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石川慎之助 x 都並敏史 x 田部学│育成のスペシャリストが提言
いま求められる、「自己肯定感」の高め方とは?(後編)

 

お子さんがスポーツを続けていく上で、「うちの子には自信が足りない」「もっと自信を持って果敢に取り組んでほしい」そんな悩みを持つ親御さんも多いのではないでしょうか。自己肯定感が高まると感情が安定し、何事にも意欲的になることができ、自信の源となります。自己肯定感を高めるには、周りの大人のサポートや声掛けが必要不可欠です。では、そのためには親や指導者は子どもとどう向き合うべきなのか、3名の育成スペシャリストが語ります。

>前編はコチラ

 

子どもに合わせた言葉のチョイスが大切

ーー田部さんは高校生、都並さんは幅広い年齢、石川さんも小さい子どもを沢山見ている中で、思春期の中高生は特に難しい年代ですよね。どのような言葉のかけ方を意識していますか?

田部 人それぞれ感情に響く言葉、レベルがあります。サッカーでもシュートを決めても、回転や角度がすべて思った通りに出来ないと喜ばない子どももいます。そういう時は「今入ったけどズレてたよね」のように言った方が納得してくれる。一方で、「すごいシュートでしょ」って単純に喜ぶ子どももいます。そういう子どもごとのレベルを見極める必要がありますね。あとは、学校の悩み事を聞いてあげることも大切です。情報をたくさん集めて「これ言ったらどう反応するかな」と想定しつつ、子どもの表情から読み取っていくのが大事かなと思います。

 

ーー子どものレベルや感覚もそれぞれですし、その子にあった言葉をチョイスしてあげるということですね。

田部 1つ補足すると、この社会の中でNGにならない程度に言葉を選んでいくのが大事かなと思いますね。今年北海道大会の決勝でゴールを決めた子が、去年の予選大会では大きなミスをしたのです。スローインを相手に渡してしまって、それが失点につながって負けました。その子に対して今年は「お前のせいで先輩たちが負けたんだ。その想いを考えて今年は本気でやれ」って。そういう言葉が響く子だったからゴールを沢山決めてくれましたが、どこまで厳しくするのかは注意が必要です。ただ、僕も常に厳しいことを言っているわけではなくて、むしろほめることの方が多いので(笑)。

 

ーー1人ひとりを見て、かける言葉も含めてチョイスしなければならない時代ですよね。都並さんは今社会人、20歳くらいの選手を見ていてどう感じますか?

都並 僕は日本代表でバリバリやって来ちゃっているじゃないですか。そういう人間は監督として大成しないと言われています。でも自分自身、強くなるまでにかなり頑張って道のりを歩んできた自負があります。だから、「このぐらい努力しなくちゃだめだよ」「君たちもやれば絶対に上手くいくんだよ」と信じてやっています。でもやっぱり、それに耐えられる選手ばかりではありません。そういった選手には上から引っ張るというよりは、後ろから押してあげる感覚がすごく大事だなと分かってきました。そうすると目がギラギラと燃えてくるのです。「自分を認めてくれる人のためにやろう」「支えてくれる人のために恩返しをしよう」という導き方だと、やる気を出す子が多いですね。とはいえ、心技体がそろっていないと上には行けません。技術や体力があっても心が弱いとか、そろっていない子の方が多い。それを支えて、植物と同じように日光と水をあげるとぐっと伸びていくんだと、この年になってやっと気づきました。

 

ーーまさに今回の「自信を持たせる」ということですよね。外的要因も含めて伸ばしていく。

都並 僕自身、自分一人でやってきたと勘違いしていました。でもそこには支えてくれたり、落ち込んだ時にフォローしてくれたりする人の存在がありました。監督になるまでそのことに気づかなかったのが恥ずかしいですね。

 

ーー組織を持つようになったからこそ、気づけたということですよね。同じく組織を持つ石川さんは経営の感覚も入ってくるかと思いますが、いかがでしょうか?

石川 逆に都並さんにおうかがいしたいのですが、指導の中でわざと無視することもありませんか?

