COLUMN

育成のスペシャリストが提言
いま求められる、「自己肯定感」の高め方とは?(前編)

PROFILE

石川慎之助(NPO 法人つくばフットボールクラブ理事長)
1979年、東京都生まれ。 筑波大学第三学群工学システム学類在学中、 蹴球部に入部し、地域の小学生にサッカーを 指導。つくばFCの活動を引き継ぎ、2003年 NPO法人つくばフットボールクラブを設立、 2005年株式会社つくばFCを設立し代表取締 役に就任。NPO法人日本サッカー指導者協会 事務局長、一般財団法人日本クラブユースサッカー連盟 事業委員長なども務める。
都並敏史(ブリオベッカ浦安監督)
1961年、東京都生まれ。1980年読売クラブに入団。19歳で日本代表初選出。その後、名門「ヴェルディ川崎」の名ディフェンダーとして、Jリーグの創成期から数々の輝かしい成績を残し、1998年に移籍先のベルマーレ平塚(現:湘南ベルマーレ)にて現役引退。引退後はヴェルディ川崎ユース監督をはじめ、2005年にはベガルタ仙台監督、2006年セレッソ大阪監督、2008年横浜FC監督など、10年以上牽引した日本代表時代に培ったリーダーシップ力を大いに発揮した。2018年からは関東サッカーリーグ1部のブリオベッカ浦安の監督に就任。
田部学(札幌大谷高校サッカー部監督)
1974年、北海道生まれ。筑波大学、同大学院卒業後、FC東京の普及育成スタッフとして、スクールマスター、FC東京U-15むさしコーチとして多くの子どもたちの指導に携わる。武藤嘉紀や橋本挙人の小学生時代の指導に関わると共に、サッカーの本質・楽しさを伝えるべく指導者講習会も数多く実施。2009年に創部した札幌大谷高校サッカー部監督として10年間で高校総体5回・高校選手権3回の全国出場し、Jリーガーも3名輩出している。今月末から始まる第99回全国高校サッカー選手権大会に北海道代表として出場を決めた。北海道サッカーの選手・環境含めた普及育成強化を目指す。

お子さんがスポーツを続けていく上で、「うちの子には自信が足りない」「もっと自信を持って果敢に取り組んでほしい」そんな悩みを持つ親御さんも多いのではないでしょうか。自己肯定感が高まると感情が安定し、何事にも意欲的になることができ、自信の源となります。自己肯定感を高めるには、周りの大人のサポートや声掛けが必要不可欠です。では、そのためには親や指導者は子どもとどう向き合うべきなのか、3名の育成スペシャリストが語ります。

 

今の指導者に求められるのは、子どもの心に作用させること

ーーポジティブに動くためには自己肯定感が必要不可欠だと思います。石川さんがポジティブに動ける原動力は自己肯定感なのでしょうか?

石川 単純に好きなんですよね。肯定する所までは行っていませんが、「やりたいな」という思いは強いと思います。

田部 肯定していない自分を肯定しているということですね(笑)。

都並 そうそう(笑)。石川さん自身が、誰にも負けないサッカー好きだと思っているんですよ。間違いない。僕も、サッカー好きな所だけは誰にも負けない、という思いは強いですね。

 

ーーすごくヒントになる部分です。実力だけでなく好きな気持ちの強さとか、何かを持っていることが大事ということですね。

都並 間違いありませんね。好きというエネルギーがすべてを動かします。僕は日本代表になりましたが、その道のりには確かに厳しい練習や苦しいことがありました。でも好きだし楽しいから、厳しいことを簡単に乗り越えられたのです。自分では簡単に思えるだけで、客観的に見れば大変なことかもしれませんが。実家の近所のおばさんは、「あれだけボール蹴ってれば日本代表になるわよね」と皆言っています。僕は好きでやっていましたが、周りから見れば壁にボールを蹴ってばかりいる少年でした。

 

ーー都並さんがそうなったきっかけやエピソードをお聞かせいただけますか?

都並 まずは読売クラブ(ヴェルディの前身)のスクールに入れて、環境に恵まれたことが大きいですね。当時は芝生が使い放題で好きなようにサッカーができたので、さらにサッカーを好きになりました。「誰よりも上手くなりたい」という思いも強くなり、自然に努力を始めましたね。楽しくて、遠足気分。クラブの練習だけでなく、地元の友達と4、5人で多摩川の河原でサッカーすることもありました。

 

ーーそれは遊びの延長でやってますよね?

