PROFILE
- 酒井宏樹
- 1990年4月12日生まれ、長野県中野市出身。中学1年生から柏レイソルのアカデミーでプレー。後に多数のプロ昇格選手を輩出した柏レイソルU-18で、海外でも多数の試合を経験した。プロ昇格後、2011年のFIFA クラブワールドカップでのブレイクにより翌年から欧州を主戦場とする。16 年にフランスのマルセイユに移籍し、レギュラーとして活躍中。
フランスの名門・マルセイユで不動の右サイドバックの地位を確立した酒井宏樹。ダイナミックなプレースタイルとは対照的に、穏やかな性格で知られる彼は、日本代表のなかでも異色の存在だ。「上には上がいる」サッカーの世界で、彼はどのようにして今のポジションに上り詰めたのだろうか。注目のインタビュー後編をお届けする。
写真/NIKE
重圧と戦うメンタル術は「我慢のキャパを広げること」
ーー子どものころに描いていた夢と現実に、違いはありますか?
「ヨーロッパでプレーするというのは、もっとキラキラしているものだと思っていました。実際は、すごい重圧の中でやらないといけませんし、ステージが上がるほど苦しいことも多くあります。良い所で戦っているなって思っている方も多いかもしれませんが、僕本人としては苦しいことが多くて必死です」
ーー必死な姿が我々にとってはキラキラしていてかっこいいな、って感じますよ。
「そう思っていただけるのは嬉しいですね!」
ーーメンタル面は大きな要素ですよね。世界で戦う中で、どうやって強いメンタルを維持していますか?
「いや、自分でメンタルが強いとは思っていません。今も耐えるというか、我慢するキャパシティを大きくしているだけです。日本人としてフランスで働かせてもらっている身分なので、やっぱり我慢する部分は多いですし。その中で、ストレスを感じないように結果を出していくしかないですね。それでも結果が出ないときは、家族が支えてくれるので感謝しています。そして、家族経由ですが日本で応援してくださる方々の声も聞こえてきます。いいニュースを届けたいなって、前向きな気持ちになれますね」
海外の子どもたちが早熟なのはサッカーが文化だから
ーーコロナ禍によりなかなか日本に帰って来られないとは思いますが、現在のフランスの状況はどうですか?
「特にマルセイユとパリはレッドゾーンで、感染者が増えていますね。またいつ外出禁止になるか分からない状況です」
ーーそんな中シーズン開幕して、マルセイユVSパリ・サンジェルマン戦が行われましたね。見事マルセイユが1-0で勝利を収めましたが、ネイマール選手とのマッチアップはいかがでしたか?
「必死でした(笑)。何回も崩されましたし、あれだけ強い選手なので一人で止めるのは不可能でした。でも、チームメイトとうまく連携して0失点に抑えられて良かったですね」
ーー今シーズン、無観客試合でのプレーについてはどう感じていますか?
「変な感じはしますが、この状況に対応しなくちゃと思ってプレーしています。まあ、特にホームでの試合はお客さんがいてくださった方がテンションが上がりますね。逆にアウェイの試合では無観客試合が続けてほしいです(笑)。無観客でプレーしてみて、サッカーを観戦することが、フランスの文化として根付いていたんだなと改めて感じました」
ーー海外ジュニアのサッカーはどう見ていますか?
「すごく大人だなと思います。あの年代でシミュレーション(相手のファールに見せかけること)することもあるんです。あと細かいですが、カウンターされそうな危ない場面では足引っ張ってそこで止めちゃうとか、戦術面がすごいですね。年齢は分かりませんが、たまに見る小さな子達がそういうプレーをし始めてるんですよ。それで、文化なんだなあと」
ーージュニアでシミュレーションは驚きですね。ご自身でシミュレーションの対策はありますか?
「いや、ありませんね(笑)。シミュレーションさせないくらい綺麗にボールを取るしかないですね。スライディングしなくちゃいけない状況になる前に、ボールを取れるように心がけています」
負けず嫌いであることが海外で戦い続ける理由
――流されやすい、すぐ辞めたいと思うような性格と言われてきましたが、現在、こうして世界のトップレベルで続けられるメンタルはどのように培われたんでしょうか?
「最終的にはやっぱりサッカーに対する負けず嫌いなところだと思います。そのまま辞めたり、レベルを落としたりすると、自分に負けたことになってしまうので。いつも『もう少しだけ頑張ってみよう』という気持ちでやっています。そうすると、いい結果になることが多いですね。でも子どもの時は今とは違って、親や周りの人から知らないうちに支えられていたのが大きかったんだと思います」
ーー最後になりますが、サッカーを頑張る子ども達、応援する多くのファンの方々に一言、メッセージをお聞かせください。
「大人になると、苦しいときもあります。でも、ジュニア時代に経験した楽しい思い出が、そんな時に打ち克てる唯一の秘訣です。だから、ジュニア世代の子どもには、とにかく今は好きなサッカーを精一杯楽しんでほしいと思います。自分より上手い人を見つけて、頑張ってください。また、親御さんのサポートも必要不可欠です。静かに、でも熱く、見守っていただければ子どもも成長できると思います」
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