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【4/16~18 biz Festa Preview#07】「行動が変わることでマインドセットが変わる」コーチングの本質とは?/鈴木義幸

「SPODUCATION」では 4月16日(金)~18日(日)の3日間、ビジネスパーソンに向けたオンラインイベント「biz Festa」を開催する。スポーツで培われたノウハウが、ビジネスでも応用できることを紐解くべく、ビジネス書のベストセラーを生み出す有名著陣とアスリートが激論を交わす。数多の企業のビジネスパーソンを指導してきたスペシャリストたちと、トップアスリートの邂逅は、どのような“解”を生み出すのか。現状打破に日々を捧げる現代ビジネスマンに向けた大型オンラインイベントを前に、“ビジネスサイド”のゲストのインタビューを紹介していく。

『新 コーチングが人を活かす』ディスカヴァー・トゥエンティワン/290ページ/1760円(税込)

約30年続いた大学入試センター試験が廃止され、今年1月から新テスト「大学入学共通テスト」が始まったように、これまでの暗記教育から「考える」自主性を重要視する教育へと変わってきた。“上から下”の師弟関係的アプローチではなく、ともに探索し発見をうながし、人の“主体性”に働きかける「コーチング」が、スポーツ、家庭はもとより、企業の人材育成、さらにはエクゼクティブを対象に、その需要が高まっている。日本に最初にコーチングを持ち込んだとされる日本最大のコーチングファーム「コーチ・エィ」の代表を務め、200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを行ってきた鈴木義幸氏に、スポーツにおけるコーチング領域の広がり、ビジネスでのコーチングの可能性について伺った。

中学と高校で打ち込んだラグビー部生活が「自分で考える」原体験

―― 鈴木さんは学生時代ラグビーに打ち込んでいたのですね。その頃のお話を聞かせてください。
「中高一貫校で、中学からラグビーをやっていました。僕の代から急に部員の人数が増えて、監督もやる気になったのでしょうね。本気でチームを強くしよう、大会で優勝しようと僕らに言ってくれました。でも、その監督にはラグビーの経験がなかったのです。だからビジョンは示されたものの、具体的な作戦や練習方法は僕ら選手が自分たちで考えなくてはいけない。そのやり方で、中学時代は東海大会で優勝して、高3のときは静岡大会で優勝しました。僕自身、静岡代表に選ばれたこともあります。このことが自分の原体験になっていると思います。上から言われるのではなく、自分たちで考える以上に強いものはないと今でも信じています」

―― キャプテンをされていたそうですが、その頃から組織のマネージメントみたいなものに興味があったのですか?
「あまりその辺りのことはよく考えていませんでしたね(笑)。自分で言うのも何ですけど、僕は典型的な優等生タイプで、成績もずっと良かったし、小学校の頃から学級委員長をやっていました。監督も、僕が優等生だったからキャプテンに指名しただけではないでしょうか。特にリーダーシップがあったわけではありません。なにしろ優等生だから、監督の言うことを真っ先に一生懸命にやります。それだけだったのではないでしょうか」

―― でもその監督さんはラグビー未経験者だったのですよね?
「そうですね。自分たちで考えろというのが監督の方針でしたし、僕自身もあまり上からモノを言うタイプではありません。たとえばサインプレーはどのようなものをしようかとか、皆で一緒に考えようよというような雰囲気は無意識に作っていたのかもしれません」

社会心理学から臨床心理学、そしてコーチングへ

―― 慶応義塾大学に進学されて、3年生の時にはアメリカに留学もされています。その頃はどのような進路を考えていたのですか?
「大学時代の留学は単純にアメリカへの憧れと英語が話せるようになりたいということだけが動機でしたね。もっと生々しい話をすると、3年生に進学するときに希望していたゼミに入れなかったのです。当時、ゼミに入っていないと就職活動に不利だという情報があり、それを挽回するために留学しようなんて気持ちもありました。けっして高邁な理想に燃えて渡米したわけではないのですが、結果としてアメリカ留学はとても楽しい体験でした。当時は、一生住みたいとまで思っていましたね」

―― 卒業されてからは広告業界に就職されて、その後でもう一度アメリカに留学されたのですよね?
「大学時代には社会心理学に興味があり、それが、広告業界への就職につながりました。誰かが発信した情報がどのように社会に広がっていくか、といったことに興味があったんですね。でも、実際に仕事を始めるとそれほど面白いとは思えない自分がいました。マスを相手にするのではなく、1対1の心理カウンセリングの方向に関心が移ってきた。そこで臨床心理学(clinical psychology )を学ぼうと思ったのです。幸い、当時のアメリカの大学には、学部生に日本語を教える代わりに大学院での学費を免除するというプログラムがありまして、その試験に受かって留学することができました」

