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COLUMN

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【4/16~18 biz Festa Preview#01】
自分を知り、組織で結果を出す!
「FFS理論」でひも解くスポーツと性格・ストレスの関係性/古野俊幸

「SPODUCATION」では 4月16日(金)~18日(日)の3日間、ビジネスパーソンに向けたオンラインイベント「biz Festa」を開催する。スポーツで培われたノウハウが、ビジネスでも応用できることを紐解くべく、ビジネス書のベストセラーを生み出す有名著陣とアスリートが激論を交わす。数多の企業のビジネスパーソンを指導してきたスペシャリストたちと、トップアスリートの邂逅は、どのような“解”を生み出すのか。現状打破に日々を捧げる現代ビジネスマンに向けた大型オンラインイベントを前に、“ビジネスサイド”のゲストのインタビューを紹介していく。

『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』
日経BP/378ページ/1980円(税込)

人間関係には各々の性格やストレス状態が密接に関わっている。これらを科学的に分析し、最適な組織編成・開発に応用できる手法として注目されているのが『FFS理論』だ。政府機関の依頼により生まれた実践的理論を人気漫画の登場人物を題材に解説した10万部超えのベストセラー「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み」の著者である、古野俊幸氏にインタビュー。FFS理論を熟知したエキスパートが語る、スポーツへの応用とは?

 

ジャーナリストから、FFS理論の道へ

ーー古野さんは現在「FFS理論」に関する仕事をされていますが、それまでの経緯についてお聞かせください。

「中学生の時に『12人の怒れる男たち』という映画で人を救うことにあこがれて、弁護士になろうと思いました。それで大学受験の際には法学部に行く必要があったのですが、たまたま塾の先生が司法試験に6回落ちた方で『弁護士の道は厳しいな』と思いましたね……(苦笑)。次の進路を考えていた時に読んだ本が、沢木耕太郎さんの『敗れざる者たち』です。ほとんどスポーツ選手の話でしたが、読み手の人生を変えていけるジャーナリストという仕事に魅力を感じました。弁護士よりもたくさんの人を救えると思い、ジャーナリストの道を目指すことに決めたのです」

 

ーージャーナリストの仕事もされていたとうかがっています。どのようにスポーツと関わっていたのでしょうか?

「学生時代は部活でバスケットボールをやっていましたし、『敗れざる者たち』に影響された部分もあって。それで、スポーツの感動やリアリティーを伝えるジャーナリストを目指そうと決めたのです。大学受験では、スポーツ新聞部が充実している関西大学に進学しました。でも1年生の暮れに書いた「アメフトチームが負けた敗因追及の記事」を、編集長から「頑張ったんだから、ヨイショ記事風に書き直せ」と言われて、『それはジャーナリズムではない』と反論し、喧嘩になりました(笑)。それからすぐに退部し、ミニコミ雑誌のサークルを立ち上げ、ミニコミやフリーペーパーを作っていましたが、それでも無事に大手のスポーツ新聞社へ入社できたんです。ただ、内勤(オフィスワーク)でずっと取材に出してもらえなくて……」

 

ーー希望の職種の会社に入社しながら、望んだ仕事ができなかったと。

「何度も懇願しましたが、4年間記者になることが叶わず会社を飛び出しました。それから1年半はフリーライターとして夕刊紙やスポーツ紙向けに町ネタなどの記事を書いていました。当時のジャーナリストは、世の中の騒ぎに乗じた記事を書かないと売れません。でも、それは僕が目指しているところじゃない。「人を幸せにできるレベルで影響力を持てる、というのは本当に超一流。そのレベルに到達するのは難しいなと、自分の能力に限界を感じました。そんな時に出版&教育会社に誘われ5年間勤めたのですが、そこで教育の事務局をやっていたことで教育への関心が高まりました。そこで感じたのが『人事は人を活かしていない』ということでした。『組織の最適化』を啓蒙する必要性は、そこでの経験が大きいです」

 

ーーFFS理論との出会いは?

