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【#06】辻秀一│アスリートが伝えるご機嫌の価値<前編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方をお届けしてきた当連載も今回で最終回。辻氏が長年取り組む活動の根源である「ご機嫌の価値」に迫ります。

 

スポーツの存在意義は何か?

 スポーツはみなが勝つためにやります。負けるためにやっている人はいないでしょう。しかし、スポーツは負けます。1試合やれば必ずどちらかが負けて敗者となります。大会であればそのほとんどは負けて最後まで勝つのは1つのチーム1人のプレイヤーのみです。

 今年の夏に行われた東京2020オリンピック・パラリンピックもほとんどのアスリートとチームが負けて東京を去りました。みな勝つために東京にやってきたのにもかかわらずです……。みな勝つためにスポーツに取り組む、がスポーツはほとんどが負ける。なのになぜ、スポーツはなくならないのか? アスリートはスポーツを辞めないのか? それを考えるのがスポーツの存在価値に他なりません。

スポーツでは勝者より敗者の方が圧倒的に多い。それでもなぜ、スポーツはなくならない のか。/ Getty Imeges

 

 スポーツの存在意義のヒントにさまざまな文化があります。文化とはカルチャー、語源はフランス語系のラテン語でカルティベイティブとなり、意味が「人として耕され心豊かに生きるための人間活動」になります。文化の意味を知るとまさにスポーツの存在意義がそこにあるとわたしは思います。

 すなわち、スポーツは文化である、だから勝敗に関係なくこの世の中に存在しているのです。わたしは人の人生の心の豊かさを表すQOL(Quality of life=生活の質)という点から見たとき、スポーツで感じるもの、スポーツで動かされるものは何かを考えました。

 

スポーツですべての人にご機嫌な人生を!

 その結果、次の4つを感じることが人生の豊かさなのだと思っています。それは、元気、感動、仲間、成長です。それに気づくヒントは世界的に有名な日本画家の方がある番組で語っていたことにあります。「日本画は社会のGDPに直接寄与していないのに、なぜこの世の中に消えてなくならないのか?」という話の中で、「日本画は人に元気や感動や仲間や成長を生み出しているからなのです」とその日本画家は方は言っていました。それはまるでスポーツでわたしが感じている価値と同じだと確信しました。

 みなさん、考えてみてください。

 元気や感動や仲間や成長を感じない人生。それはとてつもなくむなしく質の悪い日々だと思うのです。スポーツの真の存在価値はこの4つを人生に与えることなのです。と考えると、アスリートたちは自らそれを感じ、そしてプレイすることで社会にこれらを感じてもらう、それが真のスポーツの姿なのだと思います。元気感動仲間成長を感じる人生はご機嫌でもあります。スポーツですべての人にご機嫌な人生を! これがスポーツの社会的意義なのです。

 

スポ―ツの価値を高める活動

 スポーツの世界で勝つために自己研鑽を重ね、己事究明していくアスリートたちが得たご機嫌に生きるためのライフスキルを社会に還元する活動を行っています。一般社団法人DialogueSports研究所を3年前に立ち上げました。

 ご機嫌の価値、それをもたらすライフスキルの価値を社会、特に子どもたちに還元することを使命として、スポーツ界で日本代表や日本一となったアスリートたちに声をかけて設立した法人になります。理事のアスリートはラグビーの廣瀬俊朗氏、水上スキーの廣澤沙綾氏、フットサルの北原亘氏、ラクロスの小堀宗翔氏、ブレイキンの石垣元庸氏の5名になります。ご機嫌の価値、対話の価値、アスリートの価値を高めるというこの理念に賛同し集まっている日本のトップアスリートたちは2021年12月現在で40名となります。

 活動の柱は子どもたち向けの『ごきげん授業』となります。アスリートのごきげん先生たちがご機嫌の体験を、対話を通して届ける授業です。子どもの頃に知識ではなく、体験としてご機嫌を感じると、偏桃体や海馬に記憶として残り、その後の人生でライフスキルなどの非認知的な脳が育まれやすいという仮説に基づき子どもたちへのアプローチを主体として活動しています。

 

非認知脳を刺激する「楽しい」の源とは?

― 後編へ続く 

 

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

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