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【#03】鈴木義幸│スポーツチームにみる「幹部チームのつくり方」<後編>

日本で最初に「コーチング」を持ち込んだ日本最大のコーチングファーム「コーチ・エィ」の代表を務める鈴木義幸氏。課題の複雑化、ダイバーシティ(多様性)、イノベーションの必要性が求められる現代社会において、人の主体性に働きかけるアプローチは必要不可欠だ。これまで200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを行い、企業の組織変革を行ってきたコーチングのスペシャリストが、スポーツの領域を例にコーチング・スキルを連載形式でお届けする。

 

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各々の「問い」を徹底的にあぶり出す

  監督と二人で話す中で、彼が出した結論は、幹部たちと徹底的に話すことでした。さらに、ただ話すのではなく、共通の「問い」をあいだに置いて話そうということになり、相当の時間をかけて二人で一緒に「問い」を考案しました。

 

・どんな背景があってこのチームに参加したのか?

・これまで、どんなラグビーが良いラグビーだと思ってきたのか? それはどんな自分の経験に

 基づくのか?

・どんな指導を受けて自分は育ったのか? どんな指導がよいと思ってきたのか?

・日本のラグビーについてどんな風に思っているのか?

・チームの中でどんな時にストレスを感じるか?

・このチームのどこに問題があると感じているか?

・日頃、どんなチームにしたいと思ってきたのか?

 

人が人を信頼する理由

 人が人を信頼するときは、2つの要素が介在すると言われています。 ひとつは能力。能力が高いと思う人には、人は信頼を感じやすい。当然といえば、当然です。もう一つは、意図です。何のために、なぜ、それをしようとしているのか。それがわかると、たとえその意図に賛同できないとしても、関係が構築されます。

幹部チームというのは、だいたいにおいて、お互いの能力に対する信頼はあるものです。しかし、お互いの意図が明確かというと、必ずしもそうとは言えません。

 スポーツチームの幹部メンバーの言動や行動は、本来はすべてが「チームをよくする」という意図に基づいていると考えられますが、外から見たときに、その意図が明確にわからないこともあります。そんなときに、「あなたはなぜそうするのか?」と相手に直接確認すれば済むのですが、実際に意図を尋ねるのはなかなか難しいものです。相手の意図を理解していない自分の問題かもしれないという躊躇が働いたり、自分に都合の悪いことを耳にすることになるかもしれないという恐れが働いたりするからです。

 しかし、信頼を醸成し、チームとしてまとまるためには、どこかでお互いの意図、つまり考え方や意思決定の背景を明らかにし、お互いの理解に努める必要があります。相手の言動や行動の意図がわからず、もやもやが長く続けば、相手の能力にけちをつけたくなります。逆に、相手の意図がわかればサポートしやすくなります。幹部メンバーのあいだにそのような信頼関係が構築できれば、チームはぐっと前進するでしょう。

ラグビーのトップチームでは監督のもとにあらゆる役割を担ったコーチが存在し、国籍や考え方の違いを抱えていることもある。そんな「幹部チーム」をまとめる監督に圧し掛かるプレッシャーは大きい。/Getty Images

 

お互いの意図を知る

 Microsoftという会社があります。ビル・ゲイツが創業し、スティーブ・バルマーがその次のCEOを務めました。しかし、バルマーの時代に、Microsoftの業績は下降線をたどり始めます。「Microsoftはかつての輝きをもう取り戻せないかもしれない」、そんな風に世間で言われ始めたときに登場したのが、インド出身のサティア・ナデラです

 ナデラは、Microsoftの改革を語った自身の本の中で、CEOになってまず取り組んだのが、経営チームのメンバーで話すことだったと述懐しています。しかも、会社の計画や戦略について話すのではなく、お互いのことについて話をしたと言います。「なぜこの会社に入ったのか」「会社をどうしたいと思ってきたのか」「どんな価値を世の中に提供したいと思っているのか」と、お互いの意図を交換し合った。先に例に挙げたトップリーグの監督がやったことと同じことを、彼もしていたわけです。

 信頼感のない組織と揶揄されることもあったMicrosoftでしたが、ナデラのCEO就任後は再び成長軌道に乗り、昨今時価総額200兆円を超えるまでの成長を果たしました。その出発点は、まさに幹部たちがお互いの意図に触れ、ピストルを向け合ってはいないということを確認することだったのです。

 あなたが幹部チームの一員であれば、まずはお互いの意図について話す場を設けてはどうでしょうか? ちょっとリスクがあるかもしれませんが、得られるメリットはとても大きいはずです。

 また、幹部チームの一員でなければ、ぜひこのコラムを幹部チームの誰かにシェアしてみてください。幹部チームのメンバーのエゴの張り合いで割を食うのは、他ならぬ選手たちですから。

 

 

PROFILE

鈴木 義幸(すずき よしゆき) | 株式会社コーチ・エィ代表取締役社長
慶應義塾大学文学部卒業後、株式会社マッキャンエリクソン博報堂(現株式会社マッキャンエリクソン)に勤務。その後渡米し、ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程を修了。帰国後、コーチ・トゥエンティワン設立に携わる。2001年、株式会社コーチ・エィ設立と同時に、取締役副社長に就任。2007年1月、取締役社長就任。2018年1月より現職。
200人を超える経営者のエグゼクティブ・コーチングを実施し、企業の組織変革を手掛ける。また、神戸大学大学院経営学研究科MBAコース『現代経営応用研究(コーチング)』をはじめ、数多くの大学において講師を務める。20年ぶりの大改訂版を上梓した『新 コーチングが人を活かす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)他、『コーチングから生まれた熱いビジネスチームをつくる4つのタイプ』『リーダーが身につけたい25のこと』(ディスカヴァー)『新版 コーチングの基本』(日本実業出版社)など著書多数。

 

【スポーツに学ぶビジネス・コーチング /鈴木義幸~back number~】

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