「自分が主宰していた異業種交流会にFFS理論開発者の小林惠智博士をゲストとして招いたことがきっかけです。組織の最適化理論の普及に使命を感じ、『FFS理論を広める会社を作ろう』と、会社の創業に参画したのです。ただ自分のライフワークとしては、『スポーツに関わりたい』という想いがずっとありました。出版社に勤めていた頃は時間に余裕があったので、今でいうダブルワークみたいなことをしていましたね。今はもうありませんが、『アクティブスポーツ』という雑誌で記事を書いたり撮影をしたり。『サファリラリー』の取材に行って、記事を書いたこともありましたよ」

 

ーージャーナリズムは捨てていなかったのですね。

 「沢木さんの影響を受けた部分が大きいですね。〝ジャーナリストは講談師みたいなところがあり、取材した後、ずっと近くで見てきたような嘘を言う〟と考えていた沢木さんは、『新しいジャーナリズムは、当事者になって書くことじゃないか』とニュージャーナリズム論を語り、実践されていました。カシアス内藤が登場する『一瞬の夏』という本では、沢木さん本人がセコンドに付くんですよ。それに共感して、自分でトライアスロンの大会に出て、それを自分で記事に書くということをちょうど30歳くらいの時にやりました。自分が当事者として大会に出て記事を書く、というのはそれ以外にも何度かありますね」

 

5つの因子から選手を分析。FFS理論のスポーツへの活用法とは

ーーFFS理論はスポーツにも活かされているようですね。

 「FFS理論と出会って、これならスポーツにも貢献できるんじゃないかと思いました。FFS理論の開発者自身が、アメフトチームでその有効性を検証したこともあります。筑波大学の当時の監督から声をかけてもらい、僕自身が手伝ったことも。指導者と選手の相性やそれぞれの個性は重要で、コーチを変えて伸びたり、逆に伸びきれなかったり。ビジネスにも同じ現象は起こりますが、スポーツではよりはっきり出ます。企業だと競合とか他の要素があるから、社員の関係性が悪くても上手く行くこともあるでしょう。一方でスポーツだと、シーズンごとに勝敗がはっきり出るから、効果測定しやすいのです。子どもにも教える側にも個性があるから、個性Nと個性Nを掛け合わせて相乗効果が生まれることもあれば、逆につぶれてしまうケースも。ジュニアの子ども達を教えている指導者の多くは、あまり科学的ではなく、ご本人の体験に基づいた指導方法。根性論の人もいて、『いかがなものかな』と思ってきまして。そういったスポーツの場に、FFS理論の考え方を普及していきたいと話をしていたら、ご縁があってつながってきました」

 

ーーFFS理論は5つの因子の順番、バランスでその人の個性を分析し、ストレス値を測って、個性がポジティブに発揮されているか、ネガティブに発揮されているかを把握できます。ストレスは試合中に変化しますよね。選手の配置などであれば試合前になんとかできますが、試合が始まってからはどう判断するのでしょうか?

 「FFS理論で言うところのストレスは、最終的に体調へ出てくるものです。だから一瞬で変化するものではなく、2~3カ月程度のスパンで増減します。とはいえ、試合中は脈拍や筋電などの大きな変化はあるので、選手のパフォーマンスへの影響も当然考えなければなりません。小林博士がよく話をしていますが、〝サッカーに例えると試合開始から後半の15分前後(合計60分)までは理性的に動けるが、後半15分以降(残り30分)になると疲れがピークを迎え、理性よりも個性が際立ってくる。その際、生理的に動こうとするタイプと、生理的に止まろうとするタイプがいるんだ〟ということです。つまり、それぞれの選手の個性を把握しておくことで、パフォーマンスを極力維持したり、流れを変える選手交代が出来るのです」

 

ーー古野さんが組織コーチをされた筑波大学アメリカンフットボールの資料を拝見しましたが、非常に緻密なデータを採っていらっしゃいますね。古野さんは過去にも野球、バスケ、エアロビ、ハンドボール、ラグビー、大学駅伝など様々なチームで分析されていますが、種目ごとの特徴などありましたらお聞かせください。

