪の中学校選抜に小村選手が出ているのを見ましたが、スタンドオフとしてすごい。柔軟で、豪快。どこの高校に行くのかなと思っていたら、ニュージーランドに留学したんです。今は日本に戻ってきて、帝京大学で一年生から試合に出ています。そういう経験が出来るのは大きいと思います。大人が「こういう選択肢もあるよ」と伝えていくことも大事ですね。

田邉 そうですね。リーグワンのチームに所属するとなれば、海外選手たちと会話していく必要があります。たとえば今うちにいるマルコム・マークス(南アフリカ代表)や、バーナード・フォーリー(オーストラリア代表)など、憧れていた選手と同じ土俵に上がってプレーしていく上で、語学力はマストです。そういう意味も含めて、もし海外に行く機会があるなら、ぜひチャレンジしてほしいですね。目的地は皆一緒ですが、どういう道を進んでいくかの選択肢は沢山あります。ひと昔前とは違って、今はプロになる道もあれば、企業の正社員としてやっていく道もあります。「なぜプロになりたいのか」「なぜ正社員になりたいのか」と自分で考えながら、決められます。今の子たちは恵まれていると思いますね。

野澤 日本代表の選手を見ると、必ずしも強豪校出身というわけではありません。たとえば堀江翔太選手(ワイルドナイツ)は、花園(高校ラグビーの全国大会)の経験が一度もありませんでした。そういった選手がトップレベルで活躍できている理由は、どの辺りにあるのでしょうか?

田邉 どうかな。その辺りは、ユース世代を担当している野澤さんの方が詳しいと思います。ただ、堀江選手は適応力がすごいと感じますね。その場、その場の環境に自分をならしていくのが上手。彼自身も一人で留学した経験があって、それがプレーにも表れているなと思いますね。

野澤 強豪じゃないチームは、「何でも屋さん」をやらなくてはいけないことが多いですよね。キッカーもやる、エイトサイドもやる、タックルもやる、キャプテンもやる。分業できないというか、そうせざるを得ない。そういう意味で、色んな経験を積めるのはありますよね。あまりに強豪校だと、一学年40人と大人数なことも珍しくないので、特化するのが早くなりすぎる。ニュージーランドでは、皆好き勝手なポジションやりますよね。ああいうのも、適応力につながっているのかなと思います。

田邉 海外では一人が全責任を負うのではなく、色んな役割ごとに責任を皆で分け合いますね。アタック、ディフェンス、ラインアウト、スクラムとそれぞれにリーダーがいます。たとえば、ゲームキャプテンだったらゲームのことだけに責任を持って、それ以外は他のリーダーが責任を持つ。全てを一人がやることは、ほぼありませんね。

野澤 他には、どんな役割のリーダーがいるのでしょうか?

田邉 カルチャーリーダーもあります。それも一人ではなく、何人かですね。「チームのDNAは何か」というのを話し合って、チームの文化を作っていくのです。それこそ、メジャーリーグの大谷翔平選手みたいな。大谷選手は個人でやっていますが、それをチームでやればより強い力になります。ルールというよりは、「こういう人間になっていこう」と伝えていくだけで、それがチームの文化として醸成されていく。チームの皆で責任を分け合うのは、最近のリーグワンでも良くあると思います。

野澤 目の前の勝利をつかむために、過程よりも結果を優先してしまうことは必ずあると思います。それについては、どうお考えでしょうか?

田邉 日本のトーナメント制では、次のステージに行くためには勝つしかありません。それで、どうしても能力をセーブして勝ちに行くようなチームも出てきます。抽選も含めてシステムには、疑問を感じますね。4年間の大学生活を費やして、一回戦で終わりということも。海外だとリーグ戦で、ホームアンドアウェーみたいな形がほとんどです。勝つ日もあれば、負ける日もあります。2、3勝で終わったとしても、人間として成長していける。負けたからこそ、次にどうやって勝ちに行くかを考えながら、過程を経験できる環境。でもトーナメントだと、負ければ復習する間もなく卒業していく選択しかありません。こういった日本のシステムもあって、勝ちという結果にこだわってしまうのだと思います。

野澤 ワールドラグビーからコンタクト(接触)に関する指針が出ましたね。一週間にコンタクト30分。でも、試合は7日で5試合やりますよね。「まず大会を変えないとダメでしょ」と思いました。その辺りは大人が整備してあげるべき。負けから学べる機会をつくって行かないといけないなと思いました。

 

──最後に、皆様へ一言ずつお願いします。

田邉 本日はありがとうございました。2020年1月7日から新しいリーグワンが始まりますが、国立競技場で古巣のワイルドナイツと試合します。ぜひ会場で、クボタスピアーズを応援していただけたら幸いです。会場をオレンジに染めるような、熱い応援をお待ちしています。

野澤 スラッシーさんから色んなお話を聞けて、自分自身が本当に勉強になりました。戦略や結果、目に見える部分に引っ張られがちですが、目に見えない部分の大切さを改めて思い返せましたね。前提にあるものを忘れてはいけない。頭でっかちになっていたなと、お話を聞いて感じました。本日はどうもありがとうございました。

 

PROFILE

野澤武史(元ラグビー日本代表 /『スポーツを止めるな』代表理事)
1979年生まれ、東京都出身。慶応義塾幼稚舎5年生からラグビーを始め、慶應義塾高校では主将としてチームを花園に導き、全国高等学校ラグビー大会ベスト8進出に貢献。慶應義塾大学ラグビー部では2年次に大学日本一に輝く。神戸製鋼コベルコスティーラーズにて現役引退後、母校の慶應義塾高校や慶應義塾大学でコーチを務め、U17日本代表ヘッドコーチに。日本ラグビー協会リソースコーチとして人材の発掘・育成にも勤しむ。現役時代のポジションはフランカー。グロービス経営大学院卒(MBA取得)。 山川出版社代表取締役社長、一般社団法人「スポーツを止めるな」代表理事。
田邉 淳(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ アシスタントコーチ)
1978年生まれ。現役時代はフルバックで活躍。報徳学園高校に入学後1カ月ほどでニュージーランドに渡り、現地のクラブチームでプレー。2003年に三洋電機に入社し、小柄ながらスターティングメンバーとして活躍。2010年、リポビタンDチャレンジカップロシア戦で日本代表初キャップを獲得。2013年に引退し、パナソニックワイルドナイツのバックスコーチに就任。2016年よりサンウルブズ、2019年より、クボタスピアーズのアシスタントコーチを務める。ニックネームはスラッシー。

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