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【♯01】齋田良知│子どもの成長の最適解!?
欧米のスポーツプランニングとは?

 

スポーツは子どものカラダの成長に、いかなる影響を与えるのだろうか。スポーツ医学を専門とし、最先端医療PRP(多血小板血漿=platelet-rich plasma)治療の第一人者にして、いわきFCのチームドクターも務める齋田良知先生に聞いた。子どもの成長のメカニズムとスポーツ活動の密接な関連性とは? 

 

子どもの成長に適した欧米のスポーツプランニングとは!?

 

―― スポーツ医学を専門とされる齋田先生に、まずは子どものカラダの成長の仕組みと、スポーツの関係性についてお伺いできればと思います。

日本は欧米と比べて、子どもの成長に応じたプランニングが遅れていると言われてます。欧米では年齢ごとに伸ばすべき動作が明確にされ、どんなスポーツを行うことが効果的かを示したデータもあります。

 

参考資料:Mountain of Motor Skill Development(Clark & Metcalf,2002, Vealey & Chase,2016)

 

―― 海外では幼少期に多くのスポーツに触れる機会が多いと聞いたことがあります。小学生(5歳〜12歳)、中学生(13歳〜15歳)、高校生(16歳〜18歳)の期間によって伸びる要素とはどのようになっているのでしょうか?

実際に海外の資料を例に説明していきましょう。<図Aを参照>成長期の運動技能を表した図になるのですが、「幼児期(INFANCY)」は歩行技能、つかむ動作、姿勢のバランス操作といった動作が養われ、「2歳~8歳」の間に基礎的な運動技能が育まれます。ここで注目したいのが、8歳から上に運動技能習得の境界線(Athletic Proficiency Barrier)が引かれています。ここまでに、投げる、掴む、キックする、走る、ジャンプ、ドリブル、振る、かわす、空中キック(パント)、落下、飛び跳ねる、すべる、トラップ、転がるといった基礎動作ができていないと、その後に専門的な技能を磨いて行くのが難しいとされています。

 

―― 今おっしゃったことは、サッカー、野球、バスケといった球技はもちろん、陸上や水泳など、すべての競技で必要な動作になりますね。

そうですね。つまり、いきなり競技から入るのでなく、幼少期から徐々に基礎的な運動力を上げていくようにして、8歳から上はボールを扱った動きを取り入れるようにしています。それも一つのスポーツに特定してやるのでなく、いろいろな競技を行うことで運動技能がバランスよく発達するとされています。競技に特定していくのは、その次の段階からになります。

 

参考資料:Canadian Sport for Life,Long-Ter, Athlete Development

 

―― 境界線より上の年齢はどのようにカテゴリー分けされているのですか?

<図Bを参照>女子の方が男子より発育が早いので年齢に若干ズレがありますが、細かくセグメントされていますね。スポーツ全般の技能を学ぶ時期(Learning to Train)が8歳~12歳(男:9-12歳、女:8-11歳)とされ、競技に特定して技能をトレーニングしていく時期(Training to Train)が11歳~16歳(男:12-16歳、女:11-15歳)、その先の16歳~23歳(男:16-23歳、女:15-21歳)は、試合・競争に向けたトレーニング(Training to Compete)、さらに専門性に特化したトレーニング(Training to Win)となります。それ以降は年齢を問わずに生涯スポーツ(Active for Life)として運動を楽しむ方たちにまとめられています。

 

―― 幼少期から長い視野で成長モデルが形作られているのですね。

日本では小、中、高の区切りでチームと指導者が変わることで、やることが全く変わってしまいます。欧米では競技として成功することを目的としたトレーニング(Training to Win)(男:19歳、女:18歳)をピークに、体系化されています。最初は誰もが同じことやって運動技能を磨き、一定の段階から上を目指す人と、楽しんでいく人とで分けていくのです。

 

―― 年代別にはどのようなプランニングがなされているのでしょうか?

