COLUMN

【#05】鎌田雄一郎│人のふり見て我がふり直すボクサー、村田諒太<前編>

ビジネスの戦略決定や市場分析のほか、政治など多分野で応用される「ゲーム理論」を専門に、アメリカの名門大学で教鞭をとる鎌田雄一郎氏。社会において複数の人や組織が意思決定を行う場合に、どのような行動が取られるかを予測する「ゲーム理論」のスペシャリストは、トップアスリートの思考をどう解析するのだろうか。「bizFESTA」にて、 WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談した鎌田氏。若き天才ゲーム理論家が、たった一度の対談を基に<王者の意思決定>に至るメカニズムを複合的な視点でひもといていく。

 

 4月16日-18日に開催されたSPODUCATIONのイベント「bizFESTA」にて、プロボクサーで現WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談をした。初回の記事では、私の専門であるゲーム理論について説明しながら、この対談を概観した 。

 第2稿からの数回は、対談内容の細かいところを振り返りつつ、私なりの気づき を加えていっている。本稿は、その第4弾だ。

 対談を振り返ると言っても、対談内容の全ては書ききれないし、私の筆力で村田選手の発言のニュアンスを正確に伝えきれているとは限らない。なので、この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ見逃し配信をご覧いただきたい。

 

教授の本分

 私は一応、大学教授である。大学教授というのはだいたいの時間を、授業や授業準備に使っている。と、よく思われているようだが、これは誤解である。まあ、「教えを授ける」と書くので仕方なかろう。

 では実のところどうなのかというと、(まともな)大学教授のほとんどの時間は、研究に使われている。少なくとも、我々はそうしたいと思っている。そのため、できるだけ授業関連業務に時間を割かれないように、細心の注意を払っている。

 そんなことを書くと、大学生の読者がもしいれば、がっかりするかもしれないし、「大学ではとにかく遊んできた」というような大半のビジネスパーソンの読者は、「ほら見たことか、教授がそんなんだから、こちらも授業に出る気が起きなかったんだ」と何のためかも知れない自己正当化を繰り出すかもしれない。

 しかし、考えてもみてほしい。研究最前線から取り残された、もしくは研究最前線に立ったこともない二流三流研究者にドヤ顔で「学問のようなもの」を講釈されるよりも、 最新の理論を、それを最もよく理解している最前線の研究者に説いてもらうほうが、よっぽど良かろう。

 「研究者は研究だけしていればいい、教育は教育専門の人間に任せろ」という向きもある。

 しかしだ。

 大学というのは高度に専門化された知を学ぶ場だ。最前線で研究していない者の教えることは、嘘八百のデタラメになってしまうことが不可避であることが多い。しかも、私の知る限り、(研究者ではない方には信じ難いことであるかもしれないが、)研究能力と授業能力はなかなか相関している。だからその意味でも、研究者が研究のことをできるだけ考え、その傍らたまに授業をする、というのが理想なのである。と、少なくとも私は考える。

 さて前置きが長くなったが、教授の研究と授業。この話を枕に、 本稿では村田選手のタイムマネージメントについて考察しよう。

 

格闘技ブームの波に、さらわれるな 

 村田選手との対談の後半ではまず、試合に関わる戦略的思考の話から少し離れ、村田選手のアウトリーチ活動について伺った。

 近年格闘家のYouTubeチャンネルがとても増えてきた。たとえば格闘技YouTuberの筆頭格である朝倉未来・朝倉海兄弟は、それぞれ約200万人、100万人の登録者を抱えている。

 これらの格闘技YouTubeは、試合の振り返り、他の格闘家との対談やスパーリングなどの格闘技関連コンテンツのみならず、ドッキリ企画などのバラエティに富んだ内容を含む動画を配信するものも多い。

 私もこの原稿を書いている9月末現在、つい先日開催された「RIZIN.30」の 各出場選手が各々のYouTubeチャンネルで試合の振り返りをしているのを見るのに余念がない。その一方、ドッキリ企画の動画なども存分に楽しんでいる。

 こうした格闘家のアウトリーチ活動は、ファンにとっては、選手の格闘技に関する考え方などを知ることができるものになっているのみならず、選手の素顔も垣間見られる貴重な機会となっている。これらの活動が功を奏したのも大きな要因であろう、現在は「格闘技ブーム」の再来と言われている。 

 村田選手は、このブームを一歩引いて見ているようだ。格闘技のブームは、今回が初めてではない。かつても、たとえば魔裟斗氏 が活躍した頃のK1 ブームに代表されるように、格闘技ブームの波は来た。しかし、村田選手曰く、「波が来たら、引く」。波に乗ってエンタメ方向にばかり走りすぎると、ボクシングも他の格闘技と一緒になって引き潮にさらわれてしまう。もちろんエンタメ性も大切であるが、興行主側もエンタメとは適切に距離を取っていかなければいけない。

 さて、村田選手もYouTubeチャンネルを持っている。しかしそのコンテンツは、この格闘技ブームに対する考え方を体現するかのように、流行りの内容とは一線を画しているように思われる。また彼は、インハイ.tvの「明日へのエールプロジェクト」のように、高校生に語りかけるイベントに参加するなどの情報発信も行なっている。

 村田選手は、どのような考えで情報発信をしているのか。練習との兼ね合いはどのように考えているのか。これらに関する考え方を聞いた。

 

本分とアウトプットをバランスする村田選手のタイムマネージメントとは?

―#05後編に続く―

 

PROFILE

鎌田雄一郎(かまだ ゆういちろう) | カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授
2007年東京大学農学部卒業、2012年ハーバード大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。イェール大学ポスドク研究員、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経て、テニュア(終身在職権)取得、現在同校准教授。NTTリサーチサイエンティスト、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェローを兼任。専門は、ゲーム理論、政治経済学、マーケットデザイン、マーケティング。著書に『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)、『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)

 

【若き天才ゲーム理論課家による至高の意思決定/鎌田雄一郎~back number~】

【#01】言語化するボクサー、村田諒太<前編>

【#02】百戦殆うからざるボクサー、村田諒太<前編>

【#03】60点ボクサー村田諒太、感じる。<前編>

【#04】客観視するボクサー、村田諒太/鎌田雄一郎<前編>

【#05】人のふり見て我がふり直すボクサー、村田諒太<前編>

【#06】創意工夫するボクサー、村田諒太<前編>

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