COLUMN

【若き天才ゲーム理論家 による “至高”の意思決定/鎌田雄一郎】
♯01「言語化するボクサー」村田諒太 
-前編―

ビジネスの戦略決定や市場分析のほか、政治など多分野で応用される「ゲーム理論」を専門に、アメリカの名門大学で教鞭をとる鎌田雄一郎氏。社会において複数の人や組織が意思決定を行う場合に、どのような行動が取られるかを予測する「ゲーム理論」のスペシャリストは、トップアスリートの思考をどう解析するのだろうか。「bizFESTA」にて、 WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談した鎌田氏が、王者の意思決定思考を連載形式で分析していく。

 

4月16日18日に開催されたSPODUCATIONのイベント「bizFESTA」にて、プロボクサーで現WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談をした。対談と言っても、私が村田選手にインタビューをするという形式だ。

私は人にインタビューをするという経験がほぼなかったのだが、 実は対談前そこまで心配していなかった。

村田選手へのインタビューなら、やりやすいだろうと思ったのだ。

これは、村田選手が自身の経験や考えを「言語化」する能力に長けていると、彼自身の様々な媒体での情報発信を事前に見て、知っていたからである。

 

あらゆる局面でカギとなる「言語化」

「言語化」は思考の本質だ。

 自然界で起きていることを(時には数式などで)「言語化」することで理解するのが自然科学だし、社会で起きていることを(これまた時には数式などで)「言語化」することで理解するのが社会科学だ。ビジネスのケースを集めてきてそこに一貫する法則性を見つけて言語化できればそれはビジネスの理論になるし、私の場合は社会で意思決定する人々を数式という言語で記述することで理解する「ゲーム理論」を研究している。

 なぜ言語化するのか? それは、言語化することで形あるものとして理解できるし、後々に、そうして言語化された知をもとに 新しいアイディアを考えつけるからだ。たとえば、症例を集めれば正しく病気を理解し、対処法の模索、そして新薬開発に結びつくかもしれない。企業間競争のケースをつぶさに分析することで、価格戦争に陥る条件を見出し 、その条件に当てはまらないように策を練ることで利益を上げ続けることができるかもしれない。

 日常生活においても、「なぜこれはうまくいったのか」「なぜあれはうまくいかなかったのか」。そういった経験の蓄積を記述する、つまり言語化することではじめて現状を理解し、「何をするとうまくいくのか」に関する一定の法則性が見えてくる。一定の法則性が見えてくれば、それを活かしてよりよく生きていくことができる。

 スポーツにおいても同じだ。試合に勝つのはどういう時か、負けるのはどういう時か。どのような練習が功を奏し、何をすると悪影響があるか。良いパフォーマンスをするためには食事は何がいいか。試合前にメンタルはどのように保つか。これらを言語化することが、勝利へのカギとなる。

 言語化するには法則性に気づく能力も必要だし、そしてもちろんその気づきを表現する能力も必要である。

 村田選手はこれらの能力が非常に高い。自身が試合に勝ったとき、負けた時、自分はどのような状況にいたのかを客観視し、それを記憶し、そこに一定のメカニズムを見出し、言語化する。こうして言語化された現状がその後のアクション――つまり練習方法やメンタル調整――に結びつくことが、彼の強さの秘訣の一つかもしれない。

 

絡み合う意思決定思考を分析する「ゲーム理論」

 さて、「言語化するボクサー」つまり「思考するボクサー」の村田選手との対談は、予想通りスムーズに進んだ。村田選手は私の質問一つ一つに、丁寧に答えを示してくれたのだ。

 村田選手はすでに様々なメディア、たとえばテレビ番組や自身のYouTubeチャンネルで自身の考え方を発信してこられたので、今回の対談ではそこからプラスアルファして、深いところを聞いていきたいと考えていた。

  実際の対談内容の詳細はぜひ見逃し配信をご覧いただきたいが、我ながら様々な角度から村田諒太というトップアスリートの考え方の深いところを引き出せたと思う。

 対談の前半は、私の専門であるゲーム理論を絡めたトピックに関して村田選手の考えを聞いた。

 「ゲーム理論」とは、人間の意思決定を数学的に分析する理論であるが、特に意思決定者が複数いる場合を扱う。ただ単に動かない目標に向かって最適な行動をとる(たとえば「できるだけ速く走る」など)場合と異なり、複数の人間が関わる意思決定は複雑だ。

 それは、相手も意思決定をしているからである。

 自分の行動が変われば 相手の行動は変わるし、相手の行動が変われば自分の行動も変わる。自分が何をすべきかは相手が何をするかの予想に依存するし、その相手も自分が何をするかを予想しようとしているから、相手が「自分が何をしようとしているか」についてどう予想しているかを、自分はうまく予想してやらないといけない。

 こういった「複数の意思決定主体が関わる問題」は、ビジネス・経済で頻発する。例えば同じ市場で争うライバル会社同士は、相手の価格戦略を読みながら自社の価格戦略を考えなければいけないが、この「相手」も、自分の価格戦略を読もうとしている。他にも、オークションで適正な入札額を考えようと思ったら、他の入札者の入札額をうまく読まないといけないが、この「他の入札者」も、自分の入札額を読もうとしている。

 そういうわけで、ゲーム理論は 経済理論家によく研究される。かくいう私も、ビジネススクールで教鞭をとる経済理論家である(ちなみにこの記事の原稿も、私の所属するビジネススクールのオフィスの大窓からカリフォルニアの青空を見上げながら書いている)。

 

―♯01後編に続く

 

PROFILE

鎌田雄一郎(かまだ ゆういちろう) | カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授
2007年東京大学農学部卒業、2012年ハーバード大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。イェール大学ポスドク研究員、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経て、テニュア(終身在職権)取得、現在同校准教授。NTTリサーチサイエンティスト、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェローを兼任。専門は、ゲーム理論、政治経済学、マーケットデザイン、マーケティング。著書に『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)、『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)
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