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権田修一×藤屋直博│「スポーツが“考えるチカラ”を育む理由」supported by SPLYZA Teams

サッカーの育成現場において、選手が自ら考えることの重要性は浸透しているが、そもそも「考える」チカラとは何を指すのだろうか? 状況に応じ自ら判断し、行動を起こし、実行力を伴うには、どんなプロセスを踏み、どう成長する必要があるのか。最高峰の舞台で日本のゴールマウスを守ってきた権田選手、町クラブでありながら全国大会“全少”を二連覇した藤屋監督とともに、「考えるチカラ」の育み方を紐解く。

 

ジュニア年代でも11人制サッカーの経験は必要

 

──権田選手と藤屋さんは、かつてFC東京U-15でチームメイトでしたよね。当時のお互いの印象はいかがでしたか?

 

権田 中学時代は3年間同じチームでしたが、ナオ(藤屋直博氏)は楽しそうにサッカーをやる選手でした。サッカーが好きで、一所懸命にやる子という感じ。そんなナオだからこそ厳しさも、楽しさも教えられる。サッカー界の未来を担う小学生を教えてくれているのは嬉しいですね。子ども達も、周りのスタッフも幸せだなと思います。

 

藤屋 僕はサッカーをただ楽しくやる子でしたね(笑)。ゴンちゃん(権田選手)は正直、入った当初から存在感がありました。明らかに周りと違う雰囲気で、「これだけ真剣にサッカーと向き合えるんだ」と驚きましたね。それがサッカー選手としての今につながっているのだと思います。

 

 

──ジュニアの指導現場に行くと、今の8人制サッカーはすごく難しいなと感じます。お二人の意見をお聞かせください。

 

藤屋 8人制の正解が分からない中で、試行錯誤しながら指導していますね。8人制でもディフェンス、中盤、フォワードとポジションを決めますが、コートサイズも一人あたりのスペースも違います。昔の11人制より人数が少ない分、より幅広いプレーが一人ひとりに求められます。11人制だと一芸に秀でた選手が使いやすい面もありましたが、8人制では攻守のバランスや切り替えも必要です。ただ、8人制の経験を通してバランスよく能力を養えるのは、次のカテゴリーに進む上で良い事だと思います。

 

権田 ボールを触りやすい8人制サッカーもいい試みですが、11人制サッカーの経験も必要だと考えています。カテゴリーが上がると11人制になりますし、上のカテゴリーほど「一芸」が大事になってくるのです。僕としては、4年生くらいまでは8人制だけ、5・6年生くらいからは11人制の大会もあるのが理想ですね。中学から突然11人制になるのでは、試合に出られる能力がある子でも対応が難しいでしょう。11人制と8人制では、動き方やポジションの役割も違います。たとえば、11人制でディフェンスが3人に増えたら、サイドと真ん中で役割が変わってくる。8人制で個人の部分を上げながら、中学の11人制に向けた準備もできる環境があれば良いですね。

 

 

──11人制の大会をやっている都道府県もありますよね。ただ、U-12の公式戦は8人制なので、最終的にはそこに合わせなければなりません。選手が8人制・11人制を選択できれば良いかもしれませんね。

 

権田 そうですね。8人制と11人制、それぞれのメリットを活かせると良いと思います。8人制だと各々に求められる能力レベルが高い分、「自分ができないこと」の最低レベルを底上げできます。一方で11人制だと、自分の長所がすごく出しやすいメリットがある。「右のウイングしかできない」みたいな子も、11人制なら活躍できる可能性があります。能力が平均的に高い8人制向きの子も、一芸に秀でた11人制向きの子もいるので、今後の可能性を見ながら育てていくことが大事です。

 

藤屋 僕のチームでは8人制を取り入れつつも、一芸に秀でたタイプの子を積極的に使っています。ゴンちゃんも言っていた通り、自信を持って勝負できる武器は本当に大事です。レジスタFCはセレクションチームではない分、各選手の個性や特徴を見てポジションに当てはめていきます。ただ、「11人制だとこの子を使いたいのに」という場面もあり、もったいなく感じますね。全日本選手権が終わった後も、11人制のグループピッチでの試合は多くありません。ジュニアユース年代につなげる立場なので、今後はフルピッチの11人制も経験させてあげたいと考えています。

 

 

まずは状況を「感じる」ことが大事

 

──藤屋さん、子ども達の「考えるチカラ」のベース作りはどのように行っていますか?

