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ONLINE SEMINAR

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森重真人×池上正 │「コミュニケーションの作り方」 supported by BAND

FC東京の森重真人選手と、大阪体育大学客員教授でサッカー指導者の池上正氏をお迎えし、「コミュニケーションの作り方」をテーマにお話を伺った。一方的な考えや課題、評価を押し付けていないか、選手から意見の吸い上げはできているか、指導者間の情報交換が不足していないか等、育成にとって重要なコミュニケーションの在り方を様々な角度から考察し、解決案を提示していく。

 

「サッカー」自体がコミュニケーションのトレーニング

──本日は「コミュニケーションの作り方」をテーマにお話しを聞いていきたいと思います。池上さん、多くの指導者、子ども達を見る中で、「コミュニケーション」に関する質問や相談は多いですか?

 

池上 指導者と保護者間のコミュニケーションに関する相談を良く受けます。ただ、サッカー自体がコミュニケーションを大事にするスポーツであり、欧州では最初にそこを徹底して指導しているほどです。

 

──サッカーをすること自体がコミュニケーションのトレーニングになると?

 

池上 まさしくそうです。

 

──森重選手は以前、「いくらサッカーが上手くてもコミュニケーションができない選手は早々にリタイアしてしまう」とおっしゃっていましたね。

 

森重 サッカーが上手いだけの選手は山ほどいます。プロとして、日本、そして海外で生き残っていくにはコミュニケーションスキルがないと厳しいでしょう。特に海外では言語の壁があり、意思疎通がうまく行かずに監督、チームメイトの信頼を得られないケースをよく聞きます。もちろん、日本語が通じる国内であってもコミュニケーション不足から周囲の信頼を損なうわけですから、サッカーにとってコミュニケーションが一番大事で、身につけるのが一番難しい能力だと思います。

 

──実際の指導現場では技術優先のチームが多いですか?

 

池上 最近はアコンタクト(視線を交わす非言語コミュニケーション)の重要性を語る指導者が減っているのが事実です。そんなことより「ポゼッションが大事」だと。いや、ポゼッションをするためには選手が互いの位置を感じ合う必要があり、仲間とのコミュニケーションがベースにあって「ポゼッション」は成り立つわけです。にもかかわらず、ベースが抜け落ちてしまっている。コミュニケーションとは言葉だけではありません。ちょっとした身体の向きや雰囲気を感じ取ることで、どこにパスを出せばいいのか、どんなパスをほしがっているのかが分かることもコミュニケーションなんです。

 

──森重選手はいつ頃からコミュニケーション能力を身につけていったのですか?

 

森重 自ら意識するというよりは、自然に育まれていったと思います。チームメイトとしっかりコミュニケーションが取れないと、そもそも試合で勝てないですからね。サッカーはチームスポーツなので、仲間が何を考えているのか、今どんなイメージをしているのかを把握することがすごく重要です。試合を重ねるごとに、癖だったり、表情だったり、動き出しで分かってくるようになります。

考えることを止めない環境をつくることが大人の責務

──まさに「自然に育まれる」環境を作ることが、本日セミナーに参加してくださった指導者・教育者が知りたいことだと思います。一人ひとりとしっかり向き合うことが大事なのはみなさんご存じだと思いますが、サッカーはチームスポーツなので、大所帯であるほど選手個人と向き合う時間は限られてしまいます。

 

池上 私は子ども同士でミーティングをさせています。指導者はそれを観察しながら「本当に言いたいことを言えているのか」を注視する。回数を重ねるごとに選手同士の理解度が上がり、指導者も「この子とこの子がうまくいっていない」と分かれば、わざとその二人を組み合わせてトレーニングをすることもできます。

 

──一回だけ輪を囲んで「話せ」と言っても、正解だけを求めた会話に終始してしまいがちです。やはり回数を重ね、継続することが重要なのでしょうか?

