個々の性格診断から人間関係を科学的に分析し、最適な組織編成・開発に応用する『FFS理論』にて、数多の組織・人材の活性化を支援してきた古野俊幸氏。この理論をベースに人気漫画の登場人物を題材に解説した「宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み」に続き、4月には「勉強の型」を指南する『ドラゴン桜とFFS理論が教えてくれる あなたが伸びる学び型』を上梓した。企業だけでなくプロ、大学スポーツの組織編成も支援してきたエキスパートが、FFS理論をベースにスポーツから日常に応用できる自己分析、チーム編成の考え方を連載形式でお届けする。
サッカーには「ディフェンス」や「ミッドフィルダー」というポジションがあります。しかし、全てのディフェンス、ミッドフィルダーが同じように動いている訳ではありません。攻撃参加を得意としている選手もいれば、守りに比重が置かれている選手もいます。位置的には「中盤」であるミッドフィルダーも同様に攻撃的と守備的に分けられます。もちろんチーム事情で〝役割として担う〟ケースもありますが、監督は選手個々の『得意』を見抜いて抜擢するケースの方が多いのです。
特にサッカーのように『監督がチーム作りの全てを決める』場合、監督自身がポジション毎に求める役割、動きがあり、それを担えそうな選手を探して抜擢しています。
その意味で、自分は「何が得意か」を明確に理解し、それを日々磨いている選手は、監督に見染められる可能性があり、そうでない選手は、〝器用貧乏〟としてそこそこで終わってしまう恐れがあります。つまり「一芸に秀でる」ことは単に目立つだけでなく、チーム作りの〝重要なピース〟となるのです。もちろん「ユーティリティプレーヤー」も必要ですが、それは〝ユーテリティ〟としての一芸レベルでしょう。
この「自らの得意を理解している」テーマをビジネスシーンで考えてみましょう。
成功する営業マンに共通するのは「自分を知っている」こと
私はFFS理論(開発者:小林恵智博士)を活用して、多くの企業を分析し、個々の強みの理解やチーム作りを支援してきました。
例えば、「営業チーム」。
住宅メーカー、生命保険、ガン保険、自動車、広告代理店、媒体系、webマーケティング等々、扱う商品やサービス、toBかtoCも様々でした。その中で共通していたのが、やはり「自分の得意を知っている営業マンが結果を出していた」ということです。
大手住宅メーカーで、当時「日本一の売上」を誇る住宅展示場がありました。前線の営業マンが4名です。まずFFS理論で分析したら、それぞれの個性が違いました。お互いに、個性が「違うこと」と「得意なお客様のタイプが違うこと」を理解しているのです。
面倒読みが良くてお客様の要望に沿うタイプ。和気あいあいとした雰囲気で、すぐに友達感覚になるタイプ。提案がユニークなタイプ。理路整然とあるべき論を語るタイプです。FFS理論の因子で言えば、一人目が「受容・保全型」、二人目「受容性・保全・拡散型」三人目「受容・拡散型」四人目「凝縮・受容・弁別型」です。
凸凹4人チームが「補完関係」で日本一の売上
一般的に営業の場合は、売上インセンティブもあり『顧客リスト』は重要な資産となります。特に「住宅展示場」に来場するのは「家を買いたい」と思っている人ですから、営業マンとしては〝喉から手が出る〟ほど欲しています。だから、最初に接客すると、そのお客様データを「本人が持つ」のが当たり前でした。
しかし、この展示場の4人は、そうではありません。日常的に全員が出勤するわけでもなく、定休日以外は交代で休みを取っていきます。Aさんが休みの時にBさんが接客したとしましょう。「このお客様はAさんが得意なタイプだな」と感じたBさんは、その日は要望を聞くだけにして一切商談はせず「次回お越しいただければ、お客様にピッタリの担当者からご提案させていただきます」と説明するのです。
そして、お客様が二度目に来場するとAさんが担当をして、見事に成約に至るのです。
逆も然り。お互いがお互いの得意を理解していますから、最初に積極した人が誰であり、すぐに『相性の良いマッチング』に切り替えるのです。
その理由を聞くと「お互いが得意を知っていることで、営業の機会ロスが減る」ということでした。
この4人チームは当初から「得意を考慮する」担当分けをしていたのではないそうです。元々、最初に接客したお客様をそれぞれの営業マンが担当していました。ただ失注も多かったそうです。営業会議で進捗を共有しているうちに、「誰々は、こんなタイプは得意だよね」という話題が出て、「それなら得意に振り分けようか」となり、支店長を中心にして、今の体制に切り替えたのです。すると各自の成約率が高くなり、結果的に展示場としての数字も飛躍的に伸びたのです。
この展示場の4人は、全国ベスト10に全員入っていました。4人の関係性を分析すると、見事に補完関係として成立していたのです。
ただ、その後、会社としては『この成功事例を全国展開してほしい』ということで異動しバラバラになったのですが、それぞれが異動した先では、ここまでの関係性を築けずに、4人とも売上数を落してしまいました。
「向き不向き」はナンセンス!? 唯一無二の「得意」のカタチとは?
―#02後編に続く―
PROFILE
- 古野 俊幸(ふるの としゆき) | 株式会社ヒューマンロジック研究所代表取締役
- 新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約800社以上の組織・人材の活性化支援。チームの分析と編成に携わった実績は60万人、約6万チームを数える。チームビルディング、チーム編成の第一人者。昨年、大人気漫画を題材にFFS理論を説いた『宇宙兄弟とFFS理論が教えてくれる あなたの知らないあなたの強み』(日経BP)が10万部越えの大ヒットとなり、今年4月には『ドラゴン桜とFFS理論が教えてくれる あなたが伸びる学び型』(日経BP)を上梓した。
【スポーツと自己分析が教えてくれる「あなたをアップデートする方法」/古野俊幸~back number~】
【♯01】<前編>バドミントン元日本代表 潮田玲子さんが教えてくれた「弱みを受け入れる」ということ
【♯02】<前編>サッカーも営業も「自分の持ち味」を知っている人は成功する
【♯04】<前編>失敗を成功へと導く。リーダーに必要な「声かけ」のポイント
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