 

藤屋 学年に合わせて段階を踏みながら教えています。低学年だと「考える」という言葉の意味を知らない子が多いので、純粋にサッカーの楽しさを教えてあげる。でも中学年になると、自分が好きな事だけやっても上手くいかない場面が出てきます。そこで初めて、「考える」の意味を教えるのです。さらに高学年では、「考える」をより深掘りしていく。ただ、ジュニア年代だと個人差がすごく大きいので、そこはすごく難しいと感じます。

 

 

──権田選手は息子さんがいて、親としての立場もありますよね。

 

権田 僕の息子は今度小学4年生になりますが、「考えろ」と言ってもできないタイプです。だから、練習の映像を見返しながら「この時どう思った?」と聞いて、自分で「感じる」ように誘導しています。選手には「状況を感じて、考えて判断して、行動する」というサイクルの速さが求められます。サイクルを速くするためには、最初のステップである「感じる」のスピードアップが大事です。感じることで、「見えてたらチャンスだったのかな?」と自分で気付けることもあります。それが考える事につながります。僕が言ったら答えになってしまうので、答えは言いません。

 

 

──答えを言わないことも大切ですよね。

 

権田 指導者が「こうするんだ」と答えを与えて、その答えのプレーを選択させるのはNGです。8人の子どもには8通りの選択肢があるはずなのに、その可能性をつぶしてしまう。たとえば、フォワードの自分がシュートを打つべきか、逆サイドのチームメイトにパスすべきかは悩ましい所です。子どもがシュートを選択した時に、「今のはパスが正解」「なんでパスしないんだ」という指導者もいるでしょう。でも、その子は自分で決められる感覚があったからこそ、シュートを打ったのです。その選択をNOとすると、次はパスしか見なくなってしまいます。頭ごなしに否定するのではなく、選手の選択を尊重してあげるべきです。

 

 

──クラブチームは結果も求められるので、より早く育てるために、ある程度は答えを教える指導者も少なくありません。一方で、権田選手のように考える指導者も多くいます。悩ましい所ですね。

 

権田 もちろん勝つ事、成功体験も大事です。勝利を通して「この選択をしたら勝てるんだ」という感覚が得られます。でも、育成年代に「こちらが正しい」と答えばかり教えられると、考える能力が定着しません。答えをもらわないとやっていけず、挫折する子も出てくるでしょう。二連覇しているコーチの前で言うのもどうかとは思いますが(笑)。ナオはガッと言えるタイプではないはずですが、それでも二連覇という結果を出しています。それが答えですよね。

 

藤屋 ボールを持った選手への声掛けは慎重になりますね。たとえば、僕が「あっちにパス出せばフリーなのに」と思う場面で、シュートを打ったりドリブルを仕掛けたりする子もいます。その時には「〇〇がフリーだったの見えてた?」のように聞きます。見えていたうえでの選択であれば、「出せよ」とは言いません。「全然いいよ。でも決まらなかった部分は練習で決められるようにしよう」という感じです。そもそも迷って選択できない子には「失敗してもいいから、自分なりに行ってみなよ」のように声掛けすると、選手の良さが出てくることもあります。みんな同じ声掛けではなく、性格や特徴に合わせて言葉を選んでいますね。

 

 

目標からの逆算が欠かせない

 

──実際のところ、考えている選手のほうが伸びていると感じますか?

