COLUMN

【#03】坂井伸一郎│「チームをゴールへと導く魔法のコトバ 」理念でも目標でもない「コンセプト」とは何か?<前編>

アスリートの競技成果を向上させる座学プログラムを、ビジネスなどあらゆる分野の人材育成メソッドに体系化した「スティッキー・ラーニング」を開発した坂井伸一郎氏。「絞って伝えて、反復させること」をポイントに、多業種のビジネスパーソンを 「戦力」に変えてきた人材育成のプロが、時代の変化に適応するチームビルディングの在り方について、連載でお届けしていく。

 

村井チェアマンも重要視する「コンセプトの共有」

 こんにちは、坂井伸一郎です。アスリート育成に倣う「新時代のチームビルディング」ということでコラムを書かせていただいております。今回も臨時チームで成果を出す際のポイントについてのお話で、具体的には「コンセプトの共有」という切り口で書かせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

 このテーマは、私がJリーグ チェアマンの村井さんと対談をさせていただくことが決まった時から、お話ししてみたいことのNo.1でした。もしこのコラムをご覧いただいている方でまだ村井チェアマンと私の対談をご覧になっていない方がおられたならば、ぜひともこちらの見逃し配信からご覧ください。お時間のない方で「コンセプトの共有」に関する部分だけとりあえず見ておきたいという方は、だいたい開始から25分くらい経ったところからこのテーマについてのお話が始まりますので、そこだけでもご覧いただくと良いと思います。

 村井チェアマンは臨時チームにおけるコンセプトの重要性についてこんなことをおっしゃっていました。「(サッカー日本代表のような臨時チームにおいては)チームのコンセプトっていうのを、しっかりリーダーが示して、全員に伝えることを徹底」しなければいけない。それがないと「(メンバーである選手が)自分の持ち味で代表に呼ばれても何をして良いのかわかんなくなっちゃう」と。そして臨時チームにおいては「(技術・戦術などの練習よりも)コンセプトの徹底に時間をかける」ことが重要だ、と。全くその通り。完全同意です。

サッカー日本代表のような臨時チームにおいては、「コンセプトの共有」がより必要になってくる/Getty Images

 

一人ひとりの人生に優先順位がある

 臨時チームつながりで私の経験談を少し。私は大学を卒業したのち、35歳までの13年間を高島屋という百貨店で過ごしました。入社から6年間はデパ地下を中心に働いていたのですが、特に1996年10月の新宿店の開業準備がとんでもなく臨時なチームでした。私は惣菜売場の担当だったのですが、そこは約400人の販売員で構成されました。

 開業準備ですからいままで店がなかった場所にさまざまなところからこの400人が集められたわけです。高島屋の正社員が10名程度。そこに契約社員さん、アルバイトさん、派遣社員さん、テナントの社員さんやアルバイトさんなどが高島屋の他店舗はもちろんのこと、新宿・渋谷・池袋・銀座・日本橋・上野など山手線範囲内のさまざまな競合他店からも転職や引き抜きなどで人が集まってきました。

 高島屋の新宿店開業は、当時「社運をかけたプロジェクト」と言われ、特に伊勢丹本店とのガチンコ対決が注目され、中でもその最前線が当時生まれたばかりの新語であった「デパ地下」であるとして多くのメディアに連日のように取り上げられていました。その中心である惣菜売場をこの400人の臨時チームが、わずか1ヶ月半という短期間で立ち上げなければならなかったわけです。

 ビジネス経験が豊富なコラム読者みなさまにとっては当たり前のことだと思いますが、そうではない方のために少し補足をさせていただきますと、このような多様性の高い臨時チームでは担当範囲や勤務時間帯が異なっていたり、全員が一堂に会する機会がなく仕事のコミュニケーション(いわゆる報連相ってやつですね)がなかなかに難しいだけではなく、メンバーの価値観や優先順位(ここでの優先順位は、仕事上の優先順位という意味ではなく、一人ひとりの人生において大切にしていることの順位という意味です)も実に多様なのです。

 

400人の臨時チームを同じ方向に向かわせたコンセプトとは?

 価値観や優先順位が多様な例を少しご紹介しますと、当時20代後半だった私は「おれが高島屋を救ってやる!」くらいの気持ちで1ヶ月以上休みも取れと言われても取らず、早朝から深夜まで開業準備に携わっていたのですが、一方で私より年上のKさんは始業少し前に出勤してきて、終業時刻が近くなるとおもむろに帰り支度をし始める。勤務時間中も手間がかかりそうな仕事は遠ざけるように振る舞い、単純で単調な作業仕事やひとり仕事を好んで引き受けている、なんて具合です。

 余談ですが、当時の私はこのKさんの姿勢にえらく立腹していました。「なぜあのようにやる気がない人をここに置いておくのか⁈ ここは社運のかかった新宿店だ!」と上司に食ってかかったこともありました。後に知ったのですがKさんには介護や支援が必要なご家族が複数おられました。KさんにはKさんの価値観があり人生の優先順位があったのです。今にして思えば私は実に視野が狭く、自己中心的でした。

 話が逸れてしまいました。戻しましょう。つまり、本当に多様な人たちが集まり、社運をかけて臨んだのが高島屋新宿店の開業プロジェクトだったわけです。そのような中で、何がその人たちをつなげ、同じ方向に歩ませたのか? それはまさにコンセプトでした。

 私たちが共有したコンセプトはたったひとつ「高島屋らしく、新宿のお客様を迎える」でした。でもこのコンセプトがあったことで、私たちは究極の臨時チームでありながら、まだお互いの顔と名前も覚えきれていない400名でありながら、暗闇に迷い混乱することなくゴールを共に目指して突っ走ることができたのです。

 

共有できねば意味がない コンセプトのコトバの意味を追求する

03後編に続く

 

PROFILE

坂井伸一郎(さかい しんいちろう) | 株式会社ホープス 代表取締役
成蹊大学卒業後、株式会社高島屋に入社して13年間在職。販売スタッフ教育や販売スタッフ教育制度設計も担当した。ベンチャー企業役員を経て、2011年に独立起業。現在は教育研修会社の代表を務めつつ、自ら講師として年間50本・2500名(業界の偏りはなく、製造業・サービス業・金融業・病院・学校法人など多岐にわたる)の研修を行なっている。社会人研修の他に、プロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修の講師経験も豊富(年間のアスリート座学指導実績1000名超は、国内屈指の実績)。講師としての専門領域は、目標設定・チームビルディングなど。座学慣れしていないアスリートへの指導経験が豊富ゆえに、「わかりやすく伝える」「印象に留めるように工夫する」という指導法を用いる。この指導教育メソッドを体系化した「スティッキー・ラーニング」は、アスリートのみならず、一般ビジネスパーソンにおいても、組織全体の人材レベルアップを図れると高く評価されている。

 

【アスリートに倣う「新時代のチームビルディング」/坂井伸一郎~back number~】

【#01】村井チェアマンの示唆を受けたビジネスとスポ―ツの相関関係<前編>

【#02】「臨時チームで個の戦力を最大化する方法を教えます」<前編>

【#03】「チームをゴールへと導く魔法のコトバ 」理念でも目標でもない「コンセプト」とは何か?<前編>

【#04】 ニューノーマルのチームビルディングにおける時間と空間の超え方 <前編>

記事に対するコメント

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。

関連記事