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【#03】辻秀一│「自立に重要なパフォーマンスマネジメント」<後編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方を連載形式でお届けしていく。

 

#03 前編はコチラ >

 

比較から逃れられない「得意」と、絶対的な「好き」という感情

 認知的脳は「何を」をするのかということを担当する脳ですが、そのために外界の環境・出来事・他人に強く接しています。そのため、認知の世界では他者との比較や他者の評価で自身の行動の「何を」を考え決定していかなければならなくなります。

 そこで登場する考え方が得意ということになります。何が得意なのかを人と比べて考えなければならないのです。自分の強みも他者に比べた強みです。得意をベースにさまざまなことが認知的に成り立っている社会です。もちろんそれは非常に大切なことですが、得意は常に比較の中での概念なので、心は落ち着くことができないのです。常にもっと得意な人はいるし、得意であり続けるためにも心にはいつも負担がかかってしまいます。

 そこで非認知的なライフスキル思考では「好き」を大事にします。好きという感情は自身の内側にあるもので他者と比較する必要はありません。絶対的で自由でオリジナリティです。ところが認知的な学校教育では「得意」は評価されますが、「好き」は評価されません。「好き」を考えて、好きなことを大事にしていく非認知的な思考を大切にすることで心を整えていくことができるのです。

 

外の出来事に振り回されず、感情を内観する

 認知脳は外界の出来事に対処するので、外界の出来事に振り回されることになります。外界に起こる出来事は自身ではコントロールできないことが多々あり、それに認知脳で接着していると心も振り回されて、外界の出来事に持っていかれてしまうことになります。コロナ禍の影響、人身事故、試験の失敗や試合で負けたり、急な転勤や株価の変動などなどの出来事に振り回されず、心を安定して整えるには、自身の内側で生じる感情を見つめることが大事になります。

 感情を内観して気づく力が非認知脳のスキルといえます。認知の世界に生きていると自分の感情への気づきがとても苦手になってきます。出来事はいつも脳の中に入っていますが、自身の感情へは脳を向けていないのです。

 自分の感情に気づくとネガティブな感情であればそれは減少し、ポジティブな感情であれば増加するという仕組みがあります。実際の出来事が何ら変わりないのですが、自身の感情に気づくことが心を整ていくことに繋がるのです。非認知脳は自身を見つめる脳のスキルですが、自分の感情に気づくのはその最も大事な基本のキと言えるでしょう。

 

どんな不機嫌の理由にも勝るご機嫌の価値

 まだまだ非認知的なライフスキルの思考はありますが、最も大事な思考の一つがご機嫌の価値を考えることになります。認知脳は原因や理由を分析しそれを対処して解決していくには「何を」すればいいのか、という思考を徹底的に訓練されています。そこでいつでも人は不機嫌の理由、ストレスの原因を考えて心を乱しています。もちろん、それを解決できればご機嫌になるのですが、不機嫌の海の中で溺れながら質の低い状態で、気合と根性で何とか対処していることがしばしばです。

「どんな心で」の質を守るために、非認知的思考は自分の内側にあるご機嫌の価値を考えています。外側にどんなに不機嫌な理由があっても、ご機嫌の価値が内側にあれば心は整う方向に傾くでしょう。脳の中で不機嫌の理由とご機嫌の価値とがせめぎ合っているのです。認知的思考しかないと不機嫌になりますし、ご機嫌の価値が高まればご機嫌の維持が可能になります。

 ご機嫌の価値を考えてリストアップし、いつもその価値を考えている脳の練習が必要になります。私がメントレしているアスリートたちは必ずと言っていいほど、まずはご機嫌の価値を徹底的に話し合います。ご機嫌の価値はその人にしかないもので、誰も邪魔できるものはありません。しかも、それは理論に基づくものではなく、その人の経験や体感に基づく事実なので強く心を整えるための力となるのです。

 

 以上、非認知的なライフスキル思考の代表を紹介しました。

「何を」×「どんな心で」、内容と質の両者に責任を持った自立した人生、ビジネス、スポーツを起こればもちろん結果に繋がることはありますが、成果だけでなく、充実や成熟を感じることにもなります。そのためには非認知脳を磨いてライフスキル思考を自分のものにしていくことが必須になります。

 スポーツから学ぶ人生の活かし方の一つにこのライフスキル思考があると私は確信しています。実際にライフスキル思考がなければ、スポーツでも自分に相応しい競技成績を長く安定して得ることができないのだと思います。

 

―#04に続く―

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

【Dr.辻によるスポーツから学ぶ「凪」の技術/辻秀一~back number~】

【♯01】元体操のオリンピアン、田中理恵さんにみるビジネスに活かすライフスキル<前編>

【♯02】『スラムダンク』に観るエクセレントチームの考え方<前編>

【♯03】「自立に重要なパフォーマンスマネジメント」<前編>

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