COLUMN

<後編>「継続力」を養うために“大人たち”ができること
山本海人(ロアッソ熊本/GK) x 下村東美(サッカー解説者・指導者)

PROFILE

山本海人(ロアッソ熊本)

1985年7月10日生まれ、静岡県出身。清水エスパルスJrユースを経て、プロへの階段を着実に駆け上がり、多数のJクラブでプレー。2009年~2011年に日本代表にも選ばれた実績を持つ。 プロサッカー選手として17年目を迎えた今、次のプロサッカー選手となる子どもたちの育成に視野を広げている。

下村東美(サッカー解説者・指導者)

1980年生まれ、北海道札幌市出身。大阪体育大学卒業後、セレッソ大阪でプロデビュー。ジェフユナイテッド千葉ではキャプテンを務めた。2014年ギラヴァンツ北九州で現役を引退後、(株)アスリートプラスに入社し、プロサッカー選手や指導者のマネジメントに携わりながら、Jリーグやヨーロッパサッカー解説者、指導者として活動。JFAこころのプロジェクト「夢先生」においても全国の小中学校で登壇。2019年は湘南ベルマーレトップチームコーチを務め、2020年は再び解説者、指導者、夢先生として活動している。

 

今年でプロ17年目を迎えたロアッソ熊本の山本海人選手、元リーガーで現在はサッカー解説者や指導者として活躍する下村東美さんをお迎えし、「子どものモチベーションの上げ方と継続力の身につけ方」をテーマにお話を伺った。次代を担う子どもたちの育成に情熱を注ぐ2人が考える、子どものやる気を持続させる秘訣とは? モチベーションを維持することをテーマに語った前編に続き、後編ではそれを「継続力」につなげるための環境作りについて迫ります。

才能が花開く時期は人によって違う

――継続力について伺っていきたいと思います。ご自身の経験を振り返っていかがですか?

山本 プロ17年目になりますが、家の中にずっといたり、友達と遊んでばかりいたら、継続力は身につかなかったと思います。その意味でもサッカーにすごく感謝しています。継続はモチベーションが大きく関わると思うのですが、前提として「楽しむ」ことがあり、その上でスポーツでは「競争」する環境に身を置くことになります。その中でセレクション、選抜、高いところでは日本代表と選別があり、受かる、落ちるは当然出てきます。そこで目標をどこに置くのか。近い目標としては友達より上手くなる、遠い目標であればJリーガーになる、などがあるでしょう。その目標に向かってどれだけ頑張れるかが、継続につながると思います。

 

――目標は人それぞですよね。自分にあった目的を設定できた方が、満足度を常に充実させながら続けていくことができると思います。

山本 そうですね。あまり無理せず、続けられることを目標にすることも大事だと思います。その目標を一つクリアしたことで、「やってよかった」という気持ちがさらにやる気にさせると思います。心の花が咲くと言うんでしょうか。継続したからこそ身に付くものがあることを、大人になる前に知ることはすごく価値があると思います。それはスポーツ選手に限らず必要なことですからね。

下村 僕は子どもの頃、常に周りには上手い選手ばかりいて、何度も辞めたいとばかり思っていました。それでも諦めずに続けて、自分のプレーが大きく変わったのは中2の頃でした。競争に打ち勝つ喜び、結果を出す喜びなど、成功体験を得たことで、「これまでやってきたことは間違いではなかった」と思えるようになったんです。(山本)海人さんが『花が咲く』と表現されましたが、花って常に日光を浴びて、水をあげ続けないと咲かないですよね?

 

――そうですね。

下村 人間も一緒で、明日才能が開花する子もいれば、一週間後、数年後に花が開く子もいるわけです。人には個人差があり、それぞれ違うことを周囲が認識させてあげることが重要だと思います。僕自身も遅咲きでしたから、「続けて行けばいずれ才能が開花する」ことを知っていれば、誰だって辞めずに頑張れると思うんです。スタート時点はみんながバラバラですから、大人がそれを教えてあげることが、「継続力」を育むことになるのではないでしょうか」

 

親が子どもの失敗を見守る、我慢すること

――JFAこころのプロジェクト「夢先生」で学校の教室で教鞭をとる下村さんですが、グラウンドでスポーツしながら教えた方が伝わりやすいと思うことはありませんか?

下村 夢先生でも体育館で身体を動かしてから、教室に行く流れになっています。やっぱり教室で机に座っているより、スポーツをしている方が、子どもの個性が出やすいんですよね。それは得意、不得意を言っているのではなく、表情やコミュニケーションから、各々の個性がすごく分かりやすい。それに授業って何もかしこまったものばかりでなく、休み時間のようにリラックスした授業はあってもいいと思うんです。欧米のように子ども同士で自由に話し合わせて、日本でももっとディスカッションの機会があってもいいのではないでしょうか。

 

――親が子どもにできるアドバイスは他にどんなことがあると思いますか?

