ビジネスの戦略決定や市場分析のほか、政治など多分野で応用される「ゲーム理論」を専門に、アメリカの名門大学で教鞭をとる鎌田雄一郎氏。社会において複数の人や組織が意思決定を行う場合に、どのような行動が取られるかを予測する「ゲーム理論」のスペシャリストは、トップアスリートの思考をどう解析するのだろうか。「bizFESTA」にて、 WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談した鎌田氏。若き天才ゲーム理論家が、たった一度の対談を基に<王者の意思決定>に至るメカニズムを複合的な視点でひもといていく。
4月16日 – 18日に開催されたSPODUCATIONのイベント「bizFESTA」にて、プロボクサーで現WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談をした。前回の記事では、私の専門であるゲーム理論について説明しながら、この対談を概観した 。
本稿からの数回は、対談内容の細かいところを振り返りつつ、私なりの気づき を加えていこう。と言っても、対談内容の全ては書ききれないし、私の筆力で村田選手の発言のニュアンスを正確に伝えきれているとは限らない。なので、この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ見逃し配信をご覧いただきたい。
目次
対戦相手を研究しているのは自分だけではない
「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」
これは、中国春秋時代の兵法書である『孫子』の中の一節である(約紀元前500年ほど)。「敵を知り、味方をもよく知るならば、いくら戦っても負けないだろう」といった意味だ。
「敵を知る」ということは、ボクシングにおいてもいかにも大切そうである。ボクシングに限らず、他の格闘技に始まり、サッカーや野球などの全く異なるスポーツにおいても、対戦相手の研究は盛んに行われているようだ。対戦相手のことを知ることで、試合までにどのような準備をすればよいかが見えてくるからだ。
こうやって「敵」「味方」の話が出てくると、「戦略的状況」に対して一家言のあるゲーム理論家としては、黙ってはいられない。私は、次のように考えた。
「対戦相手の研究をしているのは、自分だけではない。対戦相手だって、その対戦相手、つまり自分のことを研究しているだろう。このことを加味すると、試合に向けた準備はどのように変わるのだろうか?」
つまり、 試合に向けた準備には、二つある。まず、対戦相手の研究。そして、対戦相手にどう自分が見えるか、つまり自分自身の研究だ。この二つを抑えなければいけないだろう、と考えたわけだ。これは、冒頭の孫子の一節の精神とも合致していそうである。
ただこれは私が頭の中でこねくり回しただけの考えだ。実際に戦いのプロは、どのような準備をしているのだろうか。
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