都並 普通にしますよ。僕は柏レイソルのネルシーニョ(ネルソン・バプティスタ・ジュニオール)監督の指導方法が好きで、監督がやりたくなったんです。その監督は、ダメな時は無視だらけで、そこで跳ね上がってきた人だけがチャンスをもらえる。心技体そろった人じゃないと生きていけない世界。でも僕のカテゴリーはそういう人ばかりではないし、優しくされることで上に行ける人もいる。だから、「アメとムチ」を上手く使い分けてやっています。その中でも、1対1で話すのは効果的ですね。

石川 ネルシーニョ監督は無視することがあるのですか?

都並 完璧です(笑)。試合で負けてダメな時は完全無視。一方で、ダメかと思ったらもう1回チャンスをくれたり。その辺のツンデレが上手いんですよ。浦安でもツンデレっぽくやっていたらいい雰囲気になってきましたね。来年はもっとデレデレしようと思います。

 石川 なるほど(笑)。田部さんもツンデレをやってるのですか?

田部 やりますよ。今サッカーの強い大学で教えていますが、ゴールキーパーの選手に対してプラスの言葉をあまりかけて来ませんでした。それは、「まだまだ上に行ける」という期待があったからです。実際試合に出しているから、その選手自身評価されていると分かるよね、と思っていました。でもある壮行会の時に「なんで僕は評価されていないんですか?」と言われてしまって。その子にとってはプラスの声掛けが必要だったんだなと気づきました。ただ、都並さんのおっしゃっているように人によりますね。

 

ーーお話をうかがっていると、今の指導現場の大変さが分かりますね。色んな子が多くて、「これじゃ響かないんだ」といった苦労も多々あるのでは?

田部 そうですね。ある意味で監督を「演じる」と言いますか、演じながら本当の自分になっていくのだと思います。相手がどう反応するかを考えながら、自然に声掛けをしていきます。

都並 プロの世界で1年契約とかだと、守りに入る選手が多いのです。特にベテランに近くなると、その監督に気に入られなければ仕事がなくなり家族を養っていけない、となってしまう。だから、新しい監督が厳しいことをバンバン言うようなことがあると、完全にロボット化してしまうのです。それで、コーチやキャプテン経由で間接的に伝えてもらって、監督として出しゃばらないようにすることもあります。その方が上手くいきやすいですね。さらに、1対1で評価してあげる言葉をかけてあげるとぐっと伸びると思います。

 

子どもの自己決定力は、日々の習慣から

 ーーなるほど。田部さんは「自己肯定感=やる気」と研究されたとうかがっています。そこについてお聞かせいただけますか?

田部 研究という研究ではありませんが自分は何事にもやる気がある方で、その理由が気になったのです。大学院の時に、スポーツ心理学でモチベーションについて勉強しました。内圧的な動機を高める要素は、3つあります。自信、自己決定、仲間との達成感。それらを感じると、その物事がどんどん好きになるのです。サッカーでどうすれば達成感を得られやすいかというテーマで卒業論文を書きました。子どもに自己決定させることを急いでいる親御さんも多いのかなと思います。たとえば子どもは親の出した食事を、1年で1000食くらい食べるじゃないですか。でも「今日量が多いな」とか「これ嫌だな」とか、ストレスにもなりますよね。それに打ち勝つことが大事です。そこを「食べなくていいよ」とか中途半端になってしまうと、せっかくの自己決定のチャンスを奪ってしまう。FC東京で武藤嘉紀選手や橋本拳人選手など色々な選手を見てきましたが、サッカーができる子は大体3食しっかり食べます。食べられない子は試合の入りが悪かったり、僅差の勝負で戦えない子が多いという感覚があります。試合に勝つ前に、出てきたものをしっかり食べる。日々の習慣をしっかりする。身近ですが、出来ることだと思います。

 

ーーなるほど。やる気を出すための要素が自信、自己決定、仲間の達成感と紐解かれているんですね。都並さんは、やる気はどこから出てくるものだとお考えですか?