都並 完全にそうですね。サッカーは試合形式、ゲームが一番面白いと思います。特に少人数でのゲームはボールをたくさん触れるので、色んなチャレンジができる。ヴェルディでも、そういった形式の練習をずっとやっています。

 

ーー田部さんは選手権に出る高校生を育てていますよね。根本はなんとなく分かっていても、遊びだけではダメな世界もあるのでしょうか?

田部 僕も昭和当時の話になりますが、野球でもマラソン大会でも常に負けたくない、という気持ちがありました。そこからサッカーも始めたのですが、都並さんの試合を見て面白いなと思ったことが大きいですね。都並さんは僕たちの時代のスーパースターでしたよ。勝ちたいけど、楽しむという気持ちも大切にしたい。楽しむために勝ちたい。その相乗効果が出てきたのは高校位からですね。下手くそかもしれないけど、もっと先でもサッカーをやりたい。周りの環境もあって、そう思えました。日本のトップを見てみたいという理由で、進路を決めましたね。僕の場合は「楽しい」という遊びの切り口よりも、「勝ちたい」というところから入りました。

 

ーー今の高校生を見てどう思われますか?

田部 やっぱり昔と環境が違って情報も豊富にありますし、サッカーを簡単に見られます。でも、もっと楽しんでほしいなと思いますね。競争の楽しさもサッカーの楽しさも、なんとなく弱いように感じるのです。だから、こちらから「もっとできるよ」という熱を与える必要があります。サッカーの技術うんぬんじゃなくて思い、心に作用させるのが今の指導者に求められると思います。そこが指導者の難しい所ですね。

 

「毎日ちょっとずつ」の積み重ねが、大きな成果につながる

ーー都並さんは今、ブリオベッカ浦安で社会人の選手を指導していますよね。「楽しい」という所についてはどうお考えでしょうか?

都並 サッカーを好きな選手はこだわりがありますし、自分を客観的に見られます。365日見ていると毎日の取り組みは違いますが、それでいてコツコツとしっかり継続しているのです。「継続は力なり」と言いますが、3日に1回とかではダメで、「毎日ちょっとずつ」がポイントだと思います。毎日ちょっとずつやっていくとあるものが出来上がって、継続するとさらに大きくなる。うちのクラブでも上に行ける選手は皆そうやって継続しています。一方で、熱のない人にこちらがいくら言っても響きません。

田部 ちょうど今日のトレーニングでそういう話になりました。コツコツの仕方を知らないというか、3日に1回でやっているつもりになっていたり。こちらは朝練に早く来てしっかりやって欲しいなと思っているのですけどね。そういう価値観が通じる人とそうでない人がいます。

都並 毎日やるにしても、たとえば自分に足りない所を意識してやっているし、そうでもないケースも多々あります。サッカーが本当に好きな人は上手く自分の欠点を見つけているなと感じますね。目標があって、そこから逆算して足りないものを探している。そこの差はありますね。

 

ーー都並さんの継続性はどうやって培われたのでしょうか?

都並 昔テレビでプロの選手がリフティングしているのを見て、リフティングが大好きになりました。ずっとリフティングをやり続けて上達したことで、それが小さな自信につながったのです。小さな自信を持ったことが、「次への努力」にもつながりました。たとえば左脚で蹴れなかったのですが、何万本も蹴らないと完璧にはなりません。でも、そこまでの努力はすごく楽だったのを覚えています。要は、リフティングが上達したときのように失敗しても繰り返して、細かいデータを積み重ねることで最終的に上手くなれたのです。だから、上手くいかなくても1つひとつの失敗に対して自分で工夫、微調整していくことが大事ですね。自己肯定感という意味でも、小さいものを作っておくと、大きなものにつながると思います。

 

ーー石川さん、最近の現場の子ども達を見てどう思われますか?

