COLUMN

【#02】辻秀一│『スラムダンク』に観るエクセレントチームの考え方<前編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく

 

リアルな感動へと誘う人生のバイブル

『スラムダンク』スポーツマンガ史に残る名作です。

 皆さん、ご存知でしょうか?

 湘北高校という県立の弱小バスケチームがインターハイ出場を果たし、インターハイ2回戦で超強豪の山王工業に死闘の末に勝利するという言葉にするとフィクションでありえそうなストーリーです。がその内容は本当に深く私の人生のバイブルとなっている作品です。山王工業への勝利はラグビー界のブライトンの奇跡、南アフリカに勝利した2015年のあの感動に負けずとも劣らぬ衝撃を私たちに与えてくれました。このマンガの素晴らしいことの一つつは極めてリアルな状況として私たちを感動へといざなってくれることだと思っています。したがって、メンタルトレーニングの材料としても多いに参考になるネタが満載していることになります。

 

湘北高校スタメンメンバー5人の「ライフスキル」とは?

 まずは一人ひとりの主人公たちにメンタルを揺らがず・とらわれずのフローな状態に導くライフスキルのヒントがあります。まずは桜木花道ですが、何と言っても彼のライフスキルは「一生懸命」です。結果よりもまず一生懸命を楽しめる人はブレがすくなくフローです。花道はそれの王様と言っても過言ではありません。しかし、彼のチーム内ライバルの流川楓や恋心を抱く赤木晴子さんに揺らいだり、とらわれたりもして人間らしさを持っています。

 晴子さんの兄で湘北チームのキャプテンで大黒柱となるゴリこと赤木剛憲のライフスキルは「信じる」です。弱小のチームで何の根拠もないときから全国制覇を信じて取り組んできました。彼もまたフローな心をそのライフスキルで実現していると言っていいでしょう。そのゴリもまた、インターハイ山王工業戦にライバルポジションのスーパースター河田兄にとらわれまくってノンフローになるのです。作者の井上雄彦先生は揺らぎ・とらわれる人間らしさ、人間の弱さを背景にそれぞれが困難の中でも心を整えていくためのライフスキルをキャラクターとして描いていらっしゃるのだと思っています。

 次に宮城リョータ。彼のライフスキルは「楽しむ」です。どんな状況でも楽しさを大事にして、それがバスケのパフォーマンスにも必要なのだという価値感を持っています。楽しいという感情こそフローの代表格です。それを意識しているので頼りがいのあるポイントガードとなっているわけです。しかし、彼もマネージャーの彩子さんにぞっこんでとらわれまくります。

 流川楓、湘北チームのスーパースターであり花道のライバル。流川のライフスキルは「チャレンジ」です。チャレンジを楽しみ、変化を恐れず勇気をもって常に挑んでいます。その姿勢はなにものにもとらわれないフローな心を感じます。その流川も花道や他のライバルたちにとらわれたりしながらチャレンジしている姿が人間臭さを感じさせます。

 そして三井寿です。彼のライフスキルは「今に生きる」です。諦めない三井でおなじみですが、その背景には「今に生きる」のライフスキルがあります。過去にとらわれている三井は見事、バスケが好きという原動力から、過去を手放し「今に生きる」を選択します。諦めないというライフスキルはありません。なぜ諦めないのかといえば、過去を手放し、未来を憂うことをなくすために、「今に生きる」を意識しいているのです。三井も過去に囚われ揺らぎバスケを離れ悪事に走っていたこともあります。

 

日常やビジネスでも参考になる、主人公たちの思考習慣

 このスタメン5人に加えて忘れてはならないのが、メガネ君こと木暮公延。木暮のライフスキルは「応援する」になります。地味そうなライフスキルですが、実はトップアスリートでも兼ね備えていないといけない重要なライフスキルになります。「応援する」という意識は見返りを考える期待という思考と差があります。応援は自らエネルギーを与え、それにより自分自身もフローになるという重要な思考です。応援のエネルギーは見返りや枠組みがないので応援するだけで自らもフローに導くことになるのです。木暮も試合に出られない悔しさなどノンフローな状況もあるなかで「応援する」というライフスキルで自身をフローにしているのです。

 彼らの有するライフスキルという思考は誰でもが日常やビジネスでも自身の心を整えてフローにするために重要なものとなります。ライフスキルに職業やポジションやシチュエーションや年齢などには全く関係なく、人の心をフローに導く思考習慣になります。そのヒントを主人公の彼らが私たちに教えてくれているのが「スラムダンク」なのです。

 ちなみにわたしは仙道彰が一番好きです。それは最も揺らがず・とらわれずなフローの心の持ち主だからです。彼のライフスキルは「フローの価値を持つ」です。仙道は心が整っていることがアスリートのパフォーマンスでも日常でもまず大事だと無意識に考えています。すなわち、フローの価値を内在化している素晴らしいアスリートの一人だと確信しています。上記のすべてのライフスキルが備わっていると言っても過言ではありません。

 

湘北メンバーのライフスキルからエクセレントチームを紐解く! 

#02後編へ続く

『スラムダンク勝利学』集英社インターナショナル/184ページ/1100円(税込) 年代を超えて読み継がれる37万部のベストセラー。桜井花道ら、物語を彩る主人公たちの心情や行動を細部まで紐解き、「人生に勝利する」方法を多角的に解説している。

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。子どもたちのごきげん授業をトップアスリートたちのごきげん先生で展開するDiSPOの代表理事。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

【Dr.辻によるスポーツから学ぶ「凪」の技術/辻秀一~back number~】

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