COLUMN

【若き天才ゲーム理論家 による “至高”の意思決定/鎌田雄一郎】♯01「言語化するボクサー」村田諒太 -後編―

ビジネスの戦略決定や市場分析のほか、政治など多分野で応用される「ゲーム理論」を専門に、アメリカの名門大学で教鞭をとる鎌田雄一郎氏。社会において複数の人や組織が意思決定を行う場合に、どのような行動が取られるかを予測する「ゲーム理論」のスペシャリストは、トップアスリートの思考をどう解析するのだろうか。「bizFESTA」にて、 WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太選手と対談した鎌田氏が、王者の意思決定思考を連載形式で分析していく。

 

#01 前編はコチラ >

 

ボクシングという極限状態での思考の読み合い

 

 さて、このような読み合いは、ボクシングの世界でももちろん重要だろう。ボクシングは、ただ強いパンチを繰り出すだけの競技ではないからだ(それだったら、ゲームセンターのパンチングマシンで十分だろう)。パンチの向こうには相手の頭があり、その頭が次に繰り出すパンチを考えている。そのパンチは、たった今思考の真っ只中にある頭を狙っているのだ。

 だからボクシングは面白い。

 しかし、ボクシングがゲーム理論の扱う「読み合い」の状況にピッタリ当てはまっていそうだと言っても、それは必ずしもゲーム理論家が良いボクサーになるということではないし、ゲーム理論家が最高のコーチになれるわけでもない。ただ少なくとも、ゲーム理論の視点から見た考え方――それはもしかしたら、ゲーム理論の専門家ではない多くの人からすると慣れないものかもしれない――を投げかけることはできる。これが、私が対談の前半で試みたことだ。

 たとえば、「試合前の準備は何をするのか」について尋ねた。もちろん対戦相手が決まった後はその相手の過去の試合の映像などを見ながら研究をするだろう。が、ここでゲーム理論家として私が注目したい のは、「その相手も自分の研究をしているだろう」ということだ。その事実を見越した場合、さていったい自分はどんな準備をすればいいのだろうか?

 これに対しては、実は村田選手からは意外な答えが返ってきた。この「意外な答え」については後日また回想記事を書くと思うが、読者の皆様には、ぜひ本編をご覧になって、村田選手の生の声を聞いていただきたい。

 他にも、準備期間を終えていざ試合になった時の話などにも話が及んだ。ボクシングはゲーム理論的にはどのような状況なのか。村田選手自身はボクシングという「ゲーム」をどう捉え、何が勝負の決め手になると考えているのか。対談前半ではこういった話題に花が咲いた。

 

世界のトップに立つ人間の「哲学」

 

 対談の後半は、ゲーム理論家としてというより、社会で揉まれる一人間として、村田選手に心の持ち方について質問をぶつけた 。それがどんな分野であれ、 トップにいる人間には、他の人にはない哲学があるだろう。しかも村田選手は考えを言語化することに優れている。だったらその「哲学」を、分かりやすい形で引き出せるかもしれない、というわけだ。

 この対談後半では、負けてしまった場合にどう立ち直るか、勝った場合のその後のメンタルの保ち方はどうするのか、など、我々ボクサーでない多くの人間にも示唆に富む話をしてもらえた

 たとえば試合結果を「勝ち」「負け」だけではなくそこから細分化して4つに分類し、そのそれぞれについての考察を村田選手が提供してくれたときには、私は心の中で拍手喝采をした。「これぞ言語化の真骨頂!」と。

 対談は予想以上に盛り上がり予定時間を超過したが、「もう時間です」という SPODUCATION の方からのチャットメッセージを華麗にスルーしつつ、最後にどうしても聴きたかった質問をした。

 それは、「成功者とそうでない人を分けるものは何だと考えるか?」という質問だ。

 私の周りには、研究者がたくさんいる。成功している研究者もいれば、そうでない人もいる。そしてそれら2種類の研究者の違いは、単に「頭の良さ」だけではない、というのが私の感じていることだ。

 今回村田選手の考えを聞いて、この私の感覚にはボクシングにおいても似たようなところがあるようだ、ということが分かった。

 この感覚は、もしかしたら社会一般にも広く成り立つ真実なのかもしれない。この「成功者の条件」についても、ぜひ私の記事(数ヶ月後かな?)を読んでいただきたいし、ぜひその前に見逃し配信で村田さんの声を聞いていただきたい。

 

「言語化するボクサー」村田選手に学ぶ、仕事や日常での考え方

 

 村田諒太選手と私の対談は、村田選手の「言語化能力」に、私の「ゲーム理論スパイス」をかけて、他にはないユニークなものになったと自負している。これはこの対談が、ただの「ボクシングについての対談」というだけではないものになったからだ。

 もちろんボクシングへの新たな理解が深まること間違いナシだが、それにとどまらず、村田選手のファン・ボクシングのファンということで対談をご覧になった方にとっても、ボクシングには興味のなかった人にとっても、自身の仕事や日常生活における行動・考え方への示唆を得られる内容になったと思う。そんな示唆を生み出すのが、「言語化」の効能なのである。

(今後数カ月にわたり掲載予定の連載では、対談の一つ一つの内容について私なりに掘り下げていこうと思うので、ご期待願いたい。)

02へ続く

 

PROFILE

鎌田雄一郎(かまだ ゆういちろう) | カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院准教授
2007年東京大学農学部卒業、2012年ハーバード大学経済学博士課程修了(Ph.D.)。イェール大学ポスドク研究員、カリフォルニア大学バークレー校ハース経営大学院助教授を経て、テニュア(終身在職権)取得、現在同校准教授。NTTリサーチサイエンティスト、東京大学大学院経済学研究科グローバル・フェローを兼任。専門は、ゲーム理論、政治経済学、マーケットデザイン、マーケティング。著書に『ゲーム理論入門の入門』(岩波新書)、『16歳からのはじめてのゲーム理論』(ダイヤモンド社)
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