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佐藤寿人×田中秀道│「短所を長所へと変える心の持ち方」

元日本代表ストライカーの佐藤寿人さんをホストに進行する連載コーナー第6回。今回は、世界最高峰の米国PGAツアーで活躍してきた田中秀道プロをゲストに、小柄ながらも第一線で活躍してきたお二人によるクロストークをお届け。「短所」は見方や捉え方によって、武器にもなり得る。そもそも、短所をマイナスと捉えることを疑う必要があるのではないだろうか。短所を長所へと変えて活躍してきたお二人に、逆境にも負けない、強い心の持ち方について聞いた。(※2021年10月に収録)

恵まれない少年時代に描いた、プロゴルファーへの将来設計

──本日のテーマは「短所を長所へと変える心の持ち方」です。まずは、田中さんがゴルフを始めたきっかけについてお聞かせください。

 

田中 小学5年くらいの時に近所の空き地で、友達とプラスチックのボールをポコポコ打って遊んだところからですね。それを父親に話したら、打ちっ放しの練習場に行かせてくれました。それで上手く打てたので、「じゃあ本気でやってみよう」という流れになったのです。野球やバレーボールもやっていたのですが、ゴルフには違った楽しみを感じましたね。ただ、本格的なゴルフを簡単に始められるような家庭環境ではありませんでした。それも短所の一つかもしれませんが、僕の中では良かったなと思っています。

 

──ゴルフは男女ともに日本選手が世界で活躍していますね。ゴルフを始める人も増えていると思います。やはり、環境は大事な要素でしょうか?

 

田中 そうですね。僕がゴルフを本格的に始めた中学1年の時は、ジュニアゴルファーはあまり多くありませんでした。子どもがゴルフをすることに色んな見方をする方がいましたし、経済的な問題もあったので。ゴルフ場の芝生で打たないと上達は難しいですが、簡単にはゴルフ場へは行けませんでした。毎日打ちっ放しで練習するにも、当然お金がかかります。今だとジュニアが無料で練習できる場所もありますが、その当時は無かったんです。それで、打ちっ放しの裏のネットや、バンカーのある所で打たせてもらったりしましたね。15歳からキャディーのバイトをしながら、ゴルフを続けていく状況でした。順風満帆ではありませんでしたね。

 

──プロを目指そうと思ったのは、中学2年くらいからでしょうか?

 

田中 そうですね。「プロゴルファーとして成功して、流れを変えたい」という意識が14歳くらいで芽生えました。まずは広島の瀬戸内高校で、強いゴルフ部に入って頑張る。高校を卒業したら、そのまま18歳で広島を出て、研修生になる。そして20歳までにプロになって、25歳までに国内で優勝して、30歳までにアメリカに行く。そんなことを、14歳の時には考えていました。なぜそこまで思えたのか、今となっては不思議です。結果的には、瀬戸内高校に入って、20歳でプロ入りして、24歳で初優勝して、31歳でアメリカに行きました。そこまでは順調だったのですが、今は辛い状況です。当時から85歳くらいまで考えておけば良かったなと思いますね(笑)。

佐藤 いえいえ、十分すごいですよ(笑)。

田中 「この時点でここまで行くぞ」と明確になっていたからこそ、それだけ順調に進められたのだと思います。「今日はこれだけやればいいんだ」と考えられたので。キャディーのバイトが終わって、夕方にゴルフをやらせてもらう状況でしたが、僕が強くなるためには最高の環境でしたね。当たり前のことが中々できないから、少ない時間でも集中してできました。

 

──なるほど。逆算の発想ということですよね。

 

田中 決めた目標に対して向かっていくことが大事です。目標がはっきりしているから、自分の現在地を把握できますし、焦りなく進められます。たとえば、「大学では頑張れたけど、プロ入りして上手くプレーできない」と悩んでいる若い選手がいたら、同じように伝えます。前に進むのも大事ですが、それだけじゃない。実力のある子が、がむしゃらに前進しようとすると、急激に難しくなります。大学で日本一になれたのなら、力は持っているはず。それを急いで結果につなげようとせず一、二年後を見据えて、そこに向かっていく。そうすると、自分のゴルフができていくのです。

 

──寿人さんの「自分に矢印を向ける」というお話と似ていますね。

佐藤 そうですね。ただサッカー界だと、ある程度すぐに結果を残さないと、選手として取り残されてしまいます。高卒からの3年でジャッジされてしまう世界。プロのゴルフ界だと、そんなに焦らなくても大丈夫なのですか?

