COLUMN

【#03】辻秀一│「自立に重要なパフォーマンスマネジメント」<前編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく。

 

無人島で二人で生き残るには?

 生きるというパフォーマンスは二つで構成されています。

 それはいつでも、どこでも、誰にでも当てはまる原則であり真理です。「何を」×「どんな心で」の二つ、すなわち、内容と質で構成されています。したがって、自立とはこの二つに責任を持って生きることに他なりません。人生はもちろん、ビジネスでも同じことが言えるでしょう。

 もし無人島に取り残された時、生き残るという結果を得るなら、どんなときもするべきことを心を整えてやっていくしかないと想像できるでしょう。もし無人島に誰かと行くならどんな人がいいでしょうか? 二人で生き残るにはそれぞれが「何を」×「どんな心」でということを実行するしかありません。

 生き残るには「何を」しなければならないのか? それを長く継続的に健康を維持しながらやり続けるのは「どんな心で」の心が整っていなければならないでしょう。そして、その責任を果たす人でなければ、一緒に無人島には行けないのではないでしょうか? それこそが自立の生き方なのです。

 

「するべきこと」ができているのか?

 この社会にいると気づきにくいかもしれませんし、無人島のように死ぬと覚悟することがないのでイメージできないかもしれませんが、実は人生もビジネスも同じだと私は思っています。しいていえば、スポーツはわかりやすいかもしれません、するべきことを心を整えてプレイしないと一人でもチームでも勝つことができないでしょう。するべきことができていないか、心が乱れていては負けてしまうのでわかりやすいのです。わたしがメンタルトレーニングをしているたくさんのアスリートたちはもちろん、音楽家やビジネスマンもこの生きるというパフォーマンスの原則を理解し、するべきことを心を整えるという自立した生き方への責任をそれぞれのフィールドで果たすべく努力をしています。 この生きるというパフォーマンスに責任を持つということは、生きるをマネジメントしているのは脳なので、脳が責任を持つという事になります。「何を」を考え実行することに責任を負うのが認知脳で、「どんな心で」を整えることに責任を負うのが非認知的脳、ライフスキルということになります。

 つまりは自立の鍵こそが、認知脳と非認知脳のバランスといえるのです。認知脳は学校教育でも社会教育でも、もちろんビジネスでも要求されるので嫌でも学ばされて鍛えられていきます。するべきことは何なのか? を考え実行していく脳です。この脳も人生一生に渡って鍛えていく必要がありますが、しかし心を整えるための非認知的思考、ライフスキルの学習はどの人も不十分と言わざるを得ない現状があります。

 そこでこの場を借りてライフスキルの思考習慣をご紹介したいと思います。

 

認知能による「目標」と非認知脳による「目的」

 認知脳は目標を立てて期限を決めて、そのためにするべきことをバックキャスティングして思考する脳です。ゴールセッティングがどんな世界でも必要で、それに基づきThings To Doを明らかにして実行する。

 通常誰でもが意識している考えに他なりません。しかし、目標は達成するのかしないのか、行動は正しいのか正しくないのか? 行動はしているのかしていないのか? など0か1の世界で、心の安定は得にくいのです。

 目標に向かいますが、どこかで不安だったりブレたりして、心のノンフローがやってきます。それを気合や根性で対応しながら頑張るという構造が、しばしばスポーツだけでなくビジネスの世界でも起こっているのが現状です。

 「どんな心で」という質がそれだけでは悪くなっているということになります。そこで、認知脳による外にある目標を目指すと言う思考とは別に、なぜその目標を達成したいのかという目的を自問する思考がライフスキルになります。

 オリンピックに出場するという目標に対し、ではなぜ自分はオリンピックに出場したいのか? 自身の胸に手を当てて考えないといけないのです。目的が明確に自身の内側にあれば、どんな時もブレずに目標に向かうことができるようになるのです。

 2020東京オリンピックには私が関わっているアスリートが6競技で6人参加します。今この状況で五輪開催の可否や有無など目標の不安定性が存在していますが、彼ら彼女たちはブレることなく質高く準備をしています。それぞれ自身の目的のために活動しているので、外側にあるアンコントローラブルな状況にも関わらず、自ら心を整えて日々過ごしているのです。

 ビジネスの世界では目的が薄れて目標で動いている傾向があります。そのために心が乱れ、ストレスを感じている人たちが少なくないのではないかと私は企業のトレーニングや産業医をしていて感じます。そもそも企業もまずは目的があって設立したにもかかわらず、それを忘れて認知的なビジネス活動になってしまっているのではないでしょうか? 今一度、日々の活動の目的を考え、振り返り、話し合うことを大切にしていただきたいと思います。

 

非認知的な思考方法をさらに詳しく掘り下げる

―#03 後編に続く

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

【Dr.辻によるスポーツから学ぶ「凪」の技術/辻秀一~back number~】

【♯01】元体操のオリンピアン、田中理恵さんにみるビジネスに活かすライフスキル<前編>

【♯02】『スラムダンク』に観るエクセレントチームの考え方<前編>

【♯03】「自立に重要なパフォーマンスマネジメント」<前編>

【♯04】スポーツにもビジネスにも必要な非認知能力<前編>

【♯05】周りのパフォーマンスを引き出すリーダー(リーダーシップ)<前編>

【♯06】アスリートが伝えるご機嫌の価値<前編>

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