石川 リフティングは自分もサッカーを好きになる大きなきっかけでした。僕は小学4年でサッカーを始めましたが、周りの子は1~2年生からやっていたので遅かったのです。冬の時期に、リフティングで表彰するというのがありました。僕は上手じゃなかったので、半分いじめられていました。いじめっ子とケンカして、アホなのでぶん投って、指を骨折しました。その相手がリフティング上手だったんですよ。だから「こいつに負けたくない」って練習して、6年生の時にはしっかり勝ち切れました。そこからすごく変わって、中学では余計にサッカーにのめり込んでいきましたね。

 

ーー「負けたくない」ということが、まさに原動力ですよね。今の教育ではケンカさせないという風潮がありますが、スポーツの中でその原動力を引き出せるのはいいですね。スポーツを通して自信を付けられるのは大きいと思います。

田部 サッカーも格闘技です。結局格闘のところで負けてしまうと、ゲームに勝てません。僕は、何回かレスリングのコーチに教わったこともあります。サッカーでは人肌に触れての1対1のバトルはあまりないじゃないですか? その温もりを感じながら楽しめる世界もあるのだなと知りました。石川さんの手の感触がどうかは分かりませんが(笑)。そういう事も勝負につながってメラメラと燃えるきっかけになって、より戦える子達が増えてきていると思います。

 

ーーたしかに、スポーツの世界じゃないと味わえない感情がありますよね。1対1で引っ張り合ったりぶつかり合ったりしたときの「痛い」という感情。ボールを取られたときの悔しさ、抜いたときの気持ちよさ。でも今ではスポーツをやる子が少なくなって、その感情を体験しないで成長している子が多いのかもしれません。

都並 そうですね。車のタコメーターで例えると10,000回転できるエンジンがあっても、7,000回転しか上げなければ3,000回転余っているわけです。スポーツでは「負けたくない」という、周りに自分が抗っていく気持ちで残りの3,000が回るケースがある。それを知ると自信になると感じますね。僕がヴェルディのコーチをやっていた時に、日本代表の三竿健斗(鹿島アントラーズ)がいました。中2の時から素晴らしい選手でしたが、球際の「激しさ」がなかったのです。激しさがあったら一流になるから、コーチ達は「もっと激しく行け」と言っていましたが、スマートにやっていて変わりませんでした。今思うと7,000回転が自分の限界だと思っていたみたいで。でもきっかけがあって、駒沢公園でU-14の大会があったのですが、ブラジルのチームに勝って優勝しました。負けているチームをボコボコに削っていて。「球際ってあんなに激しくやっていいんですね、都並さん」と。その日から一気に変わりましたね。これは3,000回転が一気に回ったケースですが、僕もプロでラモス瑠偉さんに怒られて強くなって自信が付きました。この「3,000回転」を経験するのはすごく大事だと思います。

 

ーーすごく分かりやすいですね。親や指導者が伝えたつもりでも、子ども達には分からないこともあります。その場では「はい」と言っていても、自分で体験して実感しない限り分からない。

都並 大人と子どもの認識にすごく差があるから、そこをうまく埋めてあげることが大事です。時には厳しく、時には自分で気づかせないといけません。親御さんが「サッカー選手にしたい」と言って一生懸命応援するのはいいことだと思いますけどね。僕がヴェルディで監督をしていた時の話ですが、成長してJリーガーになった選手の親御さんはどんな感じかと言うと、2通りしかありません。「完全な放任」か「ベタ好き」のどちらかです。逆に、普段見ないのに子どもが苦労しているときに限って親御さんが出てくるような選手は、絶対上に行っていません。経験させればタコメーターが回転できるのに、親の考えで「コーチが間違っている」と勝手に限界を下げる環境を作ってしまう。それで結局、3,000回転が回らなくなってしまうのです。上手くいくのは、ほったらかしで3,000回転を回しやすい環境にぶち込むか、毎日熱心に見ていてコーチも信頼できる親御さんのケース。久保(建英)君の親御さんは後者でした。中途半端な親御さんの関わりはマイナスしかありません。

 

成功への鍵は「失敗を恐れない環境づくり」

ーー親の「失敗させたくない」という愛情の裏返しが、逆に成長を鈍化させるということですね。大事なのは、「失敗を恐れない環境づくり」だと思います。田部さんは子どもへの接し方について、どのようにお考えですか?

