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INTERVIEW

INTERVIEW

藤島崇之│無名だった昌平高校を強豪校へと導いた名将による“気づき”のアプローチ術

今やサッカー王国・埼玉県の常勝軍団として知られる昌平高校は、13年前は今のようにメディアに頻繁に取り上げられるチームではなかった。すべてが変わったのは2007年、藤島崇之氏が監督に就任してからだった。短期間でチーム成績は飛躍的に向上し、松本泰志(アビスパ福岡)、針谷岳晃(ジュビロ磐田)らを擁し、14年に選手権に初出場。以降は全国大会の常連として名を連ね、2020年は4人のプロ内定選手を輩出。日本トップクラスの強豪校として定着している。果たして“藤島イズム”の何が、これほどまでに組織として、個人として飛躍的な成長を促すことができたのか? 多くの選手を“開眼”させる、藤島監督の教育理念を紐解く。(2020年11月収録)

子どもに“気づき”を促すのが大人の役目
人は自分で判断しないと動けない

──教育者であり、指導者である藤島監督に、スポーツの持つチカラについてお聞きしていきたいと思います。まずは人間力を身に付ける上で、藤島監督が考えるオフ・ザ・ピッチでの過ごし方についての考え方から教えてください。

「これは私の習志野高校時代の恩師である本田裕一郎監督(現・国士舘高校テクニカルアドバイザー)の『できない理由をさがさない』という教えに通じることですが、学校という教育現場でいろんな取り組みがある中、いかに興味を持てるかが大事です。人からの教えでなく、自分自身の発見がない限り、人はなかなか動けないものです。『やりたいこと』と『やらなくてはいけないこと』がある中で、いかに後者に興味を持てるかが重要なんだと思います」

 

──やりたいことと、やらなければいけないことは常に共存するものですよね。

「そうです。ただし、高校生にとって自ら“気づく”ことは非常に難しい作業です。そこで我々大人がすべてを伝えるのはなく、“気づき”を促す機会を提供することが重要なのだと思っています。人は自分で判断して、自分で動かないかぎり、どうしても動きが重くなる。やらされるより、やった方が絶対に継続性にもつながります。その状況のなかでやれることと、やれないことができると思いますが、いろいろな気づきの中で、最終的に自らがチョイスしていくことが重要なのだと思います」

 

ボールを奪われて「悔しい」と思えないのはどうして?
違う角度での問いかけで選手はみるみる変わる

──若い年代であれば、どうしてもやりたいことの方に傾倒し、やるべきことがおざなりになってしまう部分があると思います。

「サッカーの一部分の話をさせていただくと、例えば、本当に技術が高い選手はボールを奪われたら悔しいはずなんです。だから必然的に切り替えが早くなる。また自分がボールを持ちたいですからね」

 

──そうですね。

「ボールを持つのは好きだけど、ディフェンスが嫌いという選手がよくいます。そういう選手に僕らがいつもアプローチしているのは、それは『本当に(サッカーが)上手いわけじゃない』ということなんです。本当に技術が高い選手ならば、心底悔しい思いをして、ボールを奪い返す(ディフェンスする)はずなんです。悔しくない=取り返す気もないのは技術がないことの表れなんだと。そういう、ちょっと違う角度からのアプローチで選手はみるみる変わっていくんです。ディフェンスの意識がないわけではないのですが、本質的な部分の理解が足りていない選手が多いんですよね」

 

──格好だけボールを奪おうとしている選手は見ていてすぐわかりますよね。

「そうですね。攻撃が好きな選手にこのアプローチをすると、よく“気づき”ますよ。『あれ? (ボールを奪われても)悔しくないのはなぜなのか?」と、感じ方が変わるんです。気づきを促すために、あらゆる角度からアプローチをすることは常に心がけていますね」

個々のストロングポイントの集合体とも呼べる昌平高校サッカー部。各々の長所を最大限に引き出し、全国屈指の技術力で他を圧倒する。

 

「両立」の実現には時間の余裕をつくる必要がある
だからこそ人は工夫をする

──サッカーだけでなく、学業も重視されている藤島監督ですが、文武両道の取り組みについてはいかがお考えですか?

「サッカーと勉強の両方を求めると必然的に苦しくなります。時間の余裕、気持ちの余裕を作らなくてはいけない。だから人は工夫をするようになります。それが現状から逃げる工夫ではなく、現状と向き合う工夫をどうするかが大切だと思っています。もしかしたら数学や国語の知識を使う場は、社会では限られているかもしれません。でも、その知識があることで、人とコミュニケーションをとることができ、知識があることで新たな気づきがあるのです。当然、学業はテストの点数という形で結果が出てしまいますが、そこでの学びの姿勢・意欲というものは、たとえ高い点数に結びつかなかったとしても、後の社会に生きるものです。勉強とスポーツの両輪が進むことで、新たな“気づき”の機会が生まれるのだと思っています。だから私は選手にも(学業を)求めます。人から『求められる』ことは、子どもにとっていいモチベーションにもなりますからね」

 

──時間の余裕を作りだすということは、時間を自らが管理し、自分をマネージメントすることと同義だと思うのですが、大人の一歩手前にいる高校生たちにどのようなアプローチをされているのでしょうか?

「時間は誰もが平等に与えられるものです。その使い方を意義あるものにするために、選手には考えさせる状況にしたいと常に思っています。例えばキャプテンの須藤直輝(鹿島アントラーズ加入内定)は、学校と家がものすごく遠い。ならどこで勉強するかといえば、必然的に電車のなかで勉強するわけです。それが習慣化されると、自分のチカラになっている実感まで沸くようになってくる。時間の効率化、自分のマネージメントの礎を築くことができているのはいい形かと思います。時間的な余裕を創り出すことは本人の工夫次第です。そこに前述した先ほどの『やりたいこと、やるべきこと』のウェイトをどうするかを考えるわけですが、何もすべてをやりたくないものにする必要もないと思います。これは断言させていただきますが、ウチのトレーニング時間は短いです。『もっとやりたい!』という状況で練習を終えると、明日の練習の意欲が増します。もちろん、我々は短い時間の中での質を高めていく責任は持ちながらですが、『明日またやりたい!』という気持ちを促すのです。その状況を自分たちでつくれるようになれば、それは自己をマネージメントする能力につながっていくのだと思います」

 

──トレーニング時間の短縮などの発想は、昭和のサッカーではなかったですね(笑)。

「そうですね(笑)。サッカーは時間じゃ解決できないですよ。でも、時間で積み重ねられることもある。勉強もそうです。時間をかけないと分からないことがあり、その中で得られる成功体験が成長につながるんだと思います」

 

──成功体験と失敗体験は表裏一体とも言えますね。

「そうですね。何をもって成功とし、何をもって失敗とするのか。人間は失敗しないと気づかないことがあるわけです。だからこそ、我々も指導として、次に何を求めるのか。そこで答えを出すのはではなく、次につながる状況をつくっていくべきだと考えています。失敗体験というものは次に進むため、そして成功体験にリンクしていると思います」

キャプテンで10番を背負う須藤直輝(鹿島アントラーズ加入内定)は、長距離移動の隙間時間に勉強するクセをつけ、限られた一日の時間をマネージメントしているという。

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