今年でプロ17年目を迎えたロアッソ熊本の山本海人選手、元リーガーで現在はサッカー解説者や指導者として活躍する下村東美さんをお迎えし、「子どものモチベーションの上げ方と継続力の身につけ方」をテーマにお話を伺った。次代を担う子どもたちの育成に情熱を注ぐ2人が考える、子どものやる気を持続させる秘訣とは? 前後編でお伝えする。
目次
「怒ることを怠る」大人が子どもに及ぼす影響とは?
――子どもの成長に欠かせない「モチベーションの上げ方」「継続力」をテーマにお話をうかがっていきたいと思います。下村さんはJFAこころのプロジェクト「夢先生」(※サッカーに限らず様々な競技の現役選手/OB/OGなどが「夢先生」として学校へ赴き、夢に向かって努力することの大切さなどを「夢の教室」で伝える活動)において全国の小中学校で教壇に立っていらっしゃいますが、活動の中で感じることは?
下村 まず、今の子どもたちはたちは感情を表に出さない印象があります。何を考えているのか、なかなか伝わりづらい。これは良い方向に向くこともあるでしょうが、悪い言い方をすると“損をしてしまう”ことにもつながりかねません。『夢先生』のプロジェクトで「今日はあんまり生徒に伝わっていないかな……」と思ったら、授業の後に感想を書いてもらう『夢シート』には意外にもビッシリ書かれていたりするんです。学校の教室の中と、外でサッカーをしている時とは“別の顔”なのかもしれませんが、教える立場としては「感情をあまり表に出さない」ということを踏まえた上で、子どもたちと接する必要があるのだと思います。
――山本選手は小学校4年生になるお子さんがいらっしゃいますが、父親として今の下村さんの言葉を聞いていかがですか?
山本 うちの子はヤンチャな部類だと思います。周囲より元気で、ちょっとうるさいくらいの感じだと思います。僕や(下村)東美さんくらいの時の「ヤンチャ」って、もっとやらかしている子を差す言葉だったと思うんですよね(笑)。怒られて覚えるというか。でも、今は正解をすべて先に与えてしまうような、少し過保護な接し方をしている親が多いように思います。「怒ることを怠っている」大人が多い印象があります。
「怒られない」思考が、子どもの自発性を奪う
――たしかに「失敗をさせない」ようにする親が多いと思います。波風を立てさせないようにするというか。
下村 先ほど感情の話をさせていただきましたが、そこは子どもだけの問題ではなく、親だったり先生だったり、大人がやれることがあるわけです。でもミスをさせない教育をしたら、子どもは自分で考えるより「怒られない」ことを優先してしまう。結果的に、自発的に能動的な行動ができない子が増えてしまうのだと思います。例えばサッカーの試合でも、ミスした選手がチラッと指導者を見てしまうような場面があると思います。監督の表情を読み取って、「怒られるかな……」と考えてしまうわけです。でもそれって、すごく寂しいことだと思います。選手が自分で判断して思いっきりシュートを打って、それがゴールに入らなかったのなら自分で責任をとるだけの話です。特にサッカーというスポーツは、すぐ次にチャンスが来るわけですから。そもそも他人の顔色をうかがっている時間なんてないはずなんですよ。学校の生活でも同じことだと思います。「怒られない」行動ばかりを優先していたら、個人の能力が伸びるわけがないと思います。
――また、親はミスをカバーしてしまいがちですよね。
下村 つい先日、小学3年生の娘が算数の教科書を忘れてしまい、僕が学校まで持って行ったことがあります。本当はいけないことなんですけどね(苦笑)。最近学んだことは「宿題をやりなさい!」と言わないことです。言いたいのをグッと我慢して、やったかの確認をするだけにしたんです。本人が自分で考えるように促すと、自ら勉強をするようになりました。例え幼くても子どもはちゃんと自分で考え行動できる。それを親が信じてあげることも大事なんだと思います。
――親の我慢が必要になると。以前、山本選手は自分の子どもにサッカーを厳しく教えすぎたと言っていましたね?