田中 そう言われたらそうですね(笑)。ただ、タイガーウッズが登場してからは、とんでもない飛距離を出すパワーゴルフの世界になりました。それで、自分の長所を見つけて、どうテクニックを磨いていくかが重要になりました。そのためには、自分のサイズ(成長度合い)を日々把握しようとすること。いいスコアが出ても、本当に問題なかったのか、内容を振り返っていくのです。「あのホールでは、いい所に乗ってバーディー取ったけど、ダフったな」とか。反対に悪いスコアでも、「前にできなかったショットができたな」とか。自分のサイズを把握しながら、伸ばしていく。そうすれば何とかなると信じていましたね。

佐藤 僕もゴルフをやりますが、自分に矢印を向けないとできない競技ですよね。それを、子どもの頃から限られた環境の中で続けてきたから、成長を積み上げるベースが自然とできたのかなと思います。でもサッカーはチームスポーツなので、チームメイトや対戦相手の存在があります。チームの中にも試合に出ている人、出ていない人がいます。二次的な要素が多いので、自分に矢印を向けるのが難しい環境なのですが、何かコツはありますか?

田中 ゴルフのクラブの選択や風の読みは瞬時の判断が求められますが、試合の時だけ上手くいくほど甘くはありません。普段から引き出しの量を増やしておく必要があります。それも、ただ多いだけではなく、その瞬間に正解の引き出しを開けなければいけません。そのためには普段の練習から、正解の引き出しを開けられるよう訓練しておくことが大事です。そして、「プロで上を目指すならここに打たなきゃいけないだろうな」という所に打つ練習をしていく。試合で自分に矢印を向けられるかどうかは、こうした練習でどれだけ培ってきたかで決まります。試合の現場に立った時には、もう変えられません。

 

──ある意味、それも逆算ですよね。今の自分を理解しつつ試合に向けて準備するから、引き出しがおのずとできるのだと思います。

田中 そうですね。僕もそういう気持ちでゴルフを続けて、プロ入りを果たしました。

 

小柄だからこそ実現できた、技術の積み上げ

田中 僕が国内ツアーデビューしてからの話ですが、上手く行かない時期があって。メンタルが弱っていたから、メンタルトレーナーを付けていました。その時に、ジャンボ尾崎さんから「一つや二つ優勝するのに、メンタルトレーナーなんて必要ないよ。勝ち続ける時に、初めてメンタルがいるんだ。ゴルフの技術がないやつほど、メンタルが弱いと言う。メンタルじゃなくて、お前は下手なんだ」と言われたのです。メンタルが弱っていることに、僕は逃げていたなと気づかせていただきましたね。自分のゴルフを、もっと真剣に見つめていく必要があるなと思えました。大先輩にそう言われたからこそ、正しい引き出しをちゃんと選べるようになったと思います。

 

──自分の実力を常に出すためには、技術の積み上げが不可欠ということですね。

 

田中 そうですね。気持ちで勝つよりも、技術で勝つ。自分の技術が磨き足りないことを、もっと見つめるべきということ。僕の人生にとって、大きなアドバイスでしたね。

 

──ある程度のレベルまで上がると、あまり差が付かなくなりますよね。そこから差別化するためには、メンタルの積み上げも重要になるのかなと思います。でも、そのレベルまで成長していないのに、メンタルに逃げるべきではないのですね。

 

佐藤 そうですね。技術の積み重ねが足りないから、「メンタルが弱い」となりがちです。プロだけでなく、おそらく育成年代でも言われるでしょう。そこには、選手だけでなく指導者側の問題もあると思います。技術を伸ばすアプローチができていないことを、受け入れられない。指導者はできているつもりでも、練習量の不足や練習方法の問題は考えられます。そういう所に目線が向かずに、結果が出ないことを「あの選手はメンタルが弱い」で片付けてしまうケースもあるのかなと。

 

──今回のテーマにも関係していますが、お二人に共通するのは小柄という点ですね。

 

佐藤 はい(笑)。僕は169センチです。

田中 あれ、そんなに高かったっけ(笑)。僕は166センチです。実は167センチ近いのですが、165とかで登録したかったんです。小さい人間が頑張れる、というのを感じてほしかったので。身長が低い上に、家庭環境も恵まれてはいない。その両方を背負っていても何とかできると証明したかったのが、アメリカに行った大きな理由の一つです。

 

──小柄な選手はどうしてもレッテルを貼られやすいですし、本人も受け止めてしまいがちだと思います。早い段階から、それを活かそうと切り替えるには、どうすれば良いのでしょうか?

 

佐藤 僕のポジションはフォワードで、背の低い選手はプロになれないと言われた時代でした。特に育成年代では、身体が小柄だとどうしても不利になりやすくて、その分技術や判断力を磨きました。走るのが遅いなら、方向転換やステップワークの身体の使い方を学んで、反応を早くするとか。違う部分で差を埋めようとは思っていましたね。裏を返せば「あれをやらないといけないな」と、引き出しを増やす作業を育成年代で多くやれました。同世代の選手よりも努力できたことが、結果的にプロへとつながりました。そういう意味では僕も秀道さんと一緒で、アドバンテージよりもビハインドの方が多いような環境でよかったなと思っています。

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