リーダーには組織のマネジメントに加え個の結果も求められる。今回は、ともに「選手会会長」としてのリーダーシップ経験を持ち、JリーグでMVP・得点王を獲得した元サッカー日本代表の佐藤寿人氏、そしてゴールデングラブ賞・ベストナインにも選出された東京ヤクルトスワローズ所属の嶋基宏さん氏が、「リーダーシップ」の活かし方について語り合った。(※2021年5月に収録)写真/(C)Getty Images
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主張だけではNG。リーダーシップ経験から身に付けた「対話力」
──お二人は選手会会長の経験がありますよね。リーダーシップを発揮するために、どんなことを実践してきましたか?
佐藤 サッカーの選手会会長は、日本サッカー協会やJリーグの関係者と話すことがあります。夏場の試合のキックオフ時間など、様々な意見を選手から吸い上げて協会やJリーグに伝えていくのが重要な役割です。J1やJ2に加えて今ならJ3までありますから、全員をサポートするのは一番大変な所ですね。
──プロサッカーの選手会は、どのような組織でしょうか?
佐藤 「日本プロサッカー選手会」は、国内でプレーする選手や海外でプレーする日本選手が会員として所属する組織です。Jリーグの創始者である川淵三郎さんの「対話する組織が必要だ」という声で、選手会が発足しました。選手会の一番の目的は、選手の地位向上や環境整備。初代会長は柱谷哲二さんで、僕は5代目の会長でした。
──嶋さん、プロ野球の選手会についてはいかがでしょうか?
嶋 12球団それぞれに所属する選手が集まって構成されているのがプロ野球の選手会で、僕はその会長を務めていました。選手がプレーしやすい環境づくりや、選手の地位向上という目的は、サッカーと一緒ですね。プロ野球ではFA(フリーエージェント)という制度があって、選手の移籍やトレードを活発にする取り組みも行っています。そして、色んな選手の意見を聞いて、NPB(日本野球機構)という上の組織に伝えて話し合うのです。
──お二人ともプレイヤーでありながら、組織の長でもあったわけですよね。二足のわらじですが、当時は辛さやストレスなどありませんでしたか?
嶋 大きな会議は年に二回だけで、試合当日の朝に入ることは滅多にありません。そういう面では、ある程度集中してプレーできる環境でしたね。だから、5年間やっていて辛いなとか、苦しいなとか思ったことはあまりありません。
佐藤 サッカー界も年2回の総会があります。それ以外には、オフの日に皆で集まる理事会がふた月に1回程度。そこで集まって話す分には、辛さはあまり感じませんでした。ただ、ちょうど僕が選手会長を務める時期に、サッカー界でちょっとしたバタバタがあって。選手会の代表としてサッカー協会に謝罪する必要がありましたが、その翌日はアウェーの試合。チームメイトが新幹線で横浜へ移動する中、僕だけ飛行機でサッカー協会へ行きました。試合には間に合ったものの、試合の前日だったので、唯一難しいなと感じた出来事ですね。
──皆の代表として責任を負わなければいけないのは、大変ですよね。
佐藤 そうですね。選手会長である以上、選手の行いにも責任を持たなければなりません。ちょうど引継ぎのタイミングだったので、それまで選手会長としてやってきたことが、行き過ぎと判断された部分もあります。一番の目的は選手の地位向上ですが、権利だけ主張してしまうと中々いい関係にはなりません。そのバランスは大事だなと思いましたね。
──プロ野球の場合は、選手会長として意見をまとめてNPBに物申す必要がありますよね。その時のご経験についてお聞かせください。
嶋 NPBも選手会も、「プロ野球を良くしたい」という思いは一緒のはず。でも、こちらのワガママばかりを一方的に伝えても、かえって関係が悪くなってしまう。だから、「これはちょっと厳しいな」という意見は、僕たちのところで止めておくのです。通せる意見かどうかの見極めは難しい部分ですが、いい関係じゃないといい話し合いはできません。そこを大切にしながら会議に臨んでいましたね。
──お二人に共通するのは、一方通行じゃなくて相手側のことも考えながら伝えること。選手会長のような立場になると、コミュニケーション力もおのずと鍛えられるのでしょうか?
佐藤 そうですね。チームのキャプテンも務めていたので、色んな人と話す中で自然と「対話力」が養われていった部分は大きいと思います。話を進めていく上で、相手サイドとの温度差を感じることもあったので。自分の主張だけでは中々いい形にはならないということも、色んな経験を通して学べました。
先輩の背中から学んだ、キャプテンとしての「牽引力」
──お二人は選手会長やキャプテンの経験が長いですよね。子どもの頃も、キャプテン経験はあったのでしょうか?
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