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【#02】坂井伸一郎│「臨時チームで個の戦力を最大化する方法を教えます」<前編>

アスリートの競技成果を向上させる座学プログラムを、ビジネスなどあらゆる分野の人材育成メソッドに体系化した「スティッキー・ラーニング」を開発した坂井伸一郎氏。「絞って伝えて、反復させること」をポイントに、多業種のビジネスパーソンを「戦力」に変えてきた人材育成のプロが、時代の変化に適応するチームビルディングの在り方について、連載でお届けしていく。

 

チームビルディングの要素を内包する「スポーツ」

 こんにちは、坂井伸一郎です。TOKYO2020オリンピック・パラリンピックの開催予定日が刻々と近づいてきていますが、そんな中でこれまで「スポーツ」という4文字の意味や捉え方をみなで概ね共有しあっていたと感じてきたことが懐かしく思えるくらいに「スポーツ」が四方八方からつかまれ、引っ張られているように感じています。というのも、私の感覚として、五輪開催の是非をめぐる議論が広くスポーツ全体に飛び火している印象があるからです。

 コロナ禍において個人競技はOKで団体競技はNGとか、「スポーツをやる人はスポーツは良いものだ」という価値観を押し付けているとかいないとか、スポーツにまつわる「良い」「悪い」の意見がこれまでになくあらわになっているように思います。同じスポーツの中でも例えば「プロは試合をしているのに部活は中止っていうのは、結局“レベル”の高い低いで差別しているよね」や「(学生部活動の場合)強い部活は例外規定で部活動を認められているのに、弱い部活動は練習禁止になっていたり、同じ部活チームの中でもレギュラー選手は活動を認められ、補欠は自粛」などが起きていて、これがSNSの中では「スポーツそのものの正体が見えてきたぞ!」的に語られているのはこれまでになかったことだと思います。

 競技、健康、成長、育成、挑戦、応援、支援、エンタメ、ビジネス、福祉、団結……などスポーツはさまざまな観点からその意味を認められている万能ワードのようなものであることが社会における価値だったのかもしれないですね。

「スポーツ」は合衆国というか連邦制のように、実はそれぞれにまったく異なる価値観や期待を持つ人々のいくつものカタマリが身を寄せ合って「私たちはスポーツです」と名乗っている、そういうものだったのだということを再認識している人も多いのではないでしょうか。

 かくいう私も「アスリートに向けた座学研修」を仕事とする中で「アスリート」という言葉ですら、プロ、オリンピアン、トップアマチュア、体育会大学生、中高学生部活動、ジュニアクラブチームなど一括りにできないのであって、それぞれにニーズも課題も全く異なるという現実と日々取っ組み合っているわけです。

 前回のコラムでJリーグチェアマンである村井満さんとの「チームビルディング」をテーマとした対談について書かせていただきましたが、上記のようなことを考えると「異なる価値観や目的を持つもの同士が、連携しながら全体の価値を高めようとしている」スポーツ界は、それそのものがチームビルディングの要素を内包している存在なのかもしれません。前置きが長くなりましたが、今回も私なりの視点でチームビルディングについて書かせていただきます。第2回は「臨時チーム」におけるチームビルディングについてです。どうぞよろしくお願いいたします。

 

時間の猶予がない臨時チームの強化で必要な要素は?

 一般的にチームと呼ばれるものは大まかに言って「常設チーム」と「臨時チーム」に分類でき、私はこの「臨時チーム」をチームたらしめるには、通常言われているチームビルディングのHow toとはいくつかの少し異なる要素があると考えています。いや、要素の違いではなく要素の優先順位の違いなのかもしれません。

 その一つめは「徹底した個の強化」です。チームの話をする際に案外触れられないのが「個」の力についてです。チームと聞くと「個の力を超越してなにか大きな力を生み出してくれる」「足し算ではなく掛け算の成果を生み出せる」という想像がかき立てられるのですが、言うまでもなくチームは個の集合ですからチームの成果には個の力が大きく影響を与えます。だけれども私の経験上、主にビジネスにおいてチームビルディングのサポートを求められる際には、「メンバーはこのメンバーです。能力は現状のものが全てです。あとはチームビルディングの力でなんとかしたいんです」というようなニュアンスをビンビン感じます。

 でもそれではできることに限界がある。そしてその限界はけっこうすぐに訪れる。やはり「個の強化」から目を逸らしてチームで成果を追い求めるというのは片落ちなのです。臨時チームにおいてはこの傾向が特に強く現れます。「ん? それって逆では?」と感じましたか? 常設チームには比較的時間の猶予がある。だからチームメンバー個々の強化や成長に時間を割くことができる。一方の臨時チームには比較的時間の猶予がない。だからチームメンバー個々の強化や成長に時間を割くことが難しい、と。やりやすさから考えれば確かにその通りですが重要度、すなわち「常設チームと臨時チームのどちらの方が、より個の力が重要となってくるか」という視点では、それはやはり臨時チームであると言えるでしょう。さあ、ここに「個の強化をするには時間が必要、でも臨時チームには時間の猶予がない」というトレードオフが現れました。これを乗り越えるための視点が今日、私がみなさんにお伝えしたいキーポイントです。

 

時間がないなかで個のリソースを高める方法は?

―#02後編に続く―

PROFILE

坂井伸一郎(さかい しんいちろう) | 株式会社ホープス 代表取締役
成蹊大学卒業後、株式会社高島屋に入社して13年間在職。販売スタッフ教育や販売スタッフ教育制度設計も担当した。ベンチャー企業役員を経て、2011年に独立起業。現在は教育研修会社の代表を務めつつ、自ら講師として年間50本・2500名(業界の偏りはなく、製造業・サービス業・金融業・病院・学校法人など多岐にわたる)の研修を行なっている。社会人研修の他に、プロスポーツ選手やトップアスリートに向けた座学研修の講師経験も豊富(年間のアスリート座学指導実績1000名超は、国内屈指の実績)。講師としての専門領域は、目標設定・チームビルディングなど。座学慣れしていないアスリートへの指導経験が豊富ゆえに、「わかりやすく伝える」「印象に留めるように工夫する」という指導法を用いる。この指導教育メソッドを体系化した「スティッキー・ラーニング」は、アスリートのみならず、一般ビジネスパーソンにおいても、組織全体の人材レベルアップを図れると高く評価されている。

 

【アスリートに倣う「新時代のチームビルディング」/坂井伸一郎~back number~】

【#01】村井チェアマンの示唆を受けたビジネスとスポ―ツの相関関係<前編>

【#02】「臨時チームで個の戦力を最大化する方法を教えます」<前編>

【#03】「チームをゴールへと導く魔法のコトバ 」理念でも目標でもない「コンセプト」とは何か?<前編>

【#04】 ニューノーマルのチームビルディングにおける時間と空間の超え方 <前編>

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