COLUMN

【スポーツ医学の専門家に聞く 「カラダの成長に適したスポーツ教育のメカニズム」/ 齋田良知先生】
<第3回>多様化するスポーツ教育
日本のあるべき姿とは?

PROFILE

さいた・よしとも
福島県立磐城高校サッカー部でフォワードとして活躍し、1年次に国体の県選抜に選出、3年次は主将として第72回全国高校サッカー選手権に出場した。順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学整形外科・スポーツ診療科に入局。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターを務め、2015年にはイタリアの名門ACミランに帯同した。いわきFCのチームドクターを務め、いわきサッカー協会医事委員長としてスポーツ外傷・障害の予防と選手育成の両立を掲げ、サッカー普及活動を行っている。順天堂大学医学部 スポーツ医学・再生医療講座 特任教授。

果たしてスポーツは子どものカラダの成長に、いかなる影響を与えるのだろうか。スポーツ医学を専門とし、最先端医療PRP(多血小板血漿=platelet-rich plasma)治療の第一人者にして、いわきFCのチームドクターも務める齋田良知先生に聞いた。子どもの成長のメカニズムとスポーツ活動の密接な関連性とは? 第3回では世界で多様化する先端教育を紹介しつつ、日本のスポーツ教育のあるべき姿に言及します。 

 

国家が支援するカタールのアスリート育成機関とは?

―― これまでのお話から欧米では競技に特化せず、幼少期からいろんなスポーツを触れる文化があることはわかりましたが、12歳(中学1年次頃)を境に一つの競技に絞り込むのが通例なのでしょうか?

参考資料:Examples of early -and late-specializatiom sports(adapted from Balyu et al,2013

「競技に特定して技能をトレーニングしていく時期(Training to Train)が11歳~16歳とされていますが、一概にある年齢を境に絞り込むのではなく、競技に応じて段階的に学んでいるのがわかります。<図を参照>第1回で紹介したように、特に専門性の高い競技(Early Specialization)であるフィギュアスケート、体操、水泳の飛び込みは、エリート教育として5歳~7歳から特化するように分類されていますが、それ以外は比較的遅くから始めても間に合う競技(Late Specialization)とされています。アメリカの4大スポーツである野球、バスケットボール、フットボール、アイスホッケーはその中でも比較的早い段階での競技特化が推奨されていますが、それでも同時期に他競技に触れるのが共通の認識としてあります。中学年代での年間スケジュールの例として、1月はバスケ、2月~5月はサッカー、6月~9月は野球、10月~12月はバスケと3つの競技を年間を通して推奨しているものがあります。まあ、日本では難しいですよね(苦笑)。そうはしたくても環境が許してくれない」

 

―― 4か月ごとにスポーツを変えて学ぶというのはすごいですね。競技を変えることで新たな気づきがあるのかもしれないですね。

「そうですね。他競技に触れるという事例では、カタールに面白い施設があります。『アスパイア・アカデミー』といって、エリートの子どもたちを集めて国家がバックアップするアスリート育成機関です。いろんなスポーツを子どもたちにやらせ、最終的には運動能力を評価してその子に最適な競技種目をアカデミー側が提案するのです。本人には選択権はほとんどないようです。専門家がそれぞれに適した競技に特定させていく。一度施設を訪れたことがあるのですが、すごく興味深かったです。子どものうちに色々なトレーニングをやらせていて、例えばサッカーではシュートを3次元解析してフィードバックしていました。潤沢な資金力をバックに最先端の育成を行っているのです。『これはいずれ日本もサッカーでカタールに負ける日がくるな』と思ったら、昨年2月のAFCアジアカップUAE決勝で負けてしまいましたね」

 

―― その“黄金世代”と呼ばれるカタール代表は、ほとんどがこのアスパイア・アカデミー出身のようですね。

「アジアのユース年代の大会を席巻した年代であり、語学教育も同アカデミーで受けています。平日は泊まり込みで授業も学び、土日は家族と過ごすようになっています。ここにはアスペタという医療施設もあって、欧州のプロ選手も訪れ、手術後のリハビリテーションや合宿地としても定着しています。世界最先端のスポーツ施設が一体となって、子どもたちを教育しているのです。イングランドのチェルシーも寮のなかに学校があり、教育とサッカーが同じ施設内で行われています。日本ではあそこまではなかなかできないですよね」

 

遺伝子検査で秘められたストロングポイントを知る?