―― 留学から帰国されて、コーチ・エィの前身であるコーチ・トゥエンティワンの設立に携われるのですが、臨床心理学とコーチングは違うものですよね。どのようなご事情だったのでしょうか?
「アメリカには3年いましたが、そのうちの2年間は修士の学位をとるためにインターンをする必要があり、テネシー州の女子刑務所で心理カウンセラーをやりました。重度の鬱病患者ですとか、多重人格障害ですとか、今まで見たことがない人たちを相手にカウンセリングをしたのですが、そのときの体験がいささか自分にはきつすぎたのですね」

―― そこでカウンセリングからコーチングへと方向転換されたのですね? 
「そうです。当時、コーチ・エィ創業者の伊藤が、コーチングをアメリカから持ってきて、日本で事業化しようとしていたのですが、日本に帰国したタイミングで、一緒にやろうと誘われました。カウンセリングとコーチングは違うものですが、それでもアメリカで学んだ1対1のコミュニケーション・スキルを活かせると思いましたし、医療部門ではなくビジネスのフィールドでやっていきたいという思いもありました。ビジネスの世界に対してコーチングを導入するというコンセプトにとても魅かれたのです」

―― コーチングのどのようなところに魅かれたのでしょうか?
「1996年頃のことですが、当時の日本企業のマネージメントは、70年代、80年代と続いた高度成長期の名残りがまだまだありました。年功序列や終身雇用のような制度もそうですし、コミュニケーションは上司から部下への一方向で、上意下達で人を動かすこと普通でした。そうした中で、相手の自発性に働きかける、自発的な行動を促すコミュニケーションは、今までの上から下へという流れとはまったく逆になるわけです。それが当時の自分にとってはセンセーショナルでした」

―― コーチングがご自分に合っていると?
「コーチングのコンセプトは、ラグビー部時代に経験した、上から言われたことをやるのではなく、自分で考えることが結果につながるという自分の考え方とも合っていました。また、通っていた中学高校も生徒の自主性を大切にするという校風でしたし、就職したマッキャンエリクソンもトップダウンが強い組織ではなく、そんな中で過ごしてきた自分はコーチングをやるために生まれてきたのかもしれない、そんな風にさえ思えたのですね。自分がコーチングに出会ったのは運命的だし、日本のマネージメント文化を変えるための一石を投じることのできる仕事だと思えました」

コーチングが誤解して使われている懸念

―― 昨年、ご著書の『コーチングが人を活かす』を20年振りに改訂されましたが、そこにはコーチングへの「誤解」が広まっていると書かれていましたね。
「たとえば、コーチングは対等の立場でするものだと頭の中にはあったとしても、コーチングを学んだ人がコーチングをしてあげる、問いかけて考えさせてあげる、という方向に行ってしまうことがある。なぜか「上の立場」という感覚になってしまうんですね。そこで、少しコーチングが誤解されているなと思い始めました。それが改訂版を出すことを決めた大きな理由です。幸い、読者からの反応もよくて、コーチングは対等の目線で行わなくてはいけないということは伝わったかなと思っています」

―― 上から下へというコミュニケーションのかたちは日本特有のものなのでしょうか?
「そんなことはないと思います。会社にもよりますが、アメリカの上司のマネージメントや権限は日本以上に強いです。それよりも、上司の立場にいる人は物事をよく知らなければいけない、正しい情報を持っていなければいけない、議論には勝たなくてはいけない、と強く思っているということではないでしょうか。これは、会社の上司だけではなく、親や学校の先生にも言えることです。こうしたことは、必ずしも日本だけの話ではありませんが、とくに日本人の場合は、質問されると正解を言わなければならないという条件反射が強い傾向があるかもしれません。上司から『どう思うか』と問われると、上司が気に入る答えを探してしまって、自由な発想や自分独自の考えが出てこないのですね」