8歳まではスポーツを楽しむことをに重点が置かれ、身体を動かすことを『楽しい』と子どもに意識づけさせます。トレーニングするチーム・場所、指導についてもレベルの目安が定められています。8歳までは地域大会のローカル大会のみで全国大会はなし。8歳~12歳では練習70%、試合が30%となり、年齢が上がるとこの割合が逆になっていきます。指導する立場の人も、両親、ボランティアからはじまり、11歳~16歳からは専門家と、年齢別に細かく分類されています。

 

 

―― トレーニングの内容はどのように体系づけられているでしょうか?

<図Cを参照>大きくは❶基礎(FUNdamentals)、❷技術(Technical)、❸戦略(Strategy)、❹戦術(Tactics)に分けられます。❶は初期は運動技能が大半を占めるものから、成長に応じてバスケ技能の割合が占めるようになり、❷は個人のものから、他者との連携を含めたものになっていきます。競技に特化した年代になると❶はウォームアップになり、❸ストラテジー(戦略)、❹タクティクス(戦術)の割合がより多くなっていきます。大枠はこの4つですが、競技によって細分化されるようです。

 

―― 資料には11、12歳までは競技に特化せず、いろんなスポーツを経験した方が良いとあります。しかし、12歳は日本だと小学校6年生にあたり、サッカーやバスケなどの球技は、その年齢から始めるのはやや遅いという印象があります

欧米においても、早くから専門的に行うべきスポーツと、遅くから始めても間に合うスポーツの区分けがあります。早期から取り組むべきとされている競技はフィギュアスケート、体操、水泳の飛び込みの3つ。これらはエリート教育を目指すのであれば5歳~7歳の間にトレーニングに着手することが求められているようです。逆に遅くからはじめても間に合うとされている競技として、ボブスレーや競輪が挙げられています。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターをしていた時に診ていた丸山桂里奈さんは現役引退後にボブスレーに挑戦してましたよね。この区分けは面白いですね。サッカーに関しては、11、12歳までは他のスポーツも経験してから始めた方がよい部類とされていて、ラグビーであれば中学、高校の年代からでも間に合うとされています。もちろん、これは絶対的なことではなく、あくまで参考にしていただければと思います。

 

―― ほとんどのスポ―ツは小学生の間は多くの競技に触れた方がいいという認識なのですね?

オリンピック選手の7割の選手は12歳までにマルチにスポーツをやっていたというデータがあります。この資料にもコーディネーション能力や神経系の発達はスポーツ全般の技能を学ぶ8歳~12歳の時期(Learning to Train)にあるとされています。すべて欧米に習う必要はないと思いますが、例えば日本の小学生では発育が早くカラダが大きいだけで、サッカーや野球の試合に出られることがあります。でも、コーディネーション能力を磨いていない段階で競技に特化したことで、結局中学年代になるとついていけなくなってしまうケースが多い。見習うべきことがあるのではないでしょうか。

――第2回に続く――

 

 

当コーナーでは、子どものカラダの成長に関する皆さんの疑問・質問を受け付けています。

いただいた質問は、齋田先生にお聞きして、あらためて回答を記事としてお届けしたいと思います。ぜひ、下記コメント欄へお気軽に書き込みください!

PROFILE

さいた・よしとも
福島県立磐城高校サッカー部でフォワードとして活躍し、1年次に国体の県選抜に選出、3年次は主将として第72回全国高校サッカー選手権に出場した。順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学整形外科・スポーツ診療科に入局。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターを務め、2015年にはイタリアの名門ACミランに帯同した。いわきFCのチームドクターを務め、いわきサッカー協会医事委員長としてスポーツ外傷・障害の予防と選手育成の両立を掲げ、サッカー普及活動を行っている。順天堂大学医学部 スポーツ医学・再生医療講座 特任教授。

 

【スポーツ医学の専門家に聞くスポーツ教育のメカニズム/齋田良知先生~back number~】

【♯01】子どもの成長の最適解!? 欧米のスポーツプランニングとは?

【♯02】“やらせすぎ”は成長リスク増? 日本のスポーツ教育の現状と課題

【♯03】多様化するスポーツ教育<br>日本のあるべき姿とは?

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