―― いわきFCでは遺伝子検査をして選手の体質を見極めた上でトレーニングを組まれていらっしゃいますね。スポーツにおける遺伝子検査の可能性とは?

「同じトレーニングをしていても筋肉がつく人、つかない人がいますよね。その要因の一部は遺伝子にあり、向いている人、向いていない人がいるんじゃないかという発想です。そうなると、みんなと同じトレーニングをしていても、根性しかつかず、プレーヤーとしての能力が上がらないことになります。だったら遺伝子的に振り分けてトレーニングすべきという考え方です。スーパーレスポンダー(劇的に反応し、高い効果がでる人)といって、遺伝子的にスーパーなものを持っている選手もいるので、優れた部分に特化して強く鍛える方法もあります。(遺伝子検査を通して)プレースタイルと遺伝子は合っていますね。FWでゴリゴリいく選手と、サイドアタッカーで無尽蔵に走れる選手はもともとの遺伝子が違う可能性があるのです」

 

―― 違うんですか?

「違いますね。いわきFCでは入団時に遺伝子検査をしますが、だいたい当たります。例えばスプリントタイプの遺伝子を持っているのに、中盤でさばくポジションにいる選手が入団したら、うちでどんどん強くなります。もともとしなやかでうまいのに、そこに速さとパワーが加わるわけですから。遺伝子検査は3万円くらいで一般の方でもできます。唾液でサンプルをとって、20種類くらいの遺伝子の検査を一生に一回検査すればいいのです。そして検査結果を医師や栄養士がアドバイスし、トレーナーがフィジカルストレングスを指導する。スポーツにおける遺伝子検査は陸上のようなコンマ何秒を争う競技で重要視されていますが、いずれは他のスポーツ、そして育成年代でも注目されるようになっていくかもしれないですね」

 

スポ―ツが身体の成長に及ぼす影響

―― ここまでお話を聞いてきましたが、運動・スポーツをするとしないでは、身体の成長において大きな違いがあることがわかります。

「そう思います。身体の成長だけでなく、感情、メンタル、精神的な発達においてもスポーツは重要だと思います。身体を動かすことで脳にも刺激が行きますし、他者との協調性、コミュニケーション、精神的な発達にもつながるので、スポーツは絶対にやるべきだと思います。そのためにもケガ予防、リハビリテーションに関する意識を深めてほしいです。日本は欧米に比べて、まだその認識が低いと言わざるをえません」

 

―― 海外ではリハビリに対する概念にも違いがあるようですね。

「そうですね。例えば成長期のオスグット等は原因があって起こるのであって、その原因を治さないかぎり、一定期間休んだとしても必ずまた起きます。日本だと我慢できる限界まで練習を続けて病院に行くケースが多いですが、欧州では痛み始めた段階でコーチに報告して、なぜ痛くなるのかを探るのが通例です。日本は保険医療でリハビリテーションをなかなか受けられず、接骨院に行くケースも多いのですが、電気をあて、マッサージをすることがリハビリではありません。トレーナーという職業もマッサージが得意な人、トレーニングが得意な人、そしてリハビリが得意な人もいるわけです。日本には子どものケガを予防、治療する厳密な資格はなく、スペシャリストを生む土壌も、やれる場所も十分に整備されていないのが現状です」

 

―― 今後、日本のスポーツ教育のあるべき姿とは? 

「やはり長い目でみた海外のスポーツプランニングに習うことは多いと思います。スポーツに対する価値が日本はまだまだ低い。概念として欧米の生涯スポーツ(Active for Life)としての運動のとらえ方も日本とは違います。海外ではスポーツをしていると生命保険料が安くなるといいます。例えばマラソン大会にエントリーしている人は、普段からトレーニングをして健康意識が高いので、保険の掛け金が安くなるんです。ロングタームでスポーツに対する共通の認識をもって、日本も取り組んでいく必要があると思います」

 

 

当コーナーでは、子どものカラダの成長に関する皆さんの疑問・質問を受け付けています。

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