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【♯04】中島輝│ 失敗を成功へと導く。リーダーに必要な「声かけ」のポイント -前編-

自身の引きこもり経験克服を機に独自のコーチングメソッドを開発し、多数の企業経営者、アスリートなどのカウンセリングを務める中島輝氏。ベストセラー『自己肯定感の教科書』の著者であり、“自己肯定感の第一人者”として注目を集める人気カウンセラーが、社会で生き抜くために必要な実践的な技術を連載形式でお届けする。

写真/川しまゆうこ 

 

心理カウンセラーの中島輝です。

今回とり上げるのは、失敗を成功へと導くためにリーダーが行うべき「声かけ」です。スポーツには失敗がつきものです。そして、失敗してしまうと「落ち込む」ことにもなります。もしチームのメンバーがひどく落ち込んでしまったとしたら、当然ながらチーム全体のパフォーマンスは大きく低下するでしょう。

そんな事態を招かないためには、リーダーが適切な声かけをすることで、落ち込んでしまったメンバーを立ち直らせてあげなければなりません。心理学の見地から、そのためのポイントを解説します。

 

「落ち込む」ことは、自分自身を守るための危険信号

 スポーツに限ったことではありませんが、なんらかの失敗をした場合に、すっかり落ち込んでしまう人もいます。そもそもわたしたちはなぜ「落ち込む」のでしょうか? じつは、落ち込むことも、人間に必要だからこそ備わっている機能なのです。

 その理由を理解するために、まずは以下の図をご覧ください。これは、ハンガリー出身のアメリカの心理学者、ミハイ・チクセントミハイが提唱したメンタルステート図と呼ばれるもので、人間の心理状態を8つにわけたモデルです。

【ミハイ・チクセントミハイのメンタルステート図】

 一見してわかると思いますが、8つの心理状態のうち、「不安」「心配」「無感動」「退屈」の4つはネガティブなものであり、残る4つの「覚醒」「フロー」「コントロール」「リラックス」がポジティブなもの。そして、わたしたちはどんなときに落ち込むかというと、当然ながらネガティブな心理状態のときです。ポジティブな心理状態のときに落ち込むことはありません。

 スポーツの場で考えると、人が落ち込むのは、本番を前に不安になったり、それこそ失敗をして「また同じ失敗を繰り返したくない……」と心配したり、失敗したことによって「こんなスポーツをやっていてもいいことも楽しいこともない」と無感動の状態におちいったり退屈を感じたりしたときです。

 では、不安、心配、無感動、退屈という心理状態はわたしたちにとって好ましいものでしょうか? そうではありませんね。ならば、そういう心理状態をもたらすような、いわば危険な場から自身を遠ざけなければなりません。つまり、「落ち込む」とは、「いまの状態はよくないぞ」「その場から離れたほうがいいぞ」という危険信号であり、自身を危険から守るための防衛機能と見ることができます。

 

4つのポジティブな心理状態に自分を導く

 落ち込むことが人間に必要な機能だといっても、落ち込むことが危険信号である以上、落ち込んでしまったときにはなるべく早く立ち直りたいものです。どうすればそうできるでしょうか? まずは落ち込んでしまった本人にできることからお話しましょう。

 先に「ポジティブな心理状態のときには落ち込むことはない」と述べました。そうであれば話は簡単です。自分の心理状態をポジティブな方向に導いてあげればいいのです。そうするために、先に紹介したメンタルステート図をもう一度ご覧ください。8つの心理状態のうち、ポジティブなものは「覚醒」「フロー」「コントロール」「リラックス」の4つでした。つまり、自分の心理状態をこの4つに導いてあげればいいというわけです。

 わたしたちの心理状態は、睡眠の質とも大きくかかわっています。徹夜明けで頭がぼーっとしているときにプラス思考は持てません。十分に睡眠をとってしゃきっと覚醒しているときにこそ、ものごとをポジティブに考えられます。ですから、落ち込んだときにはしっかり眠ることを意識してほしいと思います。

 リラックスする方法については人それぞれでしょう。仲のいい友人とおしゃべりをしてもいいし、好きな音楽を聴いたりお酒を飲んだりすることでもいい。落ち込みに適切に対処するため、自分なりのリラックス法を日頃から見つけておくことが大切です。