「データ的に1番面白いのがバスケットボールでした。『仙台89ERS』というチームでは、メンバー構成と得点の関係を分析しました。バスケットボールだとメンバーをどんどん変えやすいため、明らかにチームの関係性の差が出ます。同じシューターが1人いても、他4人の組み合わせによって点の取り方が全く変わってくる。監督はそこまで見ていないので、流れでポイントゲッターを変えることはありますが、僕らから見ると他のメンバーもセットで変えないとダメですね。あとは、データを見ていくとチームのカルチャーが出ます。たとえば攻撃的な選手をどこに置くか、といったところ。ハンドボールやグランドホッケーあたりも戦術は似ており、いわゆる『速攻』と『遅攻』があります。遅攻はフォーマット通りで、いかにして人数的な優位を作り出すかというシンプルな駆け引き、セットプレーもそうです。一方で、速攻はセットプレーではありません。個が際立つところがあります。「遅攻」がメインとなるボールスポーツではオフェンス側に保守的なメンバーをそろえて、ディフェンス側に攻撃的なメンバーをそろえます。そして良いタイミングでディフェンス側にいた攻撃的な選手を動かすことで相手の陣形を崩す。アメリカンフットボールの場合は、チーム作りがコンサバティブかチャレンジャー的かや、ラインが強いのか弱いのか、QBの肩が強いか、走れるRBがいるか等々、スキルや体力的な要素を考えていかざるを得ません」

 

選手と指導者の相性は、5つの因子が大きく関係する

[A] 凝縮性・・・こだわりの強さ
[B] 受容性・・・面倒見の良さ
[C] 弁別性・・・白黒をはっきりさせる力
[D] 拡散性・・・脈絡なく動くこと
[E] 保全性・・・体系的に積み上げる力

FFS理論では、選手や指導者が持つ思考・行動の特性を以下5つの因子により分類する。

 

ーー今うかがったのは、指導者目線のお話ですが、選手自身が試合やトレーニングを積み上げていく中で、FFS理論が有効に働くのはどのあたりなのでしょうか?

「まず、練習の仕方が変わってきます。FFS理論には5つの因子がありますが、練習方法はD(拡散性)とE(保全性)の2つに影響を受けるのです。選手各自の練習方法は、拡散性や保全性によってすでに身に付いているはず。だからコーチが来て違う教え方をすると、なんとなく違和感を感じてしまう。試合前の練習方法は保全性優位の人と拡散性優位の人では違います。保全性は練習でできたことを最終確認するスタイルなので、確実に成功する練習を積み上げたいと考えます。一方で拡散性はギリギリを攻めるのでミスが多く、どこでミスするのかを確認する練習です。練習でめちゃくちゃ上手くいっている選手とポロポロとミスしている選手を見た監督が、どちらを起用するか。これは、監督の個性により分かれるところです。保守的な人であれば成功率の高い人を起用するし、『あいつはわざとミスしている』と分かっている監督であれば、そちらを起用しますよね。監督が選手の個性を把握していれば、それぞれに合った練習の追い込み方が分かります」

 

ーーなるほど。『日本では、E(保全性)の人が圧倒的に多い』というデータが出ていますね。指導者も保全性優位の人が多いことを考えると、選手起用もそちらに偏ってしまうのでしょうか?

「そういった傾向はあると思いますね。明治大学ラグビー部の田中澄憲監督は、おそらく拡散性だと思います(笑)」

 

ーー駅伝などの個人競技と団体競技では、FFS理論の考え方もまた変わってくるのでしょうか?

「その通りですね。ただ、駅伝については個人競技でありながらタスキをつなぐので、練習の段階でもチームを意識する必要があります。リレーのバトン渡しはもっとセンシティブで、走る順番を変えただけでタイムが変わってくるほどです。それで、以前大学駅伝チームの選手たちに『駅伝はチームプレーだよ』と話をしました。ボート競技には『エイト』という種目がありますが、選手の構成は同じでも並ぶ順番によってタイムが変わります。監督もそれを分かってはいるものの、全部はシミュレーションできません。風向きやコース取りはその日によって変わるので、配置を毎回変えなくてはいけないためです。そのように監督から相談があったので、ボート競技でもお手伝いさせてもらいました」

 

ーーなるほど。スポーツもビジネスも当然ながら人間がやるものなので、結局は相性が重要になってくるのですね。FFS理論における5つの因子について、改めてお聞かせください。古野さんによる2010年のサッカーワールドカップ南アフリカ大会の日本代表のレポートによると、スタメンのうちA(凝縮性)が2人、B(受容性)が9人、C(弁別性)が4人、D(拡散性)が5人、E(保全性)が3人。受容性優位のBが圧倒的に多くて、日本人の統計通りでした。

「そうですね。あれはあくまでも観察法で判断した結果で、本人達に直接答えてもらったわけではないことを事前にお断りしておきます。まあ、そんなに日本の平均とおおよそ変わらないと思います」

 

サッカー界から考えるFFS理論

ーー今までのご経験から言っても、B(受容性)の人が多いという感覚はありますか?