都並 やる気がなかったことがないので難しいですね(笑)。僕の中でぶれていないのが、好きなことを継続すること。それは自分の個性にもつながるし、他のやる気にもつながります。それに、他の人に負けないものがあるというのは、大きな自信になります。僕は昔から、「サッカー」と「車」と「B級グルメ」の3つが好きで。うちの親父が赤ちょうちん(飲み屋)に連れていってくれることもよくありましたね。ずっと好きなものをやりつづけて、サッカーもここまで来ました。車についても、全部自分で買ってナンバーを自分で付けるような、もうプロの世界に入っています。B級グルメも新聞にコラムを掲載していたくらいです。人に負けないものがあるという余裕は、かなり前から持っていました。今だとEスポーツなんてものもありますよね。やり込めばその世界に行ける人もいるし、行けなくてもそこまでの努力は自信につながります。負けることが続くとどんどん自信がなくなってしまいますよね。でも「ここだけは負けない」という「芯」があるのは大きいと思います。でも簡単には手にできないから、継続が大事ですね。1つでもいいからやる、というのが僕は自己肯定感、やる気につながると思います。

 

ーーなるほど。何でもいいから自分に自信をもって継続していけばいいんですね。

都並 僕が子どもの時、近所の子ども達を集めてサッカーをやってたんですよ。2軒隣の家に、一切外に出てこない暗い少年がいました。「なんで出てこないんだろう」と思っていましたが、ずっと勉強していたみたいですね。その人、宇宙飛行士になった星出彰彦さんです。本当に、ずっと勉強していて外で遊ばない。やり続けたからそこまで行った人。星に出るという名前だから運命なのかな(笑)。僕の時代は、1つのものを突き詰める人は「オタク」と言われていい印象を持たれませんでした。でも今では秋葉原もあって、オタクが完全に認められています。時代は常に変わるので、今の当たり前が未来の当たり前ではないこともあります。

 

ーー根本に「好き」という気持ちがあったから、外的要因に左右されずに貫けたということですね。石川さん、逆質問はありますか?

石川 面白いなと思いながら聞きました。僕もクラブを運営するのは常に手探りです。スポーツビジネスの経験がなくて、ゼロからクラブを立ち上げました。仮説を立てて工夫しながら検証して、とやっていますが本当に手探りで。いなくなった社員を不幸にしてしまったりもしているのですが、失敗しながらだんだん数字を見るのが感覚になってきました。数字は感覚になりづらいですが、それを感覚として落とし込んでいくのは積み重ねている最中です。お話をうかがいながら、その感覚を経営者としてもっと積んでいかなければいけないなと思いました。

 

子ども自身のアプローチも、大人がいい刺激を与えることも大事

ーー最後にもう1つおうかがいしたいのですが、「ハングリー精神」の必要性についてはどのようにお考えでしょうか?

田部 人的に作ったものはコーチが、ピッチが、天気が、と言い訳ができてしまいます。そうさせない意味では、自然の存在はすごく大事だと思います。たとえばキャンプや野宿では、自然に何か言っても仕方ないじゃないですか。雨が降ったら濡れないようにしないといけない。うちは北海道の札幌で雪が多いですが、雪の上でも普通にサッカーをやります。自分が中学高校の時もそうで、今の高校でも同じようにやります。雪はサラサラしたりザクザクしたり色々ですが、転ばないように上手くやらないといけなくて、言い訳できません。こちらも「雪だからダメだね」とは言いません。そういう環境を、自然を通して体験できるのはありがたいですよね。結局目の前のことをやるだけなんだよと、気持ちを強く持てます。自然と接する場面はサッカーに限らず、すごく大事なのかなと思います。

 

ーー移り変わりが早い時代だからこそ、それに順応するメンタリティーを鍛えるべきということですね。都並さんはどうお考えでしょうか?

都並 今の話もすごく興味深いですね。先ほどのタコメーターの話と同じように、最後に1山超えて上手くなっていくためには「別腹」が必要です。「もうちょっと」というのがハングリー精神に近いと思います。何かを経験させることで選手が強くなっていくわけじゃないですか。1つ別腹が出てくると、「もっとできるかもしれない」という思いにつながって、自分をさらに追い込める。僕が別腹を増やしたきっかけになった人が2人います。1人目は高校の同級生です。僕はフィジカルが高校2年まで全くなくて、妻にマラソンで負けるくらいでした。でも持久力の練習は苦しいから嫌だなって思って逃げていましたが、日本代表になりたいという夢があったのです。高校2年のときに同級生の戸塚(哲也・元日本代表)君がユース代表になって、僕は先を越されて悔しかった。それでどんな練習しているのか聞いたら、「めちゃくちゃ走るぞ。フィジカルとんでもなく強いぞ」と言われて、めちゃくちゃ走るようになりました。そうしたら体力も強くなって、別腹がついてチームに入れました。2人目はラモス(瑠偉・元日本代表)さんです。こんな人がいるのかというくらい徹底的に叩き潰されたので、メンタルが強くなりました。今では「お前は坊ちゃんだったから甘いところがあった。素直でいい選手だけどメンタルがあれでは通用しないから俺がたわしで削った」と言われます(笑)。僕の例ですが、違う環境で別腹を準備することは、間違いなくハングリー精神につながるところだと感じています。

 

ーー今の自分に刺激を与えてくれる人がいるかどうか、が大事なのですね。大人がそういった環境を用意することも大事ですが、結局は自分自身がそこに気づいてアプローチしていくことも大事ですよね。石川さん、最後に何かありますか?

