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【#06】創意工夫するボクサー、村田諒太<前編>

ビジネスの戦略決定や市場分析のほか、政治など多分野で応用される「ゲーム理論」を専門に、アメリカの名門大学で教鞭をとる鎌田雄一郎氏。社会において複数の人や組織が意思決定を行う場合に、どのような行動が取られるかを予測する「ゲーム理論」のスペシャリストは、トップアスリートの思考をどう解析するのだろうか。「bizFESTA」にて、 WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談した鎌田氏。若き天才ゲーム理論家が、たった一度の対談を基に<王者の意思決定>に至るメカニズムを複合的な視点でひもといていく。

 

 

 4月16日-18日に開催されたSPODUCATIONのイベント「bizFESTA」にて、プロボクサーで現WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談をした。初回の記事では、私の専門であるゲーム理論について説明しながら、この対談を概観した 。

 第2稿からの数回は、対談内容の細かいところを振り返りつつ、私なりの気づき を加えていっている。本稿は、その第4弾だ。

 対談を振り返ると言っても、対談内容の全ては書ききれないし、私の筆力で村田選手の発言のニュアンスを正確に伝えきれているとは限らない。なので、この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ見逃し配信をご覧いただきたい。

 

最強を決める戦い

 ついに、村田 vs. ゴロフキン戦が決まった。

 村田選手はWBA世界ミドル級スーパー王者、ゲンナジー・ゴロフキン選手はIBF・IBO世界ミドル級王者だ。ミドル級最強の名を懸けての戦い。世界中のボクシングファンが待ち望んでいた一戦が、来春に行われる。

 過去の戦績を見てみよう。39歳であるゴロフキンはプロ43戦41勝。35歳の村田はプロ18戦16勝だ。アマチュアでは、ゴロフキンは一部報道によると350戦345勝、村田は138戦119勝。

 この大舞台に立つ二人の戦績としては当たり前と思われるだろうが、彼らはこのように、現在に至るまで、勝って、勝って、勝ちまくってきたわけである。

黄金の階級と呼ばれる世界のミドル級を象徴する存在できるゲンナジー・ゴロフキン。村田諒太選手との「世紀の一戦」を控える。/ Getty Images

 

成功のための条件

 勝者の裏には、敗者がいる──ゴロフキン選手と村田選手とであげた計521勝の裏には、のべ521人の敗者がいる。そして、彼らのように成功する者がいる裏では、無数の「成功にたどりつけなかった者たち」が存在する。

 では、成功と失敗を分けるものは、何なのだろうか? 村田選手との対談の最後には、「成功の条件」に関する村田選手の考えを聞いた。

 村田選手によると、成功のための条件は、3つある。

 一、まず、基本がしっかりできていること。

 二、そして、継続すること。

 三、最後に、基本を知った上でそれを崩し、創意工夫をすること。

 最初の2つ、つまり「基本」と「継続」ができる選手はいることはいるが、それだけだとせいぜい国内チャンピオン止まりになってしまう。その上に行くには、創意工夫が必要だ、とのことだった。

 基本と継続。これらの重要性は確かによく耳にする。しかしここで言う「創意工夫」とは、何だろうか。

 「創意工夫」には様々ある。たとえば試合中の動きで、基本に忠実に動くだけではなく、相手が思いもしなかったようなステップを踏んだりパンチを繰り出したりということがあるだろう。

 そのほかにも、村田選手が挙げていた例として、練習の創意工夫もある。たとえば、練習時間が限られている中でどうすればできるだけ効率的に技術を吸収できるか。こういったところの創意工夫について、村田選手は自身の門下生の例を交えながら話してくれた。

 この「基本、継続、創意工夫」の重要性については、(私のいる)研究者の世界でも実は同じようなことが言える、と私は思っている。

 昨年文部科学省の選定する「ナイスステップな研究者」に選出いただいた際に、選出された研究者の寄せ書きに、私は「研究は、落ち着き、閃き、あとやる気」と書いた。

 「落ち着き」というのは、焦って考えずに様々な可能性を自分の知識や技術とつきあわせて探っていくことだ。これは、村田選手の言う「基本」ができていて初めて可能となることである。

 「閃き」は、創意工夫に対応する。研究者も、ただ知識が多かったり計算が速かったりするだけではダメで、ちょっとした閃きやクリエイティビティーがあるかどうかが、最終的には研究の良し悪しにつながる。

 最後の「やる気」は、「継続」に通ずるものがあるだろう。自分の持つ知識・技術を総動員して、研究テーマについて考えを深める。そして、暗闇の先にキラリと見える閃きに鍵を開けてもらえるまで、必死に考え続ける。そして運良くドアが開けば、そこからまた必死に、成果をアウトプットできるように研究を続ける。

 

成功者に共通する「成功の3条件」の源泉は何か?

-#06後編に続く

 

PROFILE

鎌田雄一郎(かまだ ゆういちろう) | カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授
2007年東京大学農学部卒業、2012年ハーバード大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。イェール大学ポスドク研究員、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経て、テニュア(終身在職権)取得、現在同校准教授。NTTリサーチサイエンティスト、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェローを兼任。専門は、ゲーム理論、政治経済学、マーケットデザイン、マーケティング。著書に『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)、『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)

 

【若き天才ゲーム理論課家による至高の意思決定/鎌田雄一郎~back number~】

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