「実は、そうとも限りません。スポーツの場合は特に情動性が際立って見えることもあるので、D(拡散性)とE(保全性)の方が目立ちます。今だとサッカーの長谷部誠選手(アイントラハト・フランクフルト)はすごくロジカルに物事を組み立てていて、C(弁別性)が利いていますね。本田圭佑選手(未所属)みたいに、明らかにこだわっているとA(凝縮性)かなと感じます。凝縮性が高い方は目立つので、観察しなくても分かりますね」

 

ーースポーツで流れを変えるのは、どの因子なのでしょうか?

「1番流れを変えるのは、A(凝縮性)またはD(拡散性)ですね。C(弁別性)は流れを変えるというよりは、状況判断です。E(保全性)の人は窮地に追い込まれた時に、慌てて焦ってしまう。そこで『ちょっと待て、一度冷静になろう』と言えるのがC(弁別性)。窮地になればなるほどワクワクして、情動的に変えようとするのはD(拡散性)です。A(凝縮性)はぶれないので有事には頼りになりますが、一方で平時は自分のこだわりを押し付けてくるので煙たがられがち。まとめると、窮地に力を発揮しやすいのはA(凝縮性)とC(弁別性)、D(拡散性)ですね」

 

ーーA(凝縮性)の本田選手とC(弁別性)の長谷部選手は、面白い関係性ですね。ディストレス状態(平時)だと合わないのに、有事に追い込まれてユーストレス(良い状態)になると、補完し合う関係になる。

「補完関係にあるのはA(凝縮性)とB(受容性)ですね。長谷部選手の場合はC(弁別性)に加えて、B(受容性)も高いんです。窮地になった時に、『冷静になろう』と客観的に判断できるのは長谷部選手。そして、窮地を打破できるのはA(凝縮性)の本田選手。ただ、A(凝縮性)はこだわりがあるものの口数が少ないことも多くて、周りに上手く伝わらないことも。そうなった時に、中和してくれるのがB(受容性)です。もっとも、こだわりの実現にコミュニケーションが必要だと分かっている本田選手からは、ネガティブな印象を受けませんけどね。〝常日頃から選手たちとコミュニケーションをとっているシーン〟をテレビで見たことがあります。単純に面倒見が良いだけじゃなく、自分の強みを活かすための取り組みを心得ているのが賢いなと思います。A(凝縮性)の人が高い地位にいると、下手すればパワハラみたいになってしまう。正しいことを言っているのに、ぶっきらぼうに言いがちだから嫌われやすいのです。その点、コミュニケーション能力に長けていて自分がやりたいことを常日頃から伝えていれば、有事の時にもみんながちゃんと聞いてくれるでしょう」

 

ーーサッカー日本代表のワールドカップを振り返ると、南アフリカ大会(2010年)では下馬評が低かったものの、試合の中で奇跡的な補完関係が生まれましたよね。一方で、その前のドイツ大会(2006年)では下馬評が高かったのに、結果があまり良くありませんでした。この結果について、古野さんの分析をお聞かせください。

「南アフリカの時は前哨戦であそこまで勝てなくて、いい意味で開き直れた。だからこそ、やりたいと思っていたことが一気にできたのでしょう。一方でドイツの時は下馬評が相当良かっただけに、本番で変えづらかったのではないでしょうか。あとは、選手と監督の相性も大きいと思います。監督がどんな選手を集めるのかがとても重要なので、監督の個性も知っておかないと、最終的にはいいチームにならないでしょう」

 

野球界から考えるFFS理論

ーーたとえば過去に、A(凝縮性)とD(拡散性)ばかりのチームで成功した例はありましたか?

