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山縣亮太│ 「逆境を克服する」思考法とは?

2012年のロンドン、2016年のリオデジャネイロと、2大会連続で100mでの日本選手のオリンピック記録を更新してきた陸上短距離界のエース山縣亮太選手は、いくつもの困難に直面しながらも、それを乗り越え大きなレースで記録を残してきた。彼は長い選手生活でどのようにして「“逆境”を克服するチカラ」を身につけることができたのか。失敗への恐怖、ライバルの存在、ケガとの向き合い方……、メダリストのメンタルに迫る。(※2020年11月に収録)

1年に1秒、「結果」を更新する喜び

──山縣選手が陸上に出会ったきっかけはなんでしょうか?

 

「広島市のかけっこ大会で兄が賞状をもらって褒められてるのを見て、うらやましくなったんです。それで『俺も来年出るぞ』と思って始めたのがきっかけですね。正直最初は全く興味なかったんですが、結果を出したら家族にほめられるのがうれしくて。それでもまだその時は、陸上を本格的にやっていこうとは思ってませんでしたが、小学4年のときに地元の陸上クラブの練習会にたまたま参加させてもらえる機会があったんです。そこで友達ができて、『ここ楽しいな』って」

 

──家族や友人の存在が大きかったんですね。

 

「足が速くなるための練習をやり始めて1年に1秒くらい、どんどん記録が伸びていったんです。それが楽しくて、達成感がありましたね。最初はもちろん右も左も分からなくて、やらされてるだけの練習だったんですが、それでも結果が出るとうれしくて。自分なりに少しずつ色んなことを考えていくようになりましたね。中学校に入った時、それまで野球もやっていたので少しだけ頭にはありましたが、やっぱり陸上一本で行こうという気持ちでした」

 

「日本一」という順位よりも自己ベストの更新

──山縣選手の「自己検証して、常に自分で考え、突き詰めていく」というスタイルは、いつ頃からでしょうか?

 

「自分なりにトライ&エラーを始めたのは小学校時代で、中学3年くらいから本格的になっていきましたね。陸上競技の専門誌を読みあさって、陸上部のチームメイトと話し合ってメニューを作っていたんですよ。高校になると1600メートルリレー走(4×400m)が始まるので、インターハイに行きたいという目標をチーム全体で持っていました。明確な目標ができてモチベーションも上がりましたね。練習は楽ではありませんが、自分達で考えた練習メニューをやって、結果が出てくることがとにかく楽しくて。ダメだった時もありますがすごく楽しかったです」

 

──山縣選手の言葉で「他の選手とではなく、過去の自分と比べて成長できたかどうか」というものがありますよね。

 

「小学5年の時に全国大会で8位に入賞して、そこから日本一になりたいっていう漠然とした目標を持っていました。でも中学に入って周りにどんどん速い人が出てきて、日本一が遠ざかって行ったんです。自己ベストは出していましたが、日本一を目指すのは現実味がないな、って中学2年で感じました。それで、『自己ベスト更新できたらそれでいいじゃん』と、去年の自分よりも速く走れるように練習を頑張っていこうと思うようになりました。中学3年になって自己記録が11秒24まで伸ばせて、陸上競技の専門誌の後ろの全国ランキングに載ったんですよ。40位くらいでしたが、もう一度全国を見ていいかもしれないって思ったんです。そこからはまた日本一を目指して頑張れました」

 

──挫折から気持ちの切り替えができた「スイッチ」は何でしょうか?

 

「リレーでも全日中(中学生の陸上全国大会)に出たいという、チームとしての目標があったことですね。中学2年は苦しい時期でしたが、チームの目標があったから頑張れました。日本一という順位の目標って、どうしても叶えるのが難しいですよね。結果的に1~8位の順位が付いてしまうから、日本一になれるのは日本で1人しかいません。初めて9秒台を意識したのも実はこの時でしたが、『競技人生の中であと1.5秒縮められたら9秒台じゃん』って思ったんです。小学校で陸上を始めてから中学2年までで、1年に1秒くらい縮められました。あと1.5秒で日本記録だって思ったら、これはやればできるんじゃないかって気持ちになったんです(笑)。だから、日本一っていう順位にこだわるよりも自己記録を縮めていく方に考えをシフトできました」

 

──周りを気にせず、自分を極めるってことですね。

 

「そうですね。今でも順位よりもタイムを大事にしていますが、そういうところから来ています。その方が自己肯定感を得やすいし、自分を高みに持っていきやすいと思います」

 

最後にスタートラインに立てるのは選手だけ

──現在は技術的なコーチを付けず、ご自身でトレーニングされてますよね。

 

「自分の頭の中にある情報を使って、自分なりにアレンジしていくことも大事だと考えています。例えばこういう風に走りなさいって言われたときに、なぜそうしなくちゃいけないのか自分で分かっていないといけません。そうでないと、最終的に自分だけで先に進んでいけないんです。ただ言われた通りにするだけじゃなく咀嚼することで、自分の中で整理できて吸収しやすくなります。そういう意味では、常に自分で考える環境に身を置いた方が、最終的にはより成長できると思います」

 

──自分で考えることの大切さは、色々なスポーツで言われてますよね。

 

「そうですね。最後にスタートラインに立てるのは選手だけです。選手1人で走る時に結果を出せるよう、常に色んな状況でも臨機応変に考えるべきです。例えばオリンピックのスタートラインに立った時なら、グラウンドの状況、天気、風向きなどを見てどんな走りをするかイメージします。そうするためには、自分のことを良く知っておかないといけないと思います」

 

──「オリンピックのような大きな試合だけに賭けるよりは、目の前の試合に全力を出すべき」ともおっしゃってますよね。

 

「オリンピックが大事なものというのは大前提ですが、結果がどうなるかは本人にも分からないわけです。だから、『絶対にここで結果を出してやるんだ』という気持ちは過度なプレッシャーになってしまいます。それよりは、目の前の試合でまず全力を出すことに集中した方が良いと思います」

 

──釣りが趣味とうかがっています。オフの時間も大事にされてますよね。

 

「釣りは好きですね。ただ、釣りが上手いと誤解されそうなのでそろそろ言わない方がいいかなと感じてます(笑)。釣れても釣れなくても楽しいですね。リフレッシュ手段として、競技と切り離して考えられる時間も大切です」

 

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