田部 本当に都並さんのおっしゃる通りで、トレーニング内容よりも子ども達にどうやったら響くかが大事だと思います。子どもは、悔しさとか大きな喜びを普段なかなか見せないじゃないですか。トラブルや経験したことがない状況になった時に、本当の子どもの姿が見えてきます。そんな時にコーチが働きかけてあげることで、そこがきっかけになるのです。あと、親は自分の子どもしか見ていませんよね。ということは、子どもが家で普段見せない姿を期待している。コーチは、1人ひとりの非日常的な感情を表現させられたらOKだと思うんですよ。内容論やトレーニング論から入るかもしれませんが、人それぞれの違いを理解して接してあげると、いい練習になります。

 

ーー非日常の普段見られない感情というのは、すごく大事な成長過程ですよね。石川さんはどのようにお考えでしょうか?

石川 今の私は経営の部分が多いのですが、社員には積極的にチャレンジさせているんですよ。交渉とかも「とにかく行ってこい」という感じ。それでたとえ失敗しても、学べることは沢山あります。どこは失敗してもいいのか、どこは失敗したらまずいのか、経営者としては考えながらやっていますね。もしかしたら選手も、多少は怪我しても、むしろ多少怪我した方がいいのかなと思います。

 

ーーなかなか経営者の方でそこまでやらせる方はいないですよね。スポーツだと、非日常の体験として失敗できるのは大きいと思います。もちろん失敗はしたくないものですが、失敗を失敗で終わらせなければ成功につながって自信になる。指導者、大人がそんな環境を用意してあげることが大事なのではないでしょうか?

都並 まさにその通りですね。運が良いことに僕の育った読売クラブの環境は押しつけをしないし、自分でトレーニングを考えさせてくれました。プロのチームで競争もあって、上のカテゴリーにはいい選手が飛び級で行くこともあります。半年に1回優秀選手が決められて、その選手だけトップ選手と同じカレーライスが食べられたり。「ニンジン」がぶら下がるわけですよ。それで僕らは「なんとかあのメンバーに入りたい」とずっと考えながらやっていました。「俺は何番手なんだ」ということを考えるようになりましたね。他人と比較することについては、他の人より長けている自信があります。時にはラモスさんみたいな人が中に入ってきて、とんでもない位怒られることもありましたよ。そういう所を超えて、場数を踏んで、強くなります。石川さんがおっしゃっていたように経験させて、強くなって自信に変わる。そういう環境が大事だと思います。

 

ーーカレーライスでもトップチームでも、欲するものがあるからこそ自分から考えられるということですよね。

都並 ポケットに今日ゲームの中でやることを紙にメモして、見ながら練習していました。左サイドからカットインして右のインフロントに行くとか、自分でノルマを作るのです。とにかく上手くなりたかったですね。カレーライスが欲しいから、というのもありましたが(笑)。あの「ニンジン」によって他の人と比較する力が付いたので、ニンジンは大事だと思います。

 

ーー田部さんはどのようにお考えでしょうか?

田部 そもそもサッカーでは試合が多くなればなるほどレギュラー、ベンチ入りといった競争が生まれやすくなります。以前、勝ち残りみたいなことを練習に取り入れてみたんです。勝った人はもう1本できてもっと上手くなれるから、子ども達が乗ってきてくれて。世界を目指しているとかJリーガーになりたいとか、目標が皆それぞれあります。子ども達がどこを目指しているのか把握したうえで、仲間と競争する楽しさを味わわせてあげることが大事です。あと、前回の大会では1勝したから今回は2勝とか、インターハイでベスト16だったので、次はベスト8とか。もちろん最終的に優勝したいのは皆一緒ですが、「ちょっと上」の所で目指すと、より現実的になります。最近の子ども達は「歴史を変える」と言っています。そのためには、今までの経験よりもちょっと上積みすればいい。その「ちょっと」を積み重ねることがポイントなのかなと思いますね。

 

ーーなるほど。お2人の話をうかがって、ニンジンだったりゲーム性だったり目標設定の仕方だったり、すごくいい具体例だなと思いました。そういったことが自己肯定感を高める1つのきっかけかもしれませんね。

都並 もちろん元から楽しい環境なのが1番ですが、楽しくないところからスタートする子どももいますよね。それを途中で楽しくしてあげるのは大事かなと思います。

 

――後編に続く――

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