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【♯02】齋田良知│ “やらせすぎ”は成長リスク増?
日本のスポーツ教育の現状と課題

 

はたしてスポーツは子どものカラダの成長に、いかなる影響を与えるのだろうか。スポーツ医学を専門とし、最先端医療PRP(多血小板血漿=platelet-rich plasma)治療の第一人者にして、いわきFCのチームドクターも務める齋田良知先生に聞いた。子どもの成長のメカニズムとスポーツ活動の密接な関連性とは? 第1回では欧米を例に子どもの成長に応じたスポーツプランニングを紹介したが、第2回では日本におけるスポーツ教育の現状と課題をテーマにお届けする。 

 

スポーツの産業化が育成システムを構築?

―― 前回では、欧米において子どもの年齢に応じたスポーツプランニングがいかに詳細に組み込まれているかをお話いただきました。欧米では小学生(12歳以下)の間は1つのスポーツに特化して練習するより、多くの種目に触れた方が成長効率が良いと。では、日本ではなぜこのような認識があまり浸透していないのでしょうか?

「まず、スポーツが産業化していないことがあるのではないかと思います。要はスポーツが構造上、育成において『金銭的な見返り』が構築されているかどうかということです。金銭的な話になってしまい恐縮ですが(苦笑)、日本ではまだ特に育成世代においては『コーチが食べていける』仕組みが充分にできていないということです」

 

―― 国としてスポーツの育成システムができているがゆえに、欧米では詳細なスポーツプランニングがなされていると?

「そうですね。私はスポーツドクターとしてACミランに帯同したこともありますが、イタリアでは育成にお金を払う文化が構築されています。例えば日本のサッカーのクラブチームだと、月謝を集めるにはチームが強くならないと選手が集まりません。だから試合に勝利することが至上命題となり、“勝てるサッカー”に走ることになります。そうすると、チームの運営は安定しても、子どもの成長が促されたかは疑問です」

 

スポーツで子どもを育てることに「お金を払う文化」になっていない

―― チームで試合に勝つことと、個の成長は必ずしもイコールにはならないですよね。

「子どもを成長させた指導者が評価される認識が、日本ではまだまだ低いです。都心では選手の育成に重きを置いているクラブチームもあると思いますが、地方にいくとそういうクラブはまだ少ないと思います。日本での学校体育とか、部活動は比較的お金がかからないですよね? つまり、日本はまだスポーツで子どもを育ててもらうことにお金を払う文化が根付いていないんだと思います。繰り返しになりますが、指導者を評価する良いシステムがないことが大きいです。現状では全国大会にチームを連れて行ったことが指導者の評価になっていると思います。構造的な話になってしまい恐縮ですが、私はそこが根本的な原因かと思っています」

 

―― 欧米比較でいうと、日本人の体格差は成長期からありますよね?

「そこは人種による違いになると思いますが、その差は埋まりつつあるのではないでしょうか。外国人との体格差は縮まってきていると思います。食事が欧米化して身長が大きくなり、手足が長くなっている子どもが多い傾向にあります。昔のアジア人の認識とは違ってきています。もちろん、オランダ人のように長身選手が多い国とは異なりますが、海外といっても、南米のチリなどは、体型も日本人と変わらないし、イタリア人も決して背が高いわけではないです。近年では世界と比較しても、そこまで大きな差はないんじゃないかと思いますが、海外の子どもたちはすごく食べる印象があります。だからスポーツをやめて太る子が多い(笑)。逆に日本人は食が細くて悩む子の方が多いですからね」

 

―― たしかに日本人の子どもは「食べない」印象がありますが、食事については早い段階から、成長に適した栄養素を意識すべきでしょか?

