<前編>ドイツ×イギリス×イタリア
「サッカー大国に学ぶ、世界に通用する子どもの育て方」

PROFILE

山下喬(FC BASARA Mainz会長)
1984年、大阪府生まれ。滝川第二高等学校卒業後、プロを目指し渡独。自身がプロになる夢は叶わなかったが、指導者としてドイツ国内で育成環境の提供を行っている。1.FSV Mainz5の育成現場で4年間に渡り指導し、現在は自身が代表を務める日本人とドイツ人のミックスチームFC BASARA Mainzで指導している。
柴崎正勝(London Samurai Rovers監督)
1988年、愛知県生まれ。大学卒業後に大手旅行会社で勤務したのち、2015年にイギリスにてFAコーチングライセンスを取得するため渡英。その後は4年間、シンガポールの日系サッカークラブGlobal Football AcademyでアカデミーコーチとトップチームのGFA Sporting Westlake FC(シンガポール2部)のアシスタントコーチを務める。2019年に再渡英し、フットボールサムライアカデミーでアカデミーコーチとして活動。2019-20シーズンからはトップチームLondon Samurai Rovers(イギリス11部)の監督に就任。
宮川トンマゾ(ユヴェントスアカデミーテクニカルダイレクター)
1991年、イタリア・トリノ生まれ。16歳まではイタリアのローカルクラブに所属。その後日本に留学し、日本ではインターナショナルスクールのチームで活躍。18歳からはロンドンの大学でプレーし、21歳からは再び日本に戻り、アマチュアクラブでプレーした。現在は指導者として、ユヴェントスアカデミーのメインコーチとしてU12のカテゴリーを中心に指導。テクニカルダイレクターとしてもユヴェントスアカデミーとの架け橋を担っている。

近年、日本でもサッカーや野球など、様々な競技で海外挑戦をする選手が増えてきました。海外挑戦が身近になってきた中で、どうやったら海外で通用するチカラを身につけられるのでしょうか。今回はドイツ、イギリス、イタリアといったサッカー大国で日々海外の子どもたちの育成を間近に見ている指導者3人によるクロストークです。海外で活躍する現役指導者の体験や経験談には、たくさんの育成のヒントがありました。

 

親の「アドバイス」は、ピッチ上の子どもにとっては混乱の種に

 ーー海外で活躍する選手の親は、どんなサポートをしているのでしょうか? まずは山下さん、ドイツのサポート事情をお聞かせください。

山下 ドイツも日本もそこまで大きな差はなく、逆を言えば、同様の問題を抱えていると思います。ドイツではサッカーチームでの活動時に、親御さんからの声掛けが問題になっています。日本でも取り上げられることがある問題ですよね。ドイツではサッカー協会からチームに対して、親御さんへの指導マニュアルを作成している段階です。ドイツの方が指導者と選手、親御さんの距離が近いので、その分親御さんから指導者に対して踏み込むことは多いかもしれません。

 

ーーなるほど。柴崎さん、イギリスのサポート事情はいかがですか?

柴崎 イギリスの親御さんは、選手の「自立」をサポートしていると感じます。子ども達を見ていても、海外のチームに入って活躍できている選手は精神的に自立しています。技術だけでなくメンタル面も強くないと、海外では活躍できません。言葉が通じなかったとしても、メンタルが強ければ新しいことに飛び込みやすくなります。「メンタルが強くないと、持っているものを出せないし、飛び込めない」というのは、イギリスで活躍していた吉田麻也選手も言っていたことです。

 

ーー自立のサポート方法について、具体例はありますか?

柴崎 親御さんがどこまで試合や練習に関与するか、という部分が大きいと思います。親御さんが干渉しすぎると、子ども達が自分で判断できなくなってしまう。実際のところ、プレーしている時に子ども達が親御さんの顔を見ることがあるんですよ。そういった顔色をうかがいながらプレーすることが起きないよう、イギリスでも取り組みが行われています。サッカー協会がルールを定めて、それを親御さんに発信するのです。その結果、「チーム活動の場では選手と適度な距離を保って指導者に任せる」ということが、親御さんに浸透しつつありますね。親御さんが子どものことを思うのは世界共通なので、そういった仕組み作りがイギリスに限らず必要だと思います。

 

ーーどこの国でも、親御さんの問題は同じなのですね。宮川さん、イタリアのサポート事情はいかがですか?