 

権田 A代表でプレーしていた時の話ですが、目先の利益ではなく先の成功を見すえて、よく考えて行動している選手が多かったですね。人生プランがなくて、「ただ楽しくてやっている」という選手はいませんでした。「ここに行きたいから、これが必要」という高い目標からの逆算は、間違いなく必要です。僕も勉強はそれほど得意ではありませんが、普段から考えて生きている自信があります。

 

 

──逆算するためのベースとして、考えるチカラが必要ですよね。

 

権田 目標は何か、その達成には何が必要か、というのは考えるチカラがないと出てきません。「プロになりたい、そのために…」みたいに一つひとつ考えたり、それぞれを細分化したりする。あとは、上手くいかない時に軌道修正するためのセルフマネジメント能力も、上に行くために必要です。誰しも常に順風満帆とは行かないので、挫折しそうになる時もあります。

 

 

──目標達成に向けての計画や自己分析も、考えるチカラのベースがあるからできる事ですよね。

 

権田 そうですね。僕も練習メニューは自分で計画します。「これをやったらこうなるな」「次の日このぐらい疲労が残るから、このぐらいにしておこう」という感じです。何万本ボール蹴っても筋肉痛にならないほどの若い時とは違うので、その分練習の質を大切にしています。

 

藤屋 FC東京に入った当時、僕はサッカーをとにかく楽しくやっていました。でも、ゴンちゃんやカズ(吉本一謙・元Jリーガー、現FC東京スカウト担当)は練習後にも自主練していて、「楽しくやる中で上手くなりたい」という姿勢でした。僕はそのレベルまで行けなかったからこそ、自分の足りない部分に向き合って、勝つための姿勢、取り組み方を指導で大切にしています。オフ・ザ・ピッチも含めて自分達で準備できているのか、準備すべきものが整理できているのかは、今年の6年生にも口うるさく言っていましたね。

 

 

人間力のベース作りが将来の成長につながる

 

藤屋 あとは、「僕が言っていることが全て正解とは限らない」という事もずっと言っています。レジスタFCはジュニアだけしかなくて、ジュニアユースからは外に出ることになります。だから、チームメイトも指導者も違う中でも対応できる柔軟性が必要です。ちゃんと他人の話を聞く、ちゃんとコミュニケーションを取る、といった人間的な部分も含めて指導します。一人ひとり性格が違うので、話す内容も変わってきます。人間としてのベースができていれば、カテゴリーが上がってからも挫折の危機を乗り越えられる。自分で考えて行動できる人間になれる。そういうステップアップに時間を使ったな、と6年生が卒業して改めて感じます。

 

 

──指導者に認めてもらうために考える子もいますよね。指導者に合わせようとしてしまう。

 

藤屋 そうですね。保護者にも「どうやったら試合に出られますか?」のように相談する方がいます。でも、試合に出ることがゴールになると、試合に出られたら目指す所がなくなってしまう。だから、そういう質問には子ども自身のサッカーに対する思いとか、内面を掘り下げる質問で返します。本来はサッカーの楽しさを知り、次に上手くなりたい向上心が出てくるものです。そこに持って行く作業をしていますね。ただ、二連覇してチームが有名になったことで、「レジスタFCで試合に出よう」という目的だけで入ってくる子も増えています。クラブとしては改善したい部分ですね。

 

権田 レジスタFCが二連覇できたのは、子ども達の個性に合わせられる柔軟性があったからだと思います。それが実は究極の答えなのでしょう。その学年によってフォワードが強いとか、ミッドフィルダーが強いとか、個性は変わるはずです。特にセレクションがないチームだと、指導者がやりたいサッカーに合った子どもを取れるとは限りません。子ども達を自分の理想に無理やりアジャストさせようとすると、答えを教えるだけの指導になってしまう。だから、子ども達に合わせることが大事です。あとは、子どもの能力を問わずできる人間力のベース作りも欠かせません。人間力があれば協調性が生まれたり、上手くいかない時に話し合ったりできます。

 

藤屋 選手の個性に合わせたチーム作りがハマったのかなと思います。うちはジュニアユースがない分、ジュニアだけに集中できているのかもしれません。ただ、ジュニア年代だと能力の成長にバラつきが出やすくて、子ども本来の長所を出しきれない場合もあります。それでも向上心や柔軟性、協調性といった人としてのベースが備わっていれば、自分なりの方法で課題を解決していけるでしょう。ジュニア年代は可能性にあふれているものの、その全てを引き出すのは現実的に不可能です。その中で、少しでも伸びしろがある状態で次のカテゴリーに選手を送り出す、という思いで指導しています。

