自身の引きこもり経験克服を機に独自のコーチングメソッドを開発し、多数の企業経営者、アスリートなどのカウンセリングを務める中島輝氏。ベストセラー『自己肯定感の教科書』の著者であり、“自己肯定感の第一人者”として注目を集める人気カウンセラーが、社会で生き抜くために必要な実践的な技術を連載形式でお届けする。
写真/川しまゆうこ
心理カウンセラーの中島輝です。
今回とり上げるのは、「プレッシャー」です。「プレッシャーに押しつぶされそう」という表現もあるように、一般的にプレッシャーを感じることにはあまりよくない印象があります。ただ、一方では「いい意味でプレッシャーを感じる場面」というふうに、プレッシャーを好意的にとらえることもあります。
そもそも、プレッシャーとはなんなのでしょうか。その正体を、心理学的見地から解説し、プレッシャーに強い体質になるための方法までご紹介しましょう。
人類が「生存」のために獲得したプレッシャーというシステム
「プレッシャー」とは、心理学においては「精神的な圧力」と定義づけられます。スポーツ選手なら絶対に負けられない試合を前にしたような場面で、一般のビジネスパーソンなら重要なプレゼンや商談を前にした場面などで、ほとんどの人が緊張感を覚えます。その緊張こそがプレッシャーといってもいいかもしれません。
あるいは、他人から与えられるプレッシャーもあります。たとえば、体調を崩しているのに出勤を強要してくるようなパワハラを受けたときなどです。これは、先の緊張とは少し異なりますが、精神的に追い詰められるという点においてやはり「精神的な圧力」といっていいでしょう。
では、そもそもなぜわたしたちはプレッシャーを感じるのでしょうか? その答えは、「生存」のためです。
目の前に危険な猛獣がいる場面を想像してみてください。その場でプレッシャーを一切感じない人がいたとしたらどうでしょう? その人には危険が及び、場合によっては大切な命を落としてしまいますよね。でも、実際にはそうはなりません。わたしたちは「いまはすごく重要な瞬間だぞ!」と自分自身にいい聞かせ、生き残るために適切な行動を選択できるようなシステムを持っています。
そのシステムこそがプレッシャーです。
ただ、大むかしならともかく、現代人の場合は直接的に生死にかかわるような場面に遭遇するようなことはそうはありません。プレッシャーがかかわるのは、先にお伝えしたような大事な試合や商談、プレゼンといった場面です。だからこそ、そういった場面でのパフォーマンスを高めるには、ただ自然に身を委ねるのではなく自らプレッシャーをコントロールすることが大切になります。

あらゆる重圧を跳ね除け、日米で偉業をなしたイチローさん。何事をも受け入れる視野の広さにプレッシャーに打ち勝つヒントがある?/ Getty Images
プレッシャーは感じ過ぎても足りなくてもよくない
では、パフォーマンスを高めるようなプレッシャーとはどういうものでしょうか。それについては、「ほどよいプレッシャー」としかいいようがありません。プレッシャーの度合いを数値化するようなことはなかなか難しいからです。
ただ、本人の心身に表れる状態によって、プレッシャーの度合いをある程度知ることはできます。プレッシャーというものは、強く感じ過ぎても足りなくてもいいパフォーマンスにはつながりません。
プレッシャーを強く感じ過ぎてしまうと、焦ってしまったり力んでしまったりします。あるいは、「こんなよくないことが起こったらどうしよう……」というふうに先のことをネガティブにとらえがちになります。
また、プレッシャーが足りない人の場合は、先の猛獣を前に自らを危険にさらしてしまう人のような状態に陥ります。注意力が散漫となり、やる気というものを失ってしまうのです。どちらの場合も、スポーツにせよビジネスにせよいいパフォーマンスを発揮しづらくなることは明白ですよね。
一方、ほどよいプレッシャーを感じているときというのは、いわゆる「ゾーン」だとか「フロー」といわれる状態に入ることができます。目の前のやるべきことにしっかりと集中できる反面、冷静に周囲のこともよく見えていて的確な判断を下すことができます。そのためにパフォーマンスが高まるのです。
多様性を受け入れることが、チームワークの可能性を広める?
PROFILE
- 中島輝(なかしま てる) | 「トリエ」代表 /「肯定心理学協会」代表
- 心理学、脳科学、NLPなどの手法を用い、独自のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「肯定心理学協会」や 新しい生き方を探求する「輝塾」の運営のほか、広く中島流メンタル・メソッドを知ってもらうための「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感ノート講座」「自己肯定感コーチング講座」などを主催。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)など多数。
【第一人者が解き明かす“自己肯定感”のビジネス学/中島輝~back number~】
【♯01】<前編> 自己肯定感から見る組織論「自己肯定感」は「心理的安全性」から生まれる
【♯02】<前編>やるべきは、自分自身の怒りのコントロール。チーム・組織における「怒りのトリセツ」
【♯03】<前編>スポーツが育んでくれる、ビジネスシーンで役立ついくつものマインド
【♯04】<前編>失敗を成功へと導く。リーダーに必要な「声かけ」のポイント
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