宮川 イタリアでも、練習や試合の時には親御さんの声掛けは出来る限り控えてもらっています。特に練習の時は、コーチの声だけが聞こえるようにしています。試合での「がんばれ」のような声援は、子ども達のモチベーションにつながるので問題ありません。でも、親御さんからコーチと異なるアドバイスが出てきたら、子どもが混乱してしまう。だから、声援は良いけどアドバイスはダメだとユヴェントスでははっきり区別しています。ユヴェントスでは心理学者の力も借りて、効率的な指導方法を模索しています。その中で、親にはこう接する、という親御さんへの対応も指導方法の一部としてコーチングスタッフに周知していますね。これは、イタリアだけでなく世界各地にあるユヴェントスのアカデミースクールでも同様です。

 

ーーなるほど。ドイツやイギリスでも、クラブチームによってはそういった指導を受けることもあるのでしょうか?

山下 ドイツの中でも有名な「マインツ」(1.FSVマインツ05)というチームの育成では、コーチ達に対しての指導はもちろんありました。最近の研究も含めて取り入れているのが、「親も育成スタッフの1人」という考え方。チームから親御さんに、子どもの成長に応じた声掛けの仕方を教えるのです。スポーツ心理学に基づいた部分で指導者と親御さんが物事を共有するのが、ドイツ全体の流れになっています。そうすることで、親御さんも子ども達により良いアドバイスができます。

 

選手と指導者の距離感は近づけつつも、「リスペクト」が大切

 ーーなるほど。山下さんがドイツでジュニアの指導をされていた時に初めてお会いして、色々と勉強させていただきました。そこで衝撃的だったのが、U-12の子ども達がコーチを「タカシ」みたいに呼び捨てで呼んでいて、すごくフレンドリーだった事。日本の感覚では考えられない事ですよね。「あれは普通ですよ」と後で説明されましたが、すごくいい関係だなと思いました。

山下 それは僕も18歳の時に、びっくりしました。18~20歳のいい大人が皆、監督のことを友達に対する呼び方で呼んでいて。「大丈夫か」と思いましたが、歳が離れた指導者でも選手との距離感は近いですね。

 

ーーリスペクトがある近さと言いますか、いい意味での距離感ですよね。

山下 オンオフの使い分けが上手いですね。もちろん授業の時は、先生達に目上の人に対する話し方をします。でも、授業以外のところでは友達に近い雰囲気で接しているのです。不思議なことに、子どもの時から自然にできる選手が多いようですね。こちらも指導者として、選手と話すときはメリハリを付けるように努力しています。そして、選手達もそれを理解している雰囲気がありますね。

 

ーー習慣なのか文化なのか、不思議ですね。イギリスではいかがですか?

柴崎 指導者と選手の距離、大人と子どもの距離はいい意味で近いですね。よくイギリス人の指導者が、子ども達がいいプレーをしたときに「Well play, son!」のように言うんですよ。「son」は息子という意味なので、親の立場みたいな言い方ですよね。でも、決して近すぎるのではなくて、リスペクトがあります。イギリスではリスペクトという言葉が、様々な場面で良く使われます。子どもから指導者へ、親御さんから指導者へ、指導者から選手や親御さん、レフェリーへ。試合会場でも「リスペクト・バリアー」と言って、親御さんがピッチの中に入れないようにするための仕切りがあります。そういった意味ではいい距離感が出来ているなと感じますね。僕もトップチームの監督をやっていると、「gaffer」(ガファー・親方)のような呼び方をされることがあります。選手が監督を慕っているというか、そういう雰囲気がサッカーの場で作られているなと感じますね。

 

ーー今のお話にうなずかれてましたが、イタリアにも同じ事情があるのでしょうか?