「自己主張の強い選手ばかりが集まってしまう分バランスが悪くて、成功例は少ないですね。実際のところ、世界中のエースを集めて失敗した例は多数ありますよね。野球でも1番は1番、2番は2番らしい選手をそろえないと勝てません。何年か前に野球で日ハムが優勝した時には、すごくバランスの良いチームでした。悪く言えば際立ったスターがいないのですが、勝てるチームはバランスが良いですね。逆に4番バッターばかりを連れてきても、悪い意味で競争してしまうと勝てません。D(拡散性)だけであればあまり競争しませんが、E(保全性)も高いと競争しやすくなります。たとえば松井秀喜元選手は、典型的なE(保全性)の選手。インタビューを見ていて大体分かります。一方で新庄剛志元選手は、明らかにD(拡散性)の選手ですね」

ーーちなみに、イチロー元選手はいかがですか?
「イチロー元選手はA(凝縮性)の高い選手だと思います。あれだけ練習法やルーティンにこだわって、自分のスタイルを磨き上げていましたから」

ーーなるほど。あらためてFFS理論についてうかがいたいのですが、『LINE』や『ソニー』など800社以上で実践されていますよね。この理論は、米国政府機関からの依頼で研究開発されたとうかがいましたが、現場による実践的な理論として始められたのでしょうか?

「そうですね。小林博士はモントリオール大学の国際ストレス研究所で研究されていました。そこで書いた論文がアメリカの政府機関に採用されて、応用研究的にオファーがあったのです。それで、実践をともなった訓練で内部の人間から色々なデータを取りました。誰と誰を組み合わせると良い結果が得られるのか、何度も繰り返し実践することで理想の関係を見つけ出しました。さらに、アメリカンフットボールのチームでも実験しましたね。FFS理論をどんなビジネスに応用するかは、僕やうちの会社が抱える課題です。色んな企業に合わせて使いやすくしたり、アウトプットを見やすくしたりといったアレンジは、もちろん加えています」

 

フィギュアスケート界から考えるFFS理論

ーーFFS理論では、ストレス状態がポジティブかネガティブかによって、それぞれの特性が変わってきますよね。これらを頭に入れたうえで、選手の組み合わせや指導方法を考えることが大事なのですね。

「指導者であれば、指導方法が特に大事です。選手本人であれば、自分が緊張しにくいようセルフマネジメントすることですね。特にE(保全性)の人は不安になりやすいので、不安にならないやり方を学ぶと良いでしょう。一方でD(拡散性)の人は注意不足だったりお調子者だったりするので、指導者は声のかけ方などに気を付ける必要があります。たとえばフィギュアスケートの宮原知子選手(関西大学・木下グループ)は、E(保全性)の人です。コーチが『大丈夫よ、あなたほど練習した選手はいないんだから』と言えば安心できるけど、『期待しているよ』みたいに言ってはダメ。あとは、高橋大輔選手はワクワクする方に動く、D(拡散性)の人ですね。1回引退したのにまた復帰して、シングルからアイスダンスに転向するという前例のないことをしたり。そして、これらの因子はスポーツ選手の現役だけでなく、セカンドキャリアにも影響してくるのです」

ーー声のかけ方ひとつ取っても、選手の持つ因子に合わせる必要があるのですね。

「指導者と選手の関係は、1番大事ですね。そしてチームで動く場合は、お互いのことを良く知ること。昔J1クラブの某チームの強化部長と話したのですが、サッカーでパスを出すところがないときに、必ず見る相手がいるんです。それは1番関係が良くて、『あいつなら何とかしてくれる』という補完関係が出来ている人。あとは他のクラブのコーチから聞いた話ですが、ちょっとポジションを変えてあげるだけで伸びる子がいるそうです。選手のことを把握して、その子に合わせた指導の仕方、ポジションを考えると伸びしろが出てくるということですね」

 

ーー選手の伸びしろを引き出すには、指導者の力量が重要になってくるのですね。

「これは、セレッソにいた人から直接聞いた話ですが、香川真司選手(PAOKテッサロニキ)は仙台の高校時代にセレッソ大阪からオファーを受けて転籍しました。当初はあまり注目されていなかったようです。あと1年で高校卒業という時に監督が変わり、香川選手のポジションを変えた途端に頭角を現したそうです。あの監督と出会っていなかったら、香川選手は今の日本代表にいなかったんじゃないかと言われていました。それぐらい見る側の力量と、選手のポジションは重要で、成長や活躍に大きく影響してきます。指導者には少なくとも、可能性を高めるためのデータや指導のノウハウを蓄積することが求められますね」

 

指導者も、自分を知ることが大切

ーー古野さんがスポーツ新聞社を辞められた理由も、組織の中で自分のやりたいことができなかったからですよね。スポーツでも、指導者が合わずに芽が出ない選手もいる現実があります。

