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佐伯夕利子│選手ではなく“人”を育てる人材育成術~学校教育・子育てにも生かせるメソッド~

サッカー指導の現場において、“選手”としてだけでなく、“人”としての生き方を示すことも指導者としての大きな役割となる。サッカーというチームスポーツを通して選手個々が成長するための環境を作り、その後の人生まで導く教育者としての自覚を持つべきであると説くのが、今回お話を伺う佐伯夕利子氏だ。女性として初めてスペインサッカー協会公認のナショナルライセンスを取得し、ビジャレアル、バレンシアなど同地で長きにわたり指導者として活躍してきた経験を交えて指導の本質を説いていただく。

スペインには科学的な見地からサッカーを学問として学ぶ環境がある

 

──サッカーとの関わりをお聞かせください。

「私が子どもの頃は、女子が成長するにつれプレーを続けることが困難な時代でした。他のスポーツをやってサッカーを忘れようとしていた18歳の頃、親の仕事の関係でスペインに移住し、30年間を同地で過ごしました。当時はスペインがサッカー大国という認識すらないなか、偶然行くことになったという形です。現地に行ってみるとサッカーがもの凄く盛んで、女子が普通にサッカーをできる環境があったので、大好きなサッカーを再開することができました。ある日練習終わりに夜空を眺めていたとき、意味もなく鳥肌が立つ瞬間がありました。『私はこれ(サッカー)が一番好きなんだ。サッカーで生涯生きていきたい』と感じたんです。それまでは漠然と『何になれるかな?』だったものが、スペインに来てサッカーをすることによって、生まれて初めて『何になりたい!』と頭ではなく、身体で感じられたんです。サッカーを職業にするにはどうすればいいかと考え、指導者という道に進むことを決めました」

 

──指導者を目指した理由は?

「それまでただボールを蹴って楽しんでいたサッカーを、スペインでは科学的な見地から学問として学び、違う切り口でフォーカスして教える環境があったんです。『これだ!』と思いましたね。そして指導者ライセンスを取得する方法を協会に確認し、経験を重ねて2003年にUEFA Proライセンスを取得することができました」

 

「自分を知ること」から始まる指導の本質

 

──著書『ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』に指導者が『自分を知る』ことの意味について記載がありますが、詳しく教えていただけますか?

 

「2014年にビジャレアルCFは“指導者を指導する”コーチディベロッパーをヘッドハントしてきました。メソッド部には10人ほどのスポーツ心理学者が所属し、我々120人ほどいる指導者を“進化させる”という取り組みを行ったのです。そこではまず、広い範囲での“問いかけ”を受けます。指導者たちは習慣として問われることがなかったので、最初は戸惑いがありましたが、丁寧に議論を重ねていくことで、目指していくべき方向性を固めていきました。指導者における勝利とは、“試合に勝つ、スコアで勝つ”ということより、『選手が昨日より今日、今日より明日、良いアスリートになっている状態を作っていく』ことにあり、理想とする選手像は、『フットボールを競技として解釈し、自ら考えて、判断力、自己決定力を持ってプレーできる選手』という答えに辿り着きました。では、我々は指導現場においてその理想を実現する指導ができているのか、という新たな問いを受けるわけです。
そこでピッチでの指導、すべてのミーティングにおいて、指導者全員がカメラを自分に向け撮影するようになりました。さらにアクションカメラをつけて、自分が見えている景色、音声も録音し、その映像を週に一度、監督・コーチなど多くの指導者と視聴しフィードバックを受けるわけです。その映像には私から詰問を受け表情を強張らせる選手の表情や、一方的な押し付けで選手に考える余白を与えていないコーチングの模様が映し出されているんです。『主体性のある選手を育てたいと言いながら、あなたは全部の解答を与えてその芽を断っている』と、さまざまな意見をぶつけられました。とっても嫌な時間でしたよ(笑)。でも、素直に自分の姿を俯瞰して、他者からフィードバックを受け入れることで、自分の姿が鮮明に見えるようになるんです。我々は理想とする選手を育てる職務にありながら、実際はインプット型の指導で真逆のアプローチをしていたわけです。我々指導者がそれらを受け入れ、“自分を知る”ことに、実に1年間もの時間を費やしました」

 

──選手を見ることが仕事である指導者にとって、「自分を見る」ことには自覚がないのかもしれません。

 

「我々指導者はものごとを何十年も無意識的にやってきたのだと思います。俯瞰して自分を見る癖ができることで、もう一人の自分が存在するようになります。エクセレントコーチは“自覚的である”と言われていますね」

欧州で最も堅実な育成機関と評されるビジャレアルのカンテラ。佐伯氏は2014年からのクラブの指導改革に携わった。/GettyImages

“学習者”は自分で模索し発見することが不可欠である

 

──子どもたちも十人十色な中、どのように指導者側からアプローチするのでしょうか。

 

「まず、指導の受け手である子どもたちが“学習者”であるという認識を持つことが大事です。学習というものは彼らの中に生まれる気づきがあって初めて学びになります。教育現場では一方的にインプットした知恵や情報を与えていきますが、スポーツでは学習者が自分の中で模索し、発見していくプロセスが不可欠なので、我々指導者は、学習者がどれだけ気づきや学びを得られるかを考えなくてはなりません。そのため団体スポーツであるサッカーにおいては、チームを主語にするのではなく、チームを構成する選手個人を見る必要があります。選手によって必要としているニーズや課題が違う中、チームを主語にして与えるレクチャーやミーティングは意味を持ちません。学習者一人ひとりが学びを深めるために必要なのは、彼らが必要としていることを私たちが提供することです。例えば出場機会が少ない選手にはその気持ちに寄り添い、何を克服すればいいのかを一緒に考える必要があります。なので、一つひとつのアプローチをチーム全体ではなく個にフォーカスして、選手それぞれがどういう状況で、何が見えているのかを知ることから始めることが重要です」

 

“ジャッジ”ではなく、選手の自己決定に至るプロセスを紐解く

 

──指導者の中には個々に寄り添っていても、「選手がやる気を見せてくれない」という方もいると思います。

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