アスリートの競技成果を向上させる座学プログラムを、ビジネスなどあらゆる分野の人材育成メソッドに体系化した「スティッキー・ラーニング」を開発した坂井伸一郎氏。「絞って伝えて、反復させること」をポイントに、多業種のビジネスパーソンを「戦力」に変えてきた人材育成のプロが、時代の変化に適応するチームビルディングの在り方について、連載でお届けしていく。
個の戦力には「スキル」と「パーソナリティ」の2つがある
時間の猶予がない中でどのようにして個の強化を行うか? 確かにこれは非常に困難です。では「メンバー個々人が持つリソースの中で、まだ着目できていない、利用しきれていないものはないか?」と考えてみるのはどうでしょう。個を強化しようではなく、個に出し切ってもらおう! という発想です。
着目して欲しいのは個の力には大きく2つあるということ。それは、 「スキル」と「パーソナリティ」です。競技であれビジネスであれ、それに必要とされる「スキル」があります。そしてチームにおいて個を評価する時、往々にしてこのスキルに重きを置きがちです。スポーツで言えば「彼女は足が非常に速い」「彼のドリブルセンスは群を抜いている」というようなものであり、ビジネスで言えば「彼は英語がネイティブレベルで話せる」「彼女はPython(プログラミング言語)を使ったプログラムの記述ができる」というようなもの。これがチームにおいてスキルに着目をしたメンバー評価をしている例です。
これが悪いということではまったくありません。むしろそれは当然真っ先に行われるべきこと。ですが「あなたの目の前にいるメンバーが持つ個の力は、そのメンバーがチームのために活かすことができるリソースは、本当にスキルだけですか?」と私は問いたい。答えは否、ですね。チームメンバーがチームにおいて発揮できる個の力にはもうひとつ、「パーソナリティ」があるんです。スキルというのは身につけるのに一定の時間が必要です。チームが2年3年単位での活動をするのであればメンバーのスキル強化を並行して行う余裕もあるかもしれませんが、昨今のプロジェクトではそんなに長いスパンで取り組めることは珍しい。そんな時、スキルが低いチームメンバーには何もできないのかと言ったらそんなことはない。
はい、ここでパーソナリティの発揮という貢献の方法があるのです。パーソナリティは社会人1年目であろうとすでに20年前後の人生経験の中で身についたものを誰でも持っています。スキルが身につくまでの間、もしくはそのメンバーのスキルが必要とされるフェーズがやってくるまでの間、メンバーは自らのパーソナリティというリソースでチームに貢献することができるのです。このことに「考え方としては同意できるよ」という方は多いと思います。ですが「でもパーソナリティという個人のリソースを、どうやってチームのリソースに変えていくの?」という疑問が残ると思います。そこで私がチームコンサルティングやチームビルディングプログラムの中で活用をさせていただいているツールをひとつご紹介させていただきます。活用のポイントは「パーソナリティの見える化」です。
パーソナリティをチームのリソースに活用するという発想
そのツールは「クリフトンストレングス・テスト」と言います。これは1935年にジョージ・ギャラップによって設立された米国の調査会社「Gallup, Inc.」が開発した“才能を見える化するテスト”で、オンラインでの実施が可能なのですが、日本国内でよりポピュラーなのは「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版 ストレングス・ファインダー2.0(日本経済新聞出版)」という書籍かもしれません。
この1冊1,980円(消費税込)の書籍を購入すると巻末に「クリフトンストレングス・テスト」の簡易版ウェブテストを行えるQRコードとアクセスコードが付いていて誰でも簡単に(といっても177問の質問に回答しなければならないので初めての方の場合は開始から終了までに40分くらいはかかると思ってください)自分のパーソナリティの上の強み上位5つを知ることができます(なのでこの簡易版テストは「ストレングス・ファインダー」と呼ばれています)。テストが終われば結果だけではなくその強みの解説や組織やチームの中での活かし方を知ることができますし、書籍本体には「○○といったパーソナリティ上の強みを持つ人は、このように活かすとよい」というアドバイスも書かれています。
私はこれまでにこの書籍を何百冊も購入してきました(笑)。私がチームコンサルティングに入る際、多くのケースでまずはこのテストをメンバー全員で実施し、その結果を一覧できるリストとしてメンバー全員で共有します。すると明確に「このチームはこういうパーソナリティを持つ人が多い」や「このチームにおいてこういうパーソナリティを持つ人はこの人しかいない」ということが見えてきます。それを使ってチームに近い将来訪れるであろう困難な場面をいくつか書き出し、そのそれぞれの場面においてメンバーのスキルだけではなくパーソナリティをもチームのリソースとして活用していこうとするならば、誰に、何ができるのか? についてシミュレーションのディスカッションをしたりします。するとこれまで抽象的にしか聞こえていなかった「パーソナリティを活かそうね」という言葉が具体性を帯びてくるのです。個々人でこのテストをやってみるというのでも十分に価値があると思いますが、私はチームメンバー全員で行ってその結果をメンバー同士共有してみることをおすすめします。
さて、今回は1テーマで書き切ってしまったので少し冗長に感じさせてしまったならばごめんなさい。ですが、あなたにも、あなたのチームメンバーにも、「スキル」と「単純労働力」に加えて「パーソナリティ」という可能性があることを知っていただきたかったのです。このお話がみなさんの明日に少しでもお役に立てることを願っています。
PROFILE
- 坂井伸一郎(さかい しんいちろう) | 株式会社ホープス 代表取締役
- 成蹊大学卒業後、株式会社高島屋に入社して13年間在職。販売スタッフ教育や販売スタッフ教育制度設計も担当した。ベンチャー企業役員を経て、2011年に独立起業。現在は教育研修会社の代表を務めつつ、自ら講師として年間50本・2500名(業界の偏りはなく、製造業・サービス業・金融業・病院・学校法人など多岐にわたる)の研修を行なっている。社会人研修の他に、プロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修の講師経験も豊富(年間のアスリート座学指導実績1000名超は、国内屈指の実績)。講師としての専門領域は、目標設定・チームビルディングなど。座学慣れしていないアスリートへの指導経験が豊富ゆえに、「わかりやすく伝える」「印象に留めるように工夫する」という指導法を用いる。この指導教育メソッドを体系化した「スティッキー・ラーニング」は、アスリートのみならず、一般ビジネスパーソンにおいても、組織全体の人材レベルアップを図れると高く評価されている。
【アスリートに倣う「新時代のチームビルディング」/坂井伸一郎~back number~】
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