 

池上 まさしく、日々のトレーニングで毎回話し合うことで、子ども達が話しやすい雰囲気が出来上がっていきます。実際、小学校の授業では先生から子どもへの一方通行が多いのが実情です。そういう学び方をしてきた私たち日本人なので、コーチになっても自分が知ってることを全部教えようとします。

 

森重 日本人ならではの悩みですよね。選手の側も指導者が言ったことを100%してしまう。プロの僕たちでさえ、新しい監督が来て『これをやれ』と言われ、みんながそればかりをしてしまう時期があったくらい(苦笑)。大人でそうなんですから、子どもはなおさらです。一つの正解を求める教育でなく、もっと子どもたちがディベート(異なる立場で議論)をする機会をつくるべき。自分が思っていることを話す勇気を養ってあげたい。考えることをやめない環境をつくることは大人の責務だと思います。

 

──子どもの中には事実、しゃべることが苦手な子がいます。私はコーチしているチームで指導する際、そういう子には無理に指さないで、しゃべりたい子を優先するようにしています。苦手な子に無理なプレッシャーを与えたくないなと。

 

池上 私はあえて全員がしゃべるように最初に伝えます。しゃべりたい子は先着順で話し、しゃべれない子は残っていきます。最後にあと何人となった時に「何を話そう?」っていう心の葛藤を経験させなくてはいけないと思っています。それは答えに正解があるのではなく、ドキドキする自分がいて、それをどう乗り越えるかを経験させてあげることが目的です。私のチームには学校に行けない子が一人います。その子は「今日の練習はどうだった?」という質問に一か月間答えられませんでした。でも最近は仲間から促されたらしゃべられるようになりました。私も『もっとないの?』など決して言いません。何を言ってもOKで、自らしゃべることが重要なんです。批判することや、相手を悪く言うことは禁止、実際に見て感じたことは何でも話す。練習の最後のミーティングはみんながワイワイ話せる雰囲気で終われることがベスト、としています」

ヒントを与えて考える余白をつくる

──実際、スポーツの指導現場は指導者が選手に対して一方的に話しているケースがほとんどなのではないでしょうか?

 

森重 伝えるバランスが大事ですよね。全部の正解を教えるのでなく、ヒントをどんどん与えて誘導してあげる。子どもが次の指示を待つような状況になるのが一番よくないので、指示したものを選手が自分で試して、わからないことがあれば指導者に聞くというサイクルを構築する必要があると思います。もちろん、それには時間がかかるし、週3、4の限られた練習時間の中では難しいのもよくわかります。

 

池上 まさしく、人が育つには時間がかかるんです。スポーツもそう考えないといけないということです。練習をたくさんするほど早く育つと思いがちだけど、決してそうじゃない。子どもが年齢を重ねるようにしかスポーツも育たない。早熟の選手はすぐ見つけられるけど、全員がそのまま育つかというと、そうではない。基礎がしっかりしている選手の方が、大成するケースが多い。森重選手がおっしゃったように、ヒントを与えて、自分たちでどう解決するかを導くことが大事。スポーツ選手に絶対求められる能力です。

 

──大人が焦らないことですよね。選手間のコミュニケーションというところで、森重選手は若手選手とのコミュニケーションで意識していることはありますか?

 

森重 今まさにリーグ開幕に向けたキャンプシーズンなので、すごく意識して過ごしています。若手も僕のようなベテラン選手にはしゃべりにくいと思うので、話しやすい雰囲気をつくるように意識しています。実は先ほど夕食で高卒ルーキーの荒井悠汰(昌平高校)と同じテーブルになったんですが、どんな話題がいいのか探り探り話をしました。「どういう高校生活だった?」とか「彼女はいたの?」とか(笑)。難しい話をするより、他愛ない会話をした方が緊張がほぐれるし、まずはそういう関係を構築した方が、いざサッカーの話になったときにお互いしゃべりやすいと思います。若手選手にはこのチームで成功を掴んでほしいし、練習しやすい環境を与えてあげたい。雰囲気づくりは僕らベテラン選手の役目だと思っています。

指導者⇔指導者、指導者⇔保護者のコミュニケーション

──指導者同士のコミュニケーションもチームの中で重要なファクターです。カテゴリーに分かれてコーチが指導し、それぞれが練習メニューや内容、選手各々の調子を共有する……。スポーツ指導者って本当に大変だと思います。

 