石川 戸塚さんやラモスさんみたいな存在がいる環境を作るのは難しいですよね?

都並 難しいと思います。僕は運がよかっただけで、ブリオベッカ浦安で同じ環境を作ろうとしても、あんなラモスさんみたいな人いませんし(笑)。周りにあまり怒ってはいけないみたいな保護者がいる中で、僕は誰も見ていない中で勝手に怒られていますから。時代が違うのもありますが、その場所に合わせてうまく微調整して、大人がいい刺激を与えていければ。でもいきなりは難しいですから、「ちょっとずつ」というのが大事ですね。

 

ーー最後にこのイベントを通して、皆様に一言ずつお願いします。

都並 このイベントで自分も皆さんの色々なお話を聞けて学びが持てると思い、快く参加させていただきました。僕は知らないうちに自己肯定感を持ち続けられる人間になったので、やっぱり小さな自信から始まったなと思います。これからも「別腹」を出し続けて、ハングリーに学び続けていきますので、応援のほどよろしくお願いします。ありがとうございました。

田部 貴重な機会をありがとうございます。本当に自分の夢のような方と一緒に画面でお話できて、さらに自己肯定感が高まりました(笑)。そして大学が一緒で、今つくばFCを経営している石川さんのお話も聞けて、自分自身勉強になりました。あと堤さんのしゃべりも上手いなと思いました。こういう機会が得られたことに感謝しつつ、サッカー、スポーツ、人っていいなと改めて感じさせてもらいました。ありがとうございました。

石川 まさに田部さんがおっしゃっていた通りで、僕も実は都並さんの本を読んで育った世代なんです。今日お話をうかがえて自己肯定感が上がりました。また浦安とのゲームも楽しみにしています。よろしくお願いします。本日はありがとうございました。

PROFILE

石川慎之助(NPO 法人つくばフットボールクラブ理事長)
1979年、東京都生まれ。 筑波大学第三学群工学システム学類在学中、 蹴球部に入部し、地域の小学生にサッカーを 指導。つくばFCの活動を引き継ぎ、2003年 NPO法人つくばフットボールクラブを設立、 2005年株式会社つくばFCを設立し代表取締 役に就任。NPO法人日本サッカー指導者協会 事務局長、一般財団法人日本クラブユースサッカー連盟 事業委員長なども務める。
都並敏史(ブリオベッカ浦安監督)
1961年、東京都生まれ。1980年読売クラブに入団。19歳で日本代表初選出。その後、名門「ヴェルディ川崎」の名ディフェンダーとして、Jリーグの創成期から数々の輝かしい成績を残し、1998年に移籍先のベルマーレ平塚(現:湘南ベルマーレ)にて現役引退。引退後はヴェルディ川崎ユース監督をはじめ、2005年にはベガルタ仙台監督、2006年セレッソ大阪監督、2008年横浜FC監督など、10年以上牽引した日本代表時代に培ったリーダーシップ力を大いに発揮した。2018年からは関東サッカーリーグ1部のブリオベッカ浦安の監督に就任。
田部学(札幌大谷高校サッカー部監督)
1974年、北海道生まれ。筑波大学、同大学院卒業後、FC東京の普及育成スタッフとして、スクールマスター、FC東京U-15むさしコーチとして多くの子どもたちの指導に携わる。武藤嘉紀や橋本挙人の小学生時代の指導に関わると共に、サッカーの本質・楽しさを伝えるべく指導者講習会も数多く実施。2009年に創部した札幌大谷高校サッカー部監督として10年間で高校総体5回・高校選手権3回の全国出場し、Jリーガーも3名輩出している。今月末から始まる第99回全国高校サッカー選手権大会に北海道代表として出場を決めた。北海道サッカーの選手・環境含めた普及育成強化を目指す。
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