山本 いきなり子どもに「自由にやっていいよ」と言っても何をしていいかわからないと思うんです。だから最初は選択肢を与えてあげること。例えば、学校から帰ってきて、手洗い、うがいをしたら「次は何をするの?」と。宿題、おやつ、遊び、と3つくらい選択肢を与えてあげるんです。まず子どもは遊びを選択すると思うんですけど、そうしたら宿題をやる時間はどんどんなくなり、「先に宿題をやった方が思いっきり遊べるんじゃない?」と段階的に教えることで、子どももわかってくると思うんです。温かく見守ってあげれば発想力もだんだん豊かになるんじゃないかと思います。子どもだって自分から自発的にやった方が親に言われるより、スピードも早いし、達成感もあると思うんですよね。最初は誰だって上手くできない中で、自然と上手になっていくわけですから」

 

――成長したところ、変わったところを親が気づいて褒めてあげることが重要ですね。下村さんいかがですか?

下村 うちの子どもも最初は宿題をやっていなかったですが、先ほど言ったように自発性を促すことで、自分からできるようになってきました。先日の短い秋休みでは初日に宿題を全部終わらせてしまったほどです。大人が社会人になって会社で失敗するように、子どもも学校や習い事を通して、失敗して学んでいくんだと思います。親が声を大にして言いたいところを我慢して、子どもが失敗するところを見守らなくてはいけないんだと思います。

 

――失敗してしまったことは本人が一番わかっているから、親がそれを上塗りしちゃうのはよくないですよね。

下村 だから我慢して自発を促すしかないですよね。僕も中2になってサッカーとの向き合い方など真剣に取り組みようになりました。どんな子だって転換期は必ずくると思うので、子どものスイッチが入るまで、親は口チャックで我慢することが大事だと思います。ただ、子どもが可愛いのはみんな一緒ですから、実際は色々と難しいと思いますが……(苦笑)。

 

――たしかに、子どもにミスさせたくないのが親の本音だと思うんですよね。

山本 難しいですよね。自分の子どもだから愛情をいっぱい与えたいのは分かります。それこそ成功する道だけを辿ってほしいですが、プロのサッカー選手を見てみると、手塩にかけて優しく成功の道を歩ませようとした長男より、手がかからなくなった次男、三男の方がプロ選手になっている確率って高いんですよね。親が助けなくても、意外に子どもは自分で考えて立派に成長する。子どもを信じてあげることが重要なんでしょうね。

 

今、親として子どもにできることは何か?

――ここまで1時間近くを話を伺ってきましたが、最後に子育て、育成に励む読者の方たちに向けてメッセージをよろしくお願いします。

下村 子どもを成長させるのは一筋縄にはいかないことだと思います。あえて距離をとるのも愛情だと思いますし、大変な時に手を差し伸べてあげるのも親の愛情だと思います。要はバランスなのだと思います。親だったり、先生、指導者の立場だと難しいと思いますが、グッと我慢して、要所要所で子どもにとっていいきっかけを与えることが大事なんだと思います。行き先に明かりを灯して示すのではなく、そっと背中を押してあげること。夢や目標に向かっていくと、どうしても先を見据えがちですけど、大事なのは現時点で何ができるかだと思います。壁にぶつかったら、今できることで乗り越えればいい。勢いがついている時は足元をみて着実に進めばいいんです。一歩一歩が1ヶ月後、半年後、1年、5年、10年後とつながっていくと思います。

山本 東美さんの言う通り、大事なのは「今何ができるか」だと思います。テレビやネットであらゆる情報が飛び交っている時代、親は良かれと思って、子どものためになる情報を探していると思います。ただ、そこで示された答えは発信している方が経験して導き出した答えであって、今、目の前にいるお子さんの答えではないことを認識してほしいです。あくまでもそれはアドバイスであって、正解ではない。それが今、自分の子に適用できるか判断することは、親の責任だと思います。みなさん、すごく勉強熱心でお子さんの成長に心血を注いでいるのはよく分かりますが、それが自分の子どもに正しい情報なのか、一度よく考えて見て実行してほしいです。僕もまだまだ勉強中で、自分の子どもにサッカーを嫌いにさせてしまったことを自戒しながら、いつかまた子どもが「サッカーがしたい」と思ってくれるように努力しています。今がゴールではないので、みなさんも毎日を楽しんで、スポーツを通して人間力、心を育んでいただければと思います。本日はありがとうございました。

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