―― 改訂版では「引き出す」という言葉を使わないようにされたとか?
「言葉は頭の中にイメージを作ってしまいますし、人はイメージに基づいて行動するものです。『引き出す』という言葉を使うと、どうしても『引き出す人』と『引き出される人』という関係を作ってしまうのですね。ですから、旧版では『引き出す』という言葉を100回くらい使いましたが、改訂版ではその言葉を削除して、別の表現に書き換えました。『引き出す』とか『考えさせる』というマインドの裏側には、ティーチングをコーチングのようにやってしまう作用があります。たとえば、本来のコーチングの問いかけが『答えが2になる計算式はどのようなものがあるか一緒に考えようよ』というようなものだとすると、だとすると、1+1もあるし, 100-98もあるし, √4もあるよねってことになる。それを、最初から一つの解を想定し、『1+1はいくつだと思う?』と聞いてしまっている。上司やコーチが既に正解を持っていて、そこに到る道筋を考えなさいと問いかけるのは、コーチングではありません」

20年振りに大改訂を行ったコーチングの入門書『新 コーチングが人を活かす』は累計20万部のロングセラー。鈴木氏は、この20年で日本でコーチングが求められる領域はさらに広がったという。

 

20年間でコーチングの役割は変化したか

―― 2000年に旧版を出版されたとき、コーチングが求められる理由として、1)何が正解かが簡単に見つけられなくなってきている、2)組織における多様性の拡大、3)イノベーションを求める声の高まり、の3つを挙げられました。その後、私たちの社会はますますそのような傾向が強まってきていると思います。この20年でコーチングの役割は変わってきているのでしょうか?
「環境の変化がこれだけ大きくなると、とくに組織においては、1人だけで考えて解決できるようなことはもうほとんどないと思います。そうすると、一緒に物事を考えて、新しい解決策なり、物事の意味を作り出していく、そんな能力が問われるとも思います。コーチングと言うと、どうしても育成者と被育成者のように、問いかけて相手に考えることを誘発するというイメージをもつ方が多いのですが、それよりも大切なことは、問いを2人の間に置いて、一緒に考えていくという姿勢です」

―― 問いを置く、ということをご説明してもらえるでしょうか?
「たとえば社長と役員の間に共通の問いを置くということは、お互いに答えのない、でもお互いにとって大切な問いを一緒に考えるというイメージです。そのことについて、それぞれが自分の考えを出し合う。そうすると社長と役員で違う答えが出てくるときがあります。もし対話やコーチングに関する知識や能力がなければ、自分の答えは正解で、相手の答えは間違っていると決めつけてしまうかもしれない。そうではなくて、自分とは違う意見にも心を開くことができれば、逆にそれが、自分の意見の前提や判断の基準について振り返るきっかけになります。お互いの意見や前提を受け止め、それを解釈し、さらに再解釈することで、自分が持ち込んだAというアイデアでも、相手が持ち込んだBというアイデアでもない、新たなCというアイデアを創り出すことができます。現在は、そうした『対話力』をもてるかどうかが問われているのだと思います」

 

ビジネス界では対話が不足している

―― ビジネスの世界で対話がますます重要になるということですね?
「クライアントの企業様から私たちに寄せられるご相談の中で圧倒的に多いのが、部門間のコミュニケーション不足です。コミュニケーションがないために、お客様を最優先に考えた協力ができなくなっているというのです。それぞれの部門の専門性が高まると、部門間の壁も高くなります。こうした現象はサイロ化と呼ばれ、世界的な問題になっています。サイロの中に入り込んでしまうと、周りが何も見えなくなる。この状況を崩して、人々を結びつけていくのは、対話でありコーチングであるというのが私たちの考えです」

―― 日本の企業はより深刻な問題を抱えているように思えますが?
「企業の競争力が下がり、1人あたりのGDPも生産性も低くなっていて、日本はもはや先進国ではないとも言われます。かなり危機的な状況だと思うのですが、そういった危機感を持っていない人も相変わらず多いと感じます。その大きな原因の一つが、会社内や組織の中で対話が起きていないことなのではないかと思います。対話と呼んでもいいですし、コーチングと呼んでもいいのですが、会社の中にたくさんのムラ社会ができてしまっていて、部門間の、あるいは本社と海外拠点の間で、対話が起きていないことが多い。そのために新しいものが生まれない。おそらく、日本の企業では、シリコンバレーで起きている対話の1万分の1も起きていないのではないでしょうか。」

―― 日本の企業は対話が足りないのですね?
「圧倒的に足りていないと思います。取締役会や経営会議とかをオブザーブさせて頂く機会がありますが、たいていの場合は、現状報告と、それに対する質問が少しあるだけです。それは対話とは呼べません。済みません、ちょっと偉そうに言ってしまいましたね(笑)」

