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【#06】 辻秀一│アスリートが伝えるご機嫌の価値 <後編>

ベストセラー『スラムダンク勝利学』の著者で、応用スポーツ心理学をベースに多数の企業やプロスポーツでの人材育成に貢献してきたスポーツドクター・辻秀一氏。スポーツからビジネスシーンにも応用できる「揺らがず、とらわれず」の心を自ら整えるためのライフスキルの磨き方をお届けしてきた当連載も今回で最終回。辻氏が長年取り組む活動の根源である「ご機嫌の価値」に迫ります。

 

#06 前編はコチラ>

 

ご機嫌の価値を出し合う

 授業内容は3部構成となり、3つのライフスキルを子どもたち同士で対話するものとなっています。まずは、ご機嫌アスリート先生たちが自身のご機嫌の価値を3つずつ子どもたちとシェアします。

 例えば、視野が広くなる、ご飯が美味しくなる、楽しくなる、人にやさしくなる、集中できる、切り替えが早くなる、目覚めがよくなる、アイディアが出る、チャレンジできる、などなどです。通常、認知的脳で生きていると不機嫌の価値ばかりを考えていて、ご機嫌の価値化が低下してしまうのです。

 そこで、ご機嫌でいることが如何に自分にとって素晴らしいことなのかを話し合うことで実感するのです。今度は子どもたちだけでご機嫌の価値を3,4人で30個くらい出し合います。友達と仲良くなる、お手伝いしたくなる、勉強がはかどる、部活でチームワークがよくなる、やる気がでる、学校が好きになる、部屋を片付けたくなる、イライラしなくなる、頑張れる、などなどたくさん話し合います。

スポーツを通した“ご機嫌の体験“”は、子どもたちの感情記憶となって将来にも役立っていく。

 

「結果の楽しい」ではなく「一生懸命が楽しい」

 それだけで学校の教室や体育館が笑顔になってくるのです。そう、非認知脳が刺激されて働くようになるからです。次のテーマはごきげんには何が大事なのかを考えます。 うまく行ったら、結果が出たら、試合に勝ったら、100点取ったらご機嫌になるかもしれません。でも、それは自分ではコントロールできないことなので、ご機嫌先生たちは「結果の楽しい」ではなく、「一生懸命が楽しい」と考えることでご機嫌でいることができ、その成果として結果を出してきたことを伝えます。

 これまで結果ではなく一生懸命が楽しいと感じた事、今一生懸命に取り組んでいることなどを子どもたちを話し合います。一生懸命は自分次第でできること、しかもそれは楽しい事なんだと子どもたちは次第に気づいていきます。

 

「ありがとう」と言って「ありがたい」と考える体験

 そして、最後のテーマは感謝です。先に述べたように不機嫌の理由を考えているうちに人は文句を言うようになり、それが不機嫌を誘発するという悪循環に陥ります。そこで文句の反対は何か? を子どもたちに問いかけます。

 答えは文句を言わないではなく、感謝することだと伝えます。文句よりも感謝は自分自身をご機嫌にすると。そこで、まずご機嫌先生たちが家族に感謝できること、最近気づいた感謝できることを、〇〇さん〇〇でありがとう! と発表していきます。続いて子どもたち。またこれもチームで子どもたち同士が対話していきます。ありがとうと言って、ありがたいと考えることは、自分をご機嫌にするのだと体験してもらいます。

 最後にお互い年の数だけ仲間と握手やハイタッチをするというゲームを全員でします。クラスも体育館もみなご機嫌になっていくというのが『ごきげん授業』になります。トップアスリートたちとの対話を通じたご機嫌の体験は、子どもたちの感情記憶となって将来にも役立っていくことを信じ、アスリートたちのごきげん先生を進めています。

 

「結果の楽しい」ではなく「一生懸命が楽しい」

 子どもたちと同じ目線で非認知的脳を刺激する対話の時間を通して、アスリートたち自身もご機嫌になります。アスリートが伝えることのできる貴重な価値と時間になるのです。アスリートの果たす役割はさまざまあります。しかし、各競技の体験ではなく、対話という誰もが同等に取り組むことのできるスポーツを、子どもたちと一緒に体験していく。そんな授業を通してスポーツの新しい教育的な価値も見えてくるのではないかと確信しています。

参考サイト:DialogueSports

スポーツドクター

辻秀一

PROFILE

辻秀一(つじ しゅういち) | 株式会社エミネクロス代表
北海道大学医学部卒業後、慶應義塾大学で内科研修を積む。 人の病気を治すことよりも「本当に生きるとは」を考え、人が自分らしく心豊かに生きること、 すなわち“人生の質=クオリティーオブライフ(QOL)”のサポートを志す。 スポーツにそのヒントがあると考え、慶大スポーツ医学研究センターを経て、 人と社会のQOL向上を目指し株式会社エミネクロスを設立。 応用スポーツ心理学をベースに、個人や組織のパフォーマンスを最適・最大化する、 自然体な心の状態「Flow(フロー)」を生みだすための独自理論「辻メソッド」によるメンタルトレーニングを展開。 スポーツ・芸術・ビジネス・教育の分野で多方面から支持を得ている。 行政・大学・地域・企業・プロチームなどと連携し、日本をご機嫌な状態「Flow」にするためのプロジェクト「ジャパンご機嫌プロジェクト」と、スポーツを文化として普及するための活動「日本スポーツ文化プロジェクト」を軸にスポーツの文化的価値「元気・感動・仲間・成長」の創出を目指す。37万部突破の『スラムダンク勝利学(集英社インターナショナル)』をはじめ、『フロー・カンパニー(ビジネス社)』、『自分を「ごきげん」にする方法(サンマーク出版)』『禅脳思考(フォレスト出版)』、『Play Life, Play Sports~ スポーツが教えてくれる人生という試合の歩み方~(内外出版)』など著書多数。

 

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