「子どもの成長に食事が大事なことは間違いありませんので、子どもの頃から意識すべきだと思います。あと、日本人は練習で『筋肉つける時期が早く、身長が伸びない』と言われているのも私は正しいと思っています。サッカーに限らず、日本のスポーツ教育は総じて練習時間が長かったり、休みが少なかったりしますから、身長を伸ばしてあげる、身体を成長させるためにも休息の時間は長い方がいいです」

 

中学年代でも勝利より身体の成長を優先すべき

―― 日本は休息が少なく、中学年代の成長期にケガをしやすい認識があります。例えばスペインでは休みも練習の一環と捉え、休息を徹底し、夏場は練習は一切しないとも言われています。やはり日本は子どもに練習をさせすぎなのでしょうか?

「そう思います。絶対にもっと休ませたほうがいいです。夏休みは一カ月休んだ方が僕もいいと思いますし、大会など組まない方がいいとさえ思っています。一回、一回の練習時間も日本では3時間やるとこが多いと思いますが、海外ではありえません。むしろそんなに長い時間やっていたら能力のない指導者だと思われてしまうことさえあります。よく『蹴球3日』と言われていますが、本当にそうだと思います。日本だと“やらせすぎる”部活動・クラブチームが本当に多いです。ケガのリスクも増えますし、逆に成長を妨げることもあると思います」

 

―― 逆に日本人が欧米に比べて良いところは?

「国民性として勤勉なのはいいことですから、長時間練習をよしとするのではなく、メリハリをしっかりつけることが身体の成長においても重要です。1時間だけステップやリズムの練習をするとか、サッカーをやらない日をつくるだとか、短い時間で終わる日とかがあってもいいと思います」

参考資料:Canadian Sport for Life,Long-Ter, Athlete Development

 

―― やはり練習が長いことがケガにつながるのでしょうか? 

「練習時間が長いことによる筋や骨へのダメージ・疲労の蓄積が、成長期のケガにつながりやすく、成長の障害となります。また、試合数が多いことも、怪我の増加につながります。どちらにしてもオーバートレーニングによりケガのリスクが増えます。ただし、ケガを恐がっていたら何もできないので、ケガをしない身体づくり、トリートメント、練習量や質の調整が必要になります。<図を参照>欧米では11歳~16歳(男:12-16歳、女:11-15歳)は競技に特定して技能をトレーニングしていく時期(Training to Train)とされていますが、中学年代の成長期はクラムジー(急激な身体の成長変化に精神が追い付かず、今までできていた技術ができなくなってしまう現象)もあり、勝利を目指すべき時ではなく、身体の成長にあわせて必要なことをやるべきとされています。まだ、しっかりと休みながら技術を覚えていく段階なのです。これらは日本のように勝敗に価値を求めると、見えなくなってしまう部分かもしれないですね」

 

――第3回に続く――

 

 

当コーナーでは、子どものカラダの成長に関する皆さんの疑問・質問を受け付けています。

いただいた質問は、齋田先生にお聞きして、あらためて回答を記事としてお届けしたいと思います。ぜひ、下記コメント欄へお気軽に書き込みください!

 

PROFILE

さいた・よしとも
福島県立磐城高校サッカー部でフォワードとして活躍し、1年次に国体の県選抜に選出、3年次は主将として第72回全国高校サッカー選手権に出場した。順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学整形外科・スポーツ診療科に入局。女子サッカー日本代表(なでしこジャパン)のチームドクターを務め、2015年にはイタリアの名門ACミランに帯同した。いわきFCのチームドクターを務め、いわきサッカー協会医事委員長としてスポーツ外傷・障害の予防と選手育成の両立を掲げ、サッカー普及活動を行っている。順天堂大学医学部 スポーツ医学・再生医療講座 特任教授。

 

【スポーツ医学の専門家に聞くスポーツ教育のメカニズム/齋田良知先生~back number~】

【♯01】子どもの成長の最適解!? 欧米のスポーツプランニングとは?

【♯02】“やらせすぎ”は成長リスク増? 日本のスポーツ教育の現状と課題

【♯03】多様化するスポーツ教育 日本のあるべき姿とは?

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