スポーツは社会に対して、どんな価値を提供できるか──。元ラグビー日本代表で現在は人材育成に勤しむ野澤武史氏、そして「メルカリ」「鹿島アントラーズ」の両取締役を務める小泉文明氏が解き明かす。あらゆる領域でイノベーションが求められる今、小泉氏が発した「スポーツチームがスポーツだけやっていればいい時代は終わった」の真意とは?(※2021年5月に収録)
目次
ビジネスの成功を後押しする、スポーツチームの「ブランド力」
野澤 本日のゲストは、株式会社メルカリの取締役会長兼、株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長の小泉文明さんです! よろしくお願いします。
小泉 よろしくお願いします。
野澤 本日のゴールはスポーツが社会の中で担う役割、そしてスポーツから学べる力で社会に何が活かせるのかを解き明かすことにあります。まずは、小泉さんが今の立場になるまでの経緯をお聞かせください。
小泉 僕は三兄弟の長男で、次男が野球で甲子園、三男がラグビーで花園出場経験があるというスポーツ一家でして、僕だけ全国大会に出たことがありません。でもスポーツ自体は大好きでしたね。社会人になって最初の3年位はサラリーマン、特に経営コンサルティングをやっていました。その取引先がインターネット企業の「株式会社ミクシィ」で。その流れでミクシィに行き、27歳で取締役をやらせてもらいました。32歳で退任して、「株式会社メルカリ」を立ち上げたのが、33歳。今40歳なので7、8年位になりますね。そして、一年半くらい前に鹿島アントラーズの株式を取得して、経営させてもらっています。今はメルカリとアントラーズの二足のわらじ。元々アントラーズファンということもあって、大好きなスポーツにやっとこの歳になって関われて、すごくハッピーだなと思います。
野澤 なるほど。でも、好きなだけで株式を取得しませんよね。鹿島アントラーズの経営権を取得するに至るまでに、どんな思いがあったのですか?
小泉 元々、メルカリがアントラーズのスポンサーをしていたのです。当時のメルカリは若い女性がメインターゲットでしたが、男性や中高年層の方々にもアプローチする狙いがありました。当時は野球とサッカーを中心にスポーツを活用して、メルカリの認知度向上を図っていましたね。実はアントラーズだけでなく、北海道日本ハムファイターズさんなどの球団ともプロモーションしていました。アントラーズとのスポンサー関係が続いて一、二年くらいした時に、先方から経営権譲渡の話が出てきて。僕は三つの理由で、経営権を獲得しようと判断しました。一つ目は、メルカリの事業とスポーツのユーザー層が元々かぶっていないから、シナジー効果が期待できたこと。二つ目は、当時「メルペイ」という金融サービスのリリースにあたって、信頼性を高める意味でスポーツチームのブランド力が大きかったこと。楽天さんやDeNAさんを見ても分かる通り、球団を持つことでネット企業のブランド力は数段上がります。3つ目はビジネスの話で、僕自身の「二つの未来予測」です。
次の「イノベーション」は街やリアルな生活にある
野澤 一つ目の未来予測は、どんなことでしょうか?
小泉 一つは、スポーツを始めとしたエンターテインメントの価値は今後、大きく飛躍するだろうということ。テクノロジーが進化すると仕事の時間が減っていき、余暇の時間が増えていくでしょう。すでにマイクロソフト社が、週休3日をテスト的にやり始めています。それは一見幸せなことのようですが、そうとも限らないと思います。リタイアした親の世代を見ても、仕事をしていた時の方が生き生きとしていたりしますよね。まして20、30代で週休3日になって、本当に幸せなのかなと。仕事で得られる承認欲求や感謝されること、人から必要とされることは、生きていく上で重要ですよね。減っていくそれらの要素を補うのが、エンターテインメント。そういう意味では、スポーツはやって楽しい、見て楽しい、応援して楽しい、多くの人が感情を揺さぶられるもの。インターネットが普及して、他人と同じ時間を共有することは減っていきます。だから、音楽やスポーツなどで同じ時間をライブで共有できるサービスは、価値が上がっていくんじゃないかな。VRやARなどでさらに多様化していくことを考えると、まだ伸びしろがあります。エンターテインメントは、人々の心を満たしウェルビーイング(良好性)につながる、より価値の高い存在になるでしょう。
野澤 なるほど。もう一つの未来予測は、どんなことでしょうか?
小泉 二つ目は、街を始めとしたリアルな生活で起こるイノベーションです。
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