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【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<前編>

マクドナルドやメルカリ、SHOWROOMで組織づくりを主導し、組織開発の体系化=「カルチャーモデル」の設計方法を紐解いた『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』を上梓した唐澤俊輔氏。事業と組織を急成長させてきたスペシャリストが、スポーツチーム運営の示唆を受け、ビジネスにおける組織文化の作り方について連載で論じていく。

 

 これまでのコラムで、組織カルチャーは、ビジネスとスポーツチームとで、極めて共通点が多いということが見えてきました。カルチャーモデルは4類型に分けることが可能と私自身は主張していますが(『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』)ビジネスでもスポーツチームでも、4つのどのタイプを取ることも可能です。そして、「カルチャーに正解はなく、意思を持って選択的に方向性を決めていこう」ということを結論としてお伝えしました。

 

組織を一枚岩にするには、仲間づくりから

 第3回の今回からは、「では、目指す組織像をどのようにつくっていけばよいのか」ということについて、検討してゆきたいと思います。

 組織とは、そこに所属している「人」で成り立っています。社長や監督が「こういうカルチャーにするぞ!」と宣言したとしても、その瞬間から急にカルチャーができあがるわけではありません。組織カルチャーとは、一人ひとりの日々の言動や行動が積み上がってつくり上げられるものだからです。

 では、社長や部門のマネージャー、スポーツで言えば監督やキャプテンが、「こういうカルチャーにしたい」と思ったときに、何から始めたらいいのでしょうか? たとえば、「もっとオープンに何でも言い合える活気のあるカルチャーにしたい」と思ったとき、「オープンなカルチャーにしたいから、皆さんオープンになってください」と指示をしたとして、急にそうなると思いますか? おそらく難しいですよね。

 

中間層のリーダーなしに組織は変えられない

 まず大事なことは、仲間づくりです。人がカルチャーをつくる以上、一人ひとりが目指すカルチャーに共感し、そのための行動や言動を取っていかないといけません。メンバーが一人で「こんな組織にしたい!」と思って行動しても全体はなかなか変わらないのと同様に、社長が一人で行動しても全体は変わらないのです。日々現場で組織運営をしているのは、中間管理職と言われる課長や部長です。彼らが、理想とする組織らしい行動・言動を取らない限りは、組織全体に浸透することはありません。組織の結節点となる中間層のリーダーを巻き込みながら、浸透させてゆくんですね。

 この点、名波さんは、監督以下、スタッフと選手全員を方向付けするために、彼らが監督の方を向いているか、耳を傾けているかを常に気にかけていたそうです。コーチやトレーナー、フィジカルコーチに任せながらも、自分でもメンバー一人ひとりと会話しながら、全体を把握してズレを修正していく。ビジネスにおいて、マネージャーに任せながら、組織全体に対して自身の目指す方向へと意識づけていくことと同じです。

 

スポーツの6:2:2の法則と、ビジネスの2:6:2の法則

 さらに名波さんは、「6:2:2の法則」について触れられています。これは、名波さんが指導者になる上で、日本代表の監督を務められたハンス・オフト監督からもらったアドバイスとのこと。オフト監督からは、「60%はお前の名前とキャリアで向いてくれる選手、20%は試合に出られなかったりメンタルの問題を抱えている反対派の選手、残りの20%の浮動層を引き入れろ」と言われたそうです。そうすることで、組織全体を自分が描く方向へと向けることができるわけですね。

 これと似た話として、ビジネスではよく「2:6:2の法則」と言われたりします。「トップ20%の層は自主的に成果を上げ、ボトムの20%は成果を発揮できない層、そして中間の60%が適切な指導があれば成果に繋がる層」といった具合です。ここでは、「トップやボトムの20%が目立ち時間をかけがちだが、中間の60%を着実に育てることが、組織全体の成果を上げるには近道だ」といった文脈で語られたりします。

日本代表時代は10番を背負ってプレーした名波氏。1995年の入団時にジュビロ磐田を率いていたハンス・オフト監督から教わった「2・6・2の法則」が印象の残っているという /Getty Images

「浮動票(層)」をいかに味方にする(活かす)か?

 ビジネスの「2:6:2の法則」とオフト監督の「6:2:2の法則」とは一見異なるようですが、実は同じ話をしていると私は感じています。スポーツはビジネス以上に実力主義な側面があるため、中間層の60%は、監督のカリスマ性で強力に引っ張ることができるんですね。

一方で、トップの20%の層は、自身のサッカー観が確立し、持論が明確にあったりするので、監督の方針に単純には納得しないわけです。それがチームにおいては「浮動票」となりますが、トップ層なのでチームへの影響力が大きい層。だからこそ、「この20%を確実に味方につけろ」とオフト監督はアドバイスしたんだと思います。

 このように、チームにおいて影響力の大きい実力派だったり、リーダークラスの人材だったりといった層を巻き込みながら、自分が描くカルチャーを作り上げていくわけです。

 

組織づくりに欠かせない効果的なコミュニケーションの方法とは?

―#03後編に続く―

 

PROFILE

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ) |  Almoha LLC Co-Founder COO
慶応義塾大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者) 2020年より、Almoha LLCを共同創業。グロービス経営大学院 客員准教授。自身の経験をもとに「組織カルチャー」の可視化、言語化という難題に挑み、組織・経営課題の解決策を提示した『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓。

 

【スポーツ運営に学ぶ カルチャーモデルと組織づくり/唐澤俊輔~back number~】

【#01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<前編>

【#02】唐澤俊輔│ビジネス×スポーツに見る「カルチャーモデルの4類型」<前編>

【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<後編>

【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <前編>

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