 また、コントロールとは自分自身をコントロールすることですから、ひとりの時間をつくってポジティブな未来を計画することをおすすめします。「こんなことができたらいいな!」と夢を思い描くのです。そして、「こんな勉強をする必要がありそうだ」というふうに、夢を叶えるための具体的なプランも同時に考えてみる。そのことが、なりたい自分に向かって自分自身をコントロールする感覚を生んでくれ、落ち込みから脱するための手助けとなります。

 最後のフローとは、なんらかのものごとに「無我夢中になっている」状態を指します。スポーツをやっている人なら、それこそそのスポーツに夢中になって取り組むことでもいいでしょう。好きではじめたスポーツなら、自分にとって無我夢中になれる要素が必ずあるはずです。失敗してその瞬間は強く落ち込んでいたとしても、気持ちがちょっと落ち着いてきたときに再びそのスポーツに取り組んでみるのです。

 あるいは、思い切り泣くということでもいいと思います。大人になってからはそうないかもしれませんが、うわーっと泣いたあとにすっきりしたという経験は誰しもにあるはずです。思い切り泣くことは、見方を変えると泣くという行為に無我夢中になっていることだといえます。つまり、フローの状態になっているのです。

スポーツにおいても不安、心配、無感動、退屈という心理状態は常に伴うもの。素早く自分をポジティブな心理状況に導くには?/ Getty Images

落ち込みからメンバーを救う声かけのポイントは7つ

 このような、落ち込んでしまったときの対処法を誰もが知り、自ら実践できることが理想的です。ですが、現実には難しいでしょう。とくに団体競技の場合には、メンバーの誰かがひどく落ち込んでしまったためにチーム全体のパフォーマンスが大きく低下するということも考えられます。そういう意味では、リーダーの役割がとても重要になってきます。

 落ち込んだ本人とは異なる他者であるリーダーにできることとなると、やはり「声かけ」がメインとなるでしょう。落ち込んでしまったメンバーに声かけをするときには、次の7つのポイントを意識してください。

 

 これは、「良好な人間関係を築く7つの習慣」としてわたしが提唱しているものですが、リーダーの声かけにも転用できるものです。この7つの対極には、「人間関係を破壊する致命的な7つの習慣」というものがあります。それは、「①批判する」「②責める」「③罰する」「④脅す」「⑤文句をいう」「⑥ガミガミいう」「⑦褒美で釣る」というもので、いわばNG項目です。

 つまり、①の場合なら、批判するのではなくまずはじっくりとメンバーの言葉を傾聴する、②ならメンバーの失敗を責めるのではなく失敗から立ち直ることを支援する——といったふうに、NG項目と対極にある7つのポイントを意識して、声かけに使う言葉を選ぶのです。

 リーダーという責任ある立場の人は、よかれと思ってNGの声かけもしてしまいがちです。「メンバーに奮い立ってもらいたい!」という思いからつい責めるような口調で叱ってしまうようなこともあるでしょう。もちろん、それでうまくいくケースもあるでしょうけれど、メンバー本人にその思いが伝わらなければなんの意味もありません。逆に、そのメンバーをますます落ち込ませてしまう可能性もあります。そんな悲劇を招かないために、声かけの基本としてこの7つのポイントを意識してほしいと思います。

 

 

スポーツがビジネスパーソンにもたらす科学的なメリットとは?

―#04後編に続く―

PROFILE

中島輝(なかしま てる) | 「トリエ」代表 /「肯定心理学協会」代表
心理学、脳科学、NLPなどの手法を用い、独自のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「肯定心理学協会」や 新しい生き方を探求する「輝塾」の運営のほか、広く中島流メンタル・メソッドを知ってもらうための「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感ノート講座」「自己肯定感コーチング講座」などを主催。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)など多数。7月8日に新刊『習慣化は自己肯定感が10割』(学研プラス)が発売。

 

【第一人者が解き明かす“自己肯定感”のビジネス学/中島輝~back number~】

【♯01】<前編> 自己肯定感から見る組織論「自己肯定感」は「心理的安全性」から生まれる

【♯02】<前編>やるべきは、自分自身の怒りのコントロール。チーム・組織における「怒りのトリセツ」

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【♯05】<前編> やっぱりコミュニケーションがすべて。心理学から見る最強のチームワーク

【♯06】<前編>目に見えない敵「プレッシャー」の正体とプレッシャーに強い体質を手に入れる方法

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