池上 私も指導者間のコミュニケーションが上手くいかないと相談を受けます。日本人ってみんな“自分のサッカー”を持っているんですよ。サッカーという幹があるとしたら、日本にはそれが無数に存在します。欧州には幹は一本しかないんです。だから言い合いするのは枝葉の部分であり、幹の部分で言い争うことはない。私はよく指導者の人に「ドリブルとパスはどっちが大切ですか?」とあえて質問します。すると「パスサッカーだ」「個人技だ」とそれぞれの指導論で喧々諤々となってしまう。本来、“いつ”ドリブルをして、“いつ”パスをするかがサッカーの根本にあるのですが、「ドリブル優先派」と、「パス優先派」で分かれてしまう。高校サッカー選手権を見てみてください。いろんなタイプのサッカーが混在していますよね。欧州の育成年代ではドイツはドイツらしいサッカーをするし、 イタリアはイタリアらしいサッカーをします。育成年代でこれだけいろんなサッカーをしている国って、日本以外にないと思いますよ。

 

──森重選手は過去の指導者の方を振り返っていかがでしたか?

 

森重 僕は指導者に恵まれていたと思います。周囲のレベルが高い状況でどうやったら自分は上手くなれるのかを見つめ直し、自分で考え、研究する環境に導いてくれた指導者が多かったと思います。小学校では審判、コートづくり、試合の記録もすべて子ども達で行うリーグ戦がありました。また、全員試合に出ることがルールとなっていて、スタメンも全部子ども達で決めるんです。もちろん、コーチはずっと見守っていてくれるんですが、これだけ子どもの自発力を促してくれる環境ってなかなかない。今思い出しても貴重な経験だったと思います。

──指導者と保護者のコミュニケーションに悩みを抱えている方も多いと思います。

 

池上 私のチームではないですが、お子さんの出場機会の少なさに不安を抱える保護者の方が多いようですね。例えば「一日7試合もしたのに、自分の子どもは途中交代で2試合しか出ていない」などです。日本はサッカー人口が増えたおかげで、最近は保護者にサッカー経験者が増えてきました。一生懸命に本を読んでおられて、少し頭でっかちになってしまっている方も多い。私が「リフティングなんて上手くなくていい。それより大事なことがある」と話しても「リフティングができるとボールコントロールができるでしょ?」と選手のお母さんが言うわけです。試合でリフティングができる状況なんてないですよね。20メートル先から蹴ってくるボールを止めるのと、自分でリフティングしているボールを止めるのは全然違う感覚です。それを説明しても「でも……」ってお母さんはなかなか理解してくれないんですよ。だから私は最初に保護者の方はサッカーを勉強しない方がいいと言います。コーチにすべて任せてくださいと」

 

森重 なるほど。僕は小学校1年生の息子のサッカーには一切口を出さないです。楽しくサッカーができればいいというスタンスですね。

 

親の目前で、自分の言いたいことを伝えられるように

──お子さんの年齢が上がってくると、指導現場の情報をもっと親に公開してほしいという声もあるかと思います。

 

池上 私のチームでは試合後に必ず保護者と子どもが対面した状況で、今日の試合の感想を子どもたち全員が言うようにしています。例えば0-10で負けた試合でも私が教えている子どもたちは前向きなことしか言いません。「今日は相手からボールを奪えた」とか「ワンツーが何回できた」とか、そんなことを言います。でも、私も親の気持ちはよくわかるので、「大敗した試合でそんなことを言っている場合ではないですよね?」と水を向けます。親は大きく頷いてくれますが、「でもね……」と私は続けます。外から見ているお父さん、お母さんは『もっと頑張れ』と思っているでしょうが、子どもたちは頑張ったし、実際に上手くいったことがあったわけです。それが事実。あとは、この点差を0-5にするのは我々の責任ですから、それはお任せください、と伝えます。そうすることによって親も安心してくれますよ。

 

森重 子どもから親へのコミュニケーションのトレーニングですね。

 

池上 はい。私は小さい声でしかしゃべられない子には、『ごめん、聞こえなかった。もう一回言ってくれる?』とあえて言うようにしています。親の前でもちゃんと自分のことが言えるようになることも大事なコミュニケーションですからね。

 

──まだまだ話は尽きませんが、お時間も迫ってきましたのでお二人から一言いただければと思います。

 

