COLUMN

【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <前編>

マクドナルドやメルカリ、SHOWROOMで組織づくりを主導し、組織開発の体系化=「カルチャーモデル」の設計方法を紐解いた『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』を上梓した唐澤俊輔氏。事業と組織を急成長させてきたスペシャリストが、スポーツチーム運営の示唆を受け、ビジネスにおける組織文化の作り方について連載で論じていく。

 

 前回のコラムでは、組織づくりの手法論として、いかにして仲間を巻き込みながら組織づくりを推進してゆくかについて検討しました。チームづくりという点では、ビジネスとスポーツで共通する点は多く、特にプロスポーツという尖ったタレントが揃う環境におけるチームづくりの難易度は高く、だからこそ、その思考法や手法はビジネスに活用できるということが分かってきました。

 

チームづくりにおける採用の重要性

 第4話の今回は、「採用」です。前回は、既存メンバーの巻き込み方について検討をしましたが、理想とするカルチャーを作り上げるには、採用という入り口の重要性を忘れてはなりません。

 人材には、一人ひとりそれぞれ個性があります。個性はあって然るべきですが、あまりに考え方や行動の様式が異なるメンバーが急にたくさん入ってきたら、組織は混乱してしまいますよね。一方で、組織を大きく変革していこうとするときに、従来と同じタイプのメンバーばかり採用したとして、組織を変えていけるのかという疑問も残ります。このように、従来の組織の良さを伸ばしていくにしても、組織を変革していくにしても、採用が既存組織に与える影響は大きいのです。

 組織に所属する中での、従業員体験(以下EX。Employee Experienceのこと)のプロセスは、採用にはじまり、評価、異動、育成、昇進、など多岐に渡ります。このEXのプロセスにおいて、採用が重要である理由は、それが「不可逆な意思決定」だからです。

 採用したメンバーの仕事の進め方が周囲と合わず成果が挙がらないからといって、「やっぱりあの採用なかったことに」とは、いかないのです。何とか成果を挙げてもらうようにマネージャーは努力しますが、結局周りとは合わず、成果が出ないばかりか、全体の生産性を下げてしまうこともしばしば起こります。そうなると、組織としても大きなマイナスですし、本人にとっても人生において辛い時期を過ごすことになってしまいます。

 

異物としてあえて獲得した中村俊輔選手

 スポーツチームにおいても、採用の重要性は名波さんも言及されていました(「唐澤俊輔×名波浩『最適な組織カルチャーの作り方』見逃し配信参照。一般的には「現有戦力で成果を出すのが監督の役割」とされますが、名波さんは「監督として採用には当然意見をする」と言われていました。

 実際、名波さんがジュビロ磐田の監督として獲得した選手に、あの中村俊輔選手の名前があります。中村選手の獲得においては、「マーケティングも含めて、組織としてどれだけ変化があるのか見てみましょうと、社長を自分で口説いて獲得した」と名波さんは話されています。

 名波さんの話を総合すると、中村選手の獲得には3つほど狙いがあったように思われます。一つは、セットプレーの得意な選手がいなかったのでそこを補うこと。二点目に、ファンの増加などマーケティング目的。そして三点目は、周囲の若手選手の育成です。そして、それらの狙いを見事に全て達成されていたようでした。

 

 一点目のセットプレーについては、中村選手なので言うまでもないでしょう。移籍後3試合目となる第3節(2017年3月11日の大宮戦)で、早速フリーキックでのゴールを決めています。

 二点目のマーケティングについては、「想像を遥かに超えていた」と名波さんは言われていました。「何千とファンクラブが増えて、入場者も平均3,000人上がり、ユニフォームも飛ぶように売れました。 前年は4,800枚だったのが、俊輔一人で7,000弱も売れましたから。他の選手も売れる相乗効果があり、スポンサーも増えました」ということで、マーケティングの面だけでも、中村選手の獲得コストのリターンは確保できてそうですね。

 そして、注目したいのは、三点目です。中村選手の個人技だけでなく、チーム全体の強化にも期待していたわけですが、その結果について名波さんは、「勝ち点という意味でも前年よりはるかに積み上げられました。一般の方では気付かないような、でも我々プロだとわかる単純な技術が明らかに向上し、若い選手の刺激となり、その後、代表選手として日の丸を背負うようになった選手もいます」と言われていて、チームの底上げを見事に成し遂げています。

 このように、従来のジュビロ磐田から大きく変革するための武器として、サッカー界のレジェンドともいうべき中村選手を獲得したのです。そして、これまでにないある種の「異物」を取り込み、組織の刺激にしたことで、これほどのインパクトが一人の採用によってもたらされたわけです。

2017年、名波浩監督率いるジュビロ磐田は中村俊輔(写真・奥)を獲得。偉大なレジェンドの“採用”には戦力としてだけでなく、複合的な狙いがあったという。/Getty Imeges

 

異物の採用がマイナスにならないための対処法とは?

―#04後編に続く―

 

PROFILE

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ) |  Almoha LLC Co-Founder COO
慶応義塾大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者) 2020年より、Almoha LLCを共同創業。グロービス経営大学院 客員准教授。自身の経験をもとに「組織カルチャー」の可視化、言語化という難題に挑み、組織・経営課題の解決策を提示した『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓。

スポーツ運営に学ぶ カルチャーモデルと組織づくり/唐澤俊輔~back number~】

【#01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<前編>

【#02】唐澤俊輔│ビジネス×スポーツに見る「カルチャーモデルの4類型」<前編>

【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<後編>

【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <前編>

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