自身の引きこもり経験克服を機に独自のコーチングメソッドを開発し、多数の企業経営者、アスリートなどのカウンセリングを務める中島輝氏。ベストセラー『自己肯定感の教科書』の著者であり、“自己肯定感の第一人者”として注目を集める人気カウンセラーが、社会で生き抜くために必要な実践的な技術を連載形式でお届けする。
写真/川しまゆうこ
メンバーの心理状態別に4つの方向性で言葉を選ぶ
しかし、なかには「7つもポイントがあるの……?」と不安に思った人もいるかもしれません。たしかに、声かけをするときに、「この言葉は7つのポイントに合ってるかな……」「NGじゃないかな……」と考えていては、混乱してしまうかもしれません。
だったら、もう少しポイントを絞りましょう。そうするために、再び先のメンタルステート図の出番です。
【ミハイ・チクセントミハイのメンタルステート図】
ポジティブ(「覚醒」「フロー」「コントロール」「リラックス」)、ネガティブ(「不安」「心配」「無感動」「退屈」)それぞれ4つの心理状態は、先の7つのポイントとNG項目の関係と同じように、じつは対極の関係にあります。不安に対してリラックス、心配に対してコントロール、無感動に対してフロー、退屈に対して覚醒という具合です。
「うまくできないかもしれない……」とメンバーが不安を感じているなら「十分に練習してきたんだから、いつもどおりやればいいんだよ」とリラックスさせるような声かけをする、メンバーがやる気を失って無感動の状態におちいっているなら目的意識をもう一度持たせてフローの状態に導くような声かけをするのです。これで、かけるべき言葉を選択する基準がよりシンプルになりました。
リーダーはときに孤独です。大勢のなかのひとりのメンバーであれば、自分が信じるリーダーが示す方向に向かって進むことに集中できますが、リーダーはそうではありません。「本当にこれでいいのか……」と不安になってしまうこともあるでしょう。そんなリーダーにとって、このメンタルステート図は進むべき道を示してくれる羅針盤のような存在となってくれるはずです。

東京五輪で快進撃を続け銀メダルを獲得したバスケットボール女子日本代表。通訳を介さず日本語でコーチングするトム・ホーバス監督の姿が話題となった/ Getty Images
大前提にあるのはメンバーとの「信頼関係」
最後にわたしからリーダーにお伝えしたいのは、なによりメンバーとの「信頼関係」を築くことをもっとも重視してほしいということです。
ここまで、落ち込んでしまったメンバーにリーダーが声かけをする際のポイントを解説してきました。しかし、それらが力を発揮するのも、その前提としてリーダーとメンバーのあいだに信頼関係があるからです。もしそうでなければ、それらのポイントもただの小手先のテクニックに終わってしまい、大きな力を発揮することはないでしょう。
逆にいうと、信頼関係さえ築けていれば、わたしが解説したポイントなど多少無視したとしても、その言葉はメンバーの心にしっかりと届きます。
そんな絆ともいうべき強い信頼関係をチームのメンバーとしっかりと築けていると感じたのが、先の東京五輪において見事に銀メダルを獲得したバスケットボール女子日本代表を率いたトム・ホーバス監督です。チームの快進撃とともに、通訳を介さず日本語でコーチングする監督の姿も話題になりました。
ゲーム中の彼の言葉のなかには、「なんでプレッシャーに負けるの!」「なんで頭使ってないの!」と、それこそわたしがNGに挙げた、批判したり責めたりしているともいえる強い口調の言葉もありました。しかし、監督と深い絆で結ばれたメンバーたちの心にはこういう言葉もすっと入っていき、パフォーマンスを大きく上げることにつながったのでしょう。
PROFILE
- 中島輝(なかしま てる) | 「トリエ」代表 /「肯定心理学協会」代表
- 心理学、脳科学、NLPなどの手法を用い、独自のコーチングメソッドを開発。Jリーガー、上場企業の経営者など1万5000名以上のメンターを務める。現在は「自己肯定感の重要性をすべての人に伝え、自立した生き方を推奨する」ことを掲げ、「肯定心理学協会」や 新しい生き方を探求する「輝塾」の運営のほか、広く中島流メンタル・メソッドを知ってもらうための「自己肯定感カウンセラー講座」「自己肯定感ノート講座」「自己肯定感コーチング講座」などを主催。著書に『自己肯定感の教科書』『自己肯定感ノート』(SBクリエイティブ)など多数。7月8日に新刊『習慣化は自己肯定感が10割』(学研プラス)が発売。
【第一人者が解き明かす“自己肯定感”のビジネス学/中島輝~back number~】
【♯01】<前編> 自己肯定感から見る組織論「自己肯定感」は「心理的安全性」から生まれる
【♯02】<前編>やるべきは、自分自身の怒りのコントロール。チーム・組織における「怒りのトリセツ」
【♯03】<前編>スポーツが育んでくれる、ビジネスシーンで役立ついくつものマインド
【♯04】<前編>失敗を成功へと導く。リーダーに必要な「声かけ」のポイント
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