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【#02】辻秀一│『スラムダンク』に観るエクセレントチームの考え方<後編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく。

 

#01 前編はコチラ >

 

「このチームは最高だ」赤木キャプテンは何を感じたのか

 さて、本題のエクセレントチームについてこの湘北高校バスケ部を題材に語ってみたいと思います。

 山王工業との試合中にまだ負けているにも関わらずタイムアウトの最中にキャプテンのゴリが「このチームは最高だ」と涙する場面があります。わたしはあの場面が大好きです。ゴリは何を感じ「このチームは最高だ」と呟いたのでしょうか。 最高のチーム、すなわちエクセレントチームに必要なことがあります。

 チームの構成要素、個人、全体、関係、この3つにエクセレントのための条件があります。まず個人は自立です。全体は共有、そして関係は信頼です。この3条件を満たしているとき、チームはエクセレントになります。この3要素の根本は個人の自立にあります。

 

やらされるのでなく、個人が自らの役割を機嫌よく実行する

 一人ひとりが自立してやらされることなく、自ら進んでそれぞれの役割をフローで機嫌よく実行しているという責任を果たしている状態です。自立なきエクセレントチームはありません。ゴリは試合中にあらためてみんなが自立していることを感じました。その証拠にタイムアウトでゴリがそう呟いたとたんに花道と流川が「別におまえのためにやってねえし」と言います。にもかかわらずゴリはこのチームは最高だと……。

 自立のためには心を自ら整える力も必須です。つまり「ライフスキル」です。ライフスキルを持って自ら心を整えてするべき責任を果たすときエクセレントチームは始まります。

 

自立した個が共有レベルを高め、醸成された信頼がチームを強くする

 自立した個人が集まると共有レベルが上がります。組織に存在する、目標やルールはもちろん、使命や理念なども積極的に機嫌よく共有していくのです。それは昨今の組織のあり方でいえば「ティール型組織」にも通じるでしょう。自立したものが共有レベルを高めていった組織には関係の信頼という目に見えない力が作用して益々チームを強くしていきます。

 関係は人の数よりも多く存在します。例えば、前編で紹介した湘北の6人の関係はいくつあるでしょうか? 答えは15の関係性が存在します。6×(6-1)÷2=15です。人の数よりも倍以上に関係がチームには存在しているのです。もし20人のチームなら190もの関係が存在するのです。指数関数的にチームには関係が増えていきます。そこに、自立と共有に基づく信頼があれば、当然のごとくそのチームは強いといえるでしょう。それはビジネスでも同じです。

 

まずは自らのライフスキルを磨くことがエクセレントチームへの第一歩

 最後にこのエクセレントチームの個人の中の一つにリーダーがあります。リーダーは特別に何かを大げさにやる必要もありません。役割が違う個人がそこにいるだけです。つまりは、リーダーもするべきことを機嫌よくという自立の条件を満たすことがこのようなチームをエクセレントへと加速します。

 湘北で言えば、安西監督です。かつては鬼のように高圧的に選手たちを支配・指示していた安西監督がこの最高のチームではほとんど指示しません。お互い信頼を背景にした心理的安全性がこのチームには存在しているのでコミュニケーションの質が高く、それがさらに共有と信頼を強化しているといえるでしょう。

 リーダー、キャプテン、プレイヤーなどの役割よりも、一人ひとりがするべきことを機嫌よく、Flow Do ITする仲間がいて、その一人ひとりが共有を重んじ、信頼を構築していること。これがエクセレントチームの条件だと言えます。

 湘北にはこれがありましたが、みなさんのプロジェクトやチーム、組織、部署、会社でも一人ひとりのライフスキルと自立を育んでいけば必ずエクセレントチームに近づくことはできます。まずはみなさん自身が自らライフスキルを磨いて行くことからスタートしてみては如何でしょうか?

 

―#03に続く―

『スラムダンク勝利学』集英社インターナショナル/184ページ/1100円(税込) 年代を超えて読み継がれる37万部のベストセラー。桜井花道ら、物語を彩る主人公たちの心情や行動を細部まで紐解き、「人生に勝利する」方法を多角的に解説している。

 

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。子どもたちのごきげん授業をトップアスリートたちのごきげん先生で展開するDiSPOの代表理事。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

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