 

スポーツ界では対話は足りているか

―― 対話に関する状況はスポーツの世界ではビジネス界と比べてどうなのでしょうか?
「ラグビー・トップリーグの監督にコーチングをしたことがあります。そのときのテーマは、日本、ニュージーランド、オーストラリアなど出身がバラバラのコーチ陣をいかにまとめていくかということでした。企業の経営チームを1つにまとめるということと同じコンセプトですが、ある意味ではラグビー界の方が、ダイバーシティを越えて多様性の中で物事を生み出していくということにおいて、ビジネスの世界よりはるかに進んでいますね。だから日本代表チームは強くなりました。ジェレミー監督はそれほどリーダーシップが強くなかったし、特別戦略的に優れていたわけではないと言われます。それがかえって功を奏したと、僕はそう思っています。と、ラグビーの話になると、ついつい熱くなってしまいます(笑)」

―― コーチングとスポーツとの関連について印象に残っているエピソードはありますか?
「サッカー協会の方が講演の中でおっしゃっていたのですが、日本代表チームの練習で命令調の指導が行われていた頃、イタリア代表チームでは、監督が選手に問いかけていたそうです。その様子を見て、これでは日本が世界で勝てるわけがないと危機感を持たれたというのです。しかし、日本代表になってから選手に考えさせても間に合いません。そこで、サッカー指導者のランクを作り、小学生の頃から考えさせる指導方針を作っていったのだそうです。その話を聞いて、サッカー界は素晴らしいなと思いました」

―― でもまだ日本の幼年スポーツでは押しつけ型の指導が多いですよね?
「最近でも、スポーツ界の体罰の問題などを耳にすることがありますね。コーチング事業を始めた頃、参考になるのではないかと少年野球を見に行くことがよくありました。当時は、監督がエラーした子どもを怒鳴りつけている光景をよく見かけましたね。打席に立てば、空振りしても、ストライクを見逃しても、怒鳴られる。三振したら、もっと怒鳴られる。子どもは萎縮していましたね。あれでは伸びようがないと思っていましたが、今でもあまり変わっていないのでしょうか。当時でも、ラグビーの方が状況は良かったかもしれませんね。ラグビーでは試合になると監督やコーチが指示を出すことができないので、選手たちの自発性を育てないとチームも強くなりません。ラグビーを贔屓しているわけではありませんが(笑)」

―― 元バレーボール日本代表の益子直美さんが「監督が怒ってはいけない」ルールの大会を開催されています。怒ることを禁じられるとどんな指導法があるかを指導者になかば強制的に体験させるという狙いがあるそうなのですが、こうした取り組みについてはどう思われますか?
「コーチングを学ぶと、選手への問いかけも変わります。そしてそれ以上に自分自身への問いかけも大きく変わります。外的対話と内的対話と言い換えることもできます。たとえば、ある選手の強みは何だろうと自分に問うだけで、選手に対する見方が変わるのがわかります。その選手のモチベーションをどう高めていけばいいだろうと自分に問いかけたら、まったく違うアクションが生まれますよね。他人に対する問いかけを意識的に考えると、自分自身への問いかけもするようになります」

―― スポーツ指導では「ティーチング」と「コーチング」のバランスをどう取っていけばよいとお考えですか?
「たとえばゴルフを0から始めたばかりの人に、どのようなスイングをしたら良いと思う?と問いかけても無意味ですよね。ベースとなる部分にはティーチングは必要です。大事なことは、選手をいかに受け身にさせないでティーチングを行うことです。教える人、教わる人という関係を作ってしまうと、選手からは自発性や能動性が失われてしまいます。初心者相手にはティーチングだけでよいというわけではなく、ティーチングの中にコーチングの要素を織り込んでいくことが重要だと思います。将来はどんな選手になりたいと思うか、今何に困っているか、など、選手に聞けることはたくさんあります。アウトプットさせることと、教えることと、両方が必要ですね」

