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INTERVIEW

INTERVIEW

岡田武史│自律した選手を育むメカニズムと社会を変え得るスポーツの可能性

スポーツから日本の社会を変えることができる

──その「スポーツが持つチカラ」とは?

「平尾誠二(ミスター・ラグビーと呼ばれ神戸製鋼、日本代表で活躍。指導者としても大きな実績を残した。享年53歳)と酒を呑んでいたときに、よく話したのが『自律した選手が出てこないと日本は世界には勝てない』ということだった。

僕はそれを日本の国民性とか、教育のせいにしていたんですよ。元日本代表監督のエディ・ジョーンズ(ラグビー・イングランド代表監督)が2015年のW杯に行く前に、日本代表には選手の主体性が足りないとよく言っていました。僕はそれを国民性のせいにしていたんです。

そしたら平尾は『スポーツから日本の社会を変えられませんかね?』と言ったんですよ。あいつのすごいところはそういう発想ができること。さきほどブラジルの例を出しましたが、日本という国は彼らと違って自分の人生を自分で選べるんです。それなのに周囲のせい、環境のせいにしてしまう。岡田メソッドは競技内で主体的な選手をつくることを考え生み出されたものですが、最終的にはスポーツをきっかけに日本社会そのものを変えたい想いがあります。もっと個性を認める、自分で判断することを良しとする社会をつくっていかないといけないと思っています」

 

──岡田さんが現場指導で大事にしていることは?

「年代・カテゴリーを問わず選手個人の存在を認めてあげることが大事だと思っています。指導者が選手の成長の邪魔になってはいけません。選手が成長したいと思わせるように導き、手助けしてあげることが重要です。我々にはOur Promiseというコーチングの約束事があります。

❶ 子ども達をリスペクトする。

❷ できなかったことをできるようになった喜びを大切する。

❸ 準備の失敗は、失敗を準備することになる。

❹ 勝負の神様は細部に宿る。

❺ フィロソフィーを信じる。

コーチングの根底にあるものは大人も子どもも一緒です。ただトップチームは結果を出すことが求められます。子どもだって勝つためにベストを尽くします。ただし負けてもいいんだと教えてあげることが大事です。

かつてドイツに住んで、日本人の親と明らかに違うところがありました。彼らだってものすごく応援するし、レフェリーに文句も言います(笑)。ところが試合が終わった後が明かに違うんですよ。特に負けた方が違う。日本のお母さんは『どうしてあそこで得点できなかったの?』と一緒になって悔しがります。要は試合に勝つためにベストを尽くすけど、負けてもいいんだとスタンスの違いです。

日本では勝利至上主義はよくないという観点から「勝ち負けは関係ない」と言い切ってしまうこともあります。しかしスポーツは勝敗があるからスポーツなんだと僕は思っています。そうでなければレクリエーションになってしまいますからね」

 

 

ボランティアコーチの存在が日本サッカーを強くした

──スポーツをする子どもと親の距離感に関してはどうお考えですか?

 

「自分の子どもに教えるのって本当に難しいです(苦笑)。僕もそうですが、自分の子どもにサッカーをさせようとすると、愛情が強いからついつい怒ってしまいます。他人の子であれば許せることが許せなかったりする。その距離感っていうのは、やっぱり他人でないとできないことなんだと思います。俺がそれに気づいたのは子どもが大きくなってから。だからみんなサッカーをやめてしまいました(笑)。

SPODUCATIONでも提唱していることだと思いますが、昔の人間は生きていく中で山あり谷ありを越えてたくましくなっていきました。でも、今は何をしなくても生きていける便利で安全な社会になってしまった。そんな環境を生きた子どもたちは、大人になって社会に放り出されたら通用しないわけです。そんな社会・環境を作ってしまった大人が悪いと僕は思っています。

でもスポーツならそれが経験できる。負けることも挫折することもあるでしょう。そのときに親が解決策を与えるんじゃなくて、見守ってあげる、支えてあげることが大切だと思います。これができるかどうかなんだよね。簡単じゃないんだけど(苦笑)。良い時は周りがみんな褒めてくれますけど、そうでない時に親がどうするか、が大事なんだと思います」

 

日本のサッカーを強くしたのはボランティアコーチ

 

──最後に、YouTube公式チャンネル「岡田メソッドTV」がスタートしました。チャンネル開設と無料配信の意図について教えてください。

「僕はもともと日本サッカーを強くするために岡田メソッドをつくったわけです。書籍は出版しましたが、練習メニューを知りたがる人が沢山いらっしゃるんですよ。正直、練習メニューを書いたところでわかりづらい。だったら映像の方がいいと思って、YouTubeで配信することにしました。無料で配信することで、これを辞書のように扱ってもらって、気が付いたら見に来てもらう。そんなチャンネルであればと思っています」

──どんな人に見てもらいたいですか?

「完全に指導者向けです。自分の考えやポリシーを持ってる指導者の方の刺激になればいいと思っています。ひとつ大きなポイントとして、今の日本のサッカーを強くしたのはボランティアコーチだと思っています。お父さんお母さんが趣向を凝らして努力して、子どものグラスルーツを広めたんです。こんな国、世界中で日本しかないですよ。ボランティアコーチの存在が広がりを見せましたが、弊害として間違った指導をしていてもそれを指摘できない側面もあると思っています。だからこそボランティアコーチの方たちに岡田メソッドTVを見てもらって、少しでもサッカーを理解していたただき、日々の指導に役立ててもらえたらと思います」

 

 

PROFILE

岡田武史(おかだ たけし) | 株式会社今治.夢スポーツ代表取締役
1956年8月25日生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒業。古河電気工業でDFとして活躍し1990年に現役引退。古河電工、日本代表のコーチなどを経て、97年に日本代表監督に就任しW杯フランス大会で指揮を執る。2007年に2度目の日本代表監督に就任し、W杯南アフリカ大会でベスト16入りに貢献。FC今治の経営オーナーであり、運営会社の株式会社今治.夢スポーツ代表取締役。

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