池上 サッカーで一番大切なことがコミュニケーションだと言われています。でも、残念ながら、日本の指導書にも指導者たちの中でもそういった話はなかなか出てこない。最近のサッカーでよく『コレクティブ』という言葉を聞かれると思います。日本語にすると『組織的な~』という意味になりますが、実はみんが決められた動きをすることではなくて、 みんなが協力し合いながら、全体でうまく動くことを指しているんです。カタールワールドカップでは、数多くの素晴らしいダイレクトプレーが展開されました。これは、その瞬間、瞬間にプレイヤーたちがお互いを感じ合い、パスが連動することで生まれるものであって、前もって決められた動きではないんです。ぜひ指導者の皆さんだけではなく、保護者の皆さんも“コミュニケーション能力”に関心を持っていただきたい。子どもたちがいろんなこと言える、そして言うだけじゃなくて人の話しが聞けるようになる。そう、お子さんを育てていっていただけたらと思っています。

 

森重 僕を含めて、ここに参加していただいている方全員が向上心を持って、何かを得たくてここに来てくださっていると思います。本日学んだことを自分の子ども、チームの子どもたちに活かせるか考えることで、良い指導者、良い親になっていくんだと思います。日本サッカー界をよくするためには、いい指導者がもっと必要になってきます。一緒に頑張りましょう。

 

コミュニケーション能力を向上させるためのヒント

── 本日のキーワードとして「時間」「共有」「方針」が挙がりました。指導者にとって「効率的なコミュニケーション」をとることが指導・教育の現場の課題となっています。そこで、これらの悩み・課題の解決の一助となるアプリをご紹介させていただきます。
今回、指導者を対象にチームで使用している連絡ツールに関する事前アンケートを行いました。回答者の半数以上がモバイルアプリを使用し、選ぶ基準としては無料アプリが最も多く、主に練習などの伝達事項、スケジュールの共有として使用していることが分かりました。その中でも使用頻度が高く、評価が高かったのが「BAND」というグループコミュニケーションアプリです。

 

 

チーム内の連絡を何度も繰り替していませんか!?

 

──「BAND」では掲示板にお知らせを登録すると、グループ全員に一度で伝えられるのはもちろん、誰が読んだかも既読確認できます。出欠確認もワンタッチ回答で、一目で状況を確認でき、カレンダーにまとめて一括管理が可能です。位置情報による練習場所の入力もできるので、伝達ミスの防止にもつながります。忙しい保護者が多い中、事前の通知設定もできるので、確認漏れを防ぎ、参加率の向上も見込めます。

 

「写真ください!」試合写真提供の個別対応からの解放

 

──試合やイベントの時撮影した写真や動画を一緒にアップロードができアルバムで簡単に共有ができます。また、最大100枚もの写真を同時にアップできます。大容量になると有料のサーバーを使用する必要がありますが、「BAND」は無料で利用でき、保存期間も無期限。新しくチームに加入した子どもの保護者も過去の写真を見て、「チームがどういうサッカーをしているのか」などを理解できるもの大きいですね。

 

試合を見に来れない保護者にはライブ配信でお届け!

 

──忙しくて試合に足を運べない保護者、さらに最近は試合会場の入場が制限されることもある中、スマホで撮影された試合映像をLIVEでどこからでも視聴できます。もちろん映像は保存できるので、振り返りのコーチングにもつながります。本日のセミナーでも話題に挙がりましたが、指導現場の時間は限られている中、オフ・ザ・ピッチで効率的なコミュニケーションの場を育むツールにもなると言えるでしょう。興味のある方はぜひ活用してみてください。

 

BANDの公式サイトはこちら

 

PROFILE

森重真人(FC東京)
1987年生まれ、広島県出身。小学校3年生の時に兄の影響で サッカーを始める。少年サッカーの強豪広島高陽FCに所属し 全国大会に出場した。中学時にはサンフレッチェ広島ジュニアユースに所属。広島皆実高校に進学すると、1年生の頃から守備的MFとして 試合経験を重ね、2年生以降は中心選手として活躍し、 U-17日本代表に選出された。2006年に大分トリニータへ入団。2010年、FC東京に移籍し、 2013年-2017年には日本代表にも選出される。対人戦に強く得点も取れる日本を代表するセンターバック として、第一線で活躍している。二児の父。
池上正(大阪体育大学客員教授)
1956年、大阪府生まれ。Jリーグ ジェフユナイテッド市原(当時)コーチとして、2003年から7年間で約40万人の小学生、先生、保護者を指導。 2012年2月より京都サンガF.C.コーチ契約、「サンガつながり隊」発足京都府下の小学校を巡回指導開始し、5年間で約5万人を指導。 2017年4月より関西大学非常勤講師(フットサル授業)、大阪体育大学客員教授を務める。

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