「実は、データ活用に関してはラグビーが日本では1番進んでいると言われています。世界でもそうですが、ラグビーでは科学技術を積極的に取り入れていて、ドローンなども使っています。また、今のラグビー全日本監督(ジェイミー・ジョセフ氏)は自己診断の方法を確立しており、それを使っているそうです。早稲田大学ラグビー蹴球部元監督の中竹竜二さんも、そういった診断の仕組みを自分で作ったそうですよ」

ーー選手を知り、自分も知るということなのですね。

「そうですね。スポーツだと1試合で何キロ走ったとかダッシュ何回とか、個人のエビデンスが取りやすいから、分かりやすくて。プロである以上、そういったデータに基づいて次の試合までにどう休むか、何を鍛えるかというのがセットアップされます。でも、ビジネスパーソンも本来プロなのに、あまりに自分のデータが無さすぎる。はっきりしたデータがないまま、人事担当の方は評価や異動、配置をせざるを得ません。データがないままやっているから、『あいつ頑張っているよね』とか、すごく情緒的な人事になってしまう。ひどい場合はデータを隠す人もいるけど、それはプロではないと思います。『私はこんなことが出来ます、使ってください』とオープンにできるのがプロというもの。給料をもらっている以上プロなのに、その意識が全くない会社があるのも事実です。そういう意味では、今FFS理論を使っていただいている会社は、そういうことに問題意識を持っています。もちろん100パーセントは実現できていませんが、客観的データに基づいて1人でも2人でも強みを活かせるように配置や組み合わせに取り組んでいます」

ーーちなみに古野さんはD(拡散性)、C(弁別性)、A(凝縮性)という順番ですが、この順番はとても珍しいタイプなのですね。

「僕はA(凝縮性)とC(弁別性)が拮抗していますから、周りから見たらD(拡散性)、A(凝縮性)、C(弁別性)の順番に見えるかもしれません。ただ、どちらにしてもD(拡散性)が1番高いですね」

 

FFS理論を活かして、ストレス社会への『処方せん』を

ーーコロナウイルスという異常事態があり、人間関係やストレス状態に大きな変化がありました。最後になりますが、これらの変化に対処するためには、FFS理論を含めて今後どんなアプローチが重要になってくるのでしょうか?

「コロナウイルスの関係でリモートワークが増えましたよね。それでデータを取っているのですが、ディストレスの出現率が明らかに高まっています。しかも、E(保全性)の人で特に高くなっています。次にB(受容性)、D(拡散性)。『働き方改革』としてリモートワークの環境が整ったことは前向きな面もありますが、働いている人には心理的に負荷をかけています。 日本ではB(受容性)とE(保全性)の割合が特に高いので、先が見えない不安や仲間との協働がないことでストレスを抱えている方は多いですね。そういう意味で、ビジネスパーソンには早めにストレスケアをしてほしいなと思います。自分を理解することも大切ですし、リモートとはいえ上司と部下の関係で動いていますから。上司が部下のことを気にかけて対策を出してあげるのが良いですね。僕としてもこういった情報を、もっと発信していきたいのです。色んなところで発信してくれる方もいて、興味がある会社も増えてきていますけどね。コロナウイルスが収束しても働き方は完全には元に戻らず、会社通勤とリモートワークのハイブリッドとなるでしょう。その時に向けて、リモートワークに対するケアの仕方や、会社に来た時にどうやって全体最適化していくかといった指針は出していきたいなと考えています」

ーー本日は、色々なお話をしていただきありがとうございました。

「ありがとうございました」

 

 

 

PROFILE

古野 俊幸(ふるの としゆき) | 株式会社ヒューマンロジック研究所代表取締役
新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約800社以上の組織・人材の活性化支援。チームの分析と編成に携わった実績は60万人、約6万チームを数える。チームビルディング、チーム編成の第一人者。
 

2021/04/16(fri)~04/18(sun)
「SPODUCATION biz Festa」を開催!

4月17日(金)~19日(日)の3日間、ビジネスパーソンに向けたオンラインイベント「biz Festa」を開催。スポーツで培われたノウハウが、ビジネスでも応用できることを紐解くべく、「ビジネス」と「スポーツ」のスペシャリストが集結します。ビジネスに役立つテーマごとに、多数のスペシャルトークセッションでお届けする大型オンラインイベントの続報にご期待ください!

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