Z世代へのコーチングとは

―― 社会全体に話を戻しますと、たとえば新入社員教育などではいわゆるZ世代と呼ばれる人たちが対象になってきています。個人主義が強いと言われることも多い世代ですが、彼らにはよりコーチング的なアプローチが重要になっていきますか?
「そう、ですね……(しばし長考)。世代に関してはあまり一括りに考えない方がよいかもしれません。自分の息子がまさにそのZ世代なのですが、どうも彼を見ているとマスコミが括るZ世代の特徴とあまり合っていません。若者のお酒離れ、集団離れ、とかよく言われますけど、彼は友達とよくお酒を飲みに行きますし、チームで行動することも大好きですから(笑)。人それぞれなのではないでしょうか。ただ、デジタルネイティブの彼らは情報があまりにも簡単に手に入るために、自分で能動的に情報を取りに行くことをあまりしませんね。そのことの重要性は教えてあげる必要はあるかもしれません。本当に自分の役に立つのは手間をかけて自分で手に入れた情報だというマインドセットを作るにはどうすればよいかを考えなくてはいけないでしょう」

―― 若い世代には能動的に動くことを求めていくということですか?
「慶応大学の湘南藤沢キャンパスでもう10年くらい講座を受け持っています。300人くらいの学生が参加するのですが、そこではコーチングを用いてコーチングを学ぶということをやっています。2人1組にして、前期の授業中お互いがコーチングをするのです。そうすると、後期の終わりには学業に対する能動性や将来に対するビジョンが高まったと回答する人が必ず増えます。自分の方から能動的に動くことはより求められているのだと思います」

―― 著書にコーチングの成果は受けた人が行動に移るかどうかが絶対の基準だとご著書に書かれていました。かなりシビアな基準だと思うのですが、その辺りのお考えを聞かせて頂けますか?
「普通はマインドセットが変わると行動が変わるように思われがちですが、実はそれは全く逆です。行動が変わることによってマインドセットが変わるのです。僕らが考えるコーチングとは変化を起こすためのものです。新しい行動を起こさない限り、変化は起きません。マインドセットも変わりません。だからこそ、いかに行動を起こせるかについてフォーカスしています」

―― やる気が起きたタイミングで行動に移るように働きかける、それを「心に火をつける」と表現されていますが、そのタイミングは目に見えて分かるものなのでしょうか?
「あまりドラマチックなものではなくて、むしろ淡々と言いますか、もっと日常的なものだと思いますね。気持ちは移ろいやすいものですから、一時はやる気になっても、一晩寝たら気持ちが冷めてしまうことだってあります。コーチングのセッションを受ける人にはどのような新しい行動を取るかを自分に問いかけてもらいます。それを誰かに約束して、自分で守っていく。ハーバード・メディカル・スクールの研究では糖尿病患者が生活習慣を改善するうえで、こうしたコーチングのセッションがとても有効に働いたそうです。コーチングが機能する背景として、毎回選択をし続けるということが挙げられます。朝、会社に行くことを自分に言い聞かせるのではなく、今日も会社に行くことを選びますかと自分に問いかけてみるのです。それだけで選択というマインドを非常に高めるのですね。良いコーチとは相手に選んだという気持ちを持たせるのが上手な人たちと言えるかもしれません」

―― 最後の質問になりますが、スポーツの学びを社会で活かすことについての見解をお聞かせください。
「スポーツは素晴らしいですね。結果を出すために、自分自身、そしてチームとどのようなコミュニケーションを取っていくべきかを体験的に知ることができるのがスポーツだと思います。知識は忘れられることもありますが、体験は不可逆的です。体験から得たものはなくなりません。僕自身も中学高校ラグビー部で体験したことが消えないように。そうした体験をスポーツで積んだ人は強いと思います」

 

 

 

PROFILE

鈴木 義幸(すずき よしゆき) | 株式会社コーチ・エィ代表取締役社長
慶應義塾大学文学部卒業後、株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務。その後渡米し、ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、コーチ・トゥエンティワン設立に携わる。2001年、株式会社コーチ・エィ設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月より現職。
200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施し、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコース『現代経営応用研究(コーチング)』をはじめ、数多くの大学において講師を務める。20年ぶりの大改訂版を上梓した『新 コーチングが人を活かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)他、『コーチングから生まれた熱いビジネスチームをつくる4つのタイプ』『リーダーが身につけたい25のこと』(ディスカヴァー)『新版 コーチングの基本』(日本実業出版社)など著書多数。
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2021/04/16(fri)~04/18(sun)
「SPODUCATION biz Festa」を開催!

4月16日(金)~18日(日)の3日間、ビジネスパーソンに向けたオンラインイベント「biz Festa」を開催。スポーツで培われたノウハウが、ビジネスでも応用できることを紐解くべく、「ビジネス」と「スポーツ」のスペシャリストが集結します。ビジネスに役立つテーマごとに、多数のスペシャルトークセッションでお届けする大型オンラインイベントの続報にご期待ください!

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