山本 僕は父親としてプロの厳しさを最初に提示してしまったので……(苦笑)、子どもが本当にサッカーを嫌いになってしまったんです。「まだできるだろう」と、上限を試してしまう、ダメな父親のパターンでした。子どもの立場になって考えると、ただパパと遊びたかっただけだと思うんですよね。
――なるほど。
山本 僕が喜ぶからサッカーをやってくれていた。そう思って接していたらと、すごく後悔しています。楽しむことが大事なのに、それを怖さや辛さが上回ってしまって(サッカーを)止めてしまったんだと思います。本当は大人がレールを敷くのではなく、ある程度道を示してあげるだけで良いんだと思います。何度も失敗して迂回しても、ゴールを目指してくれればそれでいい。今はなるべく大きな目で子どもを見守るようにしています。
自発的な行動を促すために、まずは家庭環境から
――そこがモチベーションアップにつながるのかと思っています。子どもが自発的な行動を取りやすい環境を大人がどう作ってあげられるのか。
下村 (山本)海人さんがおっしゃったように、大人が枠を作ると子どもはその中でしか発信できないと思います。突き抜けた才能が生まれにくい。例えばサッカーで、いいストライカーって、中盤や守備の選手と性格が違うんですよね。ちょっと我が強い子が多いというか(笑)。結局、そういう選手が試合を決める。ただ、日本はすぐ輪を大事にして、まず協調性を求め過ぎてしまうんです。日本でいいストライカーが育ちにくいのは、そんな原因があると思っています。ちょっと話が逸れてしまいましたが、出る杭が打たれる社会ではなく、もっと寛大に見守ってあげる環境づくりが進んでいく必要があるのかと思います。
山本 たしかに最近のプロサッカー選手は、若い子はどこか似たり寄ったりの選手が多い印象がありますね。パスやコントロールがすごく上手だけど、ジャンプ力やスピードが突出しているような選手が少ない。でも、そこの原因をサッカーだけで捉えるには限界があると思っていて、1日の生活の中でサッカーをしている時間って、すごく短いと思うんです。それよりも学校の時間、親との時間の方が長く、習慣化しやすい環境にあると思っています。だから、学校教育にそこを求めたいところですが、まずは親との関係で、子どもがポジティブになれるような環境づくりをしてあげることが大事だと思います。例えば親同士が「ここがよくない」といったネガティブな話をしているところを子どもが見たら、悪い習慣を探すようになってしまう。そうではなく、親同士が常に笑顔で良いところだけを話すようになったら、子どもだって常に前向きなことを考えられるような思考になると思います。だから僕は常に笑顔が絶えない環境を子どもに作ってあげたいと思っていますし、子どもが言ってきたことに興味を示してあげられる大人でありたいと思います。
――子どもは無意識に聞いていること、見ていることがありますよね。
山本 意外にインプットされてることって多いんですよ。だからネガティブなこと言うと、自分の子どもまで人の悪口を言うようになるんじゃないかって。明るい家庭環境を僕は常に意識していますが、最近は子どもから学校でミスして怒られたことを話してくれるようになったんです。隠したいことだと思うんですけど、それを教えてくれる環境が家庭にあるんだと思います。嘘をつかないで素直にしゃべられる環境づくり、それはまず家の中から作っていくことが大事なんだと思います。
PROFILE
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山本海人(ロアッソ熊本)
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1985年7月10日生まれ、静岡県出身。清水エスパルスJrユースを経て、プロへの階段を着実に駆け上がり、多数のJクラブでプレー。2009年~2011年に日本代表にも選ばれた実績を持つ。 プロサッカー選手として17年目を迎えた今、次のプロサッカー選手となる子どもたちの育成に視野を広げている。
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下村東美(サッカー解説者・指導者)
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1980年生まれ、北海道札幌市出身。大阪体育大学卒業後、セレッソ大阪でプロデビュー。ジェフユナイテッド千葉ではキャプテンを務めた。2014年ギラヴァンツ北九州で現役を引退後、(株)アスリートプラスに入社し、プロサッカー選手や指導者のマネジメントに携わりながら、Jリーグやヨーロッパサッカー解説者、指導者として活動。JFAこころのプロジェクト「夢先生」においても全国の小中学校で登壇。2019年は湘南ベルマーレトップチームコーチを務め、2020年は再び解説者、指導者、夢先生として活動している。
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