宮川 僕もイギリスに住んでいたから、分かるなあと思ったので。イタリアでは子ども達のパーソナリティーが強いので、距離感が近くなりすぎないようにリスペクトの指導をちゃんとしています。イタリアでは監督を「mister」(ミステル)と呼ぶことが多いのですが、「gaffer」よりもリスペクトのニュアンスが強い言葉です。日本では個人個人のプレーに責任を持たせるコーチが多いと思いますが、イタリアではチームプレーを重視した考え方のコーチが多いですね。

 

子どもの成長には、指導者と親の会話も欠かせない

ーーイタリアの人は個性が強いから、子どもの頃からしっかり指導しないといけないのですね。親御さんの中には、どこまで練習に口を出せばよいか、悩んでいる方が多いようです。ドイツやイギリスでは、育成年代の技術的サポートはどのように行われているのでしょうか?

柴崎 イギリスでも外から親御さんが技術的なことを言う場合があります。でも選手には「今は親じゃなくてコーチの俺の話を聞いて、自分で判断するんだ」と伝えるのです。サッカーならサッカー専門のコーチに任せるのが一番ですからね。とはいえ、普段公園でお父さんが熱心にボールの蹴り方を教えているのはよく見る光景です。子どもが色んなことにチャレンジできる環境づくりを、親御さんがすることは必要だと思います。

山下 先ほどもあったマインツの話ですが、親御さん向けのハンドブックを作成していて、お渡ししています。その中に明記されているのは、「練習中や試合中に技術的、戦術的な声掛けは一切禁止」という事。例として、僕がまだ所属していたU-19の試合で、ある選手のお父さんが大きな声掛けをしました。そうしたら、すぐにその選手が交代させられたのです。選手は悪くないのですが、親御さんからの指示はそれだけ厳しく規制していました。地元のクラブなどでは、どうしても自分の子どもに対して興奮しながら見てしまう。でも、「親御さんが声掛けをすることで、選手のパフォーマンスが下がる」という研究結果も出ているようです。親の目を気にしながらサッカーしてしまいますからね。ただ、チーム外の活動であれば、親がサッカーを教えることがあっても全く問題なく、むしろ必要なことだと思います。

 

ーーピッチの外では、親御さんは遠慮せずにサポートしてもよいということですね。

山下 ただ、本来とは真逆のことを教えると子どもに迷いが出てしまうので、ルール決めが必要でしょう。あまり自信のないアドバイスであれば、子どもに直接伝えるのではなく、まずは指導者に伝える。そのような関係づくりができれば、問題解決につながるのかなと思います。

 

ーーなるほど。注意すべきは、子どもが「上手くなりたい」という意欲を出しているかを見極めることですよね。

柴崎 そうですね。気持ちがプレーに出ていない時やもう少し頑張ってほしい時に、親御さんに言いたい気持ちが出てしまうのは分かります。そういう意味では、先ほど山下さんがおっしゃっていたように、コーチと親御さんとの距離感は大事だと思います。U-15の試合中に、熱心な親御さんが声掛けすることがあるんですよ。そういった場合は試合後に、コーチから親御さんに対して個別に話をします。逆に、親御さん達からコーチに「今子どもに何をしてあげられますか」と質問が来ることも。だから、いい意味で受け入れていますし、こちらからも情報を発信するという距離感ができていますね。

 

ーー距離感はやはり大事ですよね。イタリアでも、指導者と親御さんが話すことは結構あるのでしょうか?

宮川 ユヴェントスだけでなくどこのチームでも、子ども達の成長を目指しています。そのためには指導者と親御さんとの協力、時には会話することが必要です。親御さんの意見があればミーティングなどでコーチに伝えて、同時にコーチも親御さんに違う役割でサポートできると思います。

 

ーー先ほど「イタリアの人はパーソナリティーが強い」とお話がありましたが、U-12の年代からそうなのでしょうか?

宮川 そうですね。ユヴェントスの育成組織で選手を選ぶ時には、サッカーの技術面だけでなく頭脳、チームとして活躍できるかを大事にしています。勝ちを意識しすぎるあまり、チームプレーを忘れてしまうことがあります。だから、チームとして戦える選手を選ぶのです。そういう子たちは指導者をリスペクトして「mister」と呼ぶことが多いですね。

 

ーー逆に言えば、親御さんもパーソナリティーが強いのですよね?

宮川 確かに、親御さんにもそういった方は多いですね。でも子どもを大事にするからこそ、言いたい気持ちが出ます。それを解決するためには、ちゃんと指導者と親御さんの役割をしっかり決める事。そうすれば、親もコーチの役割をリスペクト出来ると思います。

 

――後編に続く――

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