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【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <後編>

マクドナルドやメルカリ、SHOWROOMで組織づくりを主導し、組織開発の体系化=「カルチャーモデル」の設計方法を紐解いた『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』を上梓した唐澤俊輔氏。事業と組織を急成長させてきたスペシャリストが、スポーツチーム運営の示唆を受け、ビジネスにおける組織文化の作り方について連載で論じていく。

 

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異物を採用することのビジネスへの貢献

 さて、ここで、中村選手の獲得をビジネスで捉えなおしてみましょう。流石に、ビジネスにおいて中村選手ほどの誰もが知るビッグネームが入ってきて、組織が急変するということはなかなかありません。しかし、「従来とは異なるタイプの人材」を取り込むことで、組織変革へと繋げることはあり得るのではないでしょうか。

 一点目のように、組織として不足しているスキルを、専門性の高い人材の中途採用で補うということはよくありますね。新たに海外展開を進めるため、海外での事業開発経験のある人材を採用するようなケースです。

 こうした従来にない人材の採用は、副産物をもたらすことも多くあります。たとえば、人事メンバーを採用したと思ったら、その人のネットワークから、新たなアライアンスパートナーや販路が開拓できるなんてことは起こり得ます。中村選手の獲得がマーケティングに貢献した二点目の話に通ずるものがありますね。

 そして、三点目のチームの底上げも大いに期待できます。先の海外展開の例であれば、経験がないことで海外に出ていくことに躊躇していたメンバーも、経験者と一緒ならと歩み出すことができ、海外で大きく成長して帰ってくるかもしれません。また、新規メンバーは、その組織で当然のように行っていた慣習に対して、「それ、本当に必要ですか?」と疑問を抱くことができます。「実は不要だが、何となく慣習で続けているプロセス」などが組織には結構あって、こうしたものを止めることで組織全体の生産性を高めることにもつながるのです。

 このように、従来のメンバーだけではなし得なかったような非連続な成長は、異物の採用によってもたらされるという側面があることがわかります。

中村俊輔(写真・右)を獲得した2017年シーズン、ジュビロ磐田は昨年13位から6位にジャンプアップ。中村は30試合5得点の活躍に加え、メンターとして若手選手の手本となり、マーケティングとしてもチームに利益をもたらした。/ Getty Imeges

本人と周囲の期待値を整える

 一方で、「異物」を取り込むことのマイナス面にも触れておく必要があります。他の組織での経験が豊富な人材を採用することは、ともすると既存の組織とハレーションを起こす恐れがあります。「最近入った彼は、うちの会社のやり方をわかってない」と既存のメンバーから言われてしまうんですね。確かに、あまりに異なるタイプの人材が入ってきてしまうと、調和が取れずに組織やチームが混乱に陥ってしまうことも想定されます。

 この点については、名波さんから二つの示唆がありました。一つは「タイミングが大事」だということです。ジュビロ磐田では、中村選手を獲得する前にも、日本代表選手を獲得したこともあったそうですが、クラブとして成功につながる度合いには差があったようです。これは、名波さんが監督になり、「こっちに向けて変えていくぞ」という雰囲気がチーム内に醸成されていたこと、そして「このままでは足りない」という危機感をチームが認識していたことに起因すると考えられます。こうした環境が整ったタイミングだったので、「名波さんがチームを変えるために連れてきた中村選手」として、周囲のメンバーが受け入れる体制ができたということです。

 もう一点は、「期待値を揃える」ということです。名波さんの表現だと、「こちら側の獲得意思としては、ピッチでやってほしいことは3割くらいで、残りの7割はクラブ経営をしていきたいので、選手を育ててほしいだとかアプローチはしました」ということでした。「育成をしてチームを強化して欲しい」ということを本人に明確に伝えた上で採用し、周囲のメンバーにも「俊輔(中村選手のこと)から学べ」と明言することで、チーム内の期待値が揃います。そうすれば、中村選手は「こうしたら?」と提案しやすくなりますし、周りのメンバーも受け入れる準備ができているという訳です。

 また、これは収録語にしてくれたエピソードですが、名波さんが中村選手に後輩との食事などピッチ外での貢献も促した時、中村選手は得意ではないと丁寧に断ったそうです。しかし後々若手選手に話を聞いたら中村選手が食事に連れて行ってくれていたということなんですね。こうした本人の行動につながり、周囲と打ち解けていったというのも、獲得時の期待値セットによるものだと言えます。

 採用とは、このように採用段階でのコミュニケーションにおいて、「こういう期待で来て欲しいと思っている」ということを伝え、「その期待に答えるために入社する」というコミットを本人がしていることが大切です。そして、周囲のメンバーもその期待値で入社していることを理解してもらう必要があります。そうすることで、取り込んだ「異物」が周囲に溶け込みながら力を発揮し、飛躍的な成長につながるのです。

 

 

PROFILE

唐澤俊輔(からさわ しゅんすけ) |  Almoha LLC Co-Founder COO
慶応義塾大学卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社し、28歳にして史上最年少で部長に抜擢。経営再建中には社長室長やマーケティング部長として、社内の組織変革や、マーケティングによる売上獲得に貢献、全社のV字回復を果たす。2017年より株式会社メルカリに身を移し、執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長。採用・育成・制度設計・労務といった人事全般からカルチャーの浸透といった、人事組織の責任者を務め、組織の急成長やグローバル化を推進。2019年には、SHOWROOM株式会社でCOO(最高執行責任者) 2020年より、Almoha LLCを共同創業。グロービス経営大学院 客員准教授。自身の経験をもとに「組織カルチャー」の可視化、言語化という難題に挑み、組織・経営課題の解決策を提示した『カルチャーモデル 最高の組織文化のつくり方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓。

 

【スポーツ運営に学ぶ カルチャーモデルと組織づくり/唐澤俊輔~back number~】

【#01】唐澤俊輔│スポーツチーム運営に共通するビジネスの経営戦略<前編>

【#02】唐澤俊輔│ビジネス×スポーツに見る「カルチャーモデルの4類型」<前編>

【#03】唐澤俊輔│プロチーム監督に倣う「組織を一枚岩にする」方法論<後編>

【#04】 唐澤俊輔│「異物の採用」がもたらす組織の成長と進化 <前編>

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