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【#04】辻秀一│スポーツにもビジネスにも必要な非認知能力<前編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく。

 

非認知能力と認知能力の違い

 非認知能力とはこれまでも触れてきましたが、見えない質、特に心を大事にできる能力を言います。認知的能力の反対というか認知にあらずの能力になります。

 認知能力とは通常のわたしたち人類が文明を発達させてきた動物とは違った特に人間固有の脳の力になります。すなわち、結果を生み出すためにどのような行動をしたらいいのか、を考え実行させる能力です。

 さらに外界、環境や出来事や他人との接着を高めて、その情報を行動や結果のために利用していくのです。極めて優れた脳力といえるでしょう。さらに、人間だけが言葉を有していて、意味づけをしていくという離れ業を人間の認知脳はやってのけます。

 例えば、誕生日を特別の日だと思います。朝5時を早いと意味づけするのです。雨が降ると憂鬱だと意味を付けるのは人間だけなのです。誕生日に朝5時起きの仕事があり、その日が雨だったらどうでしょうか? 最悪という意味付けを認知脳はどんどんとしていくのです。

 

認知脳の「意味づけ」のメカニズム

 そもそも認知脳の意味づけは生命維持のため行われてきました。ライオンを見たらヤバいと意味づけするから逃げられたのです。がしかし、この脳はどんどん進化し、生命維持以上の結果を生み出すために、意味に溢れるようになったのが現代社会です。

 すなわち、人は認知脳があるので意味で動き、しかも生命維持のために元々のネガティブな意味づけをする習性だけは変わらないので、さまざまな負の感情を抱えてストレスの海の中で溺れているのです。

 もう意味から離れることはできません。そこで人類はポジティブな意味づけをすればストレスは軽減できると考え、ポジティブシンキングやプラス思考が蔓延しています。

 昔よく言われた例があります。コップに半分、すなわち2分の1の量の水が入っているとします。半分しかないと思うのか半分もあると思うのか? 半分もあると思いましょうとポジティブシンキングが推奨されています。しかし、半分しかないという意味づけを持つ人がいきなり半分もあるとポジティブに考えるのは簡単ではありません。自分にウソをついていることにもなり、自然体なフローではないのです。

 朝五時も遅いと思おう、雨もいい事と思おう、という意味のすり替えに私たちは疲れているのです。そもそも「半分しか」も「半分も」もただの意味づけにすぎないのです。真実はコップに2分の1の量の水が入っていて、そもそも多いとか少ないなどの意味など付いてなく、それに自分固有の意味づけをしているのだということ。意味を付けてはいけないのではなく、元々意味のついてないという事実とそれに自分が勝手に意味づけをしているという事実、この2つの事実によって形づくられた真実を見つめましょう。

 それが非認知的思考です。ポジティブな意味づけをしようと頑張る意味づけ解決型の認知脳、一方で自分に気づき真実に従ってあるがままに生きるのが非認知脳の生き方です。

コロナ禍での開催となった東京オリンピック2020。辻氏は7競技8人のアスリートたちのメンタルトレーニングを担当している。/Getty Images

普遍的な認知脳の仕組みに「気づく」心のマネジメント

 認知脳は意味以外にも、結果、行動、外界(環境・出来事・他人)への接着を24時間365日し続けて、マインドレス状態を導きストレスへと私たちを引き込んでいきます。

 非認知脳はその自分に気づき、認知脳の暴走をマネジメントするのです。意味に翻弄されている自分、結果に取りつかれている自分、行動に依存してストレスコーピングに頼っている自分、そして外界に振り回されている自分、これらの自分に気づいていくのが非認知脳の役割です。

 この脳機能がないと認知は益々暴走していきます。すなわち、ストレスは益々、悪化していくのです。さらに認知脳は結果や行動のための情報を今ある外界だけじゃなく、過去や未来にも手を出していきます。過去を見て反省・分析し、未来を見て計画・予定を立てて行動して結果を出そうとするのです。

 この極めて優れた認知的な脳の使い方をPDCAと言います。PDCAは認知的な脳の機能で、この社会でスポーツも勉強もビジネスも結果を出すために重要な脳の使い方といえるでしょう。

 しかし、認知的です。

 過去は変えられないので囚われの原因にもなり、未来はわからないので不安や心配や油断や諦めなどの揺らぎの原因にもなるのです。

 この自身の心の乱れのリスクを持ってPDCAを回しているのが現状です。しかし、心は乱れ、実は質の高い仕事、練習、試合、営業、商談、プレゼン、勉強などが出来なくなっているのです。

 これらの認知脳のリスクをヘッジするのが非認知脳の役割です。過去に囚われている自分に気づき、未来に揺らいでいる自分に気づくことでそのリスクは少し軽減されるのです。自身のすなわち人類の普遍的な認知脳の仕組みに気づいて大事な自分の心をマネジメントしてあげるスキルが非認知スキルなのです。

 

ノンフローの海から脱出しフロー大地に足をつける

非認知スキルの磨き方とは?

―#04 後編へ続く

 

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

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