 

 

──答えがないからこそ子ども自身が考えて、自分なりの答えを出すということですね。

 

権田 子ども全員がボールを取りに行く団子サッカーでも、なかには守る子が出てきます。それは、その子なりに考えた結果ですよね。一人だけ逆サイドでボールを待っている子は、けっこう得点王になれます。雨が降っていたら日が当たらない場所に荷物を並べる、これだって考えている。高度なことは求めなくて良いのです。僕は「荷物を並べて」とは言いません。「きれいに並んだらカッコいいよね」と言ったら、きれいに並べてくれます。きれいに並べないと置けないから、きれいに置く。そうやって、遊び感覚で考えさせてあげるのが一番受け入れやすいと思います。当たり前のことが当たり前にできれば、その先に未来は広がっていくんじゃないかな。

 

──最後に、皆様へひと言ずつお願いします。

 

藤屋 「考えるチカラ」という部分をメインにお話させていただきました。ジュニア年代に携わる指導者として僕が大事にしていることは、色んな人間力のベース作りです。自分自身も指導者として常に勉強しながら、子ども達にもっと良い事を伝えていけたらと考えています。今日はありがとうございました。

 

権田 「考えるチカラ」は曖昧な言葉のようで、実はすごく深い言葉だなと改めて感じました。「考えていないようで、実は考えている」というのが一番かなと最近すごく思います。指導者が考えていると子ども達に伝わると、プレッシャーになるかもしれません。子ども達に指導する、それも引っ張っていくのではなく、自然と向かえるようにしてあげるのが、子ども達にとっては大事です。僕は指導者ではありませんが、考えられる選手が上に行っているのは間違いありません。言われた事しかできない選手は生き残れない。指導者の皆さんも、教え子の飛躍に喜びを感じるための先行投資だと思って、子ども達に接してほしいですね。皆さんの教え子が、いつか僕と一緒にサッカー日本代表でプレーできる日が来たら嬉しいなと思っています。これからもお互いに頑張りましょう。今日はありがとうございました。

 

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SPLYZA Teamsは「評価」→「課題発見」→「仮説」を手助けします!

 

このサイクルはスポーツの「正解のない問題」を解決する為に必要なサイクルで、社会の課題発見・課題解決のサイクルとなんら変わることはありません。

 

SPLYZA Teamsは事実となる「映像」を活用することで、選手自身が課題を発見したり、解決策をアウトプット出来るツールで、子どもたちの成長の手助けとなります。

 

SPLYZAは、スポーツが今まで認識されていた「団体行動が学べる」「礼儀が学べる」「友人が出来る」「体力がつく」等の魅力・価値に追加して、新しい時代にAIに置き換われない“生きるチカラ”を育むこと、すなわちスポーツの教育的価値の向上に貢献していきます。

 

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PROFILE

権田修一(清水エスパルス/サッカー日本代表)
1989年3月3日生まれ、東京都出身。FC東京の育成組織に所属中の05年からトップに帯同して07年トップチームに昇格。SVホルン、サガン鳥栖、ポルティモネンセSCを経て、21年清水エスパルスに移籍。U-15年代から各年代別の日本代表に選ばれ、12年にはU-23日本代表としてロンドン五輪に出場。10年A代表デビューし、14年ブラジルW杯メンバーに選出。カタールW杯では守護神として日本の危機を何度も救い、ベスト16進出に貢献した。
藤屋直博(レジスタFC監督)
1988年生まれ、埼玉県出身。中学時代はFC東京U-15(権田修一選手と同期)で、日本クラブユースサッカー選手権(U-15)大会で優勝。成立学園高校では第84回全国高校サッカー選手権大会に出場した。尚美学園大学を卒業後にレジスタFCで指導者に。2022年、2023年度の全日本U-12サッカー選手権大会で二連覇を達成した。

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