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森重真人│「人生の成長の中でサッカー、スポーツは人格形成で一本の柱になる」

 

小さな成功体験の積み重ねが自主性を生む

Getty Images

 

──森重選手の前に踏み出す自主性は、子どもの頃からの性格も影響していますか?

「いや、子どもの頃は無意識でやってきました。サッカーを続けていく中で培われていったものだと思っています。点を取りたいからシュート練習をする。相手を抜きたいから誰よりもドリブルの練習をする。今までできなかった左足のキックが、試合で蹴られるようになる。そういった小さな成功体験を無意識のうちに積み重ねていくことで、自ら次のことに挑戦する意識が生まれたのだと思います」

 

──リラックスできる環境でトレーニングを積み、試合という本番の舞台でチカラを発揮できるようになったと。

「小学生の頃にライバルがいて、彼は僕よりずっとサッカーが上手かったんです。その子に『勝ちたい』という負けず嫌いな気持ちがあったからこそ、チーム練習以外の場所でボールを蹴ったりだとか、ドリブルをして練習したんだと思います。そしてチーム練習でその子との力量の差が縮まったかを測る。その繰り返しだったと思います。自分の技術を個人で磨く遊びの場所、その成果を発揮し力量を試す場所があると、子どもにもわかりやすいですよね」

 

──そのような環境を作っていくことが大事かもしれないですね。

「今はYouTubeなど映像で何でもわかるじゃないですか。同じ学年でもリフティングがすごく上手い子がいる、といった物差しがすぐ見つかる。比較対象と自分との差を埋めていくという作業もやりやすいと思います」

 

──リラックスできる環境の方が、人は自主的に行動できますよね。

「“熱中”に敵うものはないと思います。学校から帰って、『やっとボールを蹴られる!』と意気込むのと、『嫌だな……』と渋々公園に行くのとでは、同じ練習をすることでも大きな違いがありますよね。その環境は大人がつくって上げられるものもありますが、何より子どもの気持ちの持ちようが大きいと思います」

 

スポーツで培われる「社会人基礎力」。自己分析の取り組み方

──サッカーに限らず、いろんなスポーツにも当てはまりますよね。遊びから入って、スキルを鍛錬していく。経済産業省では「人生100年時代の社会人基礎力」として、「前に踏み出すチカラ」、「考え抜くチカラ」、「チームで働くチカラ」の3つの能力(12の能力要素)の重要性を示しています。森重選手から聞いたお話からも、これらの能力はスポーツの中にあることを再認識しています。

「今は情報がたくさん入ってくる中で、選択するチカラもすごく重要になってくると思います。僕も食について勉強した時に、いろんな情報に触れ、どれが自分に合っていて継続できるものなのか考えたことがあります。情報に溺れてしまうのではなく、整理できるチカラも重要ですよね」

 

──スポーツで大成した選手は、共通して「自己分析できる能力」が秀でているように思います。

「自分の性格・能力を分かっているからこそ、できること、できないことが判断できると思います。僕も誰かに伝えるために、自分を見つめ直し、考えて、言葉に落とし込んでるからこそ、今こうやってしゃべることができています。小学生のうちに自分がどういう人間で、どんな性格で、何が短所で何が長所なのか、しっかり考えることができれば得られるものも多いと思います。自分で考えて勉強してから情報に触れるのと、そうでないのとでは吸収力が違いますからね。子どもに『自己分析』というとハードルが高く感じてしまいますが、小さい頃から少しづつ自分を見つめ直すトレーニングをしてもいいと思います」

 

──子どもに求めすぎてもプレッシャーになってしまいますし、タイミングを見て手を差し伸べてあげたり、先回りに言葉を投げかけてあげることが大事かもしれないですね。

「子どもが今、何に悩んでいるのか。右も左もわからない子に対して、無理やりに道に乗せるのではなく、ヒントや情報を少しでも与えてあげる。そうすることで、自然と子ども自身が考え出すのではないでしょうか」

 

──なるほど。森重選手の話を聞いていると、自己分析ってまずは親がしないといけないのかもしれませんね(笑)。

「そうですね(笑)。家族で話すことってすごく大事だと思うし、子どもにとっても『両親がそういう思いを持って接してくれているのだな』と気づく時がいずれ来ると思うんです。声掛けをし続けることが大事なんだと思います」

 

個の「考えぬくチカラ」が「チームで働くチカラ」につながり、組織はさらに大きくなる

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──「チームで働くチカラ」もスポーツで身に付く能力ですよね。

「チーム、組織で勝つこともありますが、それを細かく割っていくと、局面は個人との戦いでもあります。人が言ったことに同意して、ただやり過ごすのが『チームで働くチカラ』ではないと思います。自分で考えて、主張するところは主張して、その中でいろんな意見がぶつかり合って、まとまっていくのが強い組織になる方法だと思います。決して空気を読んでサッカーせよ、ということではないと思うんですね」

 

──個が役割を全うしなくては組織にはならないですが、その個が与えられた役割を超える成果を出すことで組織はさらに大きくなっていく。

「そうですね。それには個人が考えないと役割以上の力を発揮することは難しいでしょう。つまり先ほどの『考え抜くチカラ』につながると思います。極端なことを言うと、与えられたことは考えなくてもできます。それだけじゃなくて、冒頭で述べたように、プラスαで自分なら何ができるかを考える。そこに差ができるんだと思います」

 

──最初の森重選手の話につながりましたね。サッカーのポジションは社会に置き換えても、例としてすごくわかりやすい。

「もちろん、ビジネス上のルールや厳しさがあることは前提として、真剣に高校卒業までサッカーをやっていれば社会でも通用すると思います。僕の経験を振り返っても、サッカーよりキツいことってなかなかないです(笑)。それだけ、困難を乗り越えてきたたという自信にもなると思います」

──森重選手がキツいとおっしゃったのは、自分のキャパシティ以上のプレッシャーや矛盾を克服してきた経験があってのことだと思います。そこを乗り越えることで、メンタルが鍛えられるのもスポーツの魅力だと思います。そこで逃げ癖がつかないように、成功体験を積み重ねていけば、大人になった時に森重選手のように「どんな苦しいことがあっても大丈夫」と言えるようになるのではないでしょうか。

 

子どもが“大好きなこと”に出会うために親ができること

――可愛い子どもが困難に直面したとき、「もっとやれ」というのは酷かもしれませんが、何より会話をすることが重要なのかもしれませんね。

「本当にサッカーが好きだったら、辞めないと思います。好きだからこそ、キツいこともやらないといけない。実際、大好きなサッカーだって、嫌なことやキツいことの方が多いんですよ。それでも続けられるのは、それだけ好きな証拠なんだと思います。そこまで好きになれることを親が見つけてあげられたらいいですけどね」

 

──親がきっかけを作ってあげることも大事だと思いますし、意外と子どもは好きなことを自分で見つけて来るんですよね。

「自分がサッカーをしてきたから、子どもにもやらせたいと思う親もいるでしょう。その環境が子どもにとって『当たり前』になることは、僕は決して悪いことではないと思います」

 

──そこで好きになってくれるのなら続ければいいし、何らかのシグナルを発しているのなら、違うきっかけを与えてあげればいいということですね。もっとお話したいところですが、そろそろお時間となってしまいました。最後に皆様にメッセージをお願いします。

「このような機会をオンラインでできることは僕にとっても嬉しいことです。発信し続けていくつもりですので、子どもとの関わり方、悩んでいることがあれば参考にしていただきたいと思います。コロナで遊べない中、自宅にいることが医療従事者の貢献になっているはずです。もう少しみんなで我慢してみましょう。今日はありがとうございました」

 

PROFILE

森重 真人
1987年5月21日生まれ、広島県出身。読みの上手さを活かしたボール奪取とテクニックに優れたDF。FC 東京、日本代表でもキャプテンを務めた経験がある。私生活では子育て論を話すなど教育について熱心な一面も。

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