自身の引きこもり経験克服を機に独自のコーチングメソッドを開発し、多数の企業経営者、アスリートなどのカウンセリングを務める中島輝氏。ベストセラー『自己肯定感の教科書』の著者であり、“自己肯定感の第一人者”として注目を集める人気カウンセラーが、社会で生き抜くために必要な実践的な技術を連載形式でお届けする。
写真/川しまゆうこ
目次
スポーツで分泌される神経伝達物質が「ストレスに強い心」をつくる
スポーツが心に与える好影響には、自己肯定感を高めてくれることの他に、「ストレスに強い心をつくってくれる」ということも挙げられます。このことには、スポーツをやることで分泌が促される、「ノルアドレナリン」「ドーパミン」「セロトニン」という3つの神経伝達物質がかかわっています。
◆ノルアドレナリン
ノルアドレナリンは、ストレスを感じたときに分泌される神経伝達物質です。交感神経の活動を高める働きを持ち、活動意欲が湧いてモチベーションが高まります。
◆ドーパミン
ドーパミンは、「快楽のホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質です。ドーパミンが分泌されると、人間は快楽を感じて「もっと楽しいことをしたい!」とポジティブな感情を持ちます。
◆セロトニン
セロトニンは、脳にあるストレス中枢を鎮めてくれる神経伝達物質です。ノルアドレナリンとドーパミンの分泌を制御する働きもあり、精神をフラットな状態に導きます。
3つの神経伝達物質は、「活動意欲とモチベーションを高める」「ポジティブな感情を持たせる」「精神をフラットな状態に導く」というかたちで、それぞれがストレスに対処してくれます。日常的にスポーツをやることでこれらの神経伝達物質が分泌されやすくなるため、ストレスに強い心がつくられるのです。
スポーツがビジネスパーソンにもたらすさらなるメリット
ここまで、スポーツが心に与える好影響、スポーツが育んでくれるマインドについて解説してきました。それらのマインドが、ビジネスシーンにおいても有用なものであることはいうまでもありませんよね?
自己肯定感が高ければ、「自分にはできるんだ!」「自分は会社に貢献できている!」という気持ちを持って日々の仕事に臨むことができますから、成果を挙げやすくなることは間違いありません。また、仕事とセットのように語られるストレスにも強い心をつくってくれるのですから、少々のミスをしたり難題にぶつかったりしたりしてもへこたれず、前へ前へと進んでいけるでしょう。
ただ、スポーツによって育まれ、かつビジネスシーンにおいても力を発揮するマインドはこれだけではありません。セロトニンには「精神をフラットな状態に導く」働きがあるとお伝えしました。このことが、「発想力」向上にもつながるとわたしは見ています。
よりよいアイデアを出すためには、気分が沈んで意欲を失っている状態はもちろん、逆に興奮し過ぎている状態もよくありません。精神がフラットな状態が最適です。よく「頭がさえている」という言い方をしますが、この精神がフラットな状態こそ、頭がさえている状態なのです。
「自ら選択肢を生み出す」習慣がイノベーションの源泉になる
精神がフラットな状態であれば、先入観に左右されるといった偏った思考ではなく、それこそフラットな状態で客観的にあらゆる情報を見ることができます。だからこそ、より精度が高いアイデアを生むこともできるのです。
また、発想力にかかわることでいえば、「選択肢を生み出す力」もスポーツによって育まれるものだと考えます。外から与えられた選択肢をただ選ぶという受け身の人間には、周囲をあっと驚かせるようなイノベーションは起こせません。そうではなく、既存の選択肢では対処できないような問題を解決してイノベーションを起こすには、これまでにない新たな選択肢を自ら生み出す必要があるのです。
スポーツに親しんでいる人は、自分やチームの課題解決のため、「いまの練習を変えてこうしたほうがいいんじゃないか?」「こういう局面ではこの戦術が常識とされているが、じつはこんな戦術のほうが効果的では?」とつねに考えています。これはまさに自ら選択肢を生み出していることに他なりません。この思考の積み重ねが、ビジネスシーンにおいてはイノベーションの源泉にもなってくれるはずです。
習慣化のコツは「幸せになれるか?」と考えること
スポーツをすることは、ビジネスパーソンにとってはまさにいいことずくめとしかいえません。しかし、多忙な社会人にとっては、スポーツをすることがどんなにいいことだとわかっていても、スポーツを続けることはそう簡単ではないでしょう。ランニングをはじめてみたものの三日坊主に終わってしまったといった経験は多くの人にあると思います。
ただ、わたし自身は「無理に続けようとしなくてもいい」と考えます。習慣化の最大のポイントは、そのことを習慣化したことで「自分の人生はどれだけ幸せになるのか?」としっかり考えることにあります。
極端な話かもしれませんが、禁煙しようとしている人が禁断症状に苦しむ日々をまったく幸せに感じられないのだったら、禁煙なんてやめてしまえばいいのです。つまり、重要なのは、「目的」と「手段」を間違えないこと。
スポーツもひとつの手段に過ぎません。スポーツをやることでさまざまなメリットがあることはたしかですが、その習慣化に失敗して「やっぱり自分は駄目な人間だ……」なんて思ってしまえば、自己肯定感を下げてしまいますよね。また、ストレスを感じることにもなり、スポーツで本来得られるメリットを失ってしまいます。
そんなことでは、幸せを感じるどころではないでしょう。
スポーツをやることで自分の人生はどれだけ幸せになるのか? そう自分に問いかけて「うん、幸せになれそうだ!」と思えたなら、スポーツの習慣化もスムーズにできるのではないでしょうか。逆に、そう思えないのなら、他の手段を考えればいい。自己肯定感を高める手段も、ストレスに強い心をつくる手段も、幸せになる手段もスポーツだけではありません。
「スポーツをするとたくさんのいいことがあるから、やらなければならない!」といった自分を追い詰めるようなスタンスではなく、もっと気楽にスポーツに接するマインドも必要だと思います。
PROFILE
- 中島輝(なかしま てる) | 「トリエ」代表 /「肯定心理学協会」代表
- 心理学、脳科学、NLPなどの手法を用い、独自のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「肯定心理学協会」や 新しい生き方を探求する「輝塾」の運営のほか、広く中島流メンタル・メソッドを知ってもらうための「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感ノート講座」「自己肯定感コーチング講座」などを主催。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)など多数。7月8日に新刊『習慣化は自己肯定感が10割』(学研プラス)が発売。
【第一人者が解き明かす“自己肯定感”のビジネス学/中島輝~back number~】
【♯01】<前編> 自己肯定感から見る組織論「自己肯定感」は「心理的安全性」から生まれる
【♯02】<前編>やるべきは、自分自身の怒りのコントロール。チーム・組織における「怒りのトリセツ」
【♯03】<前編>スポーツが育んでくれる、ビジネスシーンで役立ついくつものマインド
【♯04】<前編>失敗を成功へと導く